2011年8月13日
被災松 送り火断念 セシウム検出で京都市決定
京都の「五山送り火」(16日)で、東日本大震災の津波で流された岩手県陸前高田市の松を使う計画をめぐり、京都市は12日、新たに現地から取り寄せた松から放射性セシウムが検出されたため、送り火で燃やすことを断念すると発表した。門川大作市長は「断腸の思いだ。申し訳ない」と陳謝した。被災松の受け入れをめぐる問題は、当初の計画中止から受け入れへと二転三転した末、使用断念という結末となった。
京都市は11日、現地から取り寄せた被災松の薪(まき)500本の表皮部分計約1キロ、木くず部分計約2キロを切り取って市内の民間会社で放射性物質の有無を検査。12日、表皮部分から1キロあたり1130ベクレルの放射性セシウムが検出された。
食材に関する食品衛生法では暫定基準値を上回る数値だったが、樹木では明確な基準がないため、市は京都大教員で放射能の専門家に意見を求めた。「燃やすことが安全かどうかわからない」と説明を受け、送り火で燃やす計画の中止を決定、五山の各保存会に通達した。
会見した門川市長は「セシウム検出という科学的見地に基づいた結果。風評被害の助長にはあたらない」と弁明。「薪を燃やせば危険という科学的根拠はあるのか」との質問には、「もともと、セシウムが検出されたら計画を中止するという前提だった。国の基準がない以上、京都市が独自で決められない。国には責任を持って基準を示してほしい」と話した。
この問題では、送り火で被災松を燃やす大文字保存会の計画に放射能汚染を懸念する声が上がり、同保存会がいったん中止し、薪は陸前高田市で「迎え火」として燃やされた。中止方針に批判が殺到したため、市が現地から別の薪500本を取り寄せ、大文字など五山の各保存会が使用することで合意していた。
2度も東北悲しませた 送り火迷走、古都に汚点
京都の「五山送り火」への岩手県陸前高田市の被災松受け入れをめぐる問題は12日、京都市が新たに取り寄せた松から放射性セシウムが検出され、使用断念という結末を迎えた。中止から一転して五山全ての送り火で燃やすことになった11日の決着がわずか1日で覆り、古都の伝統行事の歴史に“汚点”が残る事態に。五山の各保存会や関係者からは「まさかこんなことがあるのか」と落胆の声が上がり、被災地には失望が広がった。
送り火での使用断念という一報を受けて、五山の各保存会でつくる京都五山送り火連合会の関係者は「話を聞いたときはまさかと思った」と絶句した。
連合会では、市が取り寄せ、11日に到着した被災松について「大文字保存会が当初、燃やそうとしていた松のしん部分だけの護摩木と同じ物と考えていた」という。当初の松からは放射性物質が検出されなかったため、本番で無事に使用できると思っていたのだ。
しかし、今回の被災松は表皮付きの割り木だった。市は「どんな形で被災松が来るのか分からなかった」と説明しているが、放射性セシウムは表皮を削って集めたものから検出された。
使用断念について、五山の一つ「妙法」保存会の北野正彦会長は「鎮魂の意味で市が取り寄せた薪(まき)なので非常に残念」と話した。
この日夜には連合会と門川大作市長らが臨時理事会を市内で開催。15日に市民らに復興への願いなどを護摩木計千本に書いてもらい、16日の送り火当日に五山で燃やすことと、当日午後8時から犠牲者の冥福を祈って五山で一斉に黙祷(もくとう)することを決めた。
理事会後の会見で、連合会の田中博至会長は「2度も東北の方を悲しませることになって誠に申し訳ない」と謝罪。京都五山送り火協賛会の渡邉隆夫会長は「セシウム(の危険性)について論じられないまま、あおられて迷走している感じだ」と苦い表情で話した。
今回の騒動に、市職員の一人は「二転三転の事態に涙が出そう。くたびれすぎて感想など出ない」と心境を吐露。一方、大文字山近くで飲食店を営む男性(78)は「放射性物質が出る出ないに関係なく、大文字保存会がいったん中止したのだから、市が取り寄せた被災松も使用をやめておいた方がいいと思っていた」と話した。
「京都の一人芝居」「勝手すぎる」
決定が二転三転し、翻弄された「高田の松」。地元の反応は複雑だ。
津波で被災した地元文具店を4月に再開させた伊東孝さん(57)は「仕方がないんじゃない」と淡々。店内で「高田の松グッズ」を販売するなど、復興に向けて奔走してきた住民の一人でもあり、理不尽な京都の使用拒否に憤ったが、今はそんな風評騒ぎ自体に嫌気が差している。「セシウム、セシウムって…。不安は分かるが、ばかばかしいったらない。騒ぐのは被災地から遠方の人々だけなんじゃないのかな」
陸前高田市企画部協働推進室の大和田智広主事(32)は「なんだか京都の一人芝居みたい」とぽつり。市側は今回の計画には全く絡んでいないが、問題発生以降、相次ぐ問い合わせへの対応に苦慮。500本の松の薪はそもそも京都市から再依頼があったものだが、事情を知らない京都府民からは「一度断られたなら、松を京都に送らず、自分たちで全部燃やせばよかったのに」という電話もあったという。
「今回のごたごたはちょっと勝手すぎる。問題が尾を引かないことだけを祈ります」とうんざり顔だった。
健康に影響ない数値
大津留晶(おおつる・あきら)・長崎大学病院准教授(被曝医療学)の話「検出された数値はそれほど高くなく、吸い込んでも健康に影響がないレベルの可能性が高いので過剰反応ともいえる。ただ、樹木に関して放射性セシウムの国の暫定基準値が定まっておらず、京都市が科学的に安全と市民らに言い切れない実情はあると思われ、中止は現状では仕方がない。自治体が自信を持って安全性を訴えられるよう基準を定めることも考慮しなければならない」
【写真説明】厳しい表情で記者の質問に答える門川大作市長(手前)ら=12日午後、京都市左京区(安元雄太撮影)
(2011年8月13日 07:14)
Category:社会
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