要約
タッチタイピングは「手続き記憶」の一種です。同じ手順を繰り返し繰り返し訓練することで、身に付けることができる行為です。
しかし、同じ手順を繰り返し繰り返し行うことはさほど容易なことではないのです。最初は「決められた指で決められたキーを打鍵する」のですが、実務に追われるとつい操作し易い自己流の「癖」が出てしまい、折角の練習効果が元の水泡に帰してしまうのです。
そこで、誰もが練習時、実務時を問わずに、常に「決められた指で決められたキーを同じ手順で打鍵する」ことを可能とする具体的な方法を提案するものです。
確実に「決められた指で決められたキーを同じ手順で打鍵する」ことができる方法は、打鍵する指の分担領域を物理的に囲繞することです。囲繞する枠の形状は縦長であることが理想的です。
千鳥状にキー配置された現在のキーボードに矩形状の枠を装着こと不可能ですが、発想を変え、キー自体を直交に配列すれば、この問題はいとも簡単に解決されます。
最も簡単で確実に各指の分担領域を囲繞することができるフレーム
直交フレームを装着できる直交配列キーボード
タッチタピングの本質と問題点
タッチタピングは、「手続き記憶」であり、その習得は「体が覚え、記憶する」ということです。体が覚え、記憶すとは、「同じ行為を繰り返し繰り返し行っていれば、遅かれ、速かれ、いずれは、意識することなくその行為がごく自然にできるようになる」と云うことなのです。
現在の使い勝手の悪いと云われているキーボードでも、「決められ た指で、決められたキーを打鍵する」という単純な行為を繰り返し繰り返し、根気よく実行しさえすれば、キーボードを見ないでの操作は不可能ではなく、必ず出来ます。
しかし、現状のキーボードでは、多大な忍耐と努力を伴った長期間の意識的な訓練が必要です。この訓 練を乗り越えた者のみが「タッチタイピング」の醍醐味を味合うことが出来るのです。
ところで、出来得ることなら、無意識にうちにタッチタイピングを習得できればと誰しもが願うところです。
分担領域を囲繞する菱形フレームの試み
初心者でも視覚に頼らないでタッチタイピングを習得できるようにとの考えで、各指の分担領域を「斜めに偏った菱形」で囲繞した「菱形フレーム」があります。
菱形フレーム
この菱形レームをキーボードにセットしたのが下記図です。正方形のキーが千鳥状に配置されていますので、分担領域を完全に囲繞することはできません。
菱形フレームの装着状況
実際に使用して見ますと、人指し指以外の分担領域幅が狭くなり、指運がスムーズに行えません。さらに、領域内に他の分担キーの一部分が重なっているので、誤打鍵を招き易くなっています。
分担領域を囲繞するクランク状フレームの試み
次に、他領域のキーを含まないで完全に囲繞するために、下記の図のように、「クランク状」の「クランク状フ レーム」が提案されています。
クランク状フレーム
このクランク状フレームをキーボードに装着すると、下記の図のように100%完全に分担領域を囲繞していま す。
クランク状フレームの装着状況
この状態で、実際に使用して見ますと、左右の人指し指の分担操作には全く支障がないのですが、左小
指、左右の薬指、中指の指運操作には大きな支障をきたします。
とくに、下段と中段の境界で、領域の横幅がキーの半分ほどになってしまい、指の移動の為の横幅が確保できません。囲繞した意味を全くなく、実用に供するのは無理があります。
「斜交配列キーボード」で、指分担領域を囲繞方法は上記2種以外には考えられません。事実、提案事例も皆無です。また、視覚を頼らないで操作練習が可能な市販キーボードも見当たりませ ん。
視覚を利用した練習用の補助装置
斜交配列キーボードでは各指の分担領域を囲繞することは困難なため、視覚を利用した方法も提案されています。しかし、視覚に頼る方法は「タッチタピングの本質」を考慮すると必ずしも最良の方法とは云えない側面があります。
キーに識別子を付して、キーの分担と位置を視覚により認識する方法
下記の例は「キーボード練習用の手袋」です。手袋の各指に分担する文字と位置が印刷してあります。指の分担とキーの位置の関連付けし、視覚で認識し易くした方法です。キーの配列や位置から、指の使い方へと練習意識を転換したところにに意義があります。
出典 : コンピュータ10本指操作練習用手袋「キーボーちゃん」
上述して来たように、タッチタイピングを容易に習得するための理想的な補助器具が見いだせないのが現状です。この最大の要因はキー自体配列が千鳥状で不規則な配列であることです。いわば、現状のキー自体の配列が理想的な補助器具の開発を阻んでいると云えます。
