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[29137] 【習作】Tales of Magus(ネギま×TOA)
Name: Little◆6e8712b3 ID:b5814e83
Date: 2011/08/13 13:50
ルーク・フォン・ファブレは一冊の日記帳を手に取った。
表紙が色あせていて古ぼけたその日記は、何年も前から使われてきた、年代を感じさせる物だ。
ルークは懐かしさに目を細め、その日記の表紙をゆっくりとした手つきでめくった。











23day,Rem,Rem Decan ND2018
ヴァン先生と稽古をしてたら、変な女がおそってきた。
ヴァン先生が狙われてたからとっさに間に入ったら、なんか目の前が真っ白になって、気がついたらマホラガクエンとかゆー所にいた。意味わかんねー。
しかもなんでかわかんねーけど体がガキになってた。
頭の長いじーさんが七歳ぐらいだろうって。
原因の変な女(ティアってゆーらしい)は別にちぢんだりしてねーのに、不公平だ。
とっととヴァチカルに帰りてー。



8月4日 1996年
マホラガクエンに来てから一週間がたった。
最初はわけわかんなかったからとっととヴァチカルに帰りたかったけど、なれるとここでの生活も悪くない。
屋敷の頃みたいに閉じこもってなきゃダメなわけでもねーし、あれこれうっさい奴もいない。
毎日書かなきゃいけない日記を忘れちまうぐらい、おもしれーもんも色々あるし。
ティアと同じとこで住まなきゃいけないのがちょっとウゼぇけど、それぐらいガマンしなきゃな。



8月6日 1996年
じーさんが来て、よくわかんねーけどヴァチカルに帰れないって言われた。
今いるのはオールドランドじゃなくてチキュウってゆーらしい。
イセカイがどーとかフォニムがどーとかチョーシンドーがどーとか、じーさんがティアに色々言ってたけど、イマイチわかんね。
色々言われてたティアが真っ青な顔してたからけっこー深刻なんだろうけど、ぶっちゃけ帰れないならそれでもいーんじゃねーのと俺は思う。
ヴァン先生とか母上とかガイがいねーのはさみしいけど、ヴァチカルの屋敷よりマホラガクエンのが居心地いーし。
記憶がなくても文句言われねー生活が快適だ。



8月7日 1996年
ティアが泣いた。
つーか泣きながら謝ってきた。ウゼぇ。
どーも昨日から暗い顔ばっかしてんなと思ったら、俺をマホラガクエンまでつれてきちまった事に責任を感じてたらしい。
別に帰れなくてもいいとかヴァチカルよりマホラガクエンのが居心地いーぜとか言ったらもっと泣いた。まじウゼぇ。



8月10日 1996年
じーさんがチビとメガネをつれてやって来た。
俺とティアは未成年だから保護者が必要らしい。
つー事で、メガネがとりあえずの保護者になるとか。
名前はタカハタ・ティー・タカミチ。チビのほうはカグラザカアスナで、こいつもメガネが保護者してるやつ。
じーさんが仲良くしろってゆーからあいさつしてやったのに、無視しやがった。ムカつく。



8月18日 1996年
じーさんがまた変なやつをつれて来た。
クウネルとかゆーなんかムカつく顔したやつ。
俺がちぢんじまった原因がわかるかもしれねーって言われたからガマンしたけど、できればもう会いたくない。



8月20日 1996年
タカミチに病院につれていかれた。
記憶障害について調べるらしい。
オールドランドと比べたら地球の技術はだいぶ進んでるから、何かわかるかもしれねーから。
長ったらしい検査がウザかったけど、ガマンして受けた結果、なんと、記憶障害が再発する可能性はもうないって言われた!
こっち来てから頭痛もなくなったし、ティアさまさまだ。

追記
日記書かなきゃいけねー理由はなくなったけど、ずっと続けてきた事だしさっぱりやめちまうのもどーかと思うから、なんかあった日には書く事にする。



8月24日 1996年
最近ティアがまじウゼぇ。
妙にかまってくるっつーか、年上ぶってくる。
ちぢんじまったけどほんとは俺のが年上なのに、っつっても全然態度変わんねーし。
いつぐらいからだっけって思い出してみたら、クウネルとかゆーやつが来たぐらいからだった。
結局ちぢんだ原因もわかんなかったみてーだし、さんざんだ。



8月27日 1996年
九月になったらアスナと一緒に学校にいく事になった。
オールドランドに帰れないなら地球の常識とか色々覚えなきゃいけねーからだって言われたけど、多分ほんとは俺がちぢんだからだ。
だってティアは学校いかねーらしいし。
記憶障害仲間のアスナが楽しみにしてるみてーだから別にいいけど、やっぱちょっとムカつく。



9月1日 1996年
学校にいった。
見事にガキしかいなくてまじウゼぇ。
特にウザかったのがユキヒロアヤカ。アスナもウザがってた。
今日から毎日ガキどもの相手しなきゃいけねーのを思うと、ユーウツだぜ。



9月25日 1996年
ティアも学校にいく事になったらしい。
俺よりだいぶ遅かったのは、二ヶ月間必死で勉強してたから。
つーか二ヶ月で高校生の勉強についていける(ギリギリらしいけど)ぐらいになるとか、ティアって頭よかったんだな。



11月13日 1996年
今日、タカミチがすごい勢いで老けてるのに気付いた。
アスナと相談して見なかった事にしてやる事にした。



12月25日 1996年
アヤカの家にティアとアスナと一緒に、クリスマスパーティにいった。
なんかヴァチカルのころの俺の家よりでけーんじゃねーのってぐらいでかい家だった。アヤカんちすげぇ。
まさかこいつどっかの姫だったりしねーよな?

