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[29230] 【ネタ】キリコ2世【ネタ】
Name: yasu◆2f76073d ID:212e4db4
Date: 2011/08/08 20:22
谷口キリコは県立朝日ヶ丘学園に通うごく平凡な女子中学生である。
ざっくりと断ち切ったショートカットの髪が良く似合うハンサムな顔立ちから女子生徒の人気が高い。
そして同年代の女子に比べ随分と発育が-特に胸-いいことから男子生徒の人気も高い。
だが回るターレットから熱い視線を送る人間は掃いて捨てるほどいるものの、友人と呼べる存在が皆無なのはそこはかとなく醸し出すハードボイルドな雰囲気のせいだろう。
「ただいま帰りました」
「あら、お帰りなさい」
家に戻ったキリコを出迎えたのは母親の谷口フィアナ。
名前のとおり日本人ではない。
マグロ漁船に乗り込んでいた父が南アフリカで一本釣りしてきたヨーロッパ系アフリカ人である。
すでに40近いというのにその美貌にはいささかの衰えもない。
ちなみに父親はキリコが10歳のときにソマリア沖で行方不明になっているのだが、フィアナは「あの人は何があっても死なないわよ」と笑い全く心配していない。
キリコ自身も幼少の頃から交通事故で腰の骨を折っても三日で退院する父の姿を見ているので、世の父親というものはみんな銃で撃たれても弾丸のほうが急所を避けるものだと、ごく最近まで信じていたものだった。
学校の帰りにレンタルショップで借りた「風まかせ月影蘭」のDVDを手に、階段を上りかけたキリコをフィアナは呼び止めた。
「貴女にお客様よ」
「私に?」
「じゃ後は適当にやってね♪」
突然の訪問者と娘ひとりを家に残し、鼻歌を歌いながらいそいそとコンサートに出かけるフィアナ。
色々な意味で規格外な女性なのである。
客間では銀河万丈の声がよく似合う金髪の下膨れが座布団の上に正座し、虎屋の羊羹をつまみにほうじ茶を飲んでいた。
「ワタクシ、こういう者でして」
差し出された名刺には「訴訟・調停・納税相談・その他諸々代行 J・P・ロッチナ」と記されている。
「突然のことで困惑されるかもしれませんが、貴女はある御方に後継者として指名されたのです」
「後継者?誰に?」
「ワイズマン」
ロッチナの説明によるとワイズマンというのは宇宙の彼方アストラギウス銀河の動乱を影で操っていた超古代文明人の意識集合体で、かつてキリコ・キュービイという男を自分の後釜に据えようとして、特殊部隊に送り込んでトラウマ植えつけたり、さりげなくあてがった彼女を殺したり復活させたりといったちょっかいを出し続けたため、遂にキレたキリコとの200以上の惑星を巻き込んだギャラクシー親子喧嘩のすえトドメを刺されてしまう。
だがそれでTHE・ENDとはいかなかった。
ゴステロ並みのしぶとさで復活したワイズマンは、アストラギウス銀河から姿を消したキリコの痕跡を追って14万8千光年の旅に出る。
そして長きに渡る追跡調査のすえようやく発見した子孫の中で、初代キリコの資質を最も濃く受け継いでいるのが谷口キリコということらしい。
「あえて言いましょう『キリコ2世』であると!」
地球連邦政府に対して独立を宣言するようなテンションのロッチナ。
無言で見つめるキリコの視線はどこまで冷たかった。
「ご理解いただけましたか?」
「ああ、アンタは脳の検査を受けるべきだ」
有無を言わせぬ口調であった。
「成程、そういうことでしたら-」
ロッチナがもったいぶった仕草で指パッチンを鳴らしたその瞬間、おぎゃーおぎゃーという効果音とともに超空間転移で跳ばされるキリコとロッチナ。
着いた先は月の裏側を航行する戦艦Xの艦橋であった。
「信じていただけましたかな?」
「これは…信じないわけにはいかないな…」
生魚で顔を張られたような表情で呟くキリコ。
さすがに地平線からのぼる地球なんてものを窓越しに見せられた日にはどっきりカメラなんてことは言っていられない。
「それで私にどうしろと?言っておくけど世界征服も生存戦略もお断りだから」
「いえいえ滅相もない」
胡散臭さ120%な笑みを浮かべるロッチナ。
「ワイズマンもトシのせいかすっかり丸くなりまして、『遺産は好きに使ってかまわない』という伝言を私に託すと、巨大な脳髄の収まったカプセル型ロケットで運命の至る所に向かって旅立っていきました」
コメカミを押さえるキリコ。
「色々ツッコミたいことはあるけど…とりあえず『遺産』というのは?」
「まずこの<戦艦X>、そして地球上の活動拠点として砂の嵐に隠されたベギルスタンの<ゴモルの塔>、さらに木星のガス雲の中を漂う小惑星リドのAT生産プラントおよびその付帯設備一切です」
その気になれば世界中の軍隊を手玉にとれる戦力ですぞと、ロッチナはにこやかに笑いながら言った。
「一介の中学生にそんなもの押し付けられても困るんだがな」
「大丈夫です、そんなときには<スペイン宗教裁判>-ではなく<三つのしもべ>」
「何だソレは?」
「紹介しましょう」
いつの間にかキリコの背後に、陰険そうなヒゲと卑屈そうな小太りと、やたら男前な美女が立っている。
「これが貴女をサポートする三つのしもべ、カン・ユー、コチャック、テイタニアです」
「なんなりとお申し付けください」
片膝をついて臣下の礼をとるテイタニア。
「お、オレに期待されても困るぞ?」
微妙に視線を逸らしながら頭を下げるコチャック。
「まあ覚悟しておけ」
無意味に大きく胸を張り両手を腰の横にあて、暗い瞳でせせら笑うカン・ユー。
「では私はこれで-」
言い捨てるなり稲妻に包まれたロッチナは何処へと転送されてしまった。
「-さて」
沈黙を破ったのはテイタニアであった。
「まず手始めにフ■テ■ビを血祭りですか?それとも先に■島を-」
「だからやらないって!てゆーかそのネタ危険過ぎるから!」
思わず大声を出してしまうキリコ。
まだ若いな。
「とにかく…私は『武力による戦争の根絶』とか、『神聖なる闘争の極まるところ武なる光照たらん』なんていうお題目のために戦うつもりはないから」
「フン、これを見てもそう言っていられるかな?」
カン・ユーがコンソールを操作すると、スクリーンの一つに日本のニュース番組が写る。
『さきほどお伝えしましたように、お台場で開催中の人気アーティスト、レディー・ダダのコンサート会場が国際テロ組織<太陽の牙>を名乗る武装勢力に占拠されました、武装グループは-』
食い入るように画面を見つめ小さくうめくキリコ。
「なん…だと…?」
そこにはフィアナがいるはずだった。

