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きょうの社説 2011年8月17日
◎日航の格安航空参入 価格競争も安全が大前提
日航が三菱商事、豪州の航空会社と共同で格安航空会社(LCC)設立を決めたことで
、別の2社に出資する全日空や、すでに参入している海外勢9社と合わせ、日本にもLCC時代が本格的に到来する見通しになった。地方の空にも影響を与えるのは必至で、LCCの拠点化をめざし、路線誘致に積極的に動く自治体も増えている。石川、富山県は既存路線の充実を優先させ、現時点では静観の構えだが、北陸新幹線が 開業すれば小松、富山の羽田便は苦戦が避けられず、航空業界の新たな気流に目を凝らし、さまざまな可能性を視野に入れておく必要がある。 新滑走路完成による羽田空港の国際化や成田空港の発着枠拡大、規制緩和がLCCの目 覚ましい進出を呼び込んでいるが、運賃引き下げ競争が激しくなれば、心配されるのは安全の確保である。 LCCの経営手法は、機内食の有料化やテレビ、音楽サービスの廃止、駐機時間の短縮 による機材の回転率向上など、徹底したコスト削減にある。それが破格の運賃を可能にしたわけだが、価格競争の波にのまれてコスト削減が過ぎれば安全上の懸念も増す。 日航などが外資のノウハウを生かして高コスト体質を改善し、新たな需要を掘り起こす 狙いは分かるとしても、日航機墜落事故を教訓に培ってきた高度な「安全文化」を損なっては元も子もない。 民主党政権の成長戦略では、LCCによるアジア観光客の拡大が盛り込まれており、今 後も参入の流れは止まらないだろう。国土交通省はLCC参入に伴う航空ビッグバンに合わせ、機材の整備、人員のやり繰りなど、あらゆる面にわたって安全運航の監督を徹底する必要がある。 空の旅といえば、日本では配慮が行き届いた「フルサービスエアライン」が定着してき た。航空業界の国際競争を考えれば、日本の航空大手も収益構造の抜本的な見直しは避けられないが、削減したさまざまなコストは、最大の航空サービスである安全運航に振り向ける視点もまた大事である。 LCCを地方の空の活性化につなげるためにも日本にふさわしいビジネスモデルを定着 させたい。
◎野田氏の戦犯発言 名誉回復は歴史的事実
野田佳彦財務相が靖国神社に合祀されている「A級戦犯」と呼ばれた人々について、戦
争犯罪人には当たらないとの考えを改めて示したのは、単に歴史的事実を述べたに過ぎない。韓国が反発するのは、閣僚の靖国参拝を非難する理由と同じで、日本を押さえ込む「外交カード」として使いたい思惑があるからだろう。極東国際軍事裁判(東京裁判)でA級戦犯とされた人々もサンフランシスコ講和条約の 締結により、正当な手続きを経て釈放された。7年の刑を受けていた重光葵氏は国政に復帰し、鳩山内閣では副総理・外相の重責を担い、日本が国連への加盟を承認された第11回国連総会には日本代表として出席している。こうした事実をみれば、A級戦犯は講和条約をもって名誉回復が許され、「戦争犯罪人」はいなくなったと受け止めるのが自然だろう。 韓国政府は、野田氏の発言に対し、「過去の侵略の歴史を否定しようとする発言」など と述べたが、このような指摘は当たらない。李明博大統領は光復節の演説で、「日本は未来の世代に正しい歴史を教える責任がある」と述べた。若い世代に歴史を正しく教える責任があるのは、何も日本に限ったことではない。事実に反した指摘や的外れな非難には、道理をもってきちんと反論していく必要がある。 野田氏は野党時代、当時の小泉純一郎首相が国会で、A級戦犯について「戦争犯罪人だ と認識をしている」と述べたのに対し、「サンフランシスコ講和条約と4度の国会決議などで、すべての戦犯の名誉は法的に回復されている」と批判した。これは客観的に見て野田氏の指摘が正しかろう。小泉発言は後に、小泉内閣で外相を務めた麻生太郎氏や官房長官の安倍晋三氏が「戦争犯罪人という定義は国際軍事法廷における見解」などと述べ、事実上訂正している。 来年、総選挙と大統領選が行われる韓国は「政治の季節」に入った。日本への風当たり が強くなる時期だが、ナショナリズムを刺激して票に結び付けようとする行為は、日韓関係全体を大きく損ねることを互いに認識しておきたい。
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