追記
飯がめっちゃうまかった。



1月1日 1997年
今日から新しい年だ。
ティアとアスナとタカミチと金髪のチビ(誰だお前っつったら蹴られた。そのあとガン無視された。まじムカつく)と一緒にはつもうでにいった。
なんか願い事しろってタカミチがゆーから、母上の病気が治りますよーにって言っといた。
ヴァチカルにも届くのかわかんねーけど。











ルークは栞をはさんで一度日記を閉じた。
改めて文章で読むと、あの頃の自分は何もわかっていないガキだったな、と頭を抱えた。
今ならルークにもわかる。
いきなりやってきた異世界の人間をあっさりと懐の中に招き入れた学園長の優しさや、ティアがなぜあんなに苦悩していたのかが。
ルークが当たり前のように暮らせていたのは、学園長が裏で色々と手を回してくれていたからであり、責任を感じたティアが面倒な事を全て引き受けてくれていたからなのだ。

日記はまだ続いていく。
ティア達と行った旅行や、剣道部への入部、学校の行事。
なんて事のない毎日だったが、ルークにとっては何もかもが初めての事だった。
やがて、日記に書かれた日付の間隔が開いていく。
理由なんて特にない。あえて言うならば忘れられていっただけだ。
最後にルークが日記を書いたのは、今から一年も前だった。

最後の文章を読み終えたルークは、左手にペンを持った。











3月25日 2001年
じーちゃんが真実を教えてくれた。
クウネルと初めて会った時にあいつのアーティファクトでわかった事らしいけど、その頃の俺だと受け止め切れなかっただろうから、教えなかったって。
言われてみたら、確かにそうだと思う。
自分が本物のルーク・フォン・ファブレじゃなくて、ヴァン先生に作られたレプリカで、おそらく何かに利用される為に生み出されただなんて、あの頃だと受け入れられなかったんじゃねーかな。
俺にとってヴァン先生は、一番信頼してた人だったから。
五年もたった今でも、結構ショック受けてるぐらいだし。

でも、いいニュースでもあるんじゃないかなって思う。
向こうには俺のオリジナルがいるはず。オリジナルはヴァン先生がつれてったっぽいってクウネルが言ってたから、どうなってんのかはわかんねーけど、まさか殺されてるって事はないだろうし。
じーちゃんは(あくまで予想って言ってた)俺がいなくなった事で、慌ててオリジナルをヴァチカルに戻す事になったんじゃないかって言ってたし。
つー事は俺がいなくなっても多分大丈夫なんだ。
……やっぱ、ちょっとだけ寂しいけど。

つってもどうせ帰り方がわかんねーんだからどうしようもねーんだけどな!
さよなら、オールドランド!
……さよなら、ヴァン先生。
利用するためだったのかもしれないけど、俺を生み出してくれてありがとう。











「こんなもんかな」

書き終えたルークは日記を閉じた。
ルークは日記を書くのを今日で辞めにするつもりだった。
様々な思いを込めて、その色あせた表紙を長い間眺めていた。

「何やってんの? ルーク」
「どわぁ!?」

ちょっとしたセンチメンタルに浸っていたルークは、後ろからかけられた声に驚いて飛び上がった。
慌てて振り向いたルークの目に入ったのは、オレンジの髪に左右で違う色の目をした、活発な少女。
五年間一緒に過ごして来た神楽坂アスナだ。

「ばっ、驚かすんじゃねーよアスナ!」
「普通に声かけただけじゃない。っていうかそれ日記? うわーなつかし。まだ書いてたんだそれ?」
「あっこら、勝手に触んな! 読もうとすんな!」
「何よもう、わかったわよ。ケチ!」
「他人の日記を勝手に読もうとする奴のがおかしーだろ!」

ルークとアスナは、戸籍上は同じ歳となっている。
それでなくとも五年も同じ家に住んできた仲だ。
遠慮などどこかに投げ捨てたようなこのやり取りは、いつもの事だった。

「で? なんか用事あったんじゃねーの?」
「うん。ティア姉がご飯出来たって」
「………………あああああああああっ!」
「こ、今度は何よ?」

いきなり叫びだしたルークに引きながらアスナが問いかけたが、ルークはそれどころではなかった。
昼間学園長から色々と話を聞き、先程久々に日記を読み返し、今ティアの名前を聞いて、ある事に思い至ったからだ。

「やべえええええっ! ティアってほんとに俺より年上じゃんっ!?」
「……何当たり前な事言ってんの?」

ルークはこの五年間ずっと、自分は元々十七歳で縮んでしまっただけだと思っていた。
それを今日、本物のルークが十歳の時に作り出されたレプリカで、全く真っサラな状態で新たに生まれたも同然だったと知ったのだ。
なぜ縮んだのか、というのははっきりとした原因はわからなかったが、オールドランドと地球の環境の違いに肉体が適応した結果、生まれてから過ごした年月にふさわしい肉体になったのではないか、というのが記憶を読み取った学園長と、ルークの人生を文字通り読んだクウネルの見解だ。

「ううっ……絶対知ってた……ティアのやつ、絶対五年前から知ってやがった……!」

先程日記で読み返した通り、ティアはこの事をクウネルがアーティファクトを使った後ほどなく教えられたのだろう。
だからルークをいきなり本物の七歳児扱いし始めたのだ。

「なんだこれ。この言葉に出来ない感情はなんだ……」

はたから見ると、やけに年上ぶる小学生とそれを生ぬるい目で見守る九歳年上の少女。
それが五年間続けて来たルークとティアの関係だ。

「恥ずかしいってレベルじゃねーぞ、ばかやろー!」

ルークの頭に麻帆良に来てから今までの五年間の思い出が次々とよぎる。
この時のルークが思い出したティアの顔は、ほとんどが苦笑だった。
ルークは激しく身悶えた。

「ちょっとルーク? ほんとにどしたの?」

アスナはなんだか心配になって来ていた。
ひょっとして頭がどうにかなっちゃったんじゃ……とか思っているのはアスナだけの秘密だ。

「……いいか? 俺は今食欲がない。晩飯は落ち着いたら一人で食う。ティアがいなくなるまでそっとしておいてくれ。そうティアに伝えろ」
「言ってる事めちゃくちゃじゃない?」
「いーからしばらく一人にしてくれええええっ!」
「こ、こら! わかったから押すな!」

居た堪れなくなったルークは無理やりアスナを部屋から追い出した。











「そう、わかったわ」
「え? 今のでわかっちゃったの? 救急車呼んだほうがよくない?」

本気で言ってる風なアスナにティアは苦笑した。
確かに事情を知らなければ奇行にしか見えないのだから、無理もないかもしれない。
しかしティアは、今日ルークに全てを話すと前もって聞いていたので、ルークの態度も仕方がないとわかってしまうのだった。

