70歳になった主婦です。10年前から現在30代半ばの美容師と出会い、付き合っています。
彼は20代で店長になったやり手で、現在は複数店舗を経営するような立場になりました。
最初はとても純情で、本当に好きでした。週1回デートし、その度に服やアクセサリーを買ってあげ、誕生日には10万円以上のプレゼントをしました。彼への贈り物は年間250万円から300万円になります。
彼には彼女が2人くらいいたのですが、この7年ぐらいは誰もいません。1人でローンでマンションを買って住んでいますが、いくら頼んでも部屋に連れて行ってくれません。
また車が故障したとかで27万円貸しましたが、給料日に少しずつ返すと言っていたのに、知らぬ顔です。2人はキスまでの関係でそれ以上はありません。
私には70代のすばらしい夫がいて、何もほかに求めることもないのに、その彼はとても美しく、見ているとときめきます。彼の美容院には今は1時間半かけて週1回通っています。電話もしてこないし、買い物ばかり行きたがるし、不満だらけなのに別れられません。2人の間にもう親密さが出来てしまって、彼から断られない限りは、どうしても切れません。
私は50代に見えます。やはりこんな彼とは離れたほうがいいとは思っていますが、どうすればよいでしょうか。
ペットだと思えば腹も立ちません
きみペこと「きみはペット」というまんががあります。20代後半のキャリアウーマンのところにころがりこんできた若者を、ペットのように飼う、というお話です。
あなたは70代、お相手は30代。この年齢差で異性のペットが飼えるなんて、男女が逆ならあるかもしれませんが、人も羨(うらや)む話ではありませんか。相手をペットだと思えば腹も立ちません。主婦とは言いながら、年間にペットに使うお金が200万も300万もあるなんてうらやましい。ペットは餌をくれるあいだだけ、ご主人さまのところに居着きます。あなたはそれを知っているから、餌代を惜しまないのですね。錦鯉(にしきごい)に何百万円も投じる人もいますし、保険のきかないペットの医療費に何十万も使う人もいるのですから、少々維持費が高くつくペットと思えばよいでしょう。
そもそもペットというのは、見て楽しみ、そばにおいて喜ぶ以上になんの役にも立たないものです。ペットに見返りを求めてもムダなだけ。あなたが彼と性関係を求めるわけでもなく、今の結婚を解消して彼と再婚したいわけでもなく、時々会ってその美しさを愛(め)で、ご自分のヘアケアやエステをかまってもらい、それだけのおカネを使っても家計が破綻(はたん)せず、サラ金に手を出すわけでもなく、夫とトラブルが起きず、それが暮らしのうるおいになっているなら、おやめになる理由はなにひとつありません。しかも相手の男性は、キス以上の関係を持とうとせず、愛人がいることも隠さず、自分の家に招かず、結婚をちらつかせてあなたにいたずらな期待を持たせず、ホストのように際限なく貢がせてあなたを経済的に破綻(はたん)に追い込むこともなく、その程度には無心の額にも節度を持っているふしがありますから、「婚活」詐欺ってわけでもありません。
でもあなたは、苦しんでおられるのですね? こんな関係はやめたほうがよい、と。あなたはきっと、相手に見返りを要求したくなったんですね。使った金額をこんなにいちいち覚えているのはそれが投資だと思えばこそでしょう。投資というのは回収を予期したおカネ。で、あなたは彼から何を回収したいのですか? セックス? 愛情? ペットの飼い主であるための条件は抑制と寛容、すなわち支配者の徳です。それが持てないなら飼い主の資格はありません。
(回答:社会学者・上野千鶴子さん、朝日新聞2010年11月13日付土曜be「悩みのるつぼ」より)