「突入命令はまだですか!?!」
特務自衛隊教導団第三実験中隊を預かる苦みばしった35歳、早川保は普段の冷静さをかなぐり捨てて怒鳴った。
「相手はただのテロリストではありません!UAVの偵察映像でもTAと思われる機動兵器の存在が確認されています!」
『いや、君の気持ちはよく解るんだがね、実を言うと総理が『オレに決断させるな!』って言って中華料理食べに出かけちゃってさぁ…』
マイク越しでも「こっちに話振らないでくれる?」というニュアンスがありありとうかがえる口調だった。
部下の目がなければ早川はこう叫んでいただろう-
-それはギャグで言ってるのか-
そんな早川中佐の苦悩を余所に、コンサート会場に向かって時速250マイルで接近する機影がふたつ。
『朝日を背にして低空で侵入する!目標から1キロの地点で音楽を流すぞ!』
『却下!』
キルゴア中佐が乗り移ったかのようなテンションのカン・ユーを舌鋒鋭くたしなめるテイタニア。
テイタニアの操縦するATフライに吊り下げられたスコープドッグのコックピットでは、ギルガメス軍制式の赤い耐圧服を着込んだコチャックがブチブチと不平を漏らしている。
一方カン・ユーが操縦するATフライに吊り下げられた機体に乗り込むキリコは朝日ヶ丘学園制式の、実にけしからんスカート丈のセーラー服にゴーグルというスタイルだった。
ヒーローは制服が戦闘服なのである。
元ネタに対するリスペクトである。
『突入30秒前ッ!』
最終アプローチに入り先刻のはしゃぎっぷりが嘘のようにシリアスなカン・ユーの声。
「クックックッ…この風、これが戦場よ…」
大将、それランバ・ラルや。
『敵のレーダーは?』
情けないほどビビッた声はコチャックだ。
『ATは特殊塗装されてる、ケツにブチ込んでやるまで気付かれはせんさ』
『いや、自衛隊とケンカするわけじゃないから…』
初めての実戦にさすがのキリコも緊張気味…かというとそうではなかった。
実のところスコープドッグのコックピットに身をゆだねていると、柳ジョージのサビの効いた歌声とともに肩をあえがせ、爛れた大地をひたすら踏みしめているような、キナ臭い懐かしさを覚えるのだ。
一言で言うと“ む せ る ”
『カウントスタート!』
テイタニアの張りのある声-なぜか丹下桜みたいな声質になっているが気にするな-がヘッドセットから流れる。
『5・4・3・2・1…降下ッ!』