「しばらくしたら元に戻ると思うわ。少しの間そっとしておいてあげて」
「ティア姉がそう言うなら……ほんと、どうしちゃったんだろルークのやつ」

首を傾げるアスナだが、本音のところでは割と真剣に心配していた。
そんなアスナに、ティアはなんと声をかけたらいいものかと頭を悩ませる。

アスナとも一緒に暮らすようになる少し前、ティアは学園長とタカミチからアスナの境遇を少しだけ聞いていた。
それは、魔法によって記憶を封印しているという事だけだったが、それを踏まえてこう頼まれたのだ。

アスナには魔法関係の事を秘密にしておいて欲しい。
そして出来れば、家族のように接してあげて欲しい。

最終的にそれを承諾したティアは、ルークが何に苦悩しているのかアスナに説明する事が出来ない。
それは頼まれたからというだけでなく、積み重ねた年月によってアスナを妹のように思っているティアにとって、心苦しい物だった。
しかしここでティアはふと気付く。
取り乱している原因――本当の年齢を知った、という部分は別に隠さなくてもいいのではないか、と。

「ほら、ルークってなんだか年上ぶってる所があったでしょう? まるで私より年上だと思っているような」
「あー、あるある」
「それって記憶障害が関係していたのだけど……今日、それが勘違いだったって思い出したみたいなの。それで、今までの自分を思い返しちゃって」
「うわ……記憶障害ってそーいうのだったんだ……なるほどね」

そう思ったティアは、過程を偽って結果だけを伝える事にした。
アスナはその話で納得したようで、今度は気の毒そうにルークのいる部屋を見やる。

「うん、わかった。でもよかったじゃない! 記憶障害が治ったって事でしょ?」
「ええ、そうね」

そもそもの話、記憶障害だった訳ではない。
記憶障害なんかではなかったというのをルークが知ったという事だ。
しかし、アスナにはそうとしか説明する事が出来ないので、ティアはその問いに頷くしかなかった。

「そっかー……ほんとによかったね、ルーク」

結局騙してるみたいで心が痛むティアだった。

「さ、ご飯にしましょう。ルークの分はラップしておくわ」
「はーい。いただきまーす!」











翌朝、朝食の準備を終えてコーヒーを飲んでいたティアは、こっそりとリビングの様子を伺っているルークに気付いた。
普段ならまだルークもアスナも寝ている時間だ。
この時間にルークが起きているというのは、それだけ悩んでいたからなのだろう。

「おはようルーク」

ぎっくぅ! とでも音が鳴りそうなぐらいルークは飛び上がった。
そして、珍妙な顔でおずおずと口を開いた。

「はよー……ティア、ねえ…さん……?」

ティアはコーヒーを吹き出しそうになった。

「ルーク……そんな無理しないで、今まで通りでいいのよ?」
「お、おー。そーか?」

どうやら一人で考え込むあまり、思考が変な方に飛んでいったらしい。
ティアは笑いを堪えるのに必死だった。

「そうよ。大体あなた、私より年上の高畑さんだってタカミチって呼び捨てにしてるでしょう」
「……おお、そーいやそーだ!」
「どうしても姉さんって呼びたいのならかまわないのだけど?」
「んなわけねーだろ!」

話しているうちにルークの調子は普段通りに近づいていた。

「そーだよな。ティアはティアだもんな」
「ええ。私は私、ルークはルーク。何も変わらないわ」
「よし、なんかすっきりしたぜ! 俺の分もコーヒーくれ!」
「はいはい」

ルークは根が単純な性格をしているので思い悩むと長くなる傾向がある。
しかし逆に言えば解決するとさっぱり元通りになる性格とも言える。
これなら大丈夫そうだろうと、ティアはルークの分のコーヒーを入れに行くのだった。

「そーいやアスナにはなんか言ったのか?」

砂糖もミルクもたっぷりのコーヒーを飲みながらのルークの言葉に、ティアは昨日アスナにした説明を繰り返した。

「しっかしめんどくせーなぁ。アスナにも魔法のことバラしちまえばいーのに」
「そういう訳にはいかないでしょう」
「だって俺、ティア、タカミチだぜ? アスナだけ知らねーのってなんつーか……」

昨日ティアが感じたのと同じように、ルークも心苦しく思っているのだろう。
その口調は何かを噛み潰したような微妙な物だった。

「一般人に魔法の存在を教えてはいけない。それがこの世界のルールなんだもの」
「わかってるけどよ……だーっ! まじめんどくせぇ!」

ルークはその長い髪を掻き毟った。
ルークからしてみれば、家族に近い人間……この場合、ルークとティアとタカミチが全員魔法を知っている関係者な時点で、アスナも関係者でいいだろうと言いたいところだ。
しかしティアは、タカミチ達のアスナには普通の世界で生きて欲しい、という願いを感じ取っているため、そう簡単な話で済ませる訳にはいかない。

「そればかりは仕方ないのだから、もう辞めにしましょう。ほら、そろそろアスナを起こしてきて」
「はぁ……わーったよ」

溜め息を吐いてルークは立ち上がった。
ことアスナと魔法に関してだけは、タカミチもティアも絶対に譲らないので、もう半ば諦めているのだ。
そんなルークがアスナの部屋に向かうのを見送りながら、ティアもこっそりと溜め息を吐いた。



[29137] 2
Name: Little◆6e8712b3 ID:b5814e83
Date: 2011/08/13 13:50
小学校を卒業したルークとアスナは、四月に入ると中学生になる。
そして二人が通う予定の中学校はそれぞれ全寮制だ。

本当ならティアの通っていた高校も全寮制だったのだが、幼い二人の世話をするために別の住居から通うのを特別に許可されていた。
名目上の保護者であるタカミチは出張が多く、麻帆良に戻っていても修行に明け暮れていて、ほとんど子供の世話なんて出来ないのだから、最年長のティアが面倒を見る事になるのは自然な流れだった。
その生活はティアが大学生になっても変わらずに続いていた。

