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エアコン:性能、表示と落差 省エネ効果低い機種も/「家庭と違う使用法で試算」指摘

 家庭の消費電力の約4分の1を占めるエアコン。「節電」が叫ばれる今年の夏は特に省エネ性能が気になるが、メーカー各社がうたう性能ほどには家庭での節電効果が得られない機種もあることが、消費者庁などの調査で分かった。家電店の店頭に並ぶ「統一省エネラベル」の表示も実態とかけ離れており、分かりやすい情報を求める声がNGOから上がっている。【大場あい】

 エアコンの省エネ性能は「APF(通年エネルギー消費効率)」という数値で示される。部屋の温度を上げたり下げたりする時、APFが高い機種ほど電力消費が少なくて済むことを意味する。また一般的に、風量が強い時ほど効率はよくなる。

 国内の主要メーカー11社は07~08年の省エネ性能試験で、極端に強い風量(爆風モード)で測定し、製品カタログに記していた。消費者庁の聞き取り調査で判明し先月、発表があった。省エネ度が高いからと選んだエアコンが、家庭ではカタログの数値ほどの性能は望めない可能性が高い。

 大手のダイキン工業は「エアコンの省エネ性能については各社で競争があり、各社とも風を強めて高い数値を出していた」と認める。家庭で使う場合の性能が知りたいところだが、過去の機種は製造を中止しており、実物を使った性能試験はできないという。

 消費者庁は、爆風モードで測定をした機種や、家庭での一般的な使用方法での性能との差を自社ホームページで公表するよう求めている。11社は該当機種の型番は「公表する」と回答したが、性能の違いについては「公表するか検討中」「公表しない」などとしている。

 実態に近い使用条件での性能は、独立行政法人・建築研究所(茨城県つくば市)が01年から省エネ住宅に関する研究の一環で調査している。市販エアコンの中には、カタログ表示と同じ条件で測定した場合と比べ暖房使用時のエネルギー効率が半分以下のケースもあった。

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 省エネに関する表示の問題は他にもある。店頭に掲示される「統一省エネラベル」には、目安となる1年間の電気料金が書かれている。日本工業規格(JIS)に基づき東京で冷房を年3・6カ月、暖房を5・5カ月、1日18時間使用した場合を想定しているが、これも使用実態と大きく異なる。

 独立行政法人・産業技術総合研究所(同市)が昨年、全国約7000世帯を調べたところ、関東地方では冷房はラベルの計算方法の約4割、暖房は約10分の1の時間しかエアコンを使っていなかった。このため、最もよく売れている「冷房定格能力2・2キロワット」タイプの場合、店頭での電力料金の表示は実態(2772円)の8・6倍の2万3760円になる。非現実的な設定に、資源エネルギー庁も「性能を比較するための基準で、実態を反映していないのは事実」と認める。JISについては現在、経済産業省が改定の方針を決めており、メーカー側も「家庭での省エネ性能を知りたい」という消費者の意向を取り入れようとしている。

 日本電機工業会の特別委員会は年度内に改定原案をまとめる予定で、特別委員長の飛原英治・東京大教授(冷凍空調工学)は(1)JISに性能試験時の風量の規定がないなど試験法に不備がある(2)年間運転時間の想定が実態と乖離(かいり)している--ことなどを問題点に挙げる。

 地球温暖化防止に取り組む環境NGO(非政府組織)気候ネットワークの桃井貴子さんは「東日本大震災以降、省エネへの意識はこれまで以上に高まり、消費者は省エネ性能を真剣に精査しようとしている。消費者が納得できる情報公開をしてほしい」と話している。

 ◇温暖化…CO2より代替フロンの影響大

 実はエアコンの場合、省エネ性能が温暖化対策に寄与する度合いは、他の家電ほど高くない。電力使用で発生する二酸化炭素(CO2)より、冷媒に使われる代替フロンが大気中に漏れる方が、温暖化に与える影響がはるかに大きいからだ。

 産総研「社会とLCA研究グループ」の田原聖隆グループ長らは昨年度、冷房定格能力2・2キロワットのエアコンが製造から廃棄までに出す温室効果ガスを試算した。関東地方の家庭で12年間使った場合、総排出量は約2・25トン(CO2換算)。うち7割以上が代替フロンで、製造時のエネルギー消費や使用時の電力消費に由来するのは3割弱だったという。代替フロンの温室効果がCO2より1730倍も大きいのが理由だ。

 冷媒の代替フロンを増やすことは、エアコンの省エネ性能を高める手段の一つ。だが家電リサイクル法でメーカーに回収が義務付けられているにもかかわらず、回収率は経産省推計で3割にとどまる。深見正仁・北海道大特任教授(環境政策学)は「冷媒の漏えい防止や回収対策をせずに省エネエアコンの買い替えだけを促進すると、温暖化対策としては逆効果になりかねない」と話す。

 田原グループ長は「消費者が省エネ製品を購入したり、温暖化対策に貢献したいと思っても、選択に必要なデータが足りない。国を挙げて正確なデータを集積すべきだ」と指摘する。

毎日新聞 2011年8月16日 東京朝刊

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