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[28219] 【習作・ゼロ魔】ガンダールヴの右手には【オリ主・TS転生】
Name: ななふしぎ◆4f3bd7a8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/13 00:31
ななふしぎと申します。

初めて投稿いたします。

皆さんの作品を読ませていただいて、自分も書いてみたくなり
ました。

原作キャラのきょうだいへのTS転生ものです。

オリ主は、烈風カリンの姉夫婦のもとへ養子に出されます。

オリ主は自分の素性はよくわかっていません。

見当はついてますが・・・・・。

烈風夫婦も、姉夫婦も、オリ主にダダ甘です。

烈風の父もオリ設定です。黒髪なので・・・・・・。

オリ主は強いけど最強ではありません。

ルイズとサイトには敵対しません。

ダーク入ってますがギャグも入ります。

オリ設定入ります。

アニエスラブです。

駄文ですが、よろしくお願いします。

*11/06/06 タイトルを、ガンダールヴに直しました。
素で間違えてた。すいません。

*11/06/09
再構成のため、第一話以降を削除します。
加筆修正したうえで、再投稿する予定です。
申し訳ありません。

*11/06/21
プロローグから再編成、追記しました。
以前のプロローグは削除してしまいましたが、
今回作成分は、それに未来でつながる話になります。
ちょっと話数がかかるとは思いますが。

*11/07/14
オリ主の設定を追記しました。

*11/07/22
オリ主の設定を追記しました。

*11/08/13
各話を若干修正しました。

駄文でありますが、お付き合いいただければ幸いです。

以下、キャラ紹介を含むネタバレになります。




























オリ主:レナス・ナオミ・ド・マイヤール

ヴァリエール公爵夫人である、カリーヌ・デジレ・ド・マイヤール
の、姉夫婦の長女として育てられています。
顔や体型は、ヴァリエール家三女であるルイズ・フランソワーズ・
ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールとそっくりです。

髪の色は祖父と同じ黒髪で、まったく違いますが。

とんでもないお転婆娘で、魔法の腕はそれほどではありませんが、体術、刀槍術、
弓矢や銃の腕にはマイヤール家、ヴァリエール家の面々を唖然とさせるほどです。
貴族なんて、村長みたいなものと思っています。
また、ヴァリエール家、ワイマール家の自分に対する扱いによって、
自分の出自に確信を持った疑問を持っています。
それを、周りに悟らせないだけの機微は持っていますが。
なぜだか、軍人としての使命を背負って行動します。

異界の兵士:ナオト
地球生まれの軍人です。幼いころからハンターとしての教育を受けており、
さらに軍人になってからの訓練で、卓越した戦闘能力を持っていました。
某敵国との戦闘中にハルケギニアの聖地に召喚されてしまいました。
ハンター、レンジャーとしての素質ゆえにエルフとの戦闘をやり過ごし、
敵対したメイジも何人も屠っています。
同じように召喚された敵国兵士に襲撃されていたヴァリエール家をかばって
死亡しました。最期は公爵夫人に抱かれて息絶えました。

オリ主の祖父:タダオ・シュヴァリエ・ド・マイヤール
オリ設定キャラです。
東方から現れたという父と、平民メイジの母との間に生まれました。
若いころに生まれ育った村を出奔し、ゲルマニアを中心に傭兵をしていました。
魔法の腕は、ドットクラスにすぎませんが、自分の父の教育により、戦闘技術と戦術、
さらに魔法の長所と弱点を知り尽くしていて、最強のメイジ殺しとひそかに
呼ばれています。ゲルマニアで戦功を立てて、シュヴァリエに叙されました。
その後、マイヤール家の娘に見初められて、婿入りしました。

次女である”烈風カリン”ことカリーヌでも、父親である”タダオ”に勝つのは魔法
主体の決闘でない限り無理でしょう。

オリ主ことレナスは”タダオ”に非常に可愛がられていて、一緒に狩りに行ったりします

。でも、悪さをした時の体罰は容赦ありません。

オリ主の祖母:レナスの祖母です。
オリ設定キャラです。
風のトライアングルメイジです。タダオに一対一の決闘で
負けて、惚れ込んで求婚しました。婿養子のはずの
タダオに家督を譲っています。

オリ主の母:レナスの母で、ヴァリエール家に嫁いだ、
カリーヌの姉です。存在自体は、烈風の騎士姫に出てきます。
が、その性格や、成長後どうなったかは描写されておらず、
完全にオリ設定です。
のほほんとした性格をしています。

オリ主の父:レナスの父です。
ワイマール家の分家筋の貴族の出で、婿養子として迎えられました。
オリキャラです。気が弱くて、魔法の腕も
ラインクラスです。いまだ、家督はついでいません。

オリ主の兄:レナスの兄です。魔法の腕も、武術、体術、戦術
ともに、まったく妹であるレナスにかなわないので、いじけた
性格です。

ワイマール家のメイド1:”婆さん”こと、老いたお手伝いさんです。
オリ主の祖母の従妹で、彼女の嫁いだ家は、ワイマール家の
親衛メイジを務める役目があります。オリ主の父は、彼女の次男です。
彼女も、レナスの祖母にあたるはずなのですが、そのような態度は
とらず、あくまでメイドとして接しています。
夫と若くして死別したあと、ワイマール家のメイドを
勤めています。現在は、孫娘とともに二人でメイドをやっています。

ワイマール家のメイド2:”お姉ちゃん”こと若い方のお手伝いさんです。
水のドットメイジです。
”婆さん”の孫娘で、レナスの主な世話係を務めています。彼女の母は、
レナスの父の妹なので、レナスとは従妹の関係に名目上なります。
まったく地位は違いますが、悪さをしたレナスには容赦しません。
もっともレナスが本気で反撃したら手も足も出ませんが。

ダルシニ:もともとはヴァリエール家に仕えるメイドですが、
ワイマール家に派遣されています。
強力な癒しを使える水メイジとみなされています。
烈風の騎士姫に、登場しますが、その後どうなったかは
記されていないので、オリ設定が含まれます。
ヴァリエール家には、古くから仕えていているはずなのに、
20代半ばの容姿を保っています。
そのため、吸血鬼と噂されることもあります。
もっとも穏やかな性格で、人畜無害なので、本気にしている
ものはいませんでしたが・・・・。
レナスの素養を見取ったヴァリエール夫妻から、レナスの護衛と、
監視役、指導役として派遣されました。
双子の妹、アミアスがいて、彼女はヴァリエール家に残って
メイドを続けています。



[28219] 風の慈愛
Name: ななふしぎ◆aa0197b8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/13 00:33
「ごめんなさい。姉さん。」

「申し訳ない。義姉上・・・・・」

「いいのよ。”**ー*”。”**ー*”さん。私も女の子が欲しかったし。」

「ごめんね。”***”。本当は、私が育ててあげたかったんだけど・・・。
それだと、あなたも、みんなも不幸になってしまうの・・・・。」

そういって、俺の髪が撫でなれる。

それが、新しい俺の最初の記憶だった。



ここは、何所だ。そして、俺はどうしてこうなった・・・・・。

おれは、田舎村の村長?の子供らしい。上に年子の兄がいる。
両親と、母の両親と同居・・・・。あと、お手伝いさん。
年取った婆さんと若い女性の二人。
二人は、祖母と孫娘らしい。
おれは、もう少しで六歳、年子の兄はしばらくで7歳・・・・。
富豪とまではいかないが、不自由のない生活をしている。

今まで、赤子ゆえに状況がよくわからなかったのだが。
ようやく自我とやらが芽生えて、急激な違和感に襲われたのだ。

ここは、何所だ。そして、俺はどうしてこうなった・・・・・。

と・・・・・。

おれは、隠れ家の壕に投げ込まれた手榴弾の爆発から、民間人の家族を自分の
身を挺して守った。
ボティーアーマーを身に着けていても、そんなことをすれば死ぬことはわかっ
ていた。

でも、自分と国に誓いを立てて軍人になったのだ。
そんな死に方も悪くはないと思った。
どのみち、二、三発ライフル食らってたから長くは
持ちそうになかったしな。

今わの際に見た、奥さんと二人の娘さんの泣き顔は今でも
ぼんやりと覚えている。
旦那さんも何とか涙をこらえていたな。
俺の最期を抱いて看取っくれた奥さんに、
俺の本当の名前を伝えきれなかったのは残念だったな。
世話になっている村の名前は伝えられたけど、
自分の名前は、途中までしか言えなかった。

「タ・・ルブ・・・の・・ナオ・・・・・・。」

そこで息絶えてしまったらしい。
まあ、しょうがないな。

だが、一つだけどうでもいいことで心残りがある。
奥さんと、娘さんの一人、なんでそんな髪色なんだ!!
桃色!!何の冗談なんだ!!

どうやら、俺は生まれ変わったらしい。
それはいい。ここが、”とんでも”な世界なのは身に染みてわかっているから。

だ・け・ど!!

この髪はいったいなんだ!!

ついでに・・・、下の方の・・・・。

ああ、そっちじゃないぞ。そもそもまだ生える年じゃないし。

生えてたはずが・・、まったくなくなっている。

というか、えぐれているのでは・・・・・。

”バシャ!!”

いきなりお湯を掛けられる。


「きゃあ、お姉ちゃん。やめて!!」

「だーめーでーす。これから髪を洗うんだから。」

「ぶー、もう。なんでこんなに、髪の毛長いの?邪魔なのに!!」

そう、俺の髪は、背中まである波打ったロングヘアーなのだ。
ここらでは珍しいらしい黒髪である。
お姉ちゃんこと、若い方のお手伝いさんによく洗われる。

思考と、言動が一致しない・・・・・、これこそが、
俺が今感じている最大の違和感なのだが・・・・。

「ねえ、ねえ、もっと短く切って!!わたしもいいし、
お姉ちゃんも楽でしょ!!」

「何言ってんですが!!こんなきれいな髪を切るなんて
始祖ブリミル様が許しても私が許しません!!
烈風カリン様だって、長い桃色の髪をなびかせて、
戦場を駆け巡ったのですよ!!」

お姉ちゃんは烈風カリンという、この国始まって以来
最強の騎士にあこがれているらしい。
女性と見まごう美貌と、その強さ、生ける伝説らしい。

もちろん、俺もその正体は知っている。
隠そうとしても無駄だぜ。

・・・・・、無理あるだろ・・・・?
前世で、予備役の訓練に金髪ロンゲで参加したアホが
いて(もちろん男だ。男の娘ではない。)ぶったまげた
記憶があるが・・・・・。

「わかったから!!このままでいいわよ!!それから、
もうお風呂一人で入れるから!!


髪は良いとして(あまり良くないが)、
首に下げているネックレス。

「ねえ、お姉ちゃん。やっぱりこれ邪魔だよ。はずしていい?」

”パン”

「おっ、お姉ちゃん・・・・」

俺は自分の頬を抑え、”お姉ちゃん”を見つめる。

「・・・・・、二度とそのようなことは言ってはなりません。
わかりましたか?」

「はっ・・、はい・・・・」

頬を抑え、しゅんとしてしまう。

・・・・・。

つまり、俺は男の娘ではなく、俺っ娘なのだ(頭の中だけだけどね)。

お姉ちゃんには逆らえないんだよorz

ネックレスの意味は分かんないんだけど・・・・。

この世界では、お風呂は贅沢品だ。それでも、小さいながらも俺の家にはお風呂がある。

それで、お風呂から上がると・・・・・。

「はーい、今日はこのおべべにしましょうね?」

俺を、着せ替え人形にするんじゃない!!
おかんと、お姉ちゃん二人ががりだ。たまに婆さんと御婆様も加わる。

その服、すべてが超が付く高級品だ。
女物、しかも幼女用の服に対する知識などないが、
素材や仕立ての目立てぐらいはできる。

不自由のない家に生まれたとはいえ、これはちょっとありえない。

なんで、そんなものを俺が着られる(着せられる)というと・・・・。

「そろそろ、お嬢ちゃんも6歳だね・・・・。」

「ええ、またパーティになるのかしら?」

そう。何かにつけて、親せきから大量の贈り物が届けられるのだ。

とりわけ俺の誕生日、特に、バリ・・・・?何とか家、
おかんの妹、叔母さんが嫁いだ家からの贈り物が物凄い。

叔父さん叔母さんと、俺と同じ年の娘と、一回りぐらい上の姉さん達と5人の家族。

特に叔母さんは優しそうで俺は大好きだ。
だけど、3人の従姉妹は、俺が叔母さんに甘えてると
(仕方ねえだろ。思考と言動が一致しないんだ。)、
珍獣でも見るような目で見つめてくる。なんでだ?

