イーガン・ジョーンズ・レーティングスは3週間前、米国の格付けを引き下げた。しかし、注意を払う人はほとんどいなかった。
ペンシルベニア州ハーバーフォードに本拠を置き、1995年から格付けをしている同社のショーン・イーガン社長は「S&Pによる格付けの記事はあらゆる新聞の一面に載った」と語った。
同氏が失望したのは、スタンダード&プアーズ(S&P)が米国債の格付けをそれまでの「AAA(トリプルA)」から「AAプラス」に引き下げたニュースは世界を震撼させたが、イーガンによる格下げはほとんど無視されたことで、このことは大手3社が格付け業界を支配していることを示している。
証券取引委員会(SEC)への報告によると、マグロウヒル傘下のS&P、ムーディーズのムーディーズ・インベスターズ・サービス、それに仏フィマラックの子会社フィッチ・レーティングスが格付けしている企業、自治体、国、その他の債務は約270万にも上る。SECが監督しているこのほか7つの格付け会社が対象にしているのは約8万2000件だ。
パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)のモハメド・エルエリアン最高経営責任者(CEO)は先週、S&Pの米国債格下げの前にウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、大手3社は「独占を与えられている」とし、「われわれが好むと好まざるとにかかわらず、3社は格付けシステムに組み込まれている」と語った。
S&Pによる米国債格下げのあと、特に米政府がS&Pの赤字算定には2兆ドルの誤りがあると指摘したのにもかかわらず格下げを行ったことから、格付け業界の寡占状態への批判が強まった。こうしたことを受けて、民主党と共和党の間には、1社による格付けが金融市場に与える影響を抑制するためには格付け業界でもっと競争が必要かもしれない、との異例ともいえるコンセンサスが生まれた。
パイパー・ジャフリーのアナリスト、ピーター・アパート氏が格付け対象者による格付け会社への支払いから推定したところでは、S&P、ムーディーズ、それにフィッチは米国市場で約95%に上るシェアを握っている。
金融危機の最中やそれ以前の住宅ローン関連の証券への過度の楽観的評価で信頼性を若干失ったあとも、3社の市場支配は変わっていない。多くの投資家の怒りは収まっていないが、3社ほどのアナリストの数、広いカバー範囲、それに長年にわたる経験を持つ格付け会社はほかにはない。
ムーディーズは1909年に格付けを開始し、23年にはS&Pが、そして27年にはフィッチが始めた。最も古い格付け会社はAMベストで、1907年から事業を行っているが、対象は保険業界だけだ。
格付け業界の監督は何十年にもわたって緩いものだった。SECは2007年、競争拡大も狙った法案を議会が可決したあと、この任務を引き受けた。既存の格付け会社もいわゆる「公認格付け機関(NRSRO)」としての認可を受けなければならなかった。
年金基金や投信など大手の投資家はしばしば、NRSRO10社のうち1社ないし2社以上が格付けしている証券を購入する。この10社にはイーガン・ジョーンズやクロル・ボンド・レーティングス・エージェンシー、モーニングスター・クレジット・レーティングスLLC(モーニングスターの子会社)が含まれている。
3社支配を批判する人たちの一部は、規制の強化によって、住宅ブームの中で生まれた担保証券やその他の証券に3社がトリプルAを付与するときにはこれを無視することが以前より困難になった、と指摘する。ラピッド・レーティングス・インターナショナルのジェームズ・ゲラート会長兼CEOは「SECはビッグスリーの仕組み金融部門の事業を保護し、その結果、低所得者向け高金利型(サブプライム)住宅ローン証券危機に至った」と語った。
ニューヨークにあるラピッド・レーティングスは債券格付けをしているが、コスト面からの理由でSECの認可は受けていない。SECの監督を受けていないことは、一部の金融市場参加者にとっては同社の格付けだけでは投資決定ができないことを意味し、同社の格付けの市場が限定される可能性がある。現在提案されている規制は、こうした状況を変えようというものだ。
フィッチの広報担当者は「全ての格付け会社は同一ではないということを忘れないのが重要で、各社はそれぞれの真価によって判断されなければならない」とし、「市場は信用度に関する多様な見方によって恩恵を受けている」と強調した。
昨年の金融規制改革法を受けてSECは、格付けの正確さと、どのように格付けを決定するかについてのもっと多くの情報を開示することを格付け会社に義務付ける規則を提案した。SECは、こうした詳細な情報によって投資家は格付け会社を比較することができ、競争を促進できるとしている。