きょうの社説 2011年8月18日

◎泊原発が営業運転 「再稼働」の前例にはならず
 北海道電力泊原発3号機の営業運転再開は、東日本大震災前の3月から続けていた調整 運転からの移行である。政府内では出口の見えない原発再稼働問題を打開する一歩にしたいとの思惑も見えるが、停止中の原発とは区別して考える必要がある。

 停止中の原発を対象とするストレステスト(耐性評価)については志賀原発2号機でも 1次評価が始まったが、営業運転へ向けた道筋は依然としてあいまいで、泊原発では国と地元の合意形成の在り方にも課題を残した。政府は今回のケースを教訓に運転再開までの手順をさらに明確にしてほしい。

 泊原発3号機は今年1月に定期検査に入り、4月上旬には検査終了の予定だったが、福 島の原発事故の影響で最終検査を申請せず、フル出力の調整運転を続けたまま電力を供給していた。

 営業運転の再開が再稼働に当たるかどうかが焦点になり、政府は今月、「すでに稼働中 で再稼働には当たらない」との見解を示し、検査中の原発を対象とする耐性評価の1次評価でなく、全原発で実施する2次評価の対象とした。

 フル稼働の運転を続けながら、法的には「定検中」という段階である。このように実質 的に稼働状態にある原発を停止させ、1次評価の対象にすれば、動いている原発すべてを止めるという拡大解釈にもつながりかねない。一方で、安全を最優先に考えれば1次評価をすべきという声もあり、営業運転後も住民の受け止め方は分かれたままである。

 一連の経緯を振り返れば、3号機が稼働中か否かという論点が中心となり、今回のよう な例外的なケースで安全評価はどうあるべきかという本質的な議論は深まらなかった。原子力安全・保安院だけで行ってきた最終検査に原子力安全委員会の評価を加える二重チェックを講じたが、そうした対応の説明は十分だっただろうか。

 調整運転から営業運転への切り替えは形式的な手続きという声も聞かれるが、福島の事 故を機に原発の営業運転へのハードルは格段に上がっており、手続きにもより丁寧な説明がいる。例外的なケースとはいえ、今後の再稼働問題へ向けた教訓は少なくない。

◎自衛隊被災地撤収へ 部隊運用で貴重な経験
 東日本大震災の被災地に派遣している自衛隊について、防衛省は原発事故対応の要員を 除いて今月末にも撤収させる方向で調整している。過去最大規模となった今回の災害救援活動で特筆されることは、陸海空の3自衛隊を一つの指揮系統で動かす統合任務部隊が災害派遣で初めて編成されたことである。この貴重な経験を自衛隊の機能強化に生かしてもらいたい。

 自衛隊活動を迅速、効果的に行うため、防衛省は2006年に3自衛隊の部隊を一体的 に運用する「統合運用体制」に移行した。これにより、防衛相から陸海空の各幕僚長を通じて命令を執行する体制から、統合幕僚長を通じて一元的に執行する体制に切り替わったが、実際の運用に当たってはさまざまな課題が生じている。

 防衛省は先ごろ、新防衛計画大綱に掲げた「動的防衛力」の実効性を高めるため、自衛 隊の構造改革に関する委員会報告をまとめたところである。しかし、統合幕僚本部を中心とした指揮統制機能の強化をはじめ、各部隊の機動的運用や輸送、情報通信機能の強化など統合運用に関する課題への具体的対応策は意見がまとまらず、先送りされてしまった。

 東日本大震災では、指揮官である陸自東北方面総監の下、最大時で10万7千人に上る 3自衛隊の救援活動が一元的に展開された。海自から航空機約200機、艦艇約50隻、空自からは航空機約240機が出動した。部隊の統合運用は演習で行われているが、これほど大規模な実施は初めてである。活動の総括、検証をさらに詳細に行い、統合運用による自衛隊の機能強化につなげてもらいたい。

 また、自衛隊と米軍の共同救援活動も得難い経験となった。大震災で米軍は陸海空軍と 海兵隊合わせ約1万6千人を投入したが、活動を円滑、迅速に行う上で重要な役割を果たしたのは、日米の連絡調整組織である。統合幕僚本部や前線基地の東北方面総監部などに設置された日米調整所での共同作業は、周辺事態に備える実践的な日米共同作戦行動ともいえ、日米同盟の強化に役立つ。