兵庫県宝塚市で昨年7月、ブラジル国籍の一家3人が死傷した放火事件で、殺人などの非行内容で初等少年院に送致された少女(16)の在留期限が10月に迫る。地元では「罪を犯したとはいえ、母国語も話せず、身元引受人もいない少女を本国に返せない」と在留許可を求める動きが出ている。既に有志が身元引受人を確保するなど、支援の輪も広がり始めている。【生野由佳、山衛守剛】
少女は日系3世で、4歳で来日した。事件は10年7月発生。当時中3の少女が自宅に放火し、実母が死亡、義父と妹が重傷を負った。少女が少年院を出る時期は不明だが、在留期限が切れれば退院後、強制送還される可能性がある。
外国人問題に詳しい山口元一弁護士(第二東京弁護士会)は「一般論として放火・殺人といった重大な非行は、(在留期間の)更新の可能性はかなり低い」と、厳しい見方を示す。ブラジルに住む実父らは少女の引き取りを拒否しており、送還されれば治安の問題から、身の危険もある。
少女の状況について、在日外国人が母国語を学ぶ「とよなか国際交流協会」(大阪府豊中市)に通うペルー国籍の高1女子生徒(15)は「もし1人で祖国に戻れと言われても、どこに泊まるのか、どこで仕事を見つけるのか」と心配する。地元の市民グループは同様の心配から、既に身元引受人を確保。「入国管理局は、事情をくみ取ってくれるはず」と期待する。
宝塚市も支援に乗り出した。市教委などは調査の結果、少女は両親から育児放棄(ネグレクト)や身体的虐待を受けていた、と認定した。同市の中川智子市長は「日本にいれば、行政も手を差し伸べることができる」と支援を約束。先月、法務大臣に在留特別許可を求め要望書を出した。
東日本入国管理センター(茨城県牛久市)の元所長で、千葉科学大学の酒井明教授(国際関係危機管理)は今回の例について「事件当時は中学生であり、少年院を出たあとは、支援の受け皿がある場所で暮らすべきでは」と話している。
毎日新聞 2011年8月10日 大阪朝刊