そんな経緯もあって、五年間ずっと同じ家で暮らしてきた三人。
麻帆良での生活をほぼずっと一緒に過ごしてきた二人と離れて暮らす事に、ティアは少なくない寂しさを感じていた。

「ちょっとルーク! それあたしが持っていくつもりだったのに!」
「あん? これ俺のだろ?」
「あんたのってわけじゃないでしょ! こうなったらじゃんけんで決めるわよ!」
「んだよめんどくせーな」

そんなティアをよそに、ルークとアスナは楽しそうに寮生活の準備をしていた。
今もぎゃーぎゃー言いながら目覚まし時計の取り合いをしている。
おそらくルークもアスナも、寮生活に慣れた頃にはティアと同じように寂しさを感じる事だろう。
しかし少なくとも今は、新しい生活への期待で頭がいっぱいな二人だった。

「……弟妹離れ出来てないダメなお姉ちゃんみたいね」

二人には聞こえない程度の小声でティアはぽつりと呟いた。
そして、なんだか取っ組み合いに発展しそうな二人を止める為に立ち上がる。

「だーかーらー! 俺のが寝起きわりーんだから俺んとこでいーだろ!」
「はいはい、負け犬負け犬」
「ぶん殴るぞてめえっ!」
「辞めなさい二人とも。入学祝いに私が同じ時計を買ってあげるから」
「「マジでっ!?」」

些細な事でよく衝突するルークとアスナを止め慣れたティアにとって、それはとても簡単な事だった。

ルークとアスナは非常によく似た性格をしている。
アスナは出会った当初物静かな少女だったが、ルークに影響されたのか、それとも元々そういう資質があったのか、今ではすっかり賑やかな、ルークとそっくりな少女になっていた。
我が強く意地っ張りで、単純で怒りやすくい。
根っこの部分には二人とも優しさを持っているが、それでも気性が激しい二人だ。
一緒にいればすぐにケンカをするのは当たり前と言ってもいい程だった。
そんな二人が繰り返す衝突を毎回諌めてきたのはティアの役割だったのだから、慣れるのも当然だろう。

「……そうね。折角だから今から必要な物を買いに行きましょうか。他に取り合いになりそうな物はない?」
「俺、専用のゲーム機が欲しい!」
「CDコンポ!」
「あ、あなたたち……」

食いつき方まで似た者同士な二人に、ティアは呆れて脱力した。

「ゲームもコンポも置いていきなさい。全くもう……いい? 生活に必要な物を聞いてるの」
「んな事言われてもよくわかんねーし」
「音楽は生活に必要でしょ?」
「……はぁ。もういいわ。私が考えるから」

ケンカは止まったが別の意味で頭が痛くなるティアだった。











昼食を済ませた三人は、近場にある百貨デパートに買い物にやって来ていた。
しかし、あれでもないこれでもないと騒ぐルークとアスナは、買い物の邪魔とティアにゲームコーナーに放り込まれてしまう。
ティアが交換して手渡したコインを片手に、ルークとアスナはゲームコーナーをうろちょろしていた。

ルークは様々なゲームに目移りしているだけだったが、ルークの後ろをついて歩くアスナは真剣に悩んでいる事があった。
それは、ティアには聞かれたくない事であり、出来ればルークとも相談したい事だったので、今がチャンスと考えたアスナはルークに相談を持ちかける事にした。

「ねぇルーク。なんか最近ティア姉元気なくない?」
「んー、そーかぁ?」
「そーなの! あたし思うんだけど、一人っきりになるのが寂しいんじゃないかなーって」
「あー……あるかもな」

意外と他人の感情に敏感なアスナは、ティアの寂しさを見抜いていた。
言われてみれば、とティアの性格を思い返してみたルークも、そのアスナの話には頷いた。

「あたし達でなんとかできないかなぁ」
「つっても寮に入んのはどーしよーもないじゃん」
「そーなのよね……うーん……」

ティアが一人で暮らすようになるのは、ルークの言う通り避けられない事だ。
それでもアスナは、自分達に出来る事でなんとかティアの寂しさを紛らわせてあげたかった。

「なんか俺とアスナの事を思い出すもんをティアにやるとか?」
「それよ! ルーク冴えてる!」

ルークとアスナの事を思い出せるような物をティアにプレゼントする。
アスナはこのルークの提案に感心した。
もちろんあの家には二人を思い出す物など数え切れないほど残るのだが、二人からプレゼントするというのは、なにか特別な意味があるようにアスナは感じたのだ。

「そうと決まったらこんなとこに用はないわ。行くわよルーク!」
「ちょっ、今コイン入れたばっか……引っ張んなアホー!」

じっとしてなさい、というティアの言いつけなどとうに忘れ去ったアスナは、ルークを引っ張って目的地に向かうのだった。

二人がやって来たのは、ゲームコーナーと同じフロアにある雑貨屋だ。

「どんなのがいいと思う?」
「百均で買うのかよ……」

ただし、頭に百円均一のとつく店だ。

「うっ……しょーがないでしょ。それともあんたお金持ってんの?」

ルークは乾いた笑いを浮かべて首を横に振った。
ついこの間まで小学生だった二人の懐事情的に仕方ないのだが、贈り物を買うのには相応しくないんじゃないかと思うルークだった。

「それじゃ、手分けして探しましょ」
「あっおい、待てって!」

ルークの呼び止めを無視してアスナは店の奥に入っていった。

「俺にどーしろと……」

まさか一人で探す羽目になるとは思っていなかったルークは途方に暮れた。
自分はあまりこういう事に向いてないと、ルークは思っているのだ。
一応言われた通りに店内を見回していたが、五分もすれば早々に諦めそうになっていた。

「つーか俺に何を求めてんだよアスナのやつ………………お?」

そんなルークの目に飛び込んできた物があった。
それは、ずらりと並んだ様々な色のフォトフレームだ。

「写真……悪くねーかも?」

二人が贈った写真立てに、二人の写った写真を飾る。
並んでいる写真立ての中から、赤とオレンジの額縁をした物を手に取ったルークは、これをアスナに判断してもらう事にした。