叔父さんも、威厳を保ってるふりをしているが、目じりが
垂れてるんだよな。(俺には、バレバレだぜ。)

どうやら、叔父さんの家は、俺の家より、ずっとでっかい
らしい。一度だけ行ったことあるけど、なんだろね、あれ。
お城みたいにでっかい屋敷に、ものすごい数の、お手伝い
さんや、執事さん。かなり無駄じゃね?
それで、従姉妹たちはかなり厳しく育てられているそうだ。

まあ、俺には関係ないけどね。今日だって、村の餓鬼どもと
遊びまわって、ウサギ捕まえたり、ザリガニ釣ったり、魚とったり、兵隊ごっこしてたか

ら。

そして、お姉ちゃんと、婆さんにとっつかまって、お風呂
に放り込まれると・・・・・。

まあ、俺の一日なんてそんなもんだ。


「御嬢ちゃん、叔母様の御家から誕生日プレゼントが届いてますよ。」

今までも、服とか日用品はともかく、とんでもなプレゼントをもらって
いるんだが・・・・。

今回はさらに奇天烈だな。

自立型の人形・・・・、しかもバカでっかい
熊のぬいぐるみ形式だ。
つまり、ガーゴイルとかいうやつらしい。
もふもふである。蹴り入れると反撃してくる。

これはなかなかいいな。

さらに、小形の馬。ポニーだな。これで成獣らしい。

しっかり調教されてるみたいだね。

鞍も手綱もなしで飛び乗ってみたら、結構言うこと聞いてくれた。

馬場を一周して帰ってきたら、オトンやオカン、婆さんやお姉ちゃん、
御婆様は顔真っ青になってたな。兄貴は隅っこでいじけてた。
おじいちゃんは大笑いしてたけどね。

「さすがはわしの孫じゃな!!」

とかいって。

んでもって、最後に杖!!握りを含めて40サント程の
短杖だな。
黒檀でできているこの杖、非常にバランスがいい。

杖を使って、突き、打ち、払い、さらに体術、蹴りやひじ打ち、投げを
くみ合わせる。相手はもちろんぬいぐるみのぷーたんだ。

「おっ、お嬢様・・・・・。
杖は、そんな風に使うもんじゃないんですけど・・・・。」

「ふはははは、さすがはわしの孫じゃな。魔法など2の次じゃ!!」

おじいちゃんはご機嫌だが、オカンやお姉さんは不満げである。
おとんは困った顔をしている。

婆さんや、御婆上はにこにこ笑っているけどね。

・・・・・。実は、俺の家は魔法使いの家らしい。
魔法使い(メイジ)はつまり貴族として、魔法を使えない
者(平民)を守り導く義務があるそうらしい。
俺が見たところ、ただの村長の家にしか思えないのだけど・・・。

ちなみに、俺の生まれ変わった正式な名前は、

レナス・ナオミ・ド・マイヤール

だ。

長ったらしい名前と思うが、これでも貴族としては短い方らしい。

それでもって魔法・・・・・・。

俺としては、素手でできることをわざわざ魔法なんてめんどくさいことをして
までする必要はないと思うのだが。
結構疲れるし・・・・。
でも、他の者たちはそうは思わないらしい。

おじいちゃんだけは、別らしいがね。
おじいちゃんは実はドットメイジなんだよ。
つまり、魔法の能力は最下級のレベルってことだね。

でも、知識や智謀、剣の腕、肉体能力を駆使してかずかずの手柄をたてて、今
の立場にノシあがったらしい。

本当は平民に生まれたらしいが、メイジの血が混ざっていた。
もちろん大したもんじゃないけど、生まれ故郷の村で伝わる武術と組み合わせて
かなりの戦功を上げたらしい。それで御婆様に見初められたと・・・・・。
ちなみに、俺の黒髪はおじいちゃんの血らしいね。
御婆様とオカンの髪は桃色だ・・・・・。
どうやら、ここらでは黒髪のほうがぶっ飛んでるらしい。
叔母様の家族も桃色だし。

ともかく、俺の叔父さんどころか叔母さんもおじいちゃんには一目おいてるようだぞ。と

いうか、自分のお父さんだからなw。

叔母さん、優しそうだけど、本当はすごく強いらしいね。
信じられないけど。

そういえば、俺の家の家族、お手伝いさん達の家族を含めて、全員
メイジなんだ。
でも、俺は魔法を使ったお仕置きなんて受けたことなんてないから、魔法の存
在意義がよくわからないんだけどね。


なんか、お姉ちゃんや婆さんがお仕置きとか言って杖を振うんだけど・・・・

次の瞬間驚愕と恐れの表情になるんだよね。
何なんだろ。

まあ、おれは、婆さんはともかく、お姉ちゃんには蹴りを入れて、杖を奪うんだけどね。
なんか、そうしなければならないと、体が勝手に動くんだ。
杖を持った相手には手加減してはいけないって・・・・。

でも、おじいちゃんのお仕置きは結構堪えるな。

あの、やけに頑丈な杖でお尻ぺんぺんはやめてほしい。

まあ、そんな感じで、俺は黒檀の杖の扱いと、ポニーの乗りこなしで日々を過
ごすようになったわけだ。

ポニーのポーたんに乗りながら馬場を走りながら弓を打つ。
まあ、流鏑馬って言うやつだ。結構な命中率だぞ。

あと、杭の上にのっけた小石を全速で走りながら杖で
ぶった切ったりとかね。障害物飛び越えるタイミング
でやるから結構難しいぞ。

あと、おじいちゃんと一緒に狩りに行くことが多いんだが、
獲物は結構なものだぞ。ヤマドリ、烏骨鶏、穴熊、鴫、たまに猪といった王宮
にでもだせる代物のはずだぜ。

でっかい豚?みたいな、足で立って歩くからかなり珍しい獲物だろうな。そいつを狩って

きたときは、家族全員に引っ叩かれて、
三日間ごはん抜きのお仕置きをされたけど・・・・。
なんでだろ?

魔法で掛けた普通のカギなんて俺、ヘアピン二本あれば開けられるけど、
おじいちゃんの作った鍵だけは開けられないんだよな。
あの時はさすがに泣きが入ったね。

「おっ、そろそろ、おまえの叔父さん叔母さん達が来るころだぞ。獲物は儂が
運んでおくから、レナスは二人と従姉妹たちをお迎えしなさい。」

今日のご飯をおじいちゃんと一緒に狩ってたら、そろそろ
時間らしい。

「うん、おじいちゃん。いってくる。私の腕前みせて
あげてくるよ。」

そういって、おれは、ポーたんを街道へ向けて走らせるのだ。






「旦那様。前方から、無人の仔馬がまいりますが?」

「ん、なにごとだ?。」

御者の言葉に答えて公爵は馬車の除き窓から前方を見やる。

「あれは・・・・・、レナスに与えたポニーではないですか!!」

夫人が夫の傍から件の仔馬を見やる。
どうやら、遠眼の魔法を使ったようだ。

「馬具を付けています!!落馬したか、襲われたか!!
急ぎなさい!!マイヤール領に急ぎ連絡を!!」

護衛についていた4頭のグリフォンのうち二頭が飛翔し、一頭が仔馬の近くへ、
もう一頭が目的地に向かう。

しかし、そこまで距離は離れていなかったので、グリフォンと馬車はほとんど

間を置かずに仔馬の傍にたどり着いた。

「旦那様、奥様・・・、別に暴れた様子も、荒事になった様子もないのですが

・・・・・・。」

家族全員と、従者全員で仔馬を見分したところ、まったく
異常はない。

次女に嬉しそうに鼻面を擦り付けていたが・・・・・・。

「・・・・・・、途中で落馬したのかもしれませんね。
あなた、その子を牽いて上げなさい。」

高貴な家族を乗せた馬車は、そのまま”ぽっくり、ぽっくり”と進み始めた。

グリフォンに牽かれたポニーを連れて・・・・・。





「はあ~、良い天気」

俺は、馬車の屋根の上で寝そべっていた。

叔母さんが嫁いだ家、バリエル家だっけ?

やっぱりかなり裕福なんだな。

魔法なんかに頼ってる分、機械工学が完全に遅れているん
だけど。

金と権力とコネがあれば別だ。

この馬車は中々の乗り心地だ。

屋根の上なんだけどねw・・・・・

春のうららかな温もりと、心地よい馬車の振動・・・・。

それで俺はすっかり眠りに入ってしまった。
(馬車の屋根の上でね・・・・)




「お父様!!お姉さま!!
いったいあの子はどこに行ったのですか!!」

かなりぶち切れ気味の次女に老貴族タダオ(元は平民だが)は
うろたえることもない。

馬車から降りるなり、父親に詰め寄る公爵夫人。

「なにを言っておるんだ。ずっと一緒にいただろ?」

「なんですって!!」

その瞬間・・・・

杖を抜き背後から迫ってくる気配に応じ・・・・、この気配は・・・・。

振り向いただけでも僥倖だ。とっさに唱える魔法を選べたのも・・・・。

確かに浮遊の魔法を放ったのだが・・・・・。

「御久しぶりです。叔母さん」

馬車の屋根からそのままの勢いで飛び降りてきた姪娘を抱きしめ・・・・
国始まって以来最強の騎士は、地面に押し倒された.

「・・・・・、まっ、まあ!!私を襲えるなんてすごいわ・・・・」

引きつった、にこにこ笑いを浮かべながら姪娘を抱きしめ立ち上がる叔母・・

・・。
(もちろん、心の中で冷や汗をかいていたのだが・・・・。)

「ふふふ、カリーヌ、お主、実戦ならば死んでいたぞ。」

「うん、おじいちゃんに教えてもらったんだよ。」

”ピキ”

周囲の空気が固まった

「ポーたんのお腹の下につかまって近づいたんだよ。兵隊さんが
よそ見しているときに、馬車の下に入って隠れて、そのあと、馬車の屋根で
昼寝してたの。そのあと、叔母さんに抱きつけばいいって。」

「・・・・・・、さあ、お姉ちゃんたちと遊んできなさい。」

「はーい、叔母さん!!」

子供たちが仲良く(一部、というか殆どが引きつっていたが)去って行ったあ

と。

「・・・・・、お父様~!!いったいあの子に何を教えたのですか?」

「あっ・・・、それは・・・、だな・・・・。」

烈風が甘いのは姪娘だけらしい。



[28219] 風の苦悩
Name: ななふしぎ◆aa0197b8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/13 00:34
「とぼけるのはやめてください!!」

「むっ、ぬお・・・・・]

娘から放たれた風魔法、エアハンマーを受けながら、老貴族ことタダオは

うめき声をあげる。

「危ないじゃないか!!。コモンマジックならいいが、
系統魔法を使うとは何事だ!!」

タダオは次女ことカリーヌの魔法に耐えたのちにその両手を左右の手で握り占めた。

「うっ!!」

カリーヌの手から杖が零れ落ちる。

最強の騎士のはずだが・・・・・。

最弱のメイジ、ドットメイジなのに、最強のメイジ殺し・・・・・・。

カリーヌは、父親にはどうも勝てないのだ。公爵である夫のピエールだったら勝てるかも

しれない。

三割ぐらいの確率で・・・・・・・・。

「義父上・・・・・・・・、なんであの娘は妻の魔法に打ち勝ったのですか?」

娘の夫が問いかけてくる。

「・・・・・、レピテーション・・・・、コモンマジックが、
意志ある者に通用するわけ無いだろうが。エアハンマーなり、
ウインドブレイクだったら、別だがな・・・・・」

「私があの子にそんな魔法を放つわけ無いでしょう。
それにしても、魔法に抗する術は、我が家にとって
最大の秘術です。やすやす公にしたら不幸になるだけです。」

下級貴族と言ってよい貴族の家に生まれた最強の騎士の称号を
持つカリーヌが言う。

魔法を恐れない、貴族を恐れない、メイジを恐れない・・・・。
それこそが、魔法に抗する術である・・・・。

「平民でも魔法に抗する術があるなど、下手をすると
一揆がおきますぞ。この家はもちろん、義父上の故郷や、
我が領地もただではすみますまい。この国すべてが
滅びますぞ。」

この国で最も高貴といってよい貴族の家に生まれ、
身分違いと言ってよい娘を見初めたピエールが続ける。

そうとはいっても、貴族、メイジに飼いならされた平民では、
コモンマジックでさえ抗することは不可能だが・・・・・。
ドットメイジにして、最強のメイジ殺しである老貴族は、
精神力でこの国最強の騎士であるカリーヌに打ち勝ったわけだ。

「・・・・・、そんなことはわかっておるよ。
もちろん、そのようなことは教えておらん。
あの娘には普通のメイジになって、そこそこの家
にでも嫁いでもらった方がいいと思っていたのだが。」

老貴族は立ち上がると続ける。

「わしも信じられないが・・・・・・。」

領主である老メイジは、執務室の隅にあるタンスに向かいその

中から、数々の毛皮を取り出した。

その毛皮を見分して・・・・・

「かなりの上物ですね・・・・・・。テンですか
それにしても、魔法の痕はおろか、矢傷さえまったくないのは
・・・・・。」

「あの娘が取ったものだよ。あの子は獲物の目を打つんだ・・・・・。」

「はっ?・・、そんなばかな・・・・・。」

目打ちの技・・・・・、最高の猟師でなければできない
ことだ。まったく傷のない毛皮を得られる技だ。

公爵夫人の次女ならば可能かもしれないが・・・・・。
体が弱く、動物を友とする彼女がそんなことをするわけがない
が・・・。

「あの娘は、生まれついての狩人だよ。
系統魔法を嫌悪しておる様子があるが・・・・・。
地水火風の力を読み取っておるようだな。
森の中では、お前でも手も足も出まいぞ・・・・。」

