作:神崎京介 画・題字:板垣しゅん
〈この物語は〉
伊豆・修善寺に暮らす貧しい父母のもとで生まれ育った高校生、山神大地。
中学三年生のとき、美しい英語教師と触れ合ったところから、彼は女性の心と体を巡る、長い長い旅を歩きはじめる。
同級生、アルバイト先で出会った旅館の若女将、高校の先輩、先輩のお母さん……。時には豊かな心を持った女性と、またある時には欲望をぶつけるだけを考える女性と出会いながら——。
『週刊現代』での連載で大反響を呼んだ神崎京介の青春官能大河ロマン『女薫の旅』が、今再び始まる!

第十四章 先生の誘惑〈12〉

 ドアノブを握った。
 空き室とはいえ、他人の部屋だ。そこに勝手に入ることに恐怖を覚える。大地は呼吸を整えてから、ノブを回した。
 ベニヤ板が剥がれかけているドアが開いた。
 部屋は意外と明るかった。先生の部屋から覗いた時の暗さではなかった。手探りで部屋にあがることを覚悟していたけれど、その必要はなかった。
 台所を通り抜け、南側の部屋に入った。
 湿った空気は淀んでいた。
 壁と柱の隙間から光が洩れ入っていた。暗がりの中でそれは際立っていた。
(ほんとに覗けるぞ……)
 大地は壁と向かい合った。
 柱と壁にできた隙間は、先生の部屋よりも広くて十ミリ近かった。指でほじって広げたような跡がいくつもあった。
 大地は身震いした。引っ越していった男の欲望の残骸を見る思いだった。
「ああっ、したい。ああっすごく、したい」
 隣の部屋から粘っこい声が聞こえた。
 先生だ。
 覗くようにうながされているようだった。
 縦に走る隙間に右目をつけた。
 ベッドが見える。壁から離れ気味に、先生が横たわっている。
 全裸のままだ。
 視界の右側が足、左側が頭だ。といっても、たった五ミリの隙間から覗いているから、当然、全身は見えない。
「わたし、もう我慢できない……」
 先生は妖しい声で囁くと、右手を股間に伸ばした。
 割れ目がてのひらに隠れる。人差し指と中指が曲がる。指と指の間から、肉襞が盛り上がった。それ以上は、指に動きはない。
 自慰をはじめているのかどうかわからない。
 集中しすぎて目の奥が痛い。
 指が動いた。肉襞が震えるように動きはじめた。指の関節が曲がったり伸びたりを繰り返した。手の甲に浮かぶ血管が消えては現れた。
「わたしって、下品でエッチな女よ。澄ました顔しているけど、心の中ではいっつも、いやらしいことばっかり考えているの。ああっ、誰か、わたしを慰めて……」
 先生の独り言がはっきりと聞こえた。覗かれていることに気づいていないかのように振る舞っている。
 大地はズボンを脱いだ。
 裸のほうが、今の興奮している気持に合っていると思った。すっきりして、勃起した陰茎が、ファスナーを掠めて二度三度と気持よさげに跳ねた。
「あん、いい……。すごく、いい……」
 先生の悩ましい吐息に、男の性欲が激しく喚起される。
 手出しができないために、いたぶられているような気持にもなる。でもそのぶん、勃起が強まり、欲望が膨らむ。
 先生は右手は股間につけたままにして、左手で乳房を揉みはじめた。
 乳房をみぞおちのほうから持ち上げる。乳房の谷間に細かい皺が生まれる。そこに淫靡な影が宿っては消える。乳輪の形が歪んでは元の美しい形に戻る。
「ああっ、もうダメ。わたし、おかしくなっちゃいそう……」
 先生は体勢を変えた。
 大地に股間を見せつけるように、壁に向かって足を開いた。
 割れ目が剥き出しだ。
 五ミリの隙間から、割れ目の細かい襞まではっきりと見える。

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