2010年4月15日放送

禁断のTVスキャンダル


1_01  ブラジルの人気番組『カナル・リブレ』。 毎回高い視聴率を誇っていたこの番組は、実際に起こった凶悪事件を番組スタッフ自らが徹底取材していたのだが、その裏では視聴率を稼ぐために司会者自らが殺人を指示していたというのだ!! この前代未聞のスキャンダルは世界中で報じられ、皆さんも記憶に新しいことだろう。 だが実は!この事件はまだ終わりを迎えてはいなかった!! さらなる衝撃の展開が待っていたのである!!
 事件はブラジルで多大な人気を博していたテレビ番組『カナル・リブレ』から始まった。 この番組の司会を努めていたのが、ソウザ3兄弟。 元警察官だった3男のワラセを中心に、彼らは交替でレポーターや司会を担当。 凶悪犯罪を取り上げ、社会不正と戦う番組として多くの人気を集めていた。 しかしその裏では、過激な演出という名の殺人が行われていたという!!
 彼らは殺人を依頼し、多くのスクープを作り上げていたというのだ。 では、そのようなおぞましい行為はいつから行われていたのだろうか?
1_02  ソウザ3兄弟は元々テレビ業界とは無縁の仕事をしていた。 彼らは若かりし頃、共同でカフェバーを5店舗経営し、実業家として名を馳せていたという。 その後、3男のワラセは警察官に転職、自らの手でブラジルにはびこる犯罪組織を壊滅させるため、捜査をしながら新聞へ事件に関する記事を書いていたという。
 そんな時だった、彼は当時サンパウロで犯罪組織を取り上げ、ヒットしていたTV番組の存在を知り、自分も同じような番組を作ろうと考えた。 そしてワラセは実業家として蓄えた資金を元に地元テレビ局の放送枠を買い取った。 こうして始まった3兄弟の司会による番組『カナル・リブレ』は、独自の取材はもちろん、視聴者からの情報提供を元に事件の取材を行い、番組で紹介していたのだが、開始当初はさほど過激な演出はされていなかったという。
 だがある日、番組に被害者の母親から助けを求める電話が掛かってきた。 この電話をきっかけに番組は大きく路線を変更していくことになる。
 ワラセはカメラの前で暴力を振るう奴などいないと言い、他のスタッフの反対を押し切り、取材を行うことにした。 そして、ワラセの指示通り現場に駆けつけたスタッフは、その様子を克明にリポート。 集団リンチを行う、まさにその現場の撮影に成功、さらに被害者の救出も果たしたのだ!!
1_03  この事件を取り扱った番組の視聴率は記録的なものだった。 これを受けて、ワラセはこれからは凶悪事件だけを扱っていくように方向を変更した。 当初、次男のカルロスはこの方向性に反対していた。 しかしワラセから、メディアの力を使えば犯罪組織を壊滅出来ると説得され、承諾したのだ。 こうして、ワラセは過激な凶悪犯罪だけを扱い、視聴率を上げることに奔走していったのである。
 彼らはある野望のために人々から指示を得たいと考えていた。 そのためには、TVで有名になるのが一番の近道だったのだ。
 2000年に次男カルロス・ソウザがマナウス市議会議員に最高得票で当選。 その後を追うように、2002年には3男ワラセ・ソウザ、さらに2004年には長男ファウスト・ソウザがマナウス市議会議員に当選したのだ! 3人はその後も番組の司会を辞めることはなく、より一層力を注いでいったのである。
1_04  視聴率が上がるにつれ、番組には視聴者から麻薬の密売や殺人など、犯罪を告発する情報が大量に寄せられるようになっていた。 こうしてワラセ達は視聴者からの投稿や独自の情報網を駆使し、犯罪組織の不正を次々に暴いていった。 しかしその一方で脅迫電話は日常茶飯事、密輸の現場に踏み込み、銃撃戦に巻き込まれることもあったという。 それでもワラセを中心とする3兄弟はボディーガードを雇い、今まで通り番組を続けたのである。
 しかし、この頃から3兄弟、そして番組にはある疑惑の声がささやかれ始めていたという。 警察よりも早く殺人現場に駆けつけていた番組スタッフ。 なぜそんなことが可能なのか?事件と何らかの関係があるのではないか? こうした疑惑の声が浮上したのだ。
 これに対しワラセは、「私は警察在籍時に培った経験から第六感が働くんだ」と疑惑を真っ向から否定した。 更にワラセは警官時代のコネクションを利用し、知り合いの警察官から事前に情報提供を受けていたという。
1_05  2008年10月に起こったある逮捕劇がブラジル全土を揺るがすスキャンダルへと発展していった。 元警察官という経験を買われて3兄弟のボディーガードをしていたモアシルだが、この日彼はコカインと銃の不法所持で逮捕されたのだ。
 警察は直ちに捜査本部を設置し、モアシルの身辺を徹底的に調査、するととんでもない事実が明らかになる!! 兄弟のボディーガードは表の顔、裏では麻薬販売組織の一員で、敵対する組織の人間を何人も殺害していたことが判明したのだ!! しかも、彼はワラセにスクープが欲しいからと依頼されて殺害したと証言したのだ!! 凶悪事件を取材し高い人気を誇っていた番組『カナル・リブレ』、しかしその裏ではTV界最大のタブーが繰り広げられていたのだ!