公爵夫人も、貴族にあるまじき奔放な生まれ育ちだったが・・。

「ブレイドだけで、オーク鬼三頭を狩ってきたのにはさすがに
あきれたよ・・・・。」

「なんですって!!」
「なんですと!!」

詰め寄ってきた娘夫婦にさすがに老貴族は引きつった。

「あっ、ああ。家族全員で鞭でたたいて、三日間納屋に閉じ込
めたぞ。食事も水もやらなかったから、結構堪えたはずだ。」

「あら、お父様。厨房の食材が結構なくなってましたよ。」

今まで黙っていた、老貴族の長女が口を開く。

「わしの作った鍵は、魔法でも、スカウトの技術でも
そう簡単には開かないはずだぞ。」

「じゃあ、穴でも掘って逃げ出してたのね?」

この長女、カリーヌの次女、カトレアに何となく似ているところがある。

「杖も取り上げたぞ。そもそも、ブレイド以外の魔法はほとん
ど学ぼうとしなかったはずだが・・・・。」

「それじゃあ、あの娘、先住魔法を使えるのね!!
さすがだわ!!」

「お姉さま!!。二度とそのようなことは言わないでください!!」

のほほんとした声で、問題発言を平気でする姉に、カリーヌは怒気を孕んで声を荒げる。

「あら、そうでしたわね。ごめんなさいね」

王国最強の魔法衛視隊の隊長だろうと萎縮するであろう、
公爵夫人の怒声にも姉はほとんど動じていない。

「ま、まあ落ち着け。狩りの腕が優れているのは悪い事ではあるまい。あとは、ふつうに

メイジとして育ってくれれば良いのではないか。」

自分の姉は、本当に自分の次女、カトレアに似ている・・・・・。

嘆息しながら公爵夫人は続ける。

「わかりました。この後、私があの娘の魔法を指導します。」


「あっ叔母さん!!」

公爵夫人は物凄い勢いで飛びついてきた、姪娘を抱きしめた。

さすがに、今回は押し倒されることはなかったが。

「あらあら、お転婆ですね。お姉ちゃんたちとしっかり遊びましたか?」

「うん、カト姉ちゃんにはポーたんすごくなついてたよ。
ルイズちゃんもすごいね。ポーたんにふつうに乗れてたよ。」

「あら、カトレアもルイズもすごいわね。エレオノールはどうでした?」

ポーたんこと、ポニーの“マレンゴ”・・・・・。
並外れた名馬である。この娘もルイズも、次女のカトレアも、体が普通だったら、マンテ

ィコア、グリフォンといった幻獣でも乗りこなせるかもしれない。

「エレ姉さん。なんか変なんだよね。私がポーたんに乗って
弓をうったり、小石切ったりするとゴーレムみたいな顔になるの。」

「・・・・・、エレ姉さんは気難しいのよ。あんまり気にしちゃだめよ」

「うーん、わかったよ。叔母さん」

一瞬、姪娘の言葉に硬直した公爵夫人だが・・・・・。

「さあ、そろそろご飯の時間ですよ。あなたが取ってきた
山や川の幸をごちそうしてくださいな」

「うん、叔母さん!!」



[28219] 風の嘆き
Name: ななふしぎ◆aa0197b8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/13 00:36
晩酌になり、俺も給仕の真似ごとをする。

俺は、狩りだけじゃなく、料理もできるからな。

かなり野趣溢れるが・・・・。

俺が罠仕掛けて捕まえた赤色野鶏で、同盟軍からもらったキムチ缶いれて、
チキンスープを作ったことがあるな・・・・・。部下も喜んでたけど・・・・、
?いったい何の記憶だ?

お手伝いさん二人もテーブルに着くよ。

婆ちゃんも、お姉ちゃんも実は俺の親せきなんだよな。

下級貴族の親戚なんて、結局平民になるしかないんだね。

まあ、婆さんの家は、この家の親衛隊みたいな物で、
5人ぐらいのメイジがいるらしい。

でも・・・・、俺に勝てるような奴はいない感じが・・・・・

婆さんが唯一ラインメイジという・・・・・。

はっきり言って、この家からあの叔母様が生まれたのが信じられないぐらいなのだが。

それとは別に、平民の衛士がいるんだぞ。

普段は農作業をしているぞ。屯田兵だ。

一個小隊、三十人ぐらいだね。

公爵家の家族が来訪するから彼らも、正装して儀仗兵替わりを務めていたね。

さすがに食卓は一緒にしなかったけど、俺と
爺さんが取ってきた獲物はかなりの数だったから、叔父さんの家の護衛と
一緒に大広間で食べて貰ったよ。まあ、護衛の数は10人に満たないけどね。

そんでもって次の日・・・・。

隊長と、魔法も飛び道具もなしで模擬戦やったけど。

隊長は引き気味だたけど、おじいちゃんとオカンが完全に乗り気だったから、やらないと

いけないよな。

ぼろぼろに負けたけどね.
俺の攻撃はほとんどあたらない。

でも、隊長さんの木刀は杖や籠手で受け止めても
俺の体に食い込んでくるんだ
もうあざだらけだよ。

どっちみち叔父さんが治してくれるんだけどね。

「おっ、お嬢様・・・。どうしても体と心の成長という物があります。あと、数年訓練に

耐えて、体と心を成長させればお嬢様も、私どころか、烈風カリン様にも打ち勝てますぞ

!!」

なんとか立っている俺に向けられる言葉に妙にイラつく。

「うるさい!!!」

殆ど命中しなかったブレイドの打撃。だが・・・・。

蹴り飛ばした石は、見事に隊長の鼻面に命中・・・。

「あっ・・・・、あの、隊長さん・・・・・」

俺をさんざん木刀でのしてくれた隊長さんは、俺の石のシュートで伸びてしまった。

「お仕置きしないといかんな」

おじいちゃんが言う。

「ええ、約束を破りましたからね。」

にこにこ笑いながら、叔父さんの方の、二人目の
姉さんが言う。

「カリ・・・・、いえ、奥様・・・。今のって・・・・。」
「姉さんも、そう思う?」

公爵家の家族についてきた二人のメイドさんが
呟く。姉妹らしいね。
この二人、俺が作った料理ほとんど食わなかったな。
川魚の生け作りwだけはちょっとだけかじったけど・・・・。

ともかく、それ以外の他の家族は俺のナイスシュートに全員引きつっていたわけだ。

叔母さんとこの、二人目の姉さん、カト姉ちゃん
俺、苦手なんだよな・・・・。
はっきり言って怖い。
そもそも、中学生ぐらいでその胸は無いだろ。
?中学生ってなんだっけ?

「ね、あなた、剣とブレイド以外は使わないって約束したでしょ?
なんで約束を破ったの・・・。」

カト姉ちゃん、背丈は女の子の年では結構ある。

しゃがみ込んで。ほっぺたを両手で挟まれては・・・・・。

「・・・、だって、悔しかったんだもん・・・・。」

「悔しかったら、ずるいことしていいの?お姉さん、そんな子きらいよ。」

「・・・・、うっ・・・・、ご、ごめんなさい・・・。」

泣くことなどありえないと思っていたのに・・・・・。
涙が・・・、いや、汗が眼から零れ落ちる。
でも、カト姉さんは容赦してくれないんだ。

「私に謝ってもしょうがないでしょ。あなたがひどいことをしたのは誰かしら・・・。」

「・・・、はい・・・・、隊長さんに誤ります・・・・・・・・。」

俺は、フラフラと、ようやく覚醒した隊長さんに近づいて行ったのだけど・・・・・。

「いや、さすがですな。さすが烈風の血筋だけのことはある!!」

「あっ、あの・・・・、隊長さん・・・・・。その・・・・、約束を破ってしまって・・

・」

「みなまで仰るな。私もかつてはメイジ殺しと呼ばれた身・・・・。遅れをとったのは私

自身の未熟さゆえですからな。」

「・・・・・・、ごめんなさい・・・・・。ありがとう・・・・・。」

俺はそのまま走り出して逃げ出してしまった・・・・・


その夜・・・・、

公爵夫人の居室に、公爵領から付き添ってきたメイドの一人が訪ねてきた。

「どうしたのですか?ダルシニ?」

「ええ・・・・、ここのお嬢様ですが・・・・。」

「あの件ですか・・・・。」

「はい。足で蹴っただけであんな威力になるわけはありません。」

「・・・・・・」

「人間の中にも、素養があるものは現れるんです。あなたのように・・・
実際に力を借りられるまで成長するものはほとんどいないですけど。」

以前、カリーヌは、自分のあまりに強力な魔法の才能について、
ダルシニから指摘されたことがある。

「ブリミル教と、貴族、そして、系統魔法のせいですね・・・・。」

カリーヌには、騎士として、貴族としての誇り、ブリミル教徒としての信仰心
がある。

だが、あの娘、レナスはそんなものは持ち合わせていない。
むしろ、軽蔑している感すらある。

「はい。絶対に排斥されることになりますから。私たちと同じように・・・・。」

ダルシニも、強力な魔法を使える。

「ルイズも・・・・、レナスも・・・・、どうして・・・、こんなことに・・・・。」

「カリン・・・・」

メイドの腕の中で、涙をこらえる公爵夫人・・・・。

その二つ名は烈風といった。



[28219] 剣の悲劇
Name: ななふしぎ◆aa0197b8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/14 10:17
ぽっくぽっく、10歳ぐらいの少女が、ポニーに乗って道を進んでいる。

「うーん。ポーたん。いい天気だね。」

言わずと知れたレナスである。

今日は、いつもよりちょっと離れた森に行ってみようとぽっくぽっく・・・・。

森の中を通る間道なので、危険なのだが・・・・・・。

もちろん家族には内緒である。

だが、彼女のポニーは並外れた駿馬である。

襲歩(ギャロップこと全力疾走)すれば15分もかからず彼女の家の近辺にたどり着ける

だろう。

しかも、背中に弓、二丁の長銃を背負い、腰に短剣と短銃まで差している。
ついでに、見事な作りの黒檀の杖も・・・・・。

これでぶん殴られればかなり痛い。
もっともそんなことするのはこの少女ぐらいのものだが・・・・。

常識的にこんなアブナイなりをした相手を幼い少女とはいえ狙う野盗なんかいるわけない。

まあ、まともな知能がある相手ならばだが・・・・。

ふと、少女が反応した。

速歩で駆っていたいたポニーを引き留める。

こちらは風下・・・・、この匂い、そして、この気配・・・・・。この音・・・・。

「マレンゴ!!急げ!!」

ポニーは、次の瞬間、襲歩で駈け出した。

間道の、さらに脇道と言っていいほど狭い道を・・・。

こんなバカな・・・・・・・。
剣を振りながら、女性剣士は、心の中でつぶやいた。
まだ少女と言っていい年頃である。15歳で成人と見做されるとしても、まだ、
剣士としては半人前のはずだ。
だが、しかし、彼女はすでに2体の怪物・・・・。
豚面をした、直立歩行の亜人・・・・、オーク鬼を倒していた。

本来は単純な仕事、もちろんそれなりの危険が伴う、村近辺の森に現れた少数のオークの群れを討伐する。

彼女自身も何度も加わったありふれた任務のはずだった。

村人たちを通じて傭兵ギルドに討伐の依頼があったのだ。
本来はこの地を治める領主が討伐するべきはずなのだが、兵の余裕がなく、
一向にらちが明かないため、村人たちが金を出し合って依頼をしたのだ。

依頼料とは別に、オーク鬼を倒せば報酬金ももらえるので、傭兵たちにとっては基本とも

いえる仕事である。

彼女は、傭兵ギルドの中では若手、短くした金髪と凛々しい顔立で、さっそうとした女剣

士とした風情だが
、荒くれどもがそろう傭兵達と共に戦えるようには見えない。

だが、彼女は傭兵ギルドの剣士で、5本の指に入るぐらいの腕利きなのだ。傭兵メイジ数人を含む、
30人ほどの討伐隊に含まれるのは当然だった。

オーク鬼の数は10を少し超えるぐらいのようだ。
この面子なら余裕に相手になる。

そう思っていたのだが・・・・・・。

彼女の周りにはすでに、傭兵メイジ一人を含めて、5人しかいなかった。

他の傭兵たちは全員地に伏せている。もちろん、オーク鬼の一部も含まれるが・・・・・。

警戒をしながらオーク鬼の住処に進んでいたはずなのに、突然奇襲を受けた。しかも絶妙

なタイミングで・・・・・・。
それで、半数が殺された。

オーク鬼にそのような知恵は本来ないのだが。

「おい!!お前は早く逃げろ!!」

「あいつはやばい!!ここは俺たちに任せろ!!」

「領主に伝えて、助けを呼んで来い!!」

「私が何とか食い止める。早く行け!!」

生き残った傭兵たちは、最年少で女性の彼女を
何とか逃そうと立ちふさがっている。

「バカを言うな!!仲間を残して逃げられるか!!」

オーク鬼はまだ5頭残っている。
そしてそれ以上に恐ろしい存在・・・・。

”女王”がいたのだ。

オーク鬼には雄しかいない・・・・。
それは事実ではない・・・・・・。

雌が生まれることもある・・・・・。

だが、雄と違い苗床とされた人間の女の容姿と知性を引継ぐ。

しかし、その本質はオーク鬼そのものだ。

先住魔法を扱え、人間並みの知能を持つ雌オークに、雄オークは絶対の忠誠を誓うのだ。

それ故に”女王”・・・・。

”女王”が口語で何かをつぶやく。

石礫と、草木の枝が刃となって傭兵たちを襲う。

一人の傭兵が倒れたが、他は何とか持ちこたえた。

しかし、そこにすぐにオーク鬼のこん棒が振り下ろされ、剣戟と魔法が飛び交った後には

、傭兵たちは物言わぬ肉塊に成り果てた・・・・・。

たった一人の女性剣士を残して・・・・。

「あなた、なかなか強いわね・・・・。それに、すごくきれい・・・・。いい子が産めそ

うね・・・」

”女王”が、鈴のなるような声で言う。
その容姿はどう見ても美しい少女だった。
それ故に、その悍ましさがより深まる・・・・。

「ふっ、ふざけるな!!」

剣を振って切りかかるが、オーク鬼の一頭にこん棒で胸板を打たれて、弾き飛ばされる。

「だめじゃない。傷つけたら。使い物にならなくなるでしょ。」

雌オークの言葉と共に地から石礫の嵐が舞い上がり、オーク鬼を打ち据える。

「あなたたち、準備しなさい」

残りのオーク鬼たちは”女王”の言葉に、
巨木に叩きつけられた女性剣士に醜い顔を歪ませて近づいていく。

女性剣士は、まだ意識を保っていた。

しかし、オーク鬼の打撃を受け、剣は弾かれ、鎖帷子ごと服をはぎ取られた。

予備の短剣はまだ持っていたが・・・・、潔い死か・・・・、
それとも、最も悍ましい生か・・・・・・。

どのみち・・・・・、復讐は遂げられないことは確かだ。

自分の覚えている原風景・・・・。炎に包まれる生まれ故郷の村・・・・・。

せめて、あの時、一緒に焼かれていればよかったのか・・・・。

諦観と共に、短刀で自分の首筋を掻き切ろうとした瞬間・・・・。

”ダーン!!”