「何なのアレは!?!」
コンサート会場にほど近い公園の植え込みの影で待機していた実験中隊第一小隊二番機「フォーカス2」のパイロット安宅燐は、いきなり頭上を通過したヘリが目の前の道路にTAと同サイズの人型機動兵器を投下するのを見て驚愕した。
着地の衝撃を降着機構を使って吸収し、一瞬の停滞も無くローラーダッシュで加速するキリコのAT。
一方コチャックは見事にすっ転んでいた。
『ま、待ってくれぇ~!』
たちまち正面ゲートを固めていた陸戦型ファッティーと、先行するキリコ機との撃ち合いが始まった。
「……ッ!」
鮮やかなロールとシザースの反復でファッティーの銃撃をかわしながら、スコープドッグの背部ミッションパックに装備されたアンカーロッドを射出し、アンカーがコンクリートのアーチに食い込んだところでウインチを作動させる。
ウインチに引かれ空中に飛び上がったスコープドッグの撃ち下ろしの射撃を受けて、射的場の的のように倒されていく陸戦型ファッティー。
会場内では、突然始まった戦闘に観客の動揺が広がっていた。
三人一組のアイドルユニット「レディー・ダダ」のメンバー-吊り目がダダA・垂れ目がダダB・糸目がダダCと呼称している-が流石に世界が舞台の超一流エンターティナーらしく、観客たちの間を回って落ち着いて行動するよう呼びかけている。
そのときである-
「インパクト!」
アルムブラストで天井をブチ破り、実験中隊の壱七式戦術甲冑-通称TA-が降ってきた。
戦闘が始まったからには座視するわけにはいかぬと、早川中佐が独断で突入を命令したのである。
予想外の事態に浮き足立っていた武装グループは、人質に銃を向ける間もなく制圧されてしまう。
実験中隊の活躍によって人質が開放されたその頃、武装グループのAT隊を一人で引き受けることになったキリコは袋叩きにされかかっていた。
「野望のルーツ」のクライマックスのように穴だらけにされたコックピットの中では、飛び交う銃弾と破片によってセーラー服がズタズタに切り裂かれ、色々な意味で凄い光景になっている。
『クッ…コチャック、援護しろ!』
全方位から浴びせられる十字砲火を神業的な操縦テクニックで回避しながら叫ぶキリコ。
だが飛び出したコチャックはキリコの進路を塞いだだけだった。
『邪魔だ!』
哀れキリコに弾き飛ばされ、ガードレールを突き破って転落するコチャックのスコープドッグ。
続いて立体駐車場から空中に身を躍らせたキリコ機はすかさずアンカーロッドを射出、最上階に向かって壁面を垂直に駆け上がる。
だが屋上に着地すると同時に、待ち構えていたファイッティーがショルダーチャージをかけてきた。
横倒しになったスコープドッグを取り囲み、一斉にガトリングガンを向ける陸戦型ファッティー。
これにて一巻の終わりかと思われたそのとき、ファッティーのGUNが火を吹くよりもはやく、コチャック機を吊り下げたATフライが猛禽のように飛来し、スコープドッグが空中から放った銃弾がファッティーを一掃した。

キリコ機を回収し、海上に向かって離脱していくATフライを見送りながら、第一小隊一番機コールサイン「フォーカス1」に搭乗する豪和ユウシロウは、得体の知れない胸騒ぎを覚えていた。
「触れ得ざる者…?」
千年の時を重ねた<嵬>の記憶から紡がれたその言葉の意味を、ユウシロウはまだ知らない。