「おーいアスナ! これこれ、これどーよ!」

ルークの提案にアスナは顔を輝かせた。

「うん、いいかも。っていうかめっちゃいいかも!」
「だろ? アスナはなんか見つけたのか?」
「色々考えてたけど、これには負けると思う」
「へへーん。どんなもんよ」
「いや、ほんとにルークにしてはいい物選んでくれたわ。うん、これ二つ買っちゃおう!」

こうしてティアに贈る写真立てを二つ買ったルークとアスナは、ティアと合流するためにゲームコーナーに戻っていった。

「ここから動いちゃダメって言ったでしょう!」
「「ごめんなさい」」











その日の夜、アスナは自室のベットに寝転がりながら雑誌を読んでいた。
雑誌の表紙には麻帆良ワークスと書かれている。
昼間三人で出かけた帰りにコンビニで貰ってきた、麻帆良の求人情報誌だ。

「うーん……学校がない時間で、時間が長すぎなくて、年齢について何も書いてないとこ……ないなぁ」

アスナは中学校に入ったらアルバイトをしたいと考えていた。
その理由は、ティアと学園長に今までの分とこれからの分として、生活費や学費を渡したいからだ。
もちろん学生のアルバイト程度で払いきれる物ではないと、アスナもわかっている。
それでもアスナは、少しでも早くそれを返して行きたいと思っていた。
それはアスナにとって、今までありがとうの意味を込めた恩返しのような物のつもりだった。
しかし中学生を雇ってくれるような仕事はそう見つかる物ではない。
この求人情報誌はアスナがアルバイトをしようと思い立ってから、もうすでに三冊目だ。

「またやってんのかよアスナ」
「んー。勝手に入んなって言ってんでしょー」
「しょーがねーだろ、俺の部屋ゲームねーし」
「だからー。入んなって言ってんじゃなくてー。ノックしろって言ってんのよー」

雑誌に夢中なアスナの受け答えはとても上の空だった。
ルークはそんなアスナをスルーしてこの部屋に来た目的、ゲームを物色し始めた。
昼間アスナに引っ張られたおかげで出来なかった分、今やりたくなったというわけだ。

「あれ? こんなんあったっけ?」
「んー? ああそれ友達の。って中学行くまでに返さなきゃダメじゃん」
「ふーん。なら返す前にやってみよ」

手に持っていたゲームのディスクを取り出し、ルークはゲーム機を起動させた。
それ以降ルークとアスナはそれぞれ自分のやりたい事に集中し始める。
時折ルークが、初めてやるゲームについてアスナに質問する程度だ。
アスナの部屋には、雑誌をめくる音とゲームの音楽がかもし出すだらだらとした空気が流れていた。

そんな締まりのない空間が終わりを迎えたのは、ルークがこの部屋に来てから三十分ほどたった頃だ。

「時間……早朝、二時間から三時間。うん、なんとか頑張れる。年齢……よし、何も書いてない。これしかないわ!」

アスナが自身の都合に合うアルバイトを、ついに見つけたのだ。
内容は早朝の新聞配達のアルバイトだ。
早起きが苦手なアスナにとって早朝という時間帯は少し厳しかったが、これ以上の贅沢は言えないとアスナはこのアルバイトの面接を受ける事にした。

「んーと、住所は……」
「なーアスナ。思ったんだけどさ」

そんなアスナに水を差したのは、画面内のキャラと同じ動きで体を揺らしているルークの、何気ない一言だった。

「ティアとタカミチが許してくんなきゃ、見つけても意味なくねーか?」
「………………あ」

アスナはすっかり忘れていた。
自分が未成年で、未成年が働くには保護者の同意が必要だという事を。











「ダメ。絶対ダメよ」

即答だった。

「そ、そこをなんとか……絶対めーわくかけないからっ!」
「そういう問題じゃないの。アスナのことだから学費や生活費を気にしてるのでしょうけど……はっきり言ってそんな事考えるのはまだ早いわ。大体、学生の本分である勉強を疎かにしてまで稼いだお金を渡されて、学園長や私が喜ぶと本当に思っているの?」
「うぐっ……」

静かな口調だったが、ティアは明らかに怒っていた。
ティアの言ってる事はアスナからしても思い当たる事ばかりで、バツが悪くなったアスナは俯いてしまう。
アスナ自身もわかってはいたのだ。
自分が気にしすぎだという事も、ティアや学園長は喜ばないかもしれないという事も。
しかしアスナには他に恩返しになる事が思い付かなかった。
そんなアスナをティアはしばらく眺め……ふと視線を柔らかな物に変えた。

「ねぇ、アスナ。私達は家族よね?」
「うん」
「それなら、遠慮なんてしないで。大きくなるまで、全部私に任せてくれていいの」
「……うん」
「アスナの気持ちは嬉しいわ。ありがとう」
「……うん。ごめんなさい」

顔を上げたアスナは、もう怒っていないのを確認してからティアに抱きついた。

「あら、どうしたの?」
「んーん、別にー」

なんとなく甘えたくなったとは恥ずかしくて言えないアスナだった。



[29137] 3
Name: Little◆6e8712b3 ID:b5814e83
Date: 2011/08/13 13:50
休みの期間という事で十時近くまで寝て過ごしたルークは、リビングに入るなり珍しい光景に出くわした。
アスナが、いつもはストレートにしている髪を鈴のついたリボンで二つにまとめていたのだ。

「あれ? 今日タカミチ来んの?」
「うん、お昼ご飯一緒に食べるんだって」
「ふーん」

アスナがこの髪型をしているのは、タカミチが家に来る合図だった。

元々の原因はルークとアスナが出会った当時までさかのぼる。
出会ってすぐのアスナは、タカミチ以外の人間にはほとんど心を開こうとしない少女だった。
といってもルークも自分と同じ記憶喪失になった過去があると知った後は、親近感からか少しずつ仲良くなっていったが、それより前の本当に出会ってすぐの頃だ。

急に一緒に住む事になったルークに余りいい感情を持たなかったアスナは、似たような色の髪を同じように伸ばしっ放しにして、おそろい状態になっていたのを嫌がった。
そこでタカミチがプレゼントしたのが、この鈴のリボンだ。
ルークとの仲が良くなるにつれ、いつの間にかつけなくなっていた物なのだが、それ以降もタカミチが来る日にはアスナはこのリボンをつける。