銃声が響き渡った。

”ダーン!!”

二発目の銃声・・・・。

2頭のオーク鬼が崩れ落ちる。

白馬の王子、そんなものが自分に現れるわけが無い事は解かっていて、そもそもあこがれ

もない。
それに、実際現れなかった。

現れたのは、青毛の仔馬に乗った少女だった。

「ぶひっ!!」
「なっつ・・・・。」
「んだ?」

突然の銃声と騎乗の少女の出現に驚いたオーク達・・・・。

それを尻目に、少女は二丁の長銃を投げ捨てると、背負った弓を素早くつがえる。

その放たれた矢は狙い過たず、一頭のオーク鬼の
眼球に突き刺さり、矢尻までめり込んだ。

残るオークは、”女王”を含めて3頭のみ。

我に返ったオーク鬼の一頭がこん棒を振りかざして、仔馬ごと少女を叩きつぶそうと走り寄る。

しかし、オークははるかな手前で地に足を取られて無様に地面に転がった。

そこへ、弓を捨てた少女が、杖を引き抜きながら
仔馬から飛び降りた勢いそのままで襲いかかる。

光刃をまとった杖は、うつぶせに倒れたオーク
鬼の延髄を貫いた。

”女王”が口語でつぶやく。

だが、少女は石礫の嵐を杖を振い、身でかわし、
籠手で受け止めて完全に凌いだ。

唯一残ったオーク鬼の雄、愚かな知能しか持たないオーク鬼の中でも
、彼はかなり賢い存在だった。

体もオーク鬼にしては貧弱で、醜い人間に見えないこともない。だから、それゆえに、
目の前の人間の雌が恐ろしい存在であることが分かった。それこそ彼らの、”女王”と同じぐらい・・・・。
しかし、女王を守るためならば・・・・・。
握りしめた戦斧を振りかぶろうとして・・・・。

「やめなさい!」

彼は、”女王”の言葉に従った。

「今後あなたの周りや近くの村には近づきません。私たちを見逃してもらえませんか・・・・。」

「・・・・・・、できないな。人を襲う者をほおっておくのは無理だ・・・・。」

少女の言うことはこの世界では至極まっとうなことだ。

”女王”も理解していた。自分たち二人ではこの少女には勝てない。精霊に愛された人間

の娘には・・・・・・。

「・・・・・・、では、私が身を捧げます。
殺すなり、奴隷にするなりなさってください。
だけど、弟の命だけは許してやってくださりませんか。」

”女王”はやけに丁寧な言葉で命乞いをする。

「あっ、姉貴・・・、おでが死んだ方がいいだ。
殺すならおでにしろ・・・。」

貧弱なオーク鬼が訛りの強い人語を放つ。

弟・・・・、弟だと!!それに姉・・・・?
少女の心の中で何かが弾けた。

”パン”

「!!!。つっつ!!もういい!!」

少女は、最後に残っていた銃器、短銃を発砲した。銃弾はオークたちの足元に着弾する。

「とっとと消えろ!!」

”女王”は一礼すると、双子の弟を連れて森の奥に去って行った。

「くっそ、なんだっていうんだよ・・・」

少女は毒づきながらも装備を整え直した。

その様子をおぼろげに見ながら、女性剣士の
意識は薄れていった。

ここはどこだ・・・・・。
女性剣士が観たものは、いつもの安宿の天井では
なかった。

鬱蒼と茂る森の屋根、その下で自分は寝かされているのだ。
近く、火を起こして何かの料理を作っている少女がいる。
詰め寄ろうとして、体を動かしたところ激痛に見舞われた。

「おとなしくしててください。骨が何本か折れていましたから・・・・・・。」

調理をしながら少女は言う。

「・・・・、私は確か…、オーク鬼に襲われて・・・・・。」

「安心してください。オーク鬼は”女王”を含めてすべて、倒すか退けました。」

「でも・・・・・・、人間の側で生き残っているのは
あなた一人だけですけどね・・・・・。」

「なっ、お前は、吸血鬼かエルフか!!!」

傷が痛むだろうにあわてて距離を取ろうとする剣士に少女は嘆息した。

「私が吸血鬼って、そんなわけないでしょう。あなたのお仲間のことです。
オーク鬼を追い払った時には、まだ何人か息があったんですけどね・・・・・・。」

「私の応急手当で何とかなったのは、あなただけでした・・・・・。」

「君が・・・・、助けてくれたのか・・・・・。」

少女は長銃をかかえ、地面にも二つの長銃を置いている。短銃も杖も腰に差しなおしている。


「・・・・、ここは、しばらくは安全です。安心してください。すぐに助けが来ますから」

そこで、剣士はふと疑問に思う。

「君の馬はどうしたんだ?まさか・・・・」

「助けを呼びに走らせました。そんなに時間はかからないはずです。」

そういうと、少女は鍋を掬い、木の器に移した。

「薬湯を作りました。飲んでください・・・・。」

差し出された器に入った液体は、ハーブと野草、根菜で作られていて、匂いはきついが
食欲を妨げるような物ではなかった。食欲はさほどない。だけど、怪我を
負っていて、そのうえ食事もとらないのでは、先に待っているのは死だけだ。

少女も同じように薬湯を啜っている。

お互い食べ終えたうえで剣士は語りかけた。

「・・・・、ありがとう。君は薬師なのか・・・・・・。
それにしても、オーク鬼を4頭も一人で倒して、
あのオークシャーマンを追いやるとは・・・。」

「まあ、私も戦闘の訓練は受けていますからね。民を守るのは私たちの仕事ですから。」

周りには、目の前の少女が倒したであろう4頭のオーク鬼の死体がある。
オークシャーマンとその護衛の姿はなかった。

この娘は、貴族なのか?それにしては、銃と弓を使い、魔法は使わなかった様な?
いや、最後の杖の一撃は魔法なのか?

「オークは、時々ああやって、強い人間の血を取り入れるそうですよ。」

先ほどからそれほど時間は立っていないようだ。
オークシャーマンの言葉がよみがえる。

「危ないところでしたよ。どうやら、彼らはあなたを狙っていたようですから。」

剣士は、少女が自分を見つめる目が変わったことに気付いた。

「ところで、お姉さん・・・・・。」

「アニエスだ・・・・。」

「お姉さんこそ、なんでこんな危ない・・・、傭兵なんてやってるんですか。
そんなにきれいで、かわいいのに・・・・。」

きれい・・、かわいい・・・・!!
剣士は今まで生きていてそんな言葉を掛けられたことが無かった。

こなをかけてくる傭兵仲間はいたが、すべてこぶしで黙らせてきたのだ。

そこでふと、気づく。同性の、しかも自分よりかなり
幼い少女だと思って気にも留めなかったが。

自分は、下着だけの姿に包帯を巻かれていたのだ。

「引き締まった体に・・、傷一つ無い・・・・・・。
それに、その顔・・・・・、すごくきれいなのに、自分で否定している。
強いけど、時々弱気にになる。それが、よくわかります・・・・・。
まるで、私のお母さんそっくりです・・・・」

レナスは、自分の母親の面影を、女剣士アニエスに重ねる。
男装するほど無鉄砲ではないようだが。

少女の手が、剣士の頬に添えられる。

剣士の背筋に”ゾワリ”とした感触が走った。

「私は、あなたのような人が好きですよ」

「きっ、君は・・・、その手の趣味があるのか?」

この国トリステインの紋章は白百合である。

「ふふふ・・・、変なことを言いますね。」

剣士は、本気でこの娘が吸血鬼なのではと疑いたかった。

「私は正真正銘・・・、人間の男の娘ですよ。」

は・・・・?

「・・・・、マジにとらないでください。
付いてるものはまだついてないけど、
付いてないものは最初からついてませんから」

そう言いながら、少女は剣士の胸に手を伸ばす。

ぽよん・・・・・。

「・・・・、鍛えているのにこれだけあるのはすごいですね。Cぐらいですか・・・・・。」

すっと、剣士の手を取って、自分の胸に導く。

「トリプルAです・・・・。」

なんだ、そのよくわからん表現は!!
おっ○いの大きさを気にしているのは解かるが、
だったら自分から話を振るな!!

「あっ、あの、だな。命を救ってくれたことは
感謝するし、その後の手当も感謝する。
だけど!!、ふざけている場合ではないだろう!!」

剣士の恫喝に少女は怯える様子はなかった。

「・・・・・、ふざけていないぞ。あなたが、女として魅力的なのは確かだ。」

いきなり口調が変わった幼い少女に、女剣士は絶句する。

「だが、戦うのは男の仕事だ。女には男にはできない、子供を産み育てる仕事がある。
私も女だが、多分その仕事はできないんだ・・・・」

女性が兵士として戦う場合、様々な障害がある。
剣士もそれを十分に体験していたが。

それでも、男に混じって戦いながらもそれは何とか克服している・・・・・。

「きっ、君は・・・・・・・・・」

少女はそれには答えず・・・・・・・・。

「助けが来たようですね・・・・・。」

何のことかと思ったが、しばらくして、複数の
馬蹄の音が近づいていることに気付いた。



[28219] 剣の喜劇
Name: ななふしぎ◆4f3bd7a8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/13 00:38
馬蹄の音とともに現れたのは、やはり少女の駆る
駿馬であるマレンゴだった。
(ポーたんは少女が勝手につけた愛称である)
そのあとに続いて、騎乗した二人の女性が
現れる。

なぜか二人ともメイド服を着ているが・・・・・
メイドの一人が肉塊になった傭兵、それに
急所を貫かれて息絶えている4頭のオーク鬼を見分して・・・・・

「お嬢様!!マレンゴだけ戻ってきて何事かと思えば・・・・・・・・、
この手紙はなんですか!!」

”負傷者に遭遇。女性ゆえにダルシニさんと、女性メイジの救援を望む。
衣服が破損しているために替えの衣服を望む。なお、メイド服が望ましい。”

「オーク鬼と戦ったなんて書いてないですよね。
今度という今度は許せません!!」

メイドが振った平手は、少女の頬をとらえ・・・・。少女は吹き飛ばされた・・・・。

地面に倒れ伏した少女のこめかみからドクドクと血が流れ出る。

「ちょ、ちょっとまて!!君たちはこの娘に仕えるメイドじゃないのか。
私はこの娘に助けられたんだ!!なんで、そんな怪我をさせるんだ!!」

「私は、メイドですけど、この娘の従姉妹です。」
少女の頬を張ったメイドが答える。
「・・・・・まったく手ごたえが無かったですけどね。
この馬鹿、自分で跳んで威力を消そうとしたんですよ。見事に石にぶつかりましたが・・