同時刻、湾岸高速の出口に停めたリムジンの中から一部始終を見ていたファントムは満足気に呟いた。
「いよいよキャスティング完了…ですね」



[29230] 【ネタ】キリコ2世・そのに【ネタ】
Name: yasu◆2f76073d ID:212e4db4
Date: 2011/08/13 05:53
高橋や
浜の真砂は尽きるとも
最 低 野 郎 のネタは
尽きまじ

「カットカットカットォッ!」
拡声器越しのダミ声が響くと同時に構えを解いたキリコは、空を仰いでため息をついた。
何をしているかというと、朝日ヶ丘学園が誇る(?)3バカトリオ、郷田・赤星・平光が主催する映像科学部の自主制作映画に主演女優として抜擢され、学園にほど近い宿那山でロケハンの真っ最中なのであった。
題名は「超・太閤記」
木下藤吉郎が実は豊臣秀吉の双子の妹で、なおかつ伝説の武術「蓮根真拳」の遣い手だったというヴァイオレンス歴史ファンタジーである。
この素敵すぐる脚本を書き上げる際、メインライターの赤星は裸マフラーに香を焚き、三日三晩部室に篭ったとか篭らなかったとか。
「そこはさあ、もっとこう…『僕は群れからはぐれたMessenger Child』って感じでやってくんないかなぁ」
そんな脚本を監督する平光の演出スタイルは多分に主観的かつ独善的であり、一部の生徒からは熱狂的に支持されている反面、大多数の生徒には単なる変人と見なされている。
おそらく彼の脳内ではEUROXの歌をBGMに、重射兵のパイロットがゴリゴリゴリと照準合わせをしているのだろう。
わけがわからないよ。
キリコとしては別に付き合う義理はないのだが、特異な押しの強さと馴れ馴れしさで付き纏われているうちにいつの間にか主導権を握られ、気がつけばバトリング選手の契約書にサインさせられた兵隊くずれのようにうまいこと言いくるめられていたのであった。
「よーし10分休憩!」
謎の武芸者「陸奥周平」を演じる郷田が一時中断を宣言する。
自身の出演パートがない場面では演出助手を務める郷田の空気を読んだ掛け声で、平光の難解かつ抽象的な演技指導にじりじりとストレス度のゲージを上げ、「D液注入!」なんてことになりかけていた出演者たちにガス抜きの猶予が与えられたのは幸いであった。
「大丈夫か?」
キリコ同様、なかば詐欺に近い形で協力を約束させられたねね役の豪和美鈴に声をかけると、なぜか顔を真っ赤にしてそっぽを向かれてしまう。
耳をすませば「私にはお兄様が…」という呟きが聞こえてくるではないか。
いや~ニコポってつい使っちゃいますよね!
休憩が終わるといよいよ中盤の見せ場、キリコ演じる木下藤吉郎(=霧子)とマグロ真拳を遣う怪盗「大間の紅一」の一騎打ちの場面である。
アクション場面に妥協のない平光だけに、本番の前に入念な殺陣の打ち合わせが行われる。
キリコと一対一の組み打ちを行うのは年齢を偽ってスタントマンの研修を受けたことが自慢のよく訓練された馬鹿、千葉シゲオ15歳であった。
「そんじゃあキリコ、よろしく頼むぜ!」
「いつでもOKだ」
気合い入りまくりのシゲオに対しあくまで自然体のキリコ。
「アクションッ!」
平光の掛け声とともにシゲオは跳躍した。
「キャオラッ!」
冷凍マグロを振り回すシゲオと三節蓮根を操るキリコが高岩成二顔負けの擬闘を繰り広げていたその頃-

「なんでこんな動きができるんだ?」
モニターの中ではドーム型の頭部に三連レンズを配した、どこかタコを連想させる暗緑色のロボットが両手でライフルを構え、腰を落とした姿勢で接地面から火花を散らし、高速で滑走している。
「ホバーではありませんね、やはり足底にローラーがあるとしか…」
「それじゃマンガじゃないか」
“いいんだよマンガなんだから”
どこかで天の声がした。
駐屯地に戻った早川中佐は徳大寺大尉とともに指揮車両に篭り、UAVが撮影した映像データの解析に掛かりきりになっているのであった。
「ここです!」
モニターは三連レンズのロボットがデザートイエローに塗装された単眼のロボットに抑え込まれた場面を映し出している。
バイザーを開け放ったパイロットが右手を突き出し、馬鹿でかい拳銃で敵ロボットのカメラアイを撃ち抜いた。
「少女…ですよね?」
自分の見たものが信じられないといった口調の徳大寺。
「しかもセーラー服だと…」
早川の顔も引き攣っている。
とりあえず指揮車両を出て、TAの広報用マスコットキャラクター<ライデンちゃん(協力:サンライズ)>のイラストがプリントされた缶コーヒーを飲んで気を取り直した二人は、再びモニターの中の現実と対峙する。
「どう思います?」
「83…いや、85はあるな」
マウスを操作し、ズームを効かせたパイロットの胸元を凝視しながら断言する早川。
「中隊長………」
気まずい沈黙が車内に充満し、隊員宿舎ではムラチュウこと村井沙生が私物のパソコンでユウシロウのMMDモデルを作成し、陶見卓郎が「俺に25ミリを撃たせろ!」と夕陽に向かって吼えていたその頃-

