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定期検査中だった北海道電力の泊原発3号機が、きのう営業運転に入った。東日本大震災後に営業を再開した原発は、これが初めてになる。といっても、泊3号機は震災以前に実質的な点[記事全文]
首相をめざす志があるなら、よく考えてほしい。野田佳彦財務相が、靖国神社に合祀(ごうし)されているA級戦犯について、戦争犯罪人ではないとの見解を示した。野田氏は小泉内閣時[記事全文]
定期検査中だった北海道電力の泊原発3号機が、きのう営業運転に入った。東日本大震災後に営業を再開した原発は、これが初めてになる。
といっても、泊3号機は震災以前に実質的な点検を終えており、3月7日から試運転にあたる「調整運転」を始めた。すでにフル運転に入っており、電力を供給してきた。
通常は調整運転で問題が生じなければ1カ月程度で営業運転に移るが、震災を挟んだために5カ月以上も続いた。実態は営業中と変わらないのに法的な手続きを中途半端なままに置くことは、責任の所在をあいまいにし、好ましくない。
政府は震災後、定期検査で止めた原発を再開する際には、地震や津波などの負荷にどこまで耐えられるか計算する「ストレステスト」の1次評価を受けるよう義務づけた。
しかし、フル運転をしている泊3号機は「営業中の原発と同等」と政府は判断して、1次評価の対象から外したうえで、すべての原発に対して行う2次評価の対象とした。
この夏、電力不足は東日本にとどまらず全国的な問題だ。とくに北海道は、被災地東北へ連日60万キロワットを融通している重要な供給源でもある。これらの状況を考えると、営業運転への移行は理解できる。
ただし、原発の安全性に懸念をもつ人が多いことにも、十分に留意する必要がある。
15日には北海道大の吉田文和教授ら道内の大学関係者50人が緊急声明を発表した。
泊原発は93年の北海道南西沖地震で影響を受け、近くの日本海沖に活断層群があると指摘されていることなどを例示。北電が今後とる安全性向上策も、時間をかけすぎで緊張感が欠如していると批判した。再開に同意をとる地元の範囲も、今より広げるべきだと主張している。いずれも、もっともな指摘だ。
泊3号機は、震災後初の営業再開というよりも、震災前の検査基準で再開した最後の原発、と考えた方がいい。
したがって、これから検査を終えて再開する原発は、新基準に沿って安全性を厳しく問わなければならない。安全向上のために、吉田教授らのような指摘も反映させることが大切だ。
そして、危険が見つかれば再開させない。これが大原則であることに変わりはない。
政府が電力需給見通しなどの情報を公開し、原発を減らしていくスピードを設定することが、大原則実行の基盤になることを改めて指摘しておきたい。
首相をめざす志があるなら、よく考えてほしい。
野田佳彦財務相が、靖国神社に合祀(ごうし)されているA級戦犯について、戦争犯罪人ではないとの見解を示した。野田氏は小泉内閣時代、戦争犯罪人だとする小泉氏に反論しており、15日の記者会見で「(当時と)基本的に変わりありません」と答えた。
野田氏は、小泉内閣への質問主意書に以下の趣旨を記した。
「戦犯」は関係国の同意のもと赦免・釈放され、あるいは死刑が執行されている。刑が終了した時点で、罪は消滅するのが近代法の理念である――。
刑を終えたのだから、もはや犯罪者ではない。まつられているのが犯罪者でない以上、首相の靖国参拝にどんな問題があるのか、という理屈立てだ。
だが問われているのは刑を終えたか否かではなく、彼らの行為が戦争犯罪かどうかであり、歴史認識である。野田氏の議論は焦点を外している。国の内外を問わず、戦争で肉親を失った数多くの人々の心情をいたずらに傷つけるだけだ。
野田氏は現職閣僚であり、まもなく行われる民主党代表選に立候補する意向を固めている。首相になれば過去の歴史を背負い、日本国を代表して発言しなければならない。行動を慎み、言葉を選ぶのが当然だ。
一方で、野田氏はこの終戦記念日に参拝しなかった。02年に代表選に立候補した際は「外交問題を引き起こす」ことを理由に、首相になっても終戦記念日の公式参拝はしないと言った。
外交を大切にするのなら、誠意ある言葉で説明すべきだ。発言を受けて、韓国外交通商省は「侵略の歴史を否定しようとする言動だ」と批判している。中国や韓国のみならず、東京裁判を主導した米国との関係にも良い影響は及ぼすまい。
代表選に立候補しても、この点を問われるに違いない。その時、自らの歴史認識も含めてきちんと話し、代表、そして首相の有資格者だと示してもらわなければならない。
野田氏は、文芸春秋9月号に公表した「わが政権構想」で、国内産業の衰退や、電力・エネルギー、財政の「三つの危機」に取り組む決意を示している。
確かに、いま優先すべきはそれらの課題だろう。とすれば、課題に取り組めるよう、野田氏は自ら環境を整えるべきだ。
歴史をめぐる問題は、苦労を重ねながらここまで積み上げてきた。国のリーダーの言動で再び歩みを止め、処理すべき課題に向き合えない事態を繰り返すべきではない。