・・・。
ダルシニさん。お願いします。」

「しょうがないですね・・・・。」

もう一人のメイドが、杖を抜いて呟いた。
自分から石に頭突きをかました少女の傷はみるみるふさがっていく。

「いててて、いきなり引っ叩くことないでしょうが!!。お姉さん!!」

「あなたが全部自分でやったことです!!」

傷が癒えた少女を”お姉さんは”今度は軽く引っ叩く。

「それはそうと、あなた・・・・・。」

「アニエスだ。傭兵をやっている・・・・。」

「まさか、この娘を巻き込んだんじゃないでしょうね。」

メイドは明らかに殺気を放っている。
いまさらながら、腰に、杖を指していることに気づいた。

「いっ、いや、本当なら私はオーク鬼の慰み者になるか、殺されていた。その娘に助けら

れたんだ。」

「・・・・・・、嘘ではないようですね。
ダルシニさん、治してあげてください。」

「ええ・・・・・・」

もう一人のメイドが杖を振うと、少女の応急手当を施された女剣士の傷はみるみるふさが

っていく。

「手ひどくやられましたね。鎖帷子を引きちぎるなんて恐ろしい・・・・。」

無理やりに引きちぎられた服と鎧、そのせいで肌に傷がついていたのだが、メイド・・・

・・・
ダルシニの魔法はその傷をも癒した。

女傭兵アニエスの傷が癒えたのを確認して、もう一人のメイド”お姉ちゃん”が動き出し

た。

手早く、持ってきた服をアニエスに着せていく。

「お嬢様、オーク鬼と勝手に戦ったのは、お仕置きものですけど・・・・・・・、替えの

服をメイド服としたのは褒められますね。」

そう言われて、アニエスは強引に着せられている服が、少女以外の二人と同じつくりなの

に気付いた。

「メイド服、似合ってますね・・・・・」

少女がほっぺたを押さえながら言う。

「今回で懲りたら、その衣装が似合うように女を磨いて、どこかの貴族にでも仕えた方が

いいですよ。」

アニエスは、そこで、着せられたメイド服が、かなりの上物であることに気づいた。
さらに、少女が腰に差していた短銃を差し出す。

「持っててください。役に立つはずです・・・・・」

「な、こんな高価なものを、もらえるか!!」

銃は、平民の牙の中でも最高峰の物だ。剣や槍、弓よりはるかに値が張る。

「では、貸します。必ず返してくださいよ・・・・・」

なにを言いたいのかはわかる。早い話、死ぬなと言っているのだ。

「ああ、必ず返すよ。それまで待っててくれ。」

いつになるのかは解からない。すべての復讐を遂げた時に、この少女の前に現れられるだ

ろうか。

「・・・・・、それで、確認したいことがあるのですが・・・・・・」

「うん?なんだ?」

「アニエスさん達、亡くなった傭兵さん達も含めてですが・・・・・・・、
何所の依頼で動いていました?」

「ええ、狩りに入るぐらいなら問題ないのですが。オーク鬼の討伐にお嬢様
が手を貸したとなると・・・・・・・・。余計な貸しを隣の領主にあたえたことになりま

す。」

少女の家は小さい領地ながら、それなりに王家や大貴族たちにコネクションがある。

この惨劇があった場所は隣の領地、隣地の領主の娘がオーク鬼討伐に手を貸した・・・・



領主の無能を語っているようなものである。

しかも、少女はこの国始まって以来最強の騎士と言われる烈風カリンに溺愛されている。

「ああ、近くの村人たちから、傭兵ギルドを通して依頼を受けたんだ。依頼料は領主との
折半だな・・・・・」

「幸運に感謝した方がいいですね。もしこの娘が傷一つ追っていたら、あなたを含めて関

係者全員が死ぬより恐ろしいことになってましたよ。」

あんた、今、従姉妹に怪我させただろ・・・・・。

心の中で突っ込むアニエスであった。

「・・・・・、そういうことになると、私たちはこれ以上手を貸せません。
オーク鬼の死体の処理・・・・、お仲間の埋葬などは、傭兵ギルドを通していただかない

と・・・」

少女が申し訳なさげに言う。

「馬は一頭多く牽いてきましたから、使ってください。私たちはこれで失礼します。」

少女と、メイド二人はそれぞれの馬に飛び乗った。

「もちろん、お嬢様、このままで済むとは思わないでくださいね。
叔母様、叔父様には伝えませんが、旦那様には全部報告しますよ。」

「うっ・・・・、勘弁してよ・・・・・。」

少女の祖父も彼女を愛しているのだが、メイジとしてはさほど強力ではない分、
その体罰は半端じゃないのだ。

特に公爵家から派遣されてきた強力な癒し手のメイド、ダルシニが来てからは
容赦がなくなった。

「マレンゴ!!」

駿馬の脚力に生かして逃げ出そうとした少女だが、ダルシニが杖を振うと駿馬は
困惑した表情で佇んでしまう。

「さあ、ちゃんとおうちに帰りましょうね?」

メイド二人に馬ごと連行される少女を呆然と見つめていたアニエス。

そこで、ふと気づく。自分の格好は・・・・・・、あの二人のメイドと同じじゃないか。


ぽっくりぽっくり・・・・・・。

メイド姿の若い女性が馬に乗って間道を進んでいる。

メイドが馬に乗ることはあまりない。

騎乗の権利は、貴族にしか与えられないからだが、それはあくまでも
建前。田舎では馬以外、有効な移動手段などないから。

それでも、メイドは普通馬には乗らない。

奇異の目で行きかう村人たちに見られるが、次の瞬間ぎょっとした表情で、
あわてて目を逸らされる。

メイドが馬に乗るのはいいとして、剣を腰に差したり、短銃を持ってたり、
ついでに鞍に、血にまみれたずだ袋をぶら下げていたりはしない。

短くした金髪にメイド服を着ている。
ご丁寧に、エプロンやヘットドレスも装着(され)済みである。
言わずと知れた女傭兵(メイド)アニエスであった。

あの後、貴族の少女とメイド二人に去られて、アニエスは途方に暮れていたが・・・・・

・・。

30人近い傭兵仲間の埋葬は一人では無理だ。オーク鬼討伐の証拠として、鼻だけ切り取

って袋に詰めて、傭兵ギルドに向かっているのだが・・・・・・。

自分の姿はあまりにも異様らしい。そんなにメイド服が似合わないのか・・・・・。
ちょっと悲しくなるアニエスであった。


”カラン”
羽扉があき、付けられた鐘の音と共に、一人のメイドが入ってきた。

「おいおい、嬢ちゃん、来る店間違えてねえか?」

「俺たちに御奉仕してくれるってんなら別だがな!!」

荒くれどもがそろう、傭兵ギルドを兼ねる宿屋に、確かにメイドの姿は不釣り合いだ。

しかし、次の瞬間、軽口をたたいた傭兵の喉元に剣が突きつけられていた。

「御奉仕とは、こういうことか?」

「ア・・、アニエス・・・・・・・・。」

事態を静観していた、店主がつぶやく・・・・・。

その目の前に、メイド剣士アニエスが、ずだ袋を放り投げた。

改めると、オーク鬼の鼻が入っている。

「オークシャーマンが混じっていた。私以外は全滅だ・・・・・。
流れのメイジに助けてもらったが、もし彼女たちがいなければ、
私もどうなっていたかわからないな。」

店主を含め、店内の全員が聞きたいことをスルーして任務報告を
するが、そうは問屋が卸さない。

「ア、アニエス、お前、発狂したのか・・・・・・。」

「なんなんだ、その恰好は・・・・・。」

「おまえ、銃なんて持ってたか?」

あくまで冷徹な表情を保とうとしていたアニエスだが、瞬時に羞恥に染まった。

「そのメイド服、かなりの上物だな。それにマスケット銃・・・・・、このあたりで使い

こなしているのはマイヤールの御嬢さんぐらいのはずだぞ・・・・・。」

代表して、店主が問いかける。

なんで普通の服に着替えなかった?。それはこの世界の服って結構高い。結構スカンピン

だった彼女は傭兵ギルトで依頼の後金をもらわないとどうしようもなかったのだ。

「うっ・・・・・・、言えないんだ。迷惑がかかる。だけど、オーク鬼を倒して、オーク

シャーマンを追い払ったのは確かだ。」

「・・・・・、あの御嬢さんはかなりの腕だからな。おれもあそこの旦那さんと一緒に冒

険したことはあるからよくわかるよ。」

そこで、店主は改めてメイド服を着たアニエスの姿をじろじろと眺めた。だが、それは決

して好奇や好色の類からくるものではない。

「なあ、アニエス。お前、もう傭兵から足洗ったらどうだ。お前の器量と剣の腕なら、
雇ってくれるところはいくらでもあるぞ。そのメイド服とマスケット銃、マイヤール
の御嬢さんからもらったんだろ。」

「なっ、バカをいうな。私が貴族に仕えるなど・・・・・。」

でも、あの娘に仕えるというのはいいかもな・・・・・・。

思わず、顔がにやけてしまうアニエス・・・・。

「俺だって人を紹介するのが仕事だ。それなりのつてはあるぞ。」

あわてて、アニエスはフヤケタ顔を戻した。

「今のところ、そのつもりはないな・・・・・」

「・・・・・・、まあ、後金は出すし、死んだ傭兵連中の葬式はだす。
新しい服買って、そのメイド服は大事にしておけ・・・・・」

人生経験と、人間観察が長い店主には、大体御見通しだった。



[28219] 虚無への癒しその1
Name: ななふしぎ◆4f3bd7a8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/13 00:39
「あっつ、あのくそガキ!!、ただで済むと思っるんですかね!!」

女(メイド)剣士、アニエスを助けた後、貴族の
令嬢は馬ごと家に連行された後、結構物凄い罰
を受けた。

それこそ、ヴァリエール家に知られたら私兵すべ
てを引きつれて攻め込まれるほどの。

書いたら”消される”ほどの拘束をされて納屋に
閉じ込められた少女は、次の朝様子を見に来た
従姉妹であるメイドの目には映らなかった。

マジで、少女は魔法なしで閉じ込められた納屋を抜け出したのだ。

ついでに、自分の部屋に置手紙を残しておいてある。

”ちょっと野宿します。探してください。
無理かもしれないけどw”

家族と親衛隊、屯田兵が汗だくになって、探し回った。

その結果、巧妙に偽装されたシェルター(仮の野営施設)が近くの

森の中で見つかり、中ではまだ温もりのある炭火

、さらに残っている鍋料理があった。

「まだ、暖かいです。近くにいるはずです!!」

このメイドは、平民と言ってもかなり地位は高い。

その命令に従って、屯田兵達は捜索するべく散っていく。

結局メイドの従姉妹であるマイヤール家の令嬢は

見つからなかった。

ついでに、彼女の愛馬であるポニーの”マレンゴ”
もであるが。

疲れ果てて、屋敷に戻ったメイドは、少女の部屋

に向かった。もしかして何かの手がかりがあるかも・・・

そうしたら、新たな手紙が置かれていたのである。

"叔母さんの家に遊びに行きます。ぜひ伝えてください。"

冒頭に戻るわけだが。

メイドが、鷹便を使いヴァリエール家に使いを
出そうとした頃には、少女は駿馬ポーたん事
”マレンゴ”を駆ってヴァリエール領に向かって
疾走していたわけだ。

手紙を受け取ったヴァリエール家は、あわてて
愛する姪娘を受け入れる用意をしたわけだが・・
、姪娘は現れなかった。

馬小屋に、ポニーが一頭増えていることにも
気付かなかったわけだが・・・・・。

「待ちなさい。ルイズ。まだ、お説教は済んでませんよ!!」

厳しい母の言葉に逃げ出したルイズ。

「ルイズ御嬢さんも難儀なものだな。」

「本当、上のお嬢様方も、マイヤールのお嬢様も優秀なのに・・・・。」

ルイズは、使用人たちの影口をききながら、
藪に隠れていた。
ルイズは必死に涙をこらえている。
姉たちはもちろん、同じ年の従姉妹も、そこそこ魔法を使える。
でも、自分はまったくうまく使えない。
いつでも爆発を起こすのだ。

その姿をひそかに見つめるメイド姿の少女が
一人・・・・・・。見た目は10代初めに見える
が、ここハルケギニアでは幼いころから働きに
出される例も珍しくない。それゆえ、違和感を
周囲に与えることもないのだが・・・・。

「まったく・・・・、下手くそだな。ルイズは・・・・。
頭隠して尻隠さずかよ・・・・。」

それでも。使用人の目を上手くすり抜けてお気に入りの場所
にこもるルイズも、結構才能があるといえるわけだが。

しかし、少女の口調は、メイドとしてはあり得ないものだが・・・・・。



庭にある小池の小舟に、毛布にくるまって泣いているルイズ。

ここは彼女だけの秘密の場所だ。

彼女は魔法をまともに使えない。上の二人の姉は
もちろん、同じ年の従姉妹も、一応使えるのに。

母親や、上の姉、家庭教師に叱られて、ルイズは
よくここに逃げ込むのだ。

「あんなところに隠れたつもりでも、みんなにバレバレだってば。まったく、そんなとこ

ろで気を使うぐらいなら、もっと優しくしてやればいいのに。」

呟いたのは、メイド服姿の少女。
先ほどから実はルイズを追跡している。

「しょうがないなあ!!」

ルイズの乗る小舟は、池の岸からはそれほど離れていない。

でも普通に飛び移るのは困難な距離だ。

ちょっと、きびしいかな。
まあいいや、落ちてもずぶ濡れになるだけだし。
ついでにザリガニでも捕まえてお土産にして、洗ってメイド服を返そう。

岸からボートまでの距離を目算し、必要な助走、
自身の身体能力を計算し・・・・・、
結局、賽子の目次第とわかる。
分が悪い。
でも、結局・・・・。

「とう!!」

突っ込みいれたい掛け声と共に、メイド少女は
飛翔した。

もちろん魔法も一切なしに。
そもそも杖持ってないし。


「えっ・・・・、なに・・・・」

秘密の隠れ家のはずの小舟が揺さぶられて
まどろんでいたルイズは眼を覚ました。

ふと見ると、小舟の船べりにメイド姿の少女
がしがみついていた。

下半身、ずぶ濡れで・・・・・。

上半身は乾いている・・・・・。

賽子の目が一つ足りなかったようだ・・・・。

「こんな小舟で何やってるの、ルイズちゃん」

マイヤール家の長女にして、従姉妹である少女が語りかける。

「あなたこそ、そんな恰好で、ずぶ濡れになって
何やってるのよ。レナス・・・・」

公爵家3女、ルイズの問いかけの方がよっぽどまともだった。

「あなた、なんでここにいるのよ。
それに、なんでメイド服着てるの?」

濡れたメイド服のスカートを絞って水を落としてい

る従姉妹にルイズは問いかける。

「なんでって、ルイズちゃんと遊びに来たんだよ。

この服は、ちょうど私と背格好が似ている娘
がいたから交換したの。今頃ベットでぐっすりねて
るかな?」

「・・・・、それは良いとして(よくねーよ)、なんでわざわざ池に入ってまで船に来た

の?」

「いやだなあ?私も服着たまま池に入るほど
馬鹿じゃないないよ。飛び移ろうとして失敗しただ
けだよ。」

「あんた、コモンマジックは使えるじゃない。フライ使えばいいんじゃないの?」

「・・・・・・、杖を取り上げられたんだよ。
しょうがないじゃない。」

ルイズは、小舟の位置と岸への距離を見やる。
鍛えた兵士でもまず無理な距離である。
どうゆう身体能力してるのよ・・・・。
ついでに頭脳構造も・・・・・・・。

メイジとて、杖が無ければただの人・・・・。
この世の摂理ではあるが・・・・
この従姉妹の場合・・・・・

「・・・・、あんた、馬鹿だったのね・・・。」

ただの馬鹿らしい・・・・

端的な指摘に、グラっときたメイド少女ことレナスだが・・・・・・。

「くくく・・・・、ふふふ・・・・・、はーははは!!」

見事な三段階敵笑いをおこない・・・。

「ふふふ・・・・・・・、私の本性を見破るとはルイズ・フランソワーズ・・・・・・、

やはりただものではなかったな。」

「・・・・、誰でも知ってるわよ、あんたが馬鹿だ
ってこと・・・・・。
そう言えば、今日あなたが、急にうちに来るって話
していたわね 」

メイド少女は、ルイズに背を向けて湖面にのの字を書いていた。

「ちい姉さまがすごく怒ってたわよ。あんなちい姉さま、見たことないわ・・・。」

その言葉に、ギョッとしてレナスが振り返る。

ルイズが言うちい姉さまことカトレアは、実はレナスが最も苦手とする一人だ。

「あっ、私用事思い出した。帰るね。」

そのまま、小舟から岸に向かって跳ぶメイド少女。

・・・・・・。

岸から助走をつけて跳んでも足りなかったのに・・・。

ドボン!!