 警察はモアシルの証言を元に『カナル・リブレ』で扱っていた事件を徹底的に洗い直していた。 すると、供述通り彼が殺害した人間と、事件の被害者として取り上げられていた人間の名前が一致した。 しかし、これだけではワラセが殺人の指示をしていたとは断定できない。 捜査は難航するかと思われた。
1_06  だが2009年4月、一人の青年の逮捕をきっかけに事態は急変する。 彼はモアシルが殺害する際に使った銃の所有者だったのだが・・・彼はなんと、ワラセの息子・ラファエルだったのである!! これをきっかけに警察はラファエルが暮らすワラセの自宅を捜索。 すると金庫から大量の現金と、所有が禁止されている銃、そして・・使用済みの薬きょうが発見されたのだ!!
 その後の調べで、薬きょうは『カナル・リブレ』で取材した遺体発見現場から取り去られたものだと判明。 さらに警察はワラセの自宅から、暗殺を指示した麻薬販売組織の人名リストを押収した。 驚くべきことに、彼らの大半が番組の中で事件の被害者として報道されていたのである。
 だがこれでもワラセを逮捕出来ないという。 それは議員の不逮捕特権があるためだった。 ブラジルでは議員にどんな容疑が浮上しようと、在任中に逮捕や事情聴取を行うことができないという法律があるのだ。
1_07  だが警察は確固たる証拠さえ掴めれば、ワラセを逮捕出来る可能性があるとして、ワラセの身辺を徹底的に調査した。 そしてついにワラセと殺人とを結びつける、決定的な証拠を掴んだのである!!
 それは、ワラセがある人物とかわした通話記録だった。 そこにはワラセからのまぎれもない殺人指令が記録されていた。 そしてその指示を受けていた人物とは、軍事警察に勤めるアルセ大佐だったのだ!! なんとワラセはかつての仕事仲間でもあり、現役の警察官に殺人指令を出していたのだ。
 さらに、アルセは殺人を行う犯罪組織のリーダーであることも分かった。 これにより、アルセを含む23名の組織のメンバーが逮捕された。
1_08  視聴率を稼ぐために犯罪組織をも利用していたワラセ。 マスコミはこのとんでもない事態をこぞって報道した。 さすがに事態を重く見た倫理委員会は、ワラセの議員資格を剥奪する意見書を議会に提出。
 2009年10月、州議会でワラセの議員資格剥奪の決議が行われた。 賛成多数でワラセはついに議員資格を剥奪され、不逮捕特権を失ったのだ。
 これにより警察は、ワラセに逮捕状をつきつけた。 だがこの直後、ワラセが謎の失踪! この不足の事態に市内は一時パニックに陥った。 マナウスから市街に続く街道の警備は強化され、港や空港へのアクセスは厳重に見張りがつけられた。
1_09  だが失踪から一週間後、ワラセは自ら出頭してきたのだ。 しかし、それは容疑を認めるものではなかったという。 ワラセは自分の命を守るために出頭してきたのだ。 収監される刑務所によっては、彼の取材によって逮捕された犯罪者と同じ留置所に入る可能性があり、それを避けるために弁護士と相談していたのだ。
 結局、ワラセはその危険性が考慮され、軍警察の留置所に移送された。 そこは息子・ラファエルが収監されている場所でもあった。 さらにその後、2人の兄弟も事件に関わっていたとして逮捕された。
 TV史上類を見ない大スキャンダルはこれでようやく終息を迎えると思われたのだが・・・。 表ではTVの世界を牛耳り、裏では麻薬販売組織とつながっていたワラセの権力、それは思いのままに世間を操れるほど強大なものだった。 その恐怖を物語る組織メンバーの供述が残っていた。
「仲間が警官を殺せば捜査を続けることなんてできないわ」
 この言葉通り、ワラセに対して不利な発言をした警官は暗殺された。 さらにその後、4人の証言者が殺害された。
1_10  収監後も恐怖の牙を剥くワラセ、彼はどのようにしてこのような権力を手に入れたのだろうか? ワラセは警察に転職した時から絶大なる権力を得ようと計画していたという。
 ワラセは警察内部に人脈を得ると、凶悪犯罪を扱う番組を立ち上げた。 そして、過激な演出で視聴率と人気を勝ち取り、政界へと進出。 しかし計画はこれで終わりではなかった。 ワラセはさらに恐ろしい野望を抱いていたのだ!!
 政治家として活躍する裏で、犯罪組織と関わりのあったワラセは番組を利用して、敵対する麻薬組織を潰そうとしていたのだ! そして、絶対的安全と権力を手に入れるため、視聴者に警察への不信感を煽ると共に、高い捜査能力を見せつけることで、自らが警察のトップに君臨しようと計画していたのだと言う!!
 警察を牛耳れば、自分の犯罪組織に捜査の手が伸びるのを防げるばかりか、敵対する組織の摘発が可能となる。 それこそがワラセの狙いだったのだ!!
1_11  現在ワラセは4件の罪に問われているものの、体調不良を理由に入院、裁判が始められない状態である。 だが、退院しても逃走の恐れがないとして、保釈される可能性が高いという。
 自宅を捜索された際、ワラセは警察官に向かってこう言い放った。
「俺が警察のトップになったら、お前らに復讐してやるからな!」
再びこの男が野に放たれた時、今度は何を企てるのだろうか・・・?




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