オレモダビールを飲りながらインターネットの小説投稿サイトで不定期連載している近未来サイバーテレパス姉弟近親相姦&NTRものを執筆していたカン・ユーは、キングギドラの鳴き声の非常警報が鳴り響くの聞いて顔を顰めた。
CICに駆けつけると、メインスクリーンに密集隊形で砂漠を進むベギルスタン軍の戦車と歩兵戦闘車の集団が映し出されている。
「ど、どうするんだよ?」
ジャグジー風呂から飛び出してきたらしい、ブーメランパンツ一丁のコチャックが情けない声で聞いてくる。
「決まってるだろう」
カン・ユーは歯を剥き出し、鮫のように笑った。
「全滅させてやる!」
「い、いいのかよそんなことして?」
「俺の指揮範囲だ!」
不幸なのはこういうときにカン・ユーの暴走の抑え役であるテイタニアが、補助脳の不調で寝込んでいたことであった。
「お、オレは行かないぞ!」
膝を笑わせながら主張するコチャックに、文字通りゴミを見る目を向けるカン・ユー。
「お前はホメ春香と『カラフル×メロディ』でも歌ってろ!」
ニコ動ネタやめい。
フレキシブルに腰をシェイクさせながら踊るような足取りでAT格納庫に向かって走り去るカン・ユー。
「馬鹿な、寝た子を起こすようなマネを…」
何故かそう言わなければいけないような気がしたコチャックであった。