どうやら彼女は、杖が無くてもただの馬鹿らしい・・・・・。



[28219] 虚無への癒しその2
Name: ななふしぎ◆4f3bd7a8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/13 00:40
「あなた、結局何しに来たの・・・・」

小舟の上に再び這い上がってきた従姉妹ことレナス

に向かってルイズは問いかける。

「かっ、火薬が全部台無しに・・・・・・」

下半身どころか、上半身、髪まで含めてずぶ濡れ
である。

メイドもどきは、背中に2丁の長銃を背負っていた。
その弾薬と、おまけに弓矢と、短銃と短剣・・・・・。

重さは全部で20キロ超えるんじゃないか・・・・.

「だから、言ったじゃないの。ルイズちゃんと遊び

に来たって・・・・・]

メイドもどきことレナスは、自分の黒髪を絞ってい

る。

ぽたぽた黒髪から落ちる水滴を見ながらルイズは嘆息する。

「あなたには、わからないわよ。すごく自由で、
なんでもできるんだから。あの、お母様もあなたに
は優しいし・・・・・・」

「カリーヌ叔母さんは優しいでしょ。わたしはカト
レア姉さんが怖くてたまらいんだけどね・・・・・。」

「・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・!」

お互いの意見の相違に、
見つめあう二人の少女。

よく見るとこの二人の少女、よく似ている。

双子と言っていいぐらいに。ただし、髪の色は
桃色、黒色とまったく異なっているが。

「・・・・・、まあいいや。ルイズちゃん。
結局こんなところでどうしてるの。」

「・・・・・、だって、私魔法上手く使えないいだもの。
お母さんや、大姉さまや先生に叱られるんだもの」

そこまで魔法にこだわるか・・・・・

嘆息しながらレナスはルイズに語りかける。

「ねえ、ルイズちゃん。私今、杖持ってないよ。
鉄砲使うのは得意だけど、濡れちゃったからもう使えないね。
でも、まだこれがあるよ。」

そう言いながら、背中に背負った弓を見せる。
矢筒にも、10本ほどの矢が収まっている。

「えっ、なにそれ。銃も弓矢も平民の下賤な武器よ!!」

「ルイズちゃん・・・・。叔母さん・・・、あなた

のお母さんはすごく強いみたいね。でも、私たちの

おじいさんには勝てないんだよ・・・・・・。」

?ルイズは首をかしげた。ルイズの母は過去トリス
テイン最強の騎士と呼ばれていた。
母の父親、自分にとっての祖父がメイジ殺しと呼ば
れるほどの存在なのは知っているが。

「ねえ、あそこにリンゴの実があるよね」

ヴァリエール家の庭には様々な樹木が植えらている。

レナスが指さしたのは、80メイルほど先にある
木に実ったリンゴだった。

「あれ、食べたいな。ルイズちゃん、どうすればい

いかな。魔法で何とかならない?」

ルイズは困ってしまった。この従姉妹の馬鹿っぷり
で使用人はもちろん家族にもすでに所在が割れているに決まっている。

「念力の魔法が使えても、あんな遠くじゃ無理よ。
・・・・・、メイドか執事に頼めば取ってきてくれるわよ」

「えー、めんどくさいし、それに迷惑でしょ?]

あんたがここにいる時点で迷惑極まりないのよ!!

心の中で叫んだルイズだが・・・・

「じゃあ、私はあのリンゴ食べたらすぐ帰るからw」

今度は、ルイズがぎょっとした。

「ひい!!」

矢筒から矢を抜き出した従姉妹にルイズは思わず悲

鳴を上げてしまった。

「なに、ち○ってるの?ルイズちゃん?」

レナスは情けない従姉妹を気にせずに、装具をあさりだす。

「80メイルとなると・・・・・、これかな?」

釣り糸と言われるかもしれない代物。でもほかの方

途にでも使えるということで。

二人が乗っている小舟は結構揺れる。

「ルイズちゃん、よく見てて・・・・・・」

揺れるボートの上で矢をつがえた弓を構える
メイド姿の少女。なぜか全身ずぶ濡れだが・・・・・

次の瞬間、放たれた矢は、見事に熟れたリンゴを射

抜いていた。

くい、くい、と糸を引くメイド姿の少女、その先に

は矢に射抜かれたリンゴがあった。
矢からリンゴを抜いて、腰から短刀を抜くと・・・・
(どこに隠していた!!そんな危ないメイドいるか!!)

手のひらの上だけで器用に皮を剥き、
芯をを取った食べやすい形に切り分け、ルイズに差し出す。

従姉妹の所業に唖然としていたルイズは反応しなか
ったが・・・・、レナスは無理やりルイズの口を
開けてリンゴを突っ込んだ。

「ぬっ・・・むあ、なにすんのよレナス!!」

「食材用ではないようですが、結構おいしいですね」

従姉妹の抗議に平然としてリンゴを食べつづける
メイド、もといレナス・・・・・。

「ルイズちゃん。私と同じ事がができますか?」

「なっ、何言ってるのよ。貴族が下賤な平民の
武器なんて使わないわ!!」

「それじゃあ、ルイズちゃん、あれ取ってきて。
まだリンゴなってるよね。結構おいしかったけど。」

「そんなこと!!できるわけないでしょ!!
念力なんか届くわけないと・・・・・」

そこでルイズは言葉をとぎった。

「このリンゴおいしい?ルイズちゃん?」

普通のメイジではできない、やらないことを、魔法を使えない状態でやってのけたのだ。

目の前のフザケタ恰好をした従姉妹は・・・・・・。

「ええ、とってもおいしいわ・・・・・・・。」

ルイズはそう答えるしかなかった。



[28219] 虚無への癒しその3
Name: ななふしぎ◆4f3bd7a8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/13 00:41
「しょうがないね。それじゃあ、せめてあの木のリンゴ、まだ10
個ぐらいあるよね。それを落とせないかな・・・・・・・・」

「・・・・・、無理よ。私の魔法は全部爆発するんだから。
それに、あんな距離じゃ届かないわよ。お母様だったら、エア

カッターか何かでできると思うけど。」

「それじゃあ、私がやり方教えてあげるよ。手伝ってあげるから。」

そう言いながら、レナスは矢筒からもう一本矢を取り出した。

「ルイズちゃん。これをよく見て。」

そういって、レナスはルイズに矢を見せつける。

先端には、陽光を反射してギラギラ光る鏃がついている。

「この鏃を、錬金できる?」

は?

「・・・・、私をバカにしてるの?全部爆発するって言ったでしょ!!」

「・・・・・、ごめん。言い方間違った。この鏃を爆発させて・・・・・。」

「あっ、あああ、あなた、やっぱり私をバカにしているでしょう!!
私の、しっ、失敗をみたいって、そういうことでしょう!!」

従姉妹の要求に、怒りと羞恥でどもった口調でまくしたてる。

「・・・・・・・・、ルイズ。烈風カリンは最強の騎士だった。
そして、俺たちの爺さんは最強のメイジ殺しだった。
カリンでも本気でやりあったら勝てるかわからないほどのな・・・。
なんでかわかっているのか。」

いきなり口調が変わった従姉妹に、ルイズは絶句する・・・・。

「いっ・・・いいいえ、わっ、わかりません・・・・・・。」

この子、怖い・・・・。大姉さまこと長姉のエレオノールどこ

ろか、母親のカリーヌに匹敵する、いやそれ以上かも・・・・。

恐怖にかられて、どもりながらも、思わず敬語で答えてしまっ

たルイズ・・・・。

「教えてやる。俺が弓を構えて、カウントダウンするから、それに合わせて鏃に錬金しろ

・・・・・」

「はっ、はい!!」

再びレナスが、矢をつがえて弓を構える。

「3!!、2!!、1!!、今!!」

はあ?

矢が放たれて直後、カウントダウンの最後の
掛け声に、ルイズは反応しなかった。

矢は、リンゴにかするどころか、空に消えていった。

「ル、ルイズちゃん、タイミング合わせてくれないと・・・・・。」

口調が戻ってしまったレナスに、ルイズは戸惑いながらも答える。

「さっ、最後の掛け声って・・・なに・・・・。」

「・・・・・、東方の国の軍隊で、カウントダウンの
最後はああなんです・・・・。」

自分でも何を言っているのかわからない。レナスも頭を押さえながら何とか答える。

「聞いたことないわよ・・・・・。」

気を取り直して・・・・・

「ドライ!!、ツゥバイ!!、アイン!!、」

「なんでゲルマニア訛りなのよ・・・・・・」

矢は、へろっと池に落ちた・・・・。

「変なところで突っ込みいれないでよ・・・・。」

気を取り直して・・・・・・・。

「今度はまじめにやるぞ!!」

気を取り直して・・・・・・・。

「3!!、2!!、1!!、ゼ・・・・」

ピキ!!何かが切れる音と主に、

ルイズが杖を振う。

やばい、早すぎる!!

本能的に危険を察知したレナスは弓矢を放り出すと、

ルイズをボートに押し倒した。

爆発した鏃の破片は、ボートのへりによってすべて阻まれる。

「ル・・・、ルイズちゃん・・・、私を殺す気・・・?。」

押し倒されたルイズは、間近にある従姉妹の顔を観ながら・・・・・・。

「ごっ、ごめんなさい。なんか、ものすごくいらっとしたの・・・・。」

「はあ・・・・・、ちょっと難しすぎたかな・・・・・。」

そういうと、レナスは濡れた装具の中から、銃弾を取り出した。
マスケット銃の銃弾だから、丸い鉛玉である。

「いまから、私がこれを向こうに投げるから、これめがけて錬金してみて。」

見た目からして恐ろしい矢と鏃と違って、丸い球である。
ルイズもその正体がわからないから怯えることもない。

「え・・・、これを爆発させればいいの?」

「うん、地面に落ちる前ぐらいに爆発させて・・・・。」

「わっ、わかったわ・・・・・。」

レナスが、ボートの上から鉛玉を投げる。

それは、40メイルほど飛び、地面に落ちる寸前に爆発を起こした。

手りゅう弾どころの威力じゃないな。

グレネードボウの真似は難しかったか。

・・・・・、弓の利点は静穏性だし、そもそもあれ意味あるのかな。
ハルケギニアでは有効だと思ったんだけど・・・・。

黒髪で、上半身裸のボティービルダーが演じる戦争ものの演劇?
(他に当てはまる言葉がなぜか浮かんでこない)を思い出す。

自分でも意味不明な思考をしながらレナスはその威力に驚愕していた。


「ルイズちゃん・・・・。私が何を言いたいのかわかった?」

「・・・、よくわからないけど・・・・・。」

「私がさっきの・・・・、鉛の球を投げたところに、
人がいたらどうなってたかな。」

「なっ・・・・。」

狙ったところに爆発を起こせる。そこにいた人間は見事に吹き飛ばされるだろう。

「さっきは、弓矢を使おうとして、うまくいかなかったけど、
成功していたらどう?」

よほどすぐれたメイジでも届かない距離に爆発を起こせる・・・。

「おじいちゃんはね。魔法はうまくなかったけど、その
恐ろしいところと、弱いところをよく知っていたの。
強いメイジに勝つために、足りないところは、剣を使ったり、
銃や弓矢を使ったりして、だから、最強のメイジ殺し
と呼ばれてるんだよ・・・・。」