それはアスナなりの、あまり出会わない保護者への歓迎の表し方だった。

「ひっさしぶりだよなぁ、タカミチが来んのって。また老けてんのかな、あいつ」
「タカミチが聞いたら泣くわよ……あたしは嬉しいけど!」

アスナが自分の保護者を呼び捨てで呼ぶのは、間違いなくルークの影響だろう。
それだけでなく言葉使いの端々に乱暴な物が混ざるアスナに、ティアやタカミチはルークの影響を嘆いたりもしたが、今ではすっかり諦められている。

「今度はみやげなんだろーな。俺外国のお菓子食いてぇ」

ルークにとってタカミチは、たまに来る気のいい親戚のおっちゃん的な存在だった。
出張土産に思いを馳せるルークを、アスナは呆れた目で眺めた。

「まったくルークは……知ってる? そーいうの即物的っていうんだから」
「アスナだって楽しみはそことタカミチの顔だろ」

痛いところを突かれたアスナは言葉に詰まった。
なぜならアスナにとってのタカミチは、それプラス自分好みの渋いおじ様なのだから、ルークの事をとやかく言う権利はアスナにはないのだ。
ちなみにタカミチの年齢は書類上、三十歳にもなっていないのだが、見た目重視のアスナはそんな事気にしない。
アスナはオジコンで面食いだった。

「れーせいに考えるとアスナって終わってるよな……」
「終わってるとか言うな!」

しみじみと言うルークに、お茶の準備をしていたティアは心の中だけでこっそり同意していた。
流石に私もどうかと思うわ、と。











アスナの言っていた通り、タカミチは昼前に姿を現した。

「久しぶりだね、三人とも。変わらず元気そうで何よりだよ」
「ああっ、タカミチ……相変わらずその無精髭が眩しいわ……」
「ほ、本当に変わらないねぇ……」

きらきらとした眼差しをタカミチに向けるアスナ。
アスナがオジコンになった原因に心当たりがあるタカミチだが、流石に自分がそれを向けられるのには苦笑いだ。

「よータカミチ。三ヶ月ぶりぐらいか?」
「お久しぶりです、高畑さん」

タカミチはその実力から魔法関係の仕事で麻帆良を離れる事が非常に多い。
今回も年が変わって間もなくから国内外を飛びまわっており、約三ヶ月ぶりに麻帆良に帰ってきたのだ。

「つーわけでみやげ! みやげ!」
「ルーク……」
「き、君も変わらないねルーク君」

子供二人の態度に、タカミチはでっかい汗を浮かべながらも、麻帆良に帰ってきた事を実感するのだった。



昼食の席についた四人は、それぞれ思い思いに箸を伸ばしながら、話に花を咲かせていた。
ルークとアスナがタカミチのいない間にあった出来事をあれこれと喋り、ティアがそれを補足して、タカミチが相槌を打つ。
今回はタカミチのいない間に大きなイベントである卒業式があったので、話題は専らそれについてだ。

「でね、ルークったら信じらんないの。普通卒業式の日に寝坊する?」
「んな事言ってるアスナなんか寝れなくて目真っ赤だったじゃねーか。ほらあれ見ろよタカミチ」

ルークの指差した先を見たタカミチの目に入ったのは、二つの写真立てだ。
そこには卒業証書を手に持った二人が、それぞれに笑顔で収まっている。
アスナの方の写真は確かにルークの言う通り、真っ赤に充血した目をしていた。

「ち、違うのよタカミチ。あれは……そう、感動して泣いてただけなの!」
「……それはそれで恥ずかしーんじゃねーの?」
「………………はっ!?」
「くくっ、いいじゃないかアスナ君。卒業を前に寝れなかったのも、卒業式で感動して泣くのも、素晴らしい事だよ」

ティアはそんな三人を眺めながら、話題になっている写真の入った写真立てを二人から渡された時の事を思い出していた。
恥ずかしさに頬を赤く染め、ルークにいたってはそっぽを向いていたが、声を揃えて『これに毎月新しい写真を入れに帰ってくる』と言った二人から、ティアに渡された写真立て。
その言葉を聞いた時、ちょっぴり泣きそうになったティアだった。

「やっぱり二人の卒業式はこの目で見たかったなぁ。学園長も少しぐらい便宜を図ってくれてもいいと思わないかい?」
「仕事ならしょーがねーって」
「うんうん」
「……なんか僕が我が侭みたいな流れになったじゃないか二人とも。いつの間にそんな大人びてしまったんだい」
「まぁまぁ高畑さん。卒業式の写真はまだたくさんありますから」

なんだか落ち込みだしたタカミチをフォローする為に、ティアは思い出の世界から戻って三人の会話に入っていくのだった。



タカミチが今日この家を訪れたのは、三人が元気でやっているか確認したかったというのももちろんあるが、もう一つ理由がある。
和気藹々とした昼食も終わりに差し掛かった頃、タカミチはその話を切り出す為にルークに話しかけた。

「ルーク君。この後少し時間いいかい?」
「んあ? なん……」

なんで今じゃねーの、と言いかけたルークは、タカミチの目線の先にアスナがいたのにぎりぎりで気付いてなんとか口を閉じた。
そして、アスナには聞かせられない事……おそらく魔法関係の話だろうと当たりをつけ、頷いた。

「ありがとう。なに、そんなに時間は取らせないよ」
「あー、別に暇だし気にしないでいーぜ」











昼食が終わった後、タカミチはルークの部屋を訪れていた。
魔法関係の話だろう、とは当たりをつけていたルークだったが、タカミチから出た話はルークにとって予想外の話だった。

「魔法生徒? 俺魔法使えねーけど?」
「いや、そういう名前なだけであって、魔法が使えるかどうかは関係ないんだ。魔法先生の下について裏の仕事を手伝って貰う生徒の事で、要は魔法関係のボランティアみたいな物だと思ってくれればいい。前々から誘おうと思っていたんだけど、アスナ君と離れて暮らすようになるのはいい機会だと思ってね」
「ボランティアねぇ……」