「タッチタピング」習得のための
キーボードの改良の試み
オーガスト・ドボラック(August
Dvorak)は,英単語についてのアルファベットの出現率に基づき打鍵効率の向上を追求し文字配列の改良の試みました。
1936 年に、DSK(Dvorak
Simplified Keyboard)を開発して、特許を取得し、普及に努力しましたた。「Dvorak 配列」は「Qwerty
配列」よりも優れていたにも関わらず、既に広く一般に受け入れていた「Qwerty
配列」を駆逐して、広く普及するには至りませんでした。
タイプライターでのキー自体の配列の改良の試み
文字自体の配列の改良については、あまり注意が払われた形跡が見えません。欧米では表音文字であったため、キーボードを見ながらの操作が一般的であり、その不便さの認識が薄かったためと考えられます。
キー自体の配列の顕著な改良例としては、Smith Premier Typewriter があります。このタイプライターは、キー自体が直交に配列されています。また、ダブルキーボードで、Shift 機構を使わなくても全ての文字が1ストロークで打鍵できることを宣伝しています。下記のような興味ある広告があります。
出典 : Smith Premier No.2 and No.10
説明文の記述の中に、
The Smith Premier has the easiest keyboard to learn, and the surest and most satisfactory to operate.
「スミスプレミアーはキーボード操作を最も習い易く、かつ、最も確実で満足のいく操作ができます」との記載を読み取ることが出来ます。
この機種は Shift 機構を備えたシングルキーボードの Underwood 機に対抗して Shift 機構を使わずに全ての文字を1ストロークで打鍵でき、かつ、キーの配列を直交にすることによって指運の障害を除去したものでしたが、広く普及するには至りませんでした。
残念なことに、キーの直交配列と云う機能性も葬られてしまいました。しかし、タイプライターの構造上不可能と考えられたキーの配列を直交に改良した点は高く評価されます。
初期パソコンでのでキー自体の配列の改良の試み
初期のパソコンにおいても、キー自体の配列を直交にすると云う試みがなされました。
出典 : Pet 2001
我が国でも同様な試みがなされています。
この機種も最初の1号機のみでその後の継続機は「Qwerty 配列」の戻されて、一般には普及しませんでした。
現在では、下段が左に一列移動された形態でモバイバル機に採用されています。
出典 : MZ80K
以上記述したように、指の操作の上でキーを直交に配列した方が使い勝ってよいことは認識されていたようですが、いずれも、受け入れられずに現在に至っています。
人間工学的に考えられた理想的なキーボード
キー配列の改良については、人間工学的な見地から種々形態のものが提案され、使い勝っては非常に優れています。下記の図はErgonomics Keyboard の文字配列は「Qwerty 配列」です。
出典 : KinesisのErgonomics Keyboard
下記の図は「エルゴフィットキーボード」で、文字配列は日本語入力用に改良されています。
出典 : エルゴフィットキーボード
これらのキーボードはその形態がタイプライターのキーボードを引き継いだ標準規格のキーボードとはキー自体の配列が全く異なっています。
あまりにもユニークなために汎用性に欠け、もっぱら、特殊な業務に携わる方々の間で使用されているのが実用です。
これらのキーボードで共通しているのは、左手、右手の縦列(上下方向の配列)のキー自体の配列が指の上下移動に無理なく対応できるように直線に配列されていることです。一種の「直交配列」と云えるものです。
指運法に適った理想的な囲繞フレーム
指運法の原点に戻って、「決められた指で、決められたキーを打鍵する」には、どのような方法があるかを再度検討してみます。
タピング操作を視覚に頼らず、また、無意識で行える最も単純な方法は、分担領域以外のキーの打鍵を防止することが必要でかつ十分な条件です。この条件を満たすための最も単純でかつ簡単な方法は分担領域を物理的に囲繞することです。
現在のキーボードでのタッチタイピングの基本操作は、「ホームポジション」から指を上下に移動することが基本です。この指の上下移動を容易にするために、分担領域を縦長の長方形で囲繞すれば、分担領域を無駄無く100%完全に囲繞することができます。