そう言いながら、レナスはルイズの頬を撫でた。

「ルイズちゃんの魔法が爆発しかしないなら、それを上手くいかせることを、
それでも足りないなら、他にも方法を探せばいいんだよ・・・・・。」

「なるほど、何やらと鋏は使いようというわけね・・・・。」

「いえ、お姉さま、馬鹿となにやらは使いようだったとおもいますわ。」

いきなりかけられた声に、小舟の上の二人の少女は、
ギョッとして、岸辺を見た。

そこには少女たちより一回りほど上の女性が二人佇んでいる。

年かさの方は金髪、年下の方は桃髪である。
二人とも、小舟の少女達よりかなり背が高い。

「えっ、大姉さま・・・!!」
「げえっ・・・・、カト姉!!」

お互いが苦手とする二人を見て、同じように硬直しながら悲鳴を上げる。

だけど、硬直が解けたのは、黒髪の方が早かった。

「二人とも物知りですね・・・・。東方のことわざですが、
正解は、馬鹿と鋏は使いようです・・・・。」

その言葉に、年かさの金髪の女性、エレオノールは
目を逸らしながら答えた。

「馬鹿に刃物という言葉も知っているわよ・・・・。」

年下の方の桃髪の女性、カトレアも答える。

「私も、もう一つ知ってるわ。
馬鹿は死ななきゃ治らない、だったかしら・・・。」

その言葉を聞いて、黒髪のレナスは、岸に向かって跳躍した。

ただし・・・・、二人の従姉が佇む反対側にだが・・・・。

2回目だよね・・・・・。

ドボン・・・・。

東方のことわざは、

”馬鹿は死んでも治らない”

が正解らしい。



[28219] カトレアの花言葉
Name: ななふしぎ◆4f3bd7a8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/13 00:42
なにやってるんだ。俺は・・・・・・。

明らかに届かない距離を飛び移ろうとして・・・・、

2回・・・・・、池にダイブしてしまった。

火薬が台無しになったのはもちろん、装具の手入れも
しないといけない・・・・。

俺、どうしてもカトレア姉さん苦手なんだ・・・・。

別に嫌いというわけではない・・・・・。

すべてを見透かされているような気が・・・・、いや、実際俺のことを見透かしている。

俺も、カトレア姉さんが俺を嫌っているとか、疎んじているというわけではないことは解

るんだけど。

俺の中身には触れてほしくないんだ。
汚れた俺のそこに触れると、カトレア姉さんは
すごく悲しむだろう・・・・・・。
そして、哀れむだろう。
俺のことを・・・・。

耐えられない・・・・・。

母さんや、ルイズはその辺は貴族、騎士、兵士の役割としてうけとめてくれることがわか

る。

エレオノール姉さんは、悪いと思ったが、俺のことを
恐れさせることで、距離を置いてもらってる。

だんだん遠くなる意識の中で、俺はそんなことを考えていた。

さっき、落ちた場所は池では浅いところだ。
でも、ここはどうも一番深いところらしい・・・。
身に着けた武器や、装具、鎧が重い・・・・・

せっかく、母さんと・・・、ルイズのおかげで生まれ変わったのに・・・・

こんな間抜けな・・・・、死に方かよ・・・・。

混濁しつつある意識の中、今わの際にみた光景が甦る。

母さん、エレオノール、そしてカトレア・・・・・。
泣いてたな・・・・・。
父さんも・・・・・

ごめん・・・・・

意識が途切れようとしたときに、掛けられた魔法に俺は
抵抗する気力などなかった・・・・・


「レナス!!、レナス!!」

ルイズは、焦った声で従姉妹の名を繰り返す。
でも、池の中に沈んだ従姉妹に届くはずはない。

「誰か、風メイジと、水メイジを!!急いで!!」

エレオノール、カトレア共に系統は土メイジなのだ・・・・。
エレオノールが的確な指示を、隠れるように控えていた
使用人たちに告げる。

「大丈夫ですよ。お姉さま、ルイズ・・・・・」
従妹の突拍子もない行動(池の一番深いところへのダイブ)にぽーとしていたカトレアだ

が・・・・・。

杖を取り出して、一振りする。

”ざばー”

水音と共に、メイド服を着た黒髪の少女が水面から空中に
浮き上がった。

そのまま、自分たちのいる岸辺に導く・・・・・。

自分たちの従姉妹は、おぼれていたわけではないらしく、
荒い息をつきながらも、地にへたり込んでいる。

「”浮遊”?なんでこの子が沈んでいる場所が分かったの。
そもそもこの子には利かないはずなのに・・・・・。」

”浮遊”の魔法は掛ける対象を明確に指定しないと
効果が無い。大体の魔法に共通することではあるが。

同じように、ルイズを”浮遊”の魔法で岸まで運びながら
カトレアに問うエレオノール。

「ふふ、助けを求めている子の場所は解かりますよ。
ねえ、レナスちゃん?」

正座の姿勢で手をついて、荒い息をしているレナスの頬
に、カトレアの手が添えられた。

びくっと震えるレナス・・・・。

その横に、エレオノールの”浮遊”で運ばれたルイズが着地する。

「レ、レナス!!大丈夫なの!!」

レナスは堪えられず、荒い息をつくだけである。

意識を失う寸前で、水中から救い出されたのだ。

「水を飲みこまずに耐えていたようね。さすがというか・・・、
恐ろしいというか・・・・。」

エレオノールが呟く・・・。

レナスの呼吸が落ち着くのを待って、カトレアが語る。

「ねえ、大事な人がいなくなったり、死んじゃったりしたら、
誰でもかなしむのよ。わかった?」

「・・・・・。」

黒髪から雫が垂れ、整った顔を伝う。
俯いたままのその表情はうかがえない。

「ひどいことしちゃったわね。ごめんなさいね・・・。」

そう言いながら、カトレアは、ずぶ濡れの従妹を、
その豊満な胸で抱きしめた。
自分の衣服が濡れるのも構わず・・・・・・。

「泣かないで・・・・。・・・・子でしょ?」
耳元での囁きに、黒髪の少女はびくりと体を震わせた。

「カ、カトレア・・・・。」

「ちい姉さま・・・・・。」

二人は、理解した。
カトレアは、レナスを救おうと思えばすぐにでもできたのだ。

それをしなかったのは、カトレアなりの罰だったのだと。

「そんな恰好じゃあ、風邪をひいてしまうわ。みんなで
お風呂に行きましょう。」

抱擁を解くと、カトレアは立ち上がった。

「・・・、はっ・・・・、はい・・・・」

レナスはのろのろと立ち上がった。
いつものふてぶてしさも、したたかさも、
まったくなくなっている。

使用人たちも気を利かせたのか、近づかない中で、
4人の中にあって完全に浮き上がって見える。

先ほどまで、違和感なく、使用人達の目をやり過ごして
いたはずなのに。

メイド服を着て、ずぶ濡れで、銃を背負い武装した少女・・・・・・。

そんな人物が、ヴァリエール邸内にいるわけはないのだ。


俯いたままのレナスの手をとってルイズは進む。

その後ろをカトレアが微笑みながら付いていく。

「そっ、そこのメイド何者だ!!お嬢様方から離れろ!!」

時折かかる、誰何の声に・・・・

「黙りなさい!!この子は私たちの家族です!!無礼は許しません!!」

先頭を行くエレオノールが一喝する。


エレオノールとて、この破天荒な従妹を愛してはいるのだ。

だけど、無理に拒絶されているような気がする。

ルイズ以上に、接し方がわからないのだ。

だけど、弱っている、傷ついているときに、かばってやることぐらいはできる。

ヴァリエール家の長女として、それぐらいはできる自負がある。

ルイズは、従姉妹の手をしっかりつかんでいた。
すごく冷たい手だった。

なんでもできる、自由奔放は従姉妹・・・・、あのお母様に溺愛
され、大姉さまを軽くあしらう強さとふてぶてしさ。

それなのに、こんな弱そうな、消えてしまいそうな儚さを
見せるなんて・・・・・・。

ルイズは、この手を放してはいけないことを確信していた。



[28219] 長姉の自負
Name: ななふしぎ◆aa0197b8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/13 00:43
「お待ちしておりました。お嬢様方。」

連絡が届いていたのか、
浴場担当のメイドたちが、ヴァリエール家の三人の令嬢たちを出迎える。

そこで、その場を仕切るメイド頭、と言ってもエレオノールとさほど歳は変わらないが、

問いかけた。


「そこの、メイドが何か粗相をしでかしましたか?」

そこで初めて、エレオノールもルイズも、今まで傍にいたはずの、手をつないでいたはず

の従姉妹、レナスが離れていて、後ろに下がっていることに気づいた。

自分たちと同じメイド服を着た少女がずぶ濡れになっている。何かの粗相をして、これか

ら折檻を受けるのかと想像したのだ。

「お許しくださいませ。お嬢様方、その娘にはきつく
叱っておきますので、この場はお怒りをお納めくださいませ。」

土下座せんばかりの勢いで詫びを入れるメイド頭・・・・。

「やめてください。あなたにそんなことをされる
筋合いはありません。」

冷徹に詫び入れを拒む、幼いメイド、レナス。

「あっ、あなたは、ヴァリエール家に仕えるメイドと
しての自覚があるのですか!!」

「私は、貴族に仕えるつもりはありませんよ。」

そういって、背中に背負った、二丁の長銃の一つを外し、両手に持つ。

「ひいっ!!」
周りのメイドたちが悲鳴を上げる。

メイド頭が杖を引き抜く。

メイド頭は、ヴァリエール家の陪臣貴族の出である。
行儀見習いにヴァリエール家に出されたのだ。
魔法の腕もトライアングルクラスなのだが、次の瞬間
には、杖はレナスが振った銃床によって、弾き飛ばされていた。

「あっ・・・・、ああ・・・・」

腰が抜けてしまったメイド頭に向かって、レナスは頭を下げる。

「申し訳ありません。相手が杖を抜いた以上は容赦できないんです。」

さらに、エレオノールが続ける。

「このレナスは、私たちと血を同じくするものです。
だけど、杖を抜いた無礼は不問に付しましょう。
レナスにも非はありますから。」

その言葉に、レナスは嘆息する。

「エレ姉・・・・、先に武器を預けた方がいいって
言ったじゃないの。メイジにしろ、平民にしろ、ふつうの
反応だよ。このひとは、その辺大丈夫そうだと思ったんだから、鉄砲預けようと思ったん

だけど・・・・・、
違ったみたいだね。」

首をふりながら、自分で二丁の長銃をはずし、壁に
立てかける。ついでに弓矢も・・・・・。

「しっ・・・・、失礼しました。レナスお嬢様・・・、
しかし、そのお姿は何のお戯れで・・・・・。」

なんとか持ち直したメイド頭が詰問する。

「悪かったとは思ってますよ。後で、身代りにした娘
にも詫びを入れときます・・・・。」

「いっ、いえ、そういう問題でも・・・・。」

メイド頭は、ヴァリエール家に仕えている。
近しい親戚とはいえ、他家であるワイマール家の
令嬢に、メイドの領域を荒らすようなまねをしてほしくない。

「この問題は、私がすべて引き受けます!!」

エレオノールが強い声で言った。

「それより、私たちはお風呂に入りたいんだけど・・・」

「はっ、はい、失礼しました。みな、お手伝いを・・・・。」

他のメイドたちが、ヴァリエール3姉妹の衣服を解いていく・・・・・、が、レナスには

誰も近づこうとしない。

「ねえ、あなたたち?」

エレオノールの声に怒気が混じる。

「あっ、いいって、エレ姉、自分でできるから。」

「そうはいかないわ。貴族たる者、仕える者に仕事を
与えるのも仕事なのよ。」

「ねえ、あなた?」

メイド頭に向かって顎をしゃくる。

「はっ、はい。レナス様の御世話をさせていただきます。」

「はあっ・・・・、どうなっても知らないから・・・・。」
レナスは嘆息する。

レナスが、着ているのはメイド服である。

メイドがメイドを脱がすことなんか普通あり得ない。

普通は・・・・・。

まず、ヘッドドレスを外す。
ここまでは良い。淑女の髪型を整えるのは
メイドの仕事だから・・・。

そして、エプロンを外す。淑女はエプロンなんかしてないよな。

それで、エプロンの下に、隠してあった物・・・・

「ひうっ!!」

メイド頭が、悲鳴と共に、短剣と短銃を見つめる。

他のメイドは、敢えていや、けしてみないようにしている。

「あっ、これ、忘れてたや・・・・。おねがい・・・」

と言われても、困ってしまう。風呂場に、杖を持ち込む
貴族はほとんどいないから、専用の杖置きがある。

そこに置けばいいのだろうか。

ほと困り果ててエレオノールを見やると、頷かれる。

すでに、ヴァリエール三姉妹の杖はそこに安置されている。
同じように、短剣と短銃を安置してから、再びメイド頭
は作業に入る。”作業”と割り切らなければ頭がおかしく
なりそうだ。

「失礼します・・・・。ああっ!!」

いよいよ本番、メイド服を脱がそうとして、そこで
またメイド頭は絶叫した。

メイド服の下から、鉄鎖でできた服がのぞいたのだ。

鎖帷子
・・・・、そんな物着ている名門貴族の令嬢など
いるはずがない・・・・、のだが・・・・。

「あなた!!早くしなさい!!」

エレオノールに、急かされたメイド頭は急いで、
令嬢のメイド服を脱がせていく。
その過程で、あり得ないものを観たのは敢えてスルーしながら・・・・。

そこには、メイド服を脱がされた少女があった。
令嬢かどうかはこの際触れるまでもない。

鎖帷子を纏い、両手に革製の籠手(鉄芯入り)、そこに
差された投げナイフ十数本、両方の太ももにも
短銃と短剣が括りつけてあった。

「まあ、レナスったら、まるで騎士様のようね!!」

カトレアが嬉しそうに言う。

違うだろ。どう見ても暗殺者の類だろ・・・・。

カトレア以外は、全員そう思ったが。

「それじゃあ、みんなでお風呂入りましょうか!!」

「うっ、でも・・・・・。」

自分と、他の三姉妹の大きな差異を理解しているレナスは
躊躇する・・・・。

「ここには、あなたや、私たちに仇なすものはいないわ!!私の名に懸けて保証するわよ

。」

「・・・・、弱いくせに・・・・」

ぼそっとつぶやいたレナスの声に・・・・

「何か言ったかしら、レナス。文句があるなら、私を
叩きのめしなさい!!」

「はあっ・・・、わかりました・・・・・。」

エレオノールの声に応じて、レナスはすべての装具を
外すのだった。



[28219] 風の夢1
Name: ななふしぎ◆aa0197b8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/14 16:29
さあ、思い切りあなたの思うところをぶつけてきなさい。

成熟した大人の包容力ですべて受け止めてあげるから。

魔法も武術の才能にも溢れたあなたに足りないもの、それは

愛!!

