無秩序に行き交う自転車が、事故の大きな原因と言われる。そのしわ寄せの多くは、年を重ねた人々に向かう。
人工骨が入り、約30センチの手術痕が残る左膝を見ながら、東京都豊島区の大谷光子さん(63)は言う。「2度も手術したのよ」。自転車同士の出合い頭事故でのけが。自分の前方不注意はあった。でも、相手がルール通り左側走行だったら、ここまでひどくならなかったかもしれない。
04年9月の昼下がり。友人に会いに行くため練馬区の生活道路の左端を自転車で走っていた。幅の広い道路との交差点に差し掛かった際、左側のブロック塀の陰から女子大生の自転車が急に現れた。相手は道路右側を走り、お互い最も発見しにくい位置にあった。
女子大生にけがはなかったが、大谷さんは転倒して左膝を打ち付け、立ち上がれなかった。やって来た警察官は「お互いの前方不注意。話し合って」と言った。運ばれた病院で骨折が判明し手術。今も足がしびれ、起き上がりやすいよう布団からベッドに替えた。
自転車で大けがをする事故は起きないはずだ、と思っていた。交差点も、車の音が聞こえなければそのまま渡っていた。事故後は、大きな交差点は停止し、路地と交われば徐行する。ルールを守る意識が高まった。
街にあふれる自転車。「ルールの徹底が必要。誰もが気持ちよく乗れるように」。歩道でも自転車の左側一方通行規制は必要と考えている。
◇
3年前の8月。豊島区の川村宏子さん(73)は、自転車でJR目白駅に向かった。社会人野球の選手だった父の運動神経を受け継いだのか、20年前に長男からプレゼントされた「愛車」に、古希のこの日もまたがった。
上り坂で交差点を通り過ぎようとした時。右側からハンマーで殴られたような衝撃を受け、右膝を地面に強打した。右方向から鋭角に交わる下り坂を走ってきた男性の自転車とぶつかった。
「大丈夫ですか」と声を掛けられ、とっさに「大丈夫です」と答えた。男性はすぐに立ち去った。しかし、時間とともに痛みは増し、階段を上がれなくなった。膝下が腫れ、完治に2年かかった。
現場は住宅街で、見通しの悪い路地が多いのにスピードを出す人もいる。男性が下ってきた道路には今「一時停止」の標識がある。川村さんはベビーカーに乗る孫を思いながら、つぶやいた。「子供が安心して歩ける道にしないといけない。みんな、ルールを守ってもらいたい」=つづく
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毎日新聞 2011年8月17日 東京夕刊