この観点に基づいて、分担領域を囲繞したフレームを利用すれば、視覚に頼らなくても、「決められた指で、決められたキーを打鍵すること」が非常に簡単になります。以下、このフレームを「長方形フレーム」と記述します。
「長方形フレーム」の装着可能な
直交配列キーボード
上記ような「長方形フレーム」を装着できるようなキーボードは現実には存在しません。そこで、今までの発想を変え、従来の「斜交配列キーボード」のキー自体の配列を「直交に配列」してみてはどうかと云うことです。
キー自体を直交に配列したキーボード
このキーボードでは、従来の「斜交配列キーボード」の最上段から1個のキーを下段に移し、各段のキーの数を12個に揃えてあります。さらに、右側の1列を左側に移動してあります。なお、「かな文字」の配列は変更してありません。
各指の分担領域が左右対称であるキーボード。
従来の「斜交配列キーボード」では、「記号キー」は全て右側に配置されていて、 右手の負担が大きく、かつ、ホームポジションを維持したまま、「Enter」キーを制御することが不可能です。
右側の1列を左側に移動し、左右の手の分担範囲を同数にすることにより、左右両端に配置されている各種の制御キー群、および、最上段キー群を含めた全てのキーがホームポジションを維持したまま制御可能となります。
「直交配列キーボード」に「長方形フレーム」を装着した状態
また、直交配列キーボードのホームポジションと各指の分担領域は下図のように明 確になります。
ところで、この「直交配列キーボード」と「長方形フレーム」は、「体で覚える技能」の厚く、高い壁に阻まれることがあるのかどうかと云うことです。
タッチタイピングを習得したいと考えている大半の方は個人的に使用しているキーボードと職場等で使用しているキーボードと複数のキーボードを使用しています。ここで配慮しなければならないことは、キーボードの汎用性です。この点は実務と普及上の兼ね合いで非常に重要です。その詳細に考察して見ることにします。
指運法の観点から、この「直交配列キーボード」は従来の「斜交配列キーボード」 の操作の指運法をそのまま引き継いでいますので、既に「斜交配列キーボード」の操作に習熟している方にとって「体で覚える技能」の壁の障害は全く感じられま
せん。
だた、右側に配置されていた記号キーの1列分が左側に移動されたため、これらの 記号キーの指運法が変えられています。
しかし、使用頻度は少ないので、「ローマ字」入力に熟知している方にとってはそ の影響はほとんどなく、従来の「斜交配列キーボード」との操作性の互換性は完全に保たれています。
一方、「かな文字入力」に熟知している方でも、その配列には変更がありませんが、長音記号キーの「ー」を含む一部記号キーの指運法が変えられたことになります。この一連の記号キーの操作に熟知するまでに少々の時間を必要とすることは確かです。
しかし、最上段キーには全て「仮名文字」が配置されています。キー自体が直交に 配列されたことにより、これらの「仮名文字」や「数字、記号」の分担領域が明確となり、扱いが数段便利になり、遜色のない効果をもたらすことも確かです。
このように「直交配列キーボード」は、従来の「斜交配列キーボード」に比べ、画期的に使い勝っての良いキーボードであることは明白です。
このキーボードの最大の特徴は「斜交配列キーボード」では不可能であったタッチ タイピング習得のための補助機器の開発が可能となったことと、アンカーキーを確保したまま、制御キーを含めた全てのキーを無理なく制御できることです。
タッチタイピング習得のための練習に当たって、補助器具の「長方形フレーム」を併用すれば、練習時、実務時を問わず、常に「決められた指で、決められたキーを打鍵する」ことができることです。
結果的には、無意識のうちに、タッチタイピングを習得できることになります。こ のように、「直交配列キーボード」はタッチタイピング習得に最適のキーボードであることは明白です。
まとめ
現在一般に広く使用されている斜交配列「QWERTY」キーボードは、キーの絶対配置が「不完全な斜交配 列」であることと、「記号」キー群が右側に偏って分布されているこののために、左右の手の指使いが異なります。特に、左手の操作が難しいことと、右手の分
担キーが多いことなどで誠に使いづらいキーボードとなっています。
初心者に覚え易く、かつ、既に「タッチタイピング」を身につけた方にも何の不自由もなく使えるキーボードと して、「直交配列QWERTYキーボード」が考えられます。
