ネットJ「くらしの法律相談」バックナンバー |
(Q) OLS(オンラインソフト)購入時のクリックで 同意したことになるライセンス契約の免責条項は有効? |
(A) ライセンス契約に、"同意する"のボタンをクリックする方式で締結する契約でも、ユーザーが実際に同意していれば、その契約自体は有効に成立し得ます。ただし、そこに記されている免責条項の内容によっては、2001年4月1日より施行された『消費者契約法』の適用により、無効となる場合もあります。 |
クリックラップ契約の有効性 ADSLやFTTHなどのブロードバンド.インフラの普及に伴い、今後はウェブからダウンロードして利用する"オンラインソフト"の形態をとるソフト販売や配布が塘加することでしょう。オンラインソフトの多くは、ダウンロード時にライセンス契約条項が現われ、画面上の"同意する"ボタンをクリックすることでダウンロードが可能となるような契約方式が採用されるものと思われます。このような契約は、"クリックラップ契約"(またはクリックオン契約)と呼ばれ、インターネット先進国・米国の裁判例を見ると、基本的に有効と考えているものが見受けられます(HotmailCorporation事件等)。 しかし、日本では未だこのよラなクリックラップ契約の有効性について正面から判示された裁判例はありません。ただ、我が国においても、契約自由の原則のもと、契約の方式は自由とされ、契約当事者間の有効な合意さえあれば契約書といった書類がなくても契約として有効とされています。したがって、質問のような形態のクリックラップ契約の方式が採用されたからといって、それだけで契約が無効となることはありません。 なお、質間とは違うケースですが、オンラインソフトの代金支払後にメーカーからパスワードが送られてきて、その後ソフトウェアのインストール時にライセンス画面が登場するような形態の契約も考えられますが、このような形態の契約の有効性についてはシュリンクラップ契約(パッケージソフトを購入後、その包装ラップを開封した途端にライセンス契約が成立したものとみなす種類の契約)と同様に法律上議論があるところです。 消費者契約法の施行 では、クリックラップ契約が原則的に有効だとして、企業側が一方的に提示するクリックラップ契約は、どのような内容でも法的に有効とされるでしょうか? たとえば、公序良俗に反するような不当な内容の条項があれば、クリックラップ契約に関しても当然ながら無効となります(民法第90条)。とはいえ、健全な企業が提示するクリックラップ契約にそのような不当な条項が含まれていることはまれでしよう。 問題は、公序良俗違反とまでは言えないものの、消費者の権利を制限するような内容を含む契約条項の法的有効性です。 通常、クリックラップ方式を採用する契約条項は、企業側が一方的に作成したものです。なかには法的なリスク回避を重視するあまり、「いかなる場合でも一切損害賠償責任を負わない」といった条項をクリックラップ契約の中に挿入しているものも多く見受けられます。しかし、このような条項までも有効としますと、契約内容について吟味したり交渉したりする機会を与えられていない消費者に酷であり法的にも不公平といえるでしょう。『消費者契約法』は、企業と比較して契約の専門的知識も少なく、また交渉力も弱い消費者を保護するために制定されたものです。従って、たとえば、前述のような「いかなる場合でも一切損害賠償責任を負わない」といった消費者の権利を著しく制限する条項は無効なものとされています(第8条1項1号、同3号)。 ソフトウェアのバグや不具合 オンラインソフトの販売に際し特に問題となるのが、「本件ソフトウェアに関しバグや不具合が発生した場合でも一切責任を負いません」といった条項です。 消費者契約法第8条1項5号にしたがうと、消費者が対価を支払ってオンラインソフトを利用する場合(有償契約の場合)に、このような条項があると、法律上"無効"ということになります。 ここにいう"無効"の意味は、このような「本件ソフトウェアに関しバグや不具合が発生した場合でも一切責任を負いません」といった特約自体がなかったこととなり、その結果オンラインソフトの売主である事業者は、民法の原則どおり民法第570条に基づく損害賠償責任等を負うことになります。消費者契約法が施行された現在、企業としても、ユーザーに提示するライセンス契約の条項についての見直しが迫られているわけです。 ただ、いわゆるフリーウェアのように一企業がウェブで無償配布しているような場合には、消費者契約法第8条1項5号の適用はないので、このような条項も有効ということになります。もしフリーウェアのライセンス契約にこのような条項が含まれる場合には、バグや不具合についてそれなりの覚悟が必要となります。 (弁護士 佐々川直幸 佐々川付岡法律事務所) |
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【消費者契約法】2001年4月1日より作成された法律。消費者と事業者間の情報量や交渉力に格差があることを踏まえ、消費者被害の防止および救済を目的として立方された。同法第8条では、事業者側の損害賠償の責任を一方的に免除し消費者に不利益となる条項を無効としている。同法第8条1項5号は、売買契約など有償契約の場合に、目的物に隠れたる瑕疵があるときに消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任を全部免除する条項は無効になると規定している。 【民法第570条に基づく責任】同条では売買の目的物に"隠れたる瑕疵"(取引上その物が通常有しているべき性能や性質を具備していないこと)があった場合に売り主側が損害賠償等の責任(「瑕疵担保責任」と呼ばれる)を負う旨を規定しているが、オンラインソフトのバグや不具合があってもそのすべてが"隠れたる瑕疵"と認定されるものではない点に注意する必要がある。そのソフトの通常の使用目的を問題なく達することができる程度の些細なバグや不具合であれば、そもそも"瑕疵"には該当しないと判断される可能性がある。 |
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