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社説

人権救済法案 権力監視機能なくては(8月17日)

 小泉政権下の2002年に廃案となった人権擁護法案が、人権侵害救済法案(仮称)と名を変え、法制化に向け再び動き始めた。

 江田五月法相ら法務省政務三役が策定に向けた基本方針を先に公表し、来年の通常国会提出を目指す考えを明らかにした。

 旧法案で強い批判のあった、報道の自由を脅かすメディアの取材活動を規制する条項はなくなった。救済機関である人権委員会へ強制調査権を持たせることも除かれている。

 もとより、差別や虐待、プライバシーの侵害がまかり通る社会であってはならない。それらの是正に必要な法律をつくることに異論はない。

 私たち報道機関もこれまで以上に人権に配慮していく必要がある。

 だが、そうであってもこの法案には懸念すべき点が多すぎる。

 なによりも、公権力による人権侵害への対応が明確でないことだ。

 そもそも、人権法案を目指すきっかけは1998年、国連規約人権委員会から刑務所や入国管理施設などでの人権侵害が指摘され、改善を求められたことからだった。

 2008年には同委から、公権力の人権侵害に対応できる人権機関を設けるよう勧告を受けている。

 捜査機関の取り調べや、拘置所内で人権侵害を受けたとの報告は少なくない。抗議しても相手にされないとの証言は体験者からよく聞く。

 公権力による人権侵害の監視機能のない擁護法案では意味がない。

 93年に国連総会で採択された、人権機関を設置する際の指針「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」との兼ね合いも問題だ。

 パリ原則は人権機関の中立性を保つため、政府からの独立性を確保するよう強く求めている。

 だが、パリ原則に適合させるとしながらも結局、旧法案同様、法務省の外局に人権委を位置づけた。

 公正取引委員会並みの独立性を持たせるというが、実際の運用では各地の法務局などが窓口となろう。

 刑務所や捜査機関を管轄する法務省の外局という立場で、果たして政府の影響を排した判断や決定ができるのだろうか。疑問が拭えない。

 パリ原則を順守することが、法案作成に当たっての大原則となる。

 国内在住の外国人が人権委員に就任できない点も変わっていない。

 特定勢力の影響を受けないことは必要だとしても、これで外国人の人権がきちんと守られるのかどうか。そうした論議も欠かせない。

 多くの問題がいまだ整理されていない。法案を煮詰めるには法務省内だけではなく、幅広い国民的な議論の積み重ねが必要だ。旧法案の手直し程度で終わらせてはならない。

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