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【社会】

介護 娘の苦闘 嫁からシフト毎日ぎりぎり

直美さん(仮名)が自殺を考えた時、携帯電話に届いた母からのメール(一部画像加工)

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 二〇〇〇年の介護保険制度開始から十年以上が過ぎた。「介護は嫁が」という社会の意識は変わったが、介護から「逃げられない」存在としてクローズアップされてきたのが、高齢の親を持つ娘たちだ。子育て中でも、男の兄弟がいても、フルタイムの仕事があっても介護者として期待されてしまう現実。未婚のまま親をみるシングル介護も多い。親子ならではの葛藤も抱えつつ、娘たちのぎりぎりの介護が続く。

 「死んだら楽になるのかな」。ぼんやり考えながら、直美さん(42)=仮名=はJR中央線に乗り、東京から甲府まで来ていた。認知症の父と病身の母をシングル介護して一年近く、心身ともに疲れ果てていた。

 一人っ子の直美さんは「できる限りやろう」と頑張った。しかし、病院の付き添いや食事、夜中のトイレ介助に追われ、眠れない日が続くと仕事にしわ寄せが来た。

 遅刻、早退、休みが増え、ついに「派遣切り」に。新たな仕事も、病院やヘルパーからの電話でたびたび中断され、いたたまれなくなって辞めた。体調も悪くなり「うつ状態」(直美さん)になった。

 自殺を思いとどまったのは携帯に母のメールが届いたからだ。

 「しんぱいしていますゆるしてくださいもどつてください」

 目がよく見えない母が恐らく必死で打ったひらがなだけの文字。「面倒をみる人間は私しかいない」とわれに返った。

 介護はいつまで続くか分からない。今は両親の年金で生活しているが、どちらかが亡くなれば生活費は足りない。そのとき仕事はあるだろうか。結婚は…。つらくなるから、先のことは考えないようにしている。

 神奈川県の恵子さん(47)=仮名=は、重い認知症の母を介護して十七年になる。兄夫婦がいるが、父の病死後、母を引き取ったのは恵子さんだった。フルタイムの看護師は退職。九年前に一人息子が生まれると、「右手に車いす、左手にベビーカー」の生活になった。

 突然大声を出す、車いすごと倒れるといった異常行動がある母。自分でぶつけてできた傷を「娘や婿に殴られた」とヘルパーに訴えているのを聞くと「こっちが虐待されている」気分になり、本人に「ババア死ね」と言ってしまうこともある。

 しかし、施設に入れる気にはなれない。以前預けた所で、母は他人の服を着せられ、ひどい便秘になった。「母は自分で自分を守れない。守ってやらなきゃ」。だが、気掛かりなのはわが子のことだ。「母が騒ぐたび、家の中は修羅場になるし、小さいのにいろいろ我慢させてきた。心理的な問題が起きないかと…」

 厚生労働省の調査では、介護を主に担う人は〇一年時点では嫁など同居する「子の配偶者」が23%で、娘など同居の「子」による介護より多かったが、一〇年にはその順序が逆転した。

 

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