その内容は、魔法生徒として学園に登録しないか、という物だ。

「なんつーか……ぶっちゃけやる気出ねぇ」
「ははは……そう言うと思ってたよ」

しかしそれは、結構面倒くさがり屋のルークにとって食指の動く物ではなかった。
タカミチからしてもその反応は予想通りだ。

「んだよ、なら最初っから言うなよな」
「そう言わず、話を最後まで聞いてから決めてくれないかい? 人手不足だから頼みたいというのもあるけど、これはルーク君にとってもいい話にするつもりだから」
「話くらい聞いてもいーけど……」

タカミチがそこまで言うなら、とルークは詳しい話を聞く事にした。

「魔法の存在を知っていて、剣術を修めていて……そして、気が使える。これほどの条件が揃っているルーク君を放っておくのは勿体ないと、僕は思うんだ」
「気? ……ああ、烈破掌と鋭招来の事か」

ルークは麻帆良に来た時から、その経緯によって魔法の存在を知っている。
それだけではなく、ヴァンから習っていた剣術を麻帆良に来てからも独力で続けており、それなりの使い手となっていた。
そして一番の理由はその剣術――アルバート流剣術の技の中に、明らかに気を使っている物があるからだ。

「いやぁ、あの時は驚いたよ。それまでは言ってはなんだけどチャンバラレベルだったんだけどね。ところで烈破掌ってどんな技なんだい?」
「うっせーな! タカミチが強すぎんだよ!」

それはタカミチがルークに頼まれて稽古をつけていた時の事だ。
突然ルークが、『閃いたぜ!』の掛け声と共に自身の体に気を集中し始めたのだ。
タカミチのその時の驚きは相当な物だった。
ちなみに烈破掌は掌底と共に気を爆発させるという技で、ルークが鋭招来を閃く前から使えた技なのだが、タカミチに拳を掠らせる事すら出来なくて、気を使える事に気付いて貰えていなかった。
ルークにとっては悲しい過去だ。

「僕が見てあげられれば良かったんだけど、時間もあまり取れないし、何より剣術には明るくない。そこで……受けてくれるなら、京都神鳴流という流派を修めている魔法先生を紹介するつもりだ」

魔法の存在を知っているし気も使えるが、裏の世界には関わっていない。
そんな立場にあったルークの事を、剣術を続けるのならいっそこちらに来い、とタカミチは誘っているのだ。

「その先生はかなりの使い手だから……強くなれるよ」
「うっ……」

剣術を趣味として続けていたルークにとって、それは殺し文句だった。
いくら趣味とはいえルークも剣術家の一人。
強くなりたいに決まっている。

「っし、やってやるよ!」

タカミチの誘いに乗ったルークは、こうして魔法生徒の一人として登録される事になった。



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Name: Little◆6e8712b3 ID:b5814e83
Date: 2011/08/13 13:49
年度始めの教師というのはなにかとやる事が多かったらしく、ルークが魔法先生を紹介されたのは、中学に入って半月ほどたってからだった。
タカミチの立会いの下でルークに紹介されたのは、凛とした雰囲気を持つ女性の剣士で、名を葛葉刀子という。
麻帆良学園に存在する魔法先生の中でもトップクラスの腕前を持っており、剣の師匠とするには麻帆良では一番と言える剣の使い手だ。

「なるほど。高畑先生がファブレ君の将来に期待している理由はよくわかるわ」

紹介だけしてさっさと退散したタカミチを見送ったルークを待っていたのは、実力を見てみるという名目で行なわれた模擬戦だった。
もちろんルークは軽くあしらわれる結果となったのだが、その中で刀子はしっかりとルークの実力を見極めていた。

「気の扱い方も体捌きもまだまだ雑だけど……基礎だけ教わってほとんどを独力のみでこれまでやって来たのを考えれば、十分な腕前ね」

刀子は当初、ルークの面倒を引き受けるのに乗り気ではなかった。
教師と裏の仕事という二束のわらじで忙しいのと、違う流派の剣士を教える事に抵抗があったからだ。
結局引き受けたのは、麻帆良でも一二を争う力の持ち主であるタカミチの頼みだというのが大きい。
そのタカミチが是非に、という程の生徒がどれほどの物か気になったというのが主な理由だった。
ルークからすればハードルを上げられた形だが、刀子は実際にルークの動きを見て結構な素質を持っていると感じていた。

「それに、気の使い方は自力で編み出したんですって?」
「自力っつーか……出来るよーな気がしたから試してみたら出来た感じ?」
「……天才肌という物なのかしら。教えるのに苦労しそうね……」

本来気の扱い方というのは、それ自体を目的とした修業や、厳しい修練を何年も続けてやっと身につくものだ。
試してみたら出来た、などと言うルークに、刀子は驚くよりも呆れてしまった。
とはいっても今のルークは気が使えるというだけで、使いこなせているとは到底言えるレベルではない。
気による身体強化である鋭招来にしても、刀子から見れば無駄だらけな物だ。
それはオールドランドと地球の技術の違いによる物なのだが、刀子はまずその部分を鍛える事にした。

「まず当面は上手な気の扱い方を覚えなさい。その間に模擬戦の相手で手頃な子がいないか考えておくわ」
「えー、なんかしんめー流の技とか教えてくんねーの?」
「気がうまく扱えなければ使い物にならないわ。それと……」

ルークの視界から刀子の姿が消え、その次の瞬間にはルークの喉元に木刀が突きつけられていた。

「言葉使いを改めなさい。貴方は弟子で、私は師匠。わかった?」
「りょ、りょーかいしました刀子先生!」
「よろしい」

太刀筋が見えないどころか、いつ目の前に来たのかすら全くわからなかったルークは、刀子の恐ろしさに慌てて背筋を伸ばした。
そんなルークの返事に満足した刀子は突きつけていた木刀を下ろし、具体的なルークへの指導方針を考え始める。

「どうするべきかしら……私もよくて週一ぐらいでしか見られないし……」

前途の通り刀子は多忙な身だ。
月に数度ならルークに稽古をつける事も可能だが、それ以外は一人でもこなせるような事をやらせておくしかない。
幸いにして刀子がまず鍛えたいと感じた気の扱い方という物は、瞑想をはじめメニューさえ組めば一人でもある程度は鍛えていける物だ。

