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きょうの社説 2011年8月16日
◎小水力発電 北陸に適した新エネルギー
砺波市に今月、小規模な水力発電所が誕生した。最大出力はわずか570キロワットに
過ぎないが、それでも年間電力供給量は標準的な一般家庭の1147世帯分、二酸化炭素(CO2)削減は、2・67トン分に相当するという。また、金沢市も末浄水場に導水管の落差を活用した小水力発電施設を設置する計画である。北陸は、積雪の多い白山・立山連峰を源とした高低差のある急流河川が多く、「小水力 発電」の最適地の一つである。再生エネルギー特別措置法案の可決・成立に向け、地域の特性が生かせる新エネルギーの普及を急ぎたい。 大規模なダム建設は、膨大な予算と自然破壊を伴うが、小水力発電は環境にあまり負荷 をかけず、少ない予算で建設が可能である。潜在的な発電量を示す「包蔵水力」は、富山県が全国2位、石川県が15位で、両県とも包蔵水力のうち2割以上が未利用のままだ。発電量は少ないとはいえ、エネルギー需給が厳しいなか、クリーンで安定した電力は貴重だろう。 砺波市で発電を開始した庄川合口発電所は、庄川沿岸用水土地改良区連合が保有し、総 工費3億6280万円の半分は経済産業省の補助金を利用した。全量を北電に1キロワット当たり約10円で売電するが、再生エネルギー特別措置法案が成立すれば、買い上げ単価が引き上げられる予定で、普及に弾みがつくとみられる。 問題は、小水力発電を導入する際、発電用水利権の取得や他目的使用の許可などを得る ための事務手続きが面倒で、長い時間がかかることだ。このため、富山県は岐阜県とともに国に手続きの簡素化などを要望する考えで、富山市は水力発電の特区申請ができないか検討している。一定規模以下の施設の場合、水利権の取得を届け出制にするなどの規制緩和を求めるとみられる。 再生可能エネルギーというと、太陽光発電ばかり注目されるが、岐阜県独自の試算では 、太陽光発電のコストは火力発電の3倍になるという。日照時間のハンディがある北陸の場合、太陽光発電よりも小水力発電の方がはるかに有利だ。地域挙げて規制緩和や事務手続きの簡略化に取り組みたい。
◎3次補正予算 成長戦略の強化、実行を
政府は2011年度第3次補正予算に、東日本大震災の復興事業だけでなく、産業の空
洞化を防ぐための施策も盛り込む。大震災と歴史的な円高で生産拠点の海外移転が加速する可能性が高まっており、空洞化対策は当然である。経済産業省は、国内に工場や研究所を新設する企業への補助制度創設を考えているが、円高・空洞化への対応は当面の「応急策」だけでなく、中長期の成長戦略の実行が肝要である。円高問題は今に始まったことではない。経産省が昨年8月に実施した円高に関する緊急 ヒアリングでは、1ドル=85円の円高が継続した場合、製造企業の4割が「海外移転」を、6割が「海外生産の拡大」を選択せざるを得ないと答えていた。共同通信社の直近のアンケートでは、主要企業の半数以上は事業基盤強化策として「海外進出の加速」を挙げている。 海外移転の要因は円高のほか法人税やコストの高さ、電力・エネルギー問題などさまざ ま挙げられる。合理的な企業活動としての新興国進出に待ったをかけるのは簡単ではなく、新たな産業と雇用の創出を図る戦略も重要になってくるが、政府が昨年6月に閣議決定した肝心の新成長戦略はまだほとんど手付かずの状態である。 新成長戦略は固定価格買取制度による再生可能エネルギー拡大、パッケージ型のインフ ラ輸出、法人実効税率引き下げ、アジア太平洋自由貿易圏の構築、総合特区制度による地域活性化などを柱としており、これを基に「日本国内投資促進プログラム」や「円高・デフレ対応の緊急総合経済対策」も昨年秋に策定されている。 大震災と急激な円高で、ようやく新成長戦略や投資促進プログラムの一部が動き出した 形である。大震災に伴う戦略の見直しはやむを得ないとして、その再設計・強化を急いでもらいたい。 円高・デフレ対応の総合経済対策には若者の就職支援策も盛り込まれているが、従来の 施策の延長だけではなく、成長戦略による雇用の場の創出が不可欠である。英国の暴動を対岸の火事視することはできない。
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