日本は、世界でもたくさんのエネルギーを消費している国だ。それらのエネルギーのもとになっているものの多くが「化石燃料」と呼ばれる石油や石炭で、ほとんどを海外からの輸入にたよっている。しかし、「化石燃料」は、燃やすと地球温暖化の原因のひとつであると言われる二酸化炭素(CO2)や、酸性雨の原因となる窒素酸化物・硫黄酸化物を放出するため、世界中で「化石燃料」の使用を減らす努力がされている。また、「化石燃料」には限りがあり、いずれなくなってしまう。そこで、日本では海外からの輸入にたよる必要がなく、二酸化炭素などの放出が少ない、新しいエネルギーの研究・開発が進められている。 2007年6月 |
メタンハイドレートって何?
勢いよく燃えるメタンハイドレート
(提供=メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム)
植物などから作るバイオマスエネルギーや太陽の光を利用したソーラー発電、大きな風車を回して電気をおこす風力発電、水素と酸素から電気を生み出す燃料電池など、日本でも二酸化炭素の排出が少ないクリーンな新しいエネルギーが次々と登場している。それらと並び、日本のエネルギー問題を解決すると期待されているのが、メタンハイドレートだ。
メタンハイドレートは、地中で死んだ動物や植物から出たメタンと水からできており、一見すると氷のようで、さわると冷たい。しかし、大量のメタンをふくんでいるため、勢いよく燃えて、最後は水しか残らない。そのため、メタンハイドレートは「燃える氷」と言われることもある。
海底から採取されたメタンハイドレート。砂やどろの間にあるため、真っ白ではない。
(提供=メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム)
温度が低く、高い圧力の場所でしか固体の状態を保つことができないため、水深500メートル以深の海底の下や、永久凍土層の地下数百メートルにしか存在しない。温度が高かったり、圧力が低かったりするとメタンハイドレートがメタンと水に分解してしまうからだ。
日本周辺では、東海沖から、四国、九州・宮崎沖の深海や、下北半島の沖合、富山湾にたくさんのメタンハイドレートがあると考えられている。
エネルギー問題の救世主!?
メタンは発電や都市ガスに使われる天然ガスの主成分だ。天然ガスは石油や石炭を燃焼させた場合に比べて、二酸化炭素・窒素酸化物の排出が約3分の2、硫黄酸化物はほとんど排出しない。天然ガスの使用量は年々増えているが、ほとんどが海外から輸入されている。だが、日本周辺の海底には年間の天然ガス使用量の100年分以上に相当するメタンハイドレートが分布していると言われているんだ。
日本周辺のメタンハイドレート
(提供=独立行政法人 産業技術総合研究所
佐藤幹夫)
世界のメタンハイドレート
(提供=独立行政法人 産業技術総合研究所 佐藤幹夫)
もし、メタンハイドレートが利用できれば、日本も大量のエネルギーを自国で生産できると期待されている。しかし、それには解決しなければならない問題がいくつかある。
まず、メタンハイドレートを回収する方法をどうするか。メタンハイドレートは、深海の海底下数百メートルに氷のように存在しているため、石炭のようにほったり、天然ガスや石油のようにほって出てきたものを簡単に回収したりできない。海底下にあるメタンハイドレートの温度を上げたり、圧力を低くしたりすることで、メタンと水に分け、メタンを回収する方法が研究されているが、今の技術では採掘にたくさんの費用がかかってしまい、石油より値段が高くなってしまう。それに分けた後に出る大量の水をどうするか、周辺海域への影響をあたえないようにするにはどうするかなどの問題もある。また、メタン自体が大気に放出されると、大気中での分解は早いが、温暖化への影響が二酸化炭素の20倍もあるとされていて、採掘のしかたによっては、温暖化を加速させると心配されている。
メタンハイドレート開発の方法
(提供=メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム)
研究が進むメタンハイドレート
まだ問題のあるメタンハイドレートだが、経済産業省などによって、生産方法の開発や、環境への影響、日本周辺にどれくらいうまっているかの調査・研究などがされている。
海中を上昇する途中で採取されたメタンハイドレート
(提供=東京大学・海洋研究開発機構)
メタンのふん出地点近くにいるベニズワイガニ
(提供=東京大学・海洋研究開発機構)
2006年9月、東京大学や海洋研究開発機構などの研究チームは、新潟県上越市沖の海底から出たメタンが、球状のメタンハイドレートに変化する様子を世界で初めて撮影に成功した。これまで、海底から出たメタンは、プランクトンに分解されたり、海中にとけたりして、大気中に放出されることはないと考えられていた。でも今回の発見で水温が低い海では、メタンのあわはメタンハイドレートにおおわれて海水にとけることなく大気中に放出されている可能性が示された。これにより、温度の低い海ではメタン放出により、メタン濃度を上げ大気に影響を与える可能性が考えられる。
また、メタンハイドレートが出ている海底付近では、ズワイガニが周辺に比べて、4倍近く生息していることもわかった。これは、メタンハイドレートの近くにバクテリアが多く、そのバクテリアやバクテリアを食べる生物をカニが食べるからではないかと考えられている。
メタンハイドレートの研究は、まだ始まったばかりだが、近い将来のエネルギー源として大きな期待が寄せられている。
「電気はどこから来るの?」「電気がなくなったら、どんな生活になるの?」など身近なギモンから、エネルギーの大切さについて学ぶ本。身の周りの「もったいない」を発見すると、人や自然、生き物に感謝したくなるよ。 |
みんなのエネルギー広場
エネルギーのことだけでなく、温暖化や酸性雨など、環境に関するさまざまな情報も満載。「データ集」のページでは、日本のエネルギー使用量などのデータを見ることができるよ。
独立行政法人産業技術総合研究所
「産総研サイエンスタウン」では、メタンハイドレートをはじめ、いろいろな研究が紹介されている。「ドリームラボ科学実験コーナー」では、家でできる簡単な実験も紹介されているよ。
東京電力エネルギーなんでも大百科
エネルギーや資源についての勉強を助けてくれる情報がたくさん。
メタンハイドレートのことがもっと知りたくなったらココ。キッズページもあるから、メタンハイドレートについて楽しく学ぶことができる。
JOGMECメタンハイドレートの環境への影響や、生産方法などを教えてくれる。「資源って何だろう?」では、石油や天然ガスのことも勉強できるよ。
東京大学理学系研究科プレスリリース
新潟上越市沖で撮影されたメタンハイドレートについて紹介されている。探査機がメタンハイドレートを採取する様子などの動画を見ることもできる。