ルークは不真面目そうな見た目とは裏腹に、剣術に関しては真面目な面が強いとタカミチから聞いているので、有用性さえ理解させればしっかりとそれらをこなすだろう、と考えた刀子は未だに背筋を伸ばして喉元をさすっているルークに、具体的な気の扱い方と鍛え方をレクチャーしていくのだった。











一方その頃、同じように中学に進学したアスナは、割り当てられた寮の部屋でテーブルに突っ伏していた。
アスナの予定では、アルバイトに精を出して忙しい毎日を送るはずだった中学生活。
ティアに止められてその予定は狂ってしまったが、その事についてはアスナももう納得している。
突っ伏しているのは、それによって陥った思わぬ事態が原因だ。

「どーしよ……毎日が暇だわ……」

アスナにはこれと言えるような趣味がない。
今まではやかましいルークと一緒に騒いでいる事がほとんどだったので、気にもならなかった事なのだが、そのルークと離れて暮らすようになると、アスナは自分の無趣味っぷりを自覚させられていた。
つまりアスナは、退屈を持て余してだれているのだ。

「もしかしてあたし枯れてる!? まだ中一なのにっ!?」
「どないしたんアスナ。うんうん唸って」

そんなアスナに声をかけたのは、ルームメイトでクラスメイトな少女、近衛木乃香だ。
近衛の苗字からわかる通り学園長の孫で、ストレートの艶やかな黒髪におっとりとした雰囲気の京美人さんである。

「うわーん、聞いてよ木乃香ー!」
「おーよしよし」

ルームメイトというのもあって短い期間ですっかり仲良くなった木乃香に、アスナは泣きついた。



「んー、よーするにアスナは何でもえーから打ち込めるもんが欲しいん?」
「何でもいいってわけじゃないけど……うん、大体そんな感じ」
「そんならアスナ、ウチと一緒の部活やろーや!」

アスナの暇っぷりを相談された木乃香の出した答えは、一緒に部活をやろうという物だ。

部活をやるという事自体は、アスナも考えなかったわけではない。
しかし、これがやりたい、といった物がないアスナは、無数の部活や同好会が存在する麻帆良において、どこから手を出してみればいいのかすらわからなくて、手をこまねいていた。
そんな中、仲良くなった木乃香と一緒の部活というこの提案は、アスナには魅力的だった。

「木乃香と一緒ってのはいいかも。何部?」
「図書館探検部と占い研究会、どっちでもえーよ」
「た、探検……? 図書館なのに?」

木乃香の入っている部活はアスナの想像とはかけ離れていた。
アスナが入る云々は置いておくとして、占い研究会はまだ普通と言えるだろう。
問題は図書館探検部の方だ。

麻帆良には図書館島という、湖に浮かぶ小島を丸ごと利用した図書館がある。
図書館島の存在は知っていても、基本的にアウトドア派なアスナはその実態を全く知らなかった。
アスナにとって本なんて物は、ルークの持つマンガと学校の教科書でお腹いっぱいなのだ。

「図書館で探検とか字面的に頭おかしいんじゃないの、創設者」
「ウチらは中学生やから上の方しか入られへんけど、大学生でも地下の最後まで辿り着いた人おらへんらしーよ」

地下に増築を繰り返した結果迷宮になっているだとか、最下層に辿り着いた者が一人もいないだとか、事実と憶測の入り混じった様々な噂が流れるこの図書館。
噂だけならともかく、地下深くまで増設されているのも、まるで迷宮のようになっているのも事実だった。
図書館探検部とはそんな迷宮さながらな図書館島の調査を目的とした部活動で、中学から大学まで多数の生徒が所属している。

木乃香にこれらを説明されたアスナは、それは図書館として正しい姿なんだろうかと頭を悩ませながらも、とりあえず納得した。

「……探検についてはわかったわ。なんで木乃香がそこに入ってるのかはさっぱりだけど」
「だってなんや面白そーやってんもん。ウチ本好きやし」
「や、本読むんなら図書部でも入りなさいよ。探検いらないでしょ。それ面白そうの部分だけで入ってるでしょ」

アスナの突っ込みはとても尤もだった。

「えー、ほんまに面白いんやもん。こないだなんてウチ、足踏み外してもーて……顔の横、矢がぴゅーってしたんよ」
「あぶなっ! 図書館島あぶなっ! っていうかそれって面白いで済ませていいの!?」
「あはは、アスナってばツッコミばっかりやなぁ。お笑い研究会とかえーんちゃう?」
「能天気にもほどがあるわっ!」

図書館島にそのような罠が仕掛けられているのには、もちろんそれ相応の理由がある。
地上にある表面部分は、その広大さは別にしてもまだ普通の図書館なのだが、地下部分は全く別の顔を持つ。
この図書館の地下には、各地から集められた魔導書を始めとした貴重な書物がこれでもかと詰め込まれているのだ。
その世界的にも貴重な書物達を賊の手から守るための罠であり、それは地下に行けば行くほど致死性のある危険な物となる。
浅い階層の罠は学生が興味本位で奥へ進んでいくのを防止する為の物という意味合いが強く、それ故大怪我に繋がる物は避けられているのだが、だからこそちょっとしたアトラクションのようになっている図書館島だった。

「地下一階やから注意せなあかんとこ全部地図に載ってたんやけど……ほら、うっかりってあるやん」
「……うわぁ、なんかすんごい心配になってきたわ、あたし」

余りにも能天気な木乃香にアスナは危機感を覚えた。
夜になって木乃香が帰ってきたと思ったらなぜか包帯まみれでした、なんて事になったらアスナは笑うに笑えない。
中学生の入れる階層の罠はそれほど危険な物ではなく、木乃香がうっかり踏んで発動した矢の罠も先が丸めて潰された物だったが、アスナはもちろん木乃香もそんな事は知るよしもなかった。
よって、これは傍に誰かついていないと本気で危ないと考えたアスナは、決断を下した。

「……うん、あたしも図書館探検部入るわ」
「やったー! これでクラスから五人目やー!」


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