ナマステ少将は指揮官旗を掲げた戦車の砲塔から半身を乗り出し、目の前を行軍する無敵の軍団を誇らしげに眺めていた。
彼が指揮するのはベギルスタン唯一にして最大の機甲戦力であるオカラ機甲旅団である。
傍目には圧倒的な戦力に見えるが、その実打撃力の中核たる主力戦車は中国製の62式軽戦車(改)であった。
一応近代化改修は受けているものの、主砲はHVAPも無い古臭い85ミリライフル砲。
装甲も英国の初期巡航戦車レベルという、現代はおろか湾岸戦争でもドサ回りさえやらせてもらえない代物だった。
歩兵戦闘車は少しマシで、旧ソ連のBMP-2をコピーした、こちらも中国製の86式改型だが、やはり型落ちの旧式兵器であることに違いはない。
だが自軍の情けない状況も、対戦相手がさらに貧弱な装備しか持たない隣国アルメニスタンである限り大した問題ではなかった。
そもそも今回の軍事行動は独裁者スチルバノフ大佐が、自らの支持率アップを狙って前々から領有権でモメていた国境のレアメタル鉱山地帯を電撃戦で占拠するという実に短絡的な発想で発動されたものだった。
いつの時代のどんな国でも、手っ取り早く国民の喝采を得る方法は判りやすい敵を用意し、これを成敗することなのである。
彼らの不幸は、航空偵察の目を逃れるために選んだ一年中砂嵐が吹き荒れる砂漠地帯を縦断する侵攻ルートが、ゴモルの塔の至近を通ることであった。
必然たり得ない偶然はないのである。
なにも知らずに前進を続けるオカラ旅団の先頭部隊が、ゴモルの塔の西7マイルに迫ったそのとき-
砂塵を衝いてネズミ色の噴煙を曳いたロケット弾が飛来し、先頭を走る戦車の前面装甲を貫通した。
そして間髪を入れず飛来した第二弾が後続車の車体をブチ抜き、搭載弾薬を発火させる。
内部爆発でトーションバーを破損した戦車は、黒煙を噴いてその場にへたり込んだ。
「どうした?報告しろ」
「ATM、アンブッシュです!」
「待ち伏せだとぉ?全車至急散開!ウエポンフリー、叩き込め!」
先頭集団から帰ってきた報告を聞いた時点では、ナマステはまだ自分たちが戦闘狂が仕掛けた死の罠に頭から突っ込んだことに気づいていなかった。
その戦闘狂が超空間航行を実用化した異星人のテクノロジーが生み出したオモチャを手にしていることも。
旅団長の命令を受け、戦車隊が赤外線センサーを作動させる。
「三時方向より熱源接近、照準!」
「構わん、制圧射撃だ。無照準でぶち込め!ぶち込めーッ!」
赤茶けた不毛の大地に、独立記念日の花火さえ色褪せるマズルブラストと爆炎の一大スペクタクルが演じられる。
「クサヤからトンスルへ、敵出ます!十時方向2、訂正、4。一時方向4。敵、種別不明!」
「スキャンティ中隊左へ、ニーソックス中隊、右へ展開せよ。69(シックス・ナイン)フォーメーションだ!」
「了解。戦車前へ、一気に突っ走れ!」
「イエッサー、前進!」
爆煙を突っ切って現れたのは、脚部に「おしゃれブーツ」こと砂地走行用のサンドブロウワーを装着したATH-06-DTスタンディングビートル砂漠戦仕様であった。
先頭のビートルに騎乗するのは我らがカン・ユー。
後続の機体はAIが操縦する無人機である。
『全速前進、全機突入だせよ!』
『Ready』
レイ、レイじゃないか!
戦車乗りの常識の斜め上をいく機動で砲撃をかわし、ソリッドシューターから放たれる対戦車榴弾で中国製戦車を座り込んだアヒルのように撃破していくスタンディングビートル。
ちなみに作画はアニメアールです。
傍若無人に暴れまわるATはその牙を歩兵戦闘車にも向けた。
「少尉殿、ありゃ一体なんでありますか!?!」
「なんだろうとかまわん。戦闘照準、3点バースト、目標―――知ったことか、ファイアッ!」
86式の小さな砲塔が旋回し30ミリ砲が火を吹くが、湧き上がった砂煙を突き抜けた曳光弾は虚しく砂漠の空に飛び去るのみ。
サンドブロウワーは足元の砂を巻き上げて目くらましにするだけでなく、そのまま砂の中に潜航することもできるのである。
高い機密性を誇るビートルならではの戦法であった。
「奴ら砂の中を移動しています!」
「馬鹿な!マンガじゃあるまいし!?!」
“だからマンガなんだって”
再び聞こえる天の声。
後はもう一方的であった。
「くそう、近すぎる…戦車は同士討ちに注意!IFVはバーストを5点に切り替えてHE弾の弾幕防御、降車戦闘は原則不許可とする!」
などと言っているうちに戦車隊を蹴散らしたビートルは、後退機動に移った機械化歩兵部隊に猛毒のスズメバチのように襲い掛かった。
「一気に叩き潰せ!」
キャーカンユーサーン!(棒)
GAT-19ヘヴィマシンガンが唸りをあげ、至近距離から発射された30ミリ砲弾が、歩兵戦闘車のアルミ装甲を銃剣でスパム缶を開けるようにザクザクと切り刻んでいく。
乗員がどうなったかは言わずもがなであろう。
鋼鉄の胃袋を敵の血肉で満たし、殺戮を満喫した鉄の騎兵が引き上げたとき、生き残った車両は全体の二割もいただろうか?
「我が部隊は敵の奇襲を受け、甚大なる損害を受けました。ディープスロート作戦の実行は不可能、無念であります、大臣閣下……」
ナマステがこの世の終わりのような声で通信を送っていたその頃-

その日の撮影が終わり現地解散となったあと、キリコは街へと続く林道を、ぶらぶらと下っていた。
ふと目を傍らに向けると、開けた草地の真ん中に古びた祠がひとつ。
見えない糸に引かれるように祠に入ると、中には筋骨逞しい仁王像が右手に巨大な矛を掲げ、板張りの床にどっかりと腰を下ろしていた。
ふいに背後で声がした。
「呼び戻さないで、恐怖を」
振り向くとそこには、お多福の面を被った和服の少女。
「オカ~メカメカメオカメカメッ!」
“しょうじょはふしぎなおどりをおどった”
「カメ…?」


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