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東海テレビ放送事故の不思議2

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小寺信良 プロフィール

■システム設計の問題



次のポイントは、実際にそのテロップが放送に出てしまった経緯である。検証番組では、スタジオ内のモニターに絵を出すため、いったんVFに映像をコピーする、と解説されている。ここは技術者としていろいろ疑問が残るところだ。

VFとはおそらく、Video Fileの事だろう。静止画用のファイル送出機であろうと想像する。実はこの辺の略号というのは、放送局によっていろいろ違うので、同じテレビマンでも話が通じないことが多い。元々はVFナントカという機材の型番だったのではないか。局の人はその呼び名が世界標準だと思っているので、このような検証番組でも平気で使ってくるわけである。

このVFに映像をコピーするために、放送用のスイッチャーを経由する、と解説している。ということは、このVFなる装置は、FTPなどによるファイル転送をサポートしておらず、ビデオ映像を入力して、それをキャプチャする機器だということがわかる。FTPをサポートしていれば、そんな面倒なことはしないはずだ。ということは、たぶんこの機械は、以前はテロップ出しのメインで使われていた、古いタイプのものだろう。新しいテロップ装置を導入したために不要になったものを、スタジオ内のテレビモニターに絵を出すための装置として流用したのではないか。

しかし、コピーするためにはスイッチャーのOAかNEXT(プレビュー)ラインに出す必要があるというシステム設計には、正直首をかしげる。やってることが雑すぎるのだ。

番組に写ったスイッチャーを見ると、3ME仕様で各MEごとに4キーヤー、DSKが2系統という、かなり大がかりなものであることがわかる。当然、AUXバスも複数あるはずだ。AUXバスというのは、本番のラインとは関係なく出力できるラインで、外部機器に映像を送り込むために存在する。なぜVFの入力にAUXバスを使わないのか。AUXバスがいっぱいなら、せめて上段のME列の独立出力に繋ぐべきだろう。

筆者は生放送の送出はNHKしか経験がないので民放の感覚的なことがわからないのだが、OAラインはそのまま放送に出てしまうし、NEXTもTAKEボタンを押せば一発で本番に出てしまうようなところだ。そういうところを仕込みの段取り回線に使うというのは、かなり剛胆である。もうちょっと慎重な設計にすべきではないか。

■そして最終的にはスタッフ構成の問題



検証番組の中では、実際にテロップが出てしまったのは、TKさんがテロップをVFにコピーするために、NEXTではなく、OAラインに出してしまった、とされている。このとき番組はVTR送出に切り替わっており、スタジオ副調内では次のコーナーのリハーサルを行なっていたという。ここにもいくつか疑問がある。

そもそも、VFにコピーしなければならない段階まで番組が進んでいたのに、まだダミーテロップのままだったのはなぜか。もしかしたら、完成した最終のテロップは別にできていて、問題のテロップは単にダミーの消し忘れだったのではないか。

普通はあまり使わないT2にVFコピー用のテロップを入れているというが、今回の事故では問題のテロップは、T1に入っていたとされる。これは、T2には完成品を送り込んであったが、T1のほうは前日あたりに間違って流し込んでおいたものを消し忘れたのではないかという推測が成り立つ。

2つめの疑問は、なぜVFにテロップをコピーするというような技術的な仕事を、TKさんがやっているのか。てか技術者じゃない人に、放送中のスイッチャーを触らせるという感覚が、もうどうかしている。まあこれがポストプロダクションの編集室や、スタジオ事前収録だったらわからないでもない。失敗しても止めてやりなおせるからだ。しかしOA本番で、TKさんにスイッチャーを触らせただダメだろう。

これは前段でも書いたが、このTKさんは、時には演出側の人間としてADの仕事をし、本番では本業のTKの仕事もしながら、技術者の助手の仕事もしていた事になる。これをTKさんの操作ミス、と言えるのか。元放送技術者としては、スタジオの信号フローが頭に入ってない人に、本番に直接出てしまう機材を触らせるようなワークフローにしたという管理責任を問うべきではないかと思う。

もう一つの疑問は、いくらVTR送出中とはいえ、技術の人間が誰もOAの画面を見ていなかったのか、という点だ。検証VTRによれば、技術者は「技術責任者」と呼ばれる1人しかいないようだ。その1人までもリハーサルに加わったのだろうか。このようなケースでは、普通2名の技術者を用意して、1人は必ずOAのモニタをするべきである。これも技術者としては、考えられない杜撰さだ。

番組送出は、アナログ時代とは比べものにならないほどに自動化、合理化されているのは事実である。しかし生放送はほとんどがマニュアルであるので、昔ながらのノウハウとあまり変わりがないはずだ。テレビに関わるスタッフは、それぞれが何か「資格」を持っているわけではなく、厳密には誰がどの役割をやってもダメではない。しかし責任の所在をあきらかにするために、越権してはならない部分がある。

今回の事故は、もちろんふざけたテロップを本当に作った担当者のモラルが第一に問われる点は揺るぎないが、それ以外では現時点で検証番組を見る限り、TKさんをいいように使っていたテレビ局側の人的リソース管理、外部スタッフの待遇の問題が浮上したと思う。今回の一件では、この点を指摘する人がいないまま、CG担当者とTKさんの責任として、契約を切って終わりにしてしまうのではないかと懸念している。
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