「QWERTY....」文字配列を変えることなく、入力用キー群を完全な直交座標に沿って配列し、左右の 分担キーの個数を揃えることにより、最上段キー群の指分担も明確になり、かつ、指使いは左右の手で対象となります。
また、ホームポジションキーのいずれかの指をアンカーキーとして確保したまま、キーボードの左右に配置され た機能キーをも含め全てのキーの打鍵が可能となります。
このキーボードでは指使いが単純となり、初心者でも「タッチタイピング」の習得が非常に容易になります。
さらに、指の分担領域を物理的に囲繞する方策が無かった「斜交配列QWERTYキーボード」とは異なり、 指運上の支障を来たさない練習補助器具等の開発がこの「直交配列QWERTYキーボード」では可能となり、その一例として上記のような「長方形フレーム」
のような練習補助器具等を併用することにより、初心者でも強い意志に頼らなくても短期間でタッチタイピングを習得することが可能となります。
一方、既に「斜交配列QWERTYキーボード」での「タッチタイピング」に熟達した方々にも、 「QWERTY...」文字配列順序は保持され、指運法そのものも基本的には同じなので、最初の期間は少々の戸惑はあるにせよ、直ぐに慣れ何の支障もなく
使用することが可能です。
この直交キーボードと長方形フレームの最大の相乗効果は、「サイトメソッド」で操作している方でも、指の分担領域を物理的に囲繞する「長方形フレーム」
ような練習補助器具を併用することにより、実務時の入力操作過程で一番の障害であった「つい元の癖に戻る」こともなく、ごく自然に無理なく「タッチタイピ
ング」を容易に身に付けることが可能となることです。
日本語のような「表意文字文化圏」でこそ「タッチタイピング」が威力を発揮することは誰しも認めるところ で、「タッチタイピング」を志す人々にとっては格段にマスターし易いキーボードとなると考えます。
直交配列キーボード(マトリックスキーボード)の例
なお、最近の例では、下記のような直交配列キーボードも市販されるようになりました。パソコンメーカーやキーボードメーカーの方に是非検討して頂ければと願っています。
出典 : Typematrix
このキーボードは、アンカーキーを確保した状態では、全てのキーを制御することを目的に「Enter」キー
をキーボードの中央に設置しています。操作性は誠に良好で、とくに、左手の操作は非常に容易であり使用上の違和感は全くありま せん。
だだ、右端にあった「Enter」キーは「テンキーパット」用に下方に移動されているので、遣い勝ってが良いとは云えません。通常の文字入力操作では、 中央の「Enter」キーを使用することになり、従来の「斜交QWERTY配列」キーボードに習熟した方は少々戸惑います。
一方、この「直交QWERTY配列」キーボードでタッチタイピングに習熟すれば、従来の「斜交QWERTY配列」キーボードでも何の違和感もなく使用できるものと考えられます。
このようにキー自体が直交に配列されているキーボードの最大の特徴は、各指の分担領域を長方形で過不足なく囲繞する補助器具を使用することが可能となることです。
指の分担領域を物理的に過不足なく囲繞することにより、必然的に「決められた指で決められたキー を打鍵する」ことになり、初心者でも無意識のうちにタッチタイピングを容易に習得することが可能となります。
また、自己流の操作が身に付いてしまった方でも練習時、実務時を問わず、常に「決められた指で決められたキーを打鍵する」ことになり、無意識のうちにタッチタイピングを習得することができます。
参考資料
以下の参考資料を参照頂ければ、「直交配列キーボード」はディスクトップパソコンのキーボードのみならず、ノー トパソコンのキーボードの改良にも通じるものであることをご理解頂けると存知ます。
【図面の簡単な説明】
【図1】提案する直交配列キーボードのホームポジションキーの位置と文字記号キー配列の左右手分担領域を示した文字記号キー配列の平面図である。
【図2】従来の直交配列キーボードのホームポジションキーの位置と機能キーを含めた左右手分担領域を示したキー配列の平面図である。
【図3】直交配列キーボードのホームポジションキーの位置と機能キーを含めた左右手分担領域を示したキー配列の実施例の平面図である。
【図4】直交配列キーボードの左右手分担機能キー列に配置された Ctrl キーの配置状態を示した平面図である。
【図5】直交配列キーボードの文字記号キー配列によるノートパソコンの「テンキーパッド」のキーと Enter キーの位置関係を示した平面図である。