愛情。歪んだ形、暴力で示される、あなたの愛情を私は
受け止めてあげるわ。

エレオノールはその優秀な頭脳と研究者としての
思考から、従妹の抱える問題点を解明していた
(つもり)のだ。

自分が考える、最も美しい始祖の像をイメージしながら、
両手を広げるエレオノール。

「どうなさったのですか・・・・、お姉さま?」

「レナス、先にお風呂に行ってしまいましたよ。大姉さま?」

「えっ・・・・・・。」

半裸になった体に、冷たい風が吹き抜けていった。

”カポーン”

入浴シーン・・・・・。

中略・・・・・・。

敢えて書くなら、一人だけ並外れてデカかったり、

二人ともまだ生えていなかったり、

三人とも大体同じ大きさでした・・・・・・。


入浴後・・・・・。

ヴァリエールの三姉妹は、当たり前のように、
メイドに着替えをさせている。

レナスはかなり嫌がったが結局従うしかなかった。

当然のごとく、身に着けていた、武器、装具、鎧は
すべてどこかに持ち去られている。

上級貴族の令嬢に相応しい、ドレス姿だった。
どう見ても、オーク鬼を単身で倒し、メイジ殺しの傭兵
さながらな武装を身に着けて暴れまわるようには
見えない。

・・・・・それでも、投げナイフ一本を隠し持っていたが。
入浴中も・・・・・。

そうして、晩餐の場に招かれたわけだが・・・・・。


「叔父さま、叔母様、本日はお招きもないのに押しかけてしまって申し訳ありません。」

スカートを軽くつまんでカーテシーの礼を取る。

やろうとすればできるんじゃないの・・・・・・。

ルイズや、エレオノール、他に控えているメイドや執事共通の思いである。

ちなみに、弓矢や鉛玉、爆発魔法、鎧を着て池でおぼれかけた顛末は、公爵家族はおろか、使用人のすべてに知れ渡っている。

「ふむ、私たちとしては、君を迎えることには何の問題もないのだがな・・・・。」

公爵ことピエールが答える。

「でも、家族に心配をかけるようなことをしてはいけませんよ。
あなたの、お母さんやお父さんはもちろん、お手伝いさんたちもすごく心配していましたから。」

公爵夫人ことカリーヌが続ける。

「うっ・・・・、申し訳ありません。」

しおらしく頭を下げるレナス・・・・。

「明日には迎えが来ますから、ちゃんと謝りなさいね?」

「はっ・・・・、はい・・・・。」

だれこれ・・・・、本当に烈風?
ルイズや、エレオノール、他に控えているメイドや執事共通の思いである。

晩餐が始まったが、レナスのマナーはちょっとトリステイン風とは違うがまともなものだった。
敢えて言えば、アルビオン風と言えるか・・・・・。

よかった。御父様はちゃんとこの娘を躾けてくれたようね。
公爵夫人ことカリーヌは、レナスの食事のマナーをみて安心した。

彼女の父親、タダオは東方から現れたという父から妙な習慣を受け継いでいたのだが、それとは別に正式なマナー、どちらかというと軍人風なものを心得ていた。

カリーヌもその辺は受け継いでいるのだが、さすがに公爵夫人となった以上、表には出さず、娘たちにも伝えていない。

タダオの元で育てられているレナスは、その辺をしっかり受け継いでいるようだ。

鎧着て池に飛び込むようなところは、教育と言うか・・・・・・、生まれつきだろう。

頭は悪くないはずなのだが・・・・・。

晩餐が終わり・・・・・。

「部屋は用意してあるから、そこで休みなさい。明日は大変なことになるかもしれんが・・・・、まあ、私たちでできる限り庇ってあげよう・・・・・。」

ピエールも実は、妻の父であるタダオには頭が上がらないのだ・・・・。

「はっ、はい・・・・。いろいろとご迷惑をかけて申し訳ありません・・・・・。」

だったら、勝手に家出したりするなよ。
ルイズや、エレオノール、他に控えているメイドや執事共通の思いである。


それでもって、夜。公爵家族はすべて寝静まり、使用人たちも当直を残して寝静まっている。

カリーヌは今まで微睡んでいた所を覚醒させられた。

公爵家ともなれば、普段は夫婦といえども床を同じくはしない。

そこに、もそもそと入り込んできた、少女・・・・・。

黒髪のレナスである。

鍵は掛けていたはずなのに・・・・・・・。

「どうしたのですか?レナス・・・・・・」

「寂しかったの・・・・・・・」

幼稚かつ端的な少女の言葉に、カリーヌは返す言葉が無かった。

「じゃあ、今夜は一緒に寝ましょうね?」

「うん!!お母さん!!」

姪娘のはずのレナスの言葉に一瞬硬直したカリーヌだが・・・・

「ふふ、変なことを言いますね。あなたは、お母さんと一緒に寝たことが
無いんですか。」

「うーん、普通にあるんだけどね・・・・。なんか違うような気がするんだよ・・・・。」

「じゃあ、今夜は叔母さんが一緒に寝てあげますわ。おいでなさい・・・」

「うん、お母さん!!」

黒髪の少女は、母の胸に抱かれて眠りに入るのだった。



[28219] 風の夢2
Name: ななふしぎ◆aa0197b8 ID:b7e3b52f
Date: 2011/08/14 09:23
カリーヌは急激な寒さに襲われて目を覚ました。

先ほどまで、愛する、むす・・・・・姪娘を抱いてそのぬくもりと共に
寝ていたはずなのに・・・・。

眼を開くと、そこは雪が降り舞う冬山だった。

どうして、こんなところに、ここは、何所でしょう・・・・・。

あわてて辺りを見渡すと、近くに何者かが倒れている。

自分と同じ桃色の髪、年に似合わず成熟した体・・・。

「カトレア!!」

カリーヌの次女である、カトレアは雪の中に突っ伏していた。

「お母様・・・・・」

カトレアは朦朧としながらも起き上った。

「私たちは、なんでこんなところに・・・・。」

「・・・・・・、お母様、今晩レナスと一緒に寝ましたよね。
そのせいだと思います・・・・・。」

「なんですって!!」

「ここは、あの娘の夢の中ですよ・・・・。私にはわかります」

カトレアは、ワイマール家の、母方の血を強く受け継いでいる。
精霊に愛されているカリーヌやレナスと同様に・・・・・。
夢見の精霊にお互い囚われているのだろう。

「夢の中とはいえ、死ぬような目にあったら心が壊れます。
何とかしないと。」

体の弱いカトレアを何とかして安全な場所に送ろうと杖を引き抜く
カリーヌ・・・・。

「えっ・・・・・・。」

魔法がまったく成功する気配がない・・・・・。

優れたメイジゆえにカリーヌは解かった。

ここは魔法が通用しない世界なのだと。

そして、自分の祖先の故郷なのだと。

それを自覚したあと、カリーヌの意識は薄らいでいった。


「うん?お母さんうなされてるのかな・・・・」

トイレから帰ってきて、叔母のはずのカリーヌのベットに近づいたレナスはつぶやいた。

「ごめん、ちょっとトイレ行ってただけだから・・・・・・・」

そういって、また、もそもそとカリーヌのベットに潜り込むと、すぐさま寝息を立て始めた。


ここは、何所でしょう・・・・・。

目を開いたカリーヌは最初に思ったことだ。

粗末とはいえ、清潔で手入れの行き届いた室内。

それに、ぽかぽかと暖かい。ふと見ると、部屋の中央で火がたかれ、鍋がかけられている。

窓があって、外を見るとものすごい吹雪となっていた。
どうやら、山の中にある小屋らしい。

次女、カトレアも、同じように寝ているが、動物の毛皮を掛けられている。
自分がまとわされている物も同じもの、熊の毛皮であることがわかる。

「目がさめましたかな?ご母堂・・・・」
「お姉ちゃんの方はまだみたいだね」

掛けられた声に振り返ると、初老の男性と、10歳ぐらいの少年の姿があった。

「こんな、吹雪のなかで、そんな薄手の服でうろつくなんて死ぬようなもんだ。
いったいどうしたんだね。」

正論である・・・・。

「わっ、私たちは異国から参りまして・・・・。」

その言葉に、少年が反応した。

「さっき、爆発したような音がしたけど、雪崩ではなかったのかな。飛行機が落ちたのかな。」

雪崩が起きた場合、雪で圧縮された空気が逃げ場を求めて爆発することがある。

「それなら、吹雪が収まったあと、助けに行かないといかんな。
まあ、今日はこの吹雪では動けまい。食事をたっぷりとって体を休めて、
明日以降に備えるのが良いだろう」

「ええ、おせわになります。」

魔法が使えない世界である以上貴族と平民の差などない。
カリーヌは老人と少年に礼を尽くした。

しかも、老人は、自分の父に何となく似ているのだ。

「しかし、ご老人、あなた方は、このような吹雪の中、何をなされていたのです。」

「へへ、じいちゃんは、マタギなんだぜ!!狩りの途中なんだ」

少年が代わりに得意げに答える。

「こら、わしはマタギではない。わしの爺さんはマタギだったがな。」

マタギ、聞いたことのない言葉に困惑するカリーヌ。
夢の中だから意味不明な言葉があるのかもしれないと半分納得するしかない。

「マタギとはなんですの?」

カリーヌの疑問に、少年が答える。

「うーん、お坊さんみたいな、猟師さんだと思うよ・・・・」

「わしの爺さんはマタギだった。森や、山、自然そのものを崇めて、その恵みとして
獲物を分け与えてもらえるという信仰を持っていたらしいですぞ。」

少年の言葉に、老人が補足する。

「まっ、まるでエルフのようですね・・・。」

失言であった・・・・。

「エルフ?それは何だね。?」

「耳が長くて、すばやくて、精霊魔法を使える人種のことだよ。
自然の力を借りて魔法を使うんだ。
ゲームやマンガの中には普通に出てくるけどね?」

少年のフォローで普通に場は収まった。

「ふーむ。まあ。わしが爺さんから教わったのは、自然に逆らわないこと、
自然に体を合わせることだな。吹雪の中では歩いてはいけない。暑いときに無理をしてはいけない。
獲物を狩るときは森や山そのものになりきる。すべて自然に合わせてそれに従う。そして、狩った獲物と、授けてくれた山や森、川の神に感謝すること・・・・。そんなところかな。」

「まあ、そうなんですか。私の国の神官よりもずっと高潔ですわ!!」

「国によって風習は違うと思うが、私の話に賛同できるあなたも素晴らしいな」

カリーヌは、自分の父に似た初老の男性に好感を覚えていた。

そして・・・・。

「おばさん、そろそろ、料理できるぜ!!。俺と爺さんで狩ってきた熊つかった
寄せ鍋だぜ・・・・。」

ころころなついてくる黒髪の少年、自分の子供には男の子はいなかったが、そのうちの
一人の娘にそっくりである。

少年は、手早く料理をすませ、それぞれに食器を渡していく。

そのころには、さすがに寝込んでいたカトレアも起きていた。

しかし、一言も言葉を発しない。

少年も、カトレアに近づく時に、どことなく怯えているようだった。

「ありがとう。おいしかったわ。」

カリーヌが傍で鍋の料理をよそってくれた少年に礼を述べながら、その頭を撫でる。

「おばさん、なんか、お母さんみたいだ・・・・。」

照れくさそうに言う少年に、祖父がフォローを入れる。

「この子は、幼い時に両親を亡くしましてな。儂と婆が引き取って
育てていたのですが・・・・、本当の母親のようにはいきませんから・・・」

その言葉を聞いて、カリーヌは、少年をギュッと抱きしめた。

「私をお母さんと思ってもいいのよ。」

出来もしないことを言っているようにも聞こえたが・・・・。

少年は、カリーヌの胸に顔を埋めた。

「そういえば、あなたの名前を聞いていませんでしたね。」

「僕のなまえは・・・・、ナオ・・・」


そこで、いきなりカリーヌは夢から覚めた。

「叔母さん!!そんなに強く抱きしめられたら痛いって!!」

カリーヌが抱きしめていた(夢の中で)少年は、いつの間にか少女、姪娘に代わっていた。

ただ単に、寝ぼけて添い寝していたレナスを抱きしめすぎただけともいえるのだが。

「あら・・・・、ごめんなさいね。ちょっと寝ぼけてたみたいね。
もう一度ちゃんと寝ましょうね。」

そういって、姪娘のはずのレナスの頭を撫でる。

「うん、おやすみなさい。お・あさん」

最後のレナスのつぶやきは、優れた風メイジのはずのカリーヌにも届かなかった。



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