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地震に勝つ住宅・負ける住宅

生活再建と居住安定の支援金に必要な「罹災証明」

 次に、「全壊」「半壊」という言葉が使われる罹災証明について。

 もともと罹災証明は、市町村長が地方自治に基づく住民サービスの一環として行ってきた。たとえば火事を起こした時、火事が起きたことの公的証明として市町村長が発行する。地震などによって電話やガスが止まった場合も、NTTやガス会社に復旧を頼む際には罹災証明を用いていた。税金の減免にも使われる。法律に定められたものではないため、判定方法や証明書の方式など、その発行方法は自治体がそれぞれに決めていた。

 しかし2004年、罹災証明が一層クローズアップされることになる。被災者生活再建支援法が一部改定され、罹災証明の意味付けが大きく変わったのだ。

 1998年に成立した同法は、地震などによって家が全壊した世帯に対し、家財道具の調達などを目的に最高100万円を支給することを定めていた。これに対し、2004年の改定では支援内容を拡大。居住安定支援の経費として全壊世帯に最大200万円を支給できるようにした。大規模半壊世帯では100万円、賃貸入居世帯の場合も70万円を支給する。

 支給の対象となるのは、建て替えや補修にかかわる解体撤去・整地費、住居建設や購入のための借入金関係経費、家賃等、諸経費だ。1998年に定められた家財道具への支援金100万円と合わせると、支給額は最高で300万円まで引き上げられたことになる。

 ちなみに家財道具への支援金(生活再建支援金)は、電子レンジや冷蔵庫、掃除機、洗濯機、電話機やテレビ、衣料、眼鏡などの購入資金を対象としている。

 つまり1998年以前は市町村長による行政サービスだったものが、1998年以降は最高100万円、2004年からは最高300万円の支援金を申請する手続きの添付書類として必要となった。罹災証明の意味や重みがぐんと大きくなったのである。

 繰り返すようだが、応急危険度判定と罹災証明はまったく違うものだ。しかし実際には、応急危険度判定の赤ステッカーが貼られないと支援金をもらえないのではないかと混乱する被災者も多い。判定時の指標が違うということを、改めて認識していただきたいと思う。

 また罹災証明の仕組みにも課題がある。被害の判定方法や、誰が調査するのかという手続きに関しては実はまだ法制度が整備されていない。たとえば罹災証明の判定基準として内閣府の定める「災害に係る住家の被害認定基準」があるものの、その判定は若干難しい。そのため同一市町村間でもあるいは地震被害の生じた隣接市町村間でも被害度の判定にレベル差が生じがちなのだ。

 罹災証明では建物の財産的価値を測るため、市町村の管財部局や総務部局の担当者が判定を実施することが多い。彼らは建築の専門家ではないだけに、建築の被害を判定する難しさもあるだろう。市町村間の判定基準を統一し、職員間のばらつきをなくすために日ごろからの調整や職員のトレーニングが欠かせない。

合理的な復旧を誘導するための「被災度区分判定」

 最後に、復旧のための「被災度区分判定」について。

 被災度区分判定は、阪神・淡路大震災の体験から生まれている。地震後、本格的な復旧が始まったときに、まだ使える建物を壊し、構造的に復旧できない建物を無駄に直すという事態が多発した。こうした経験から、残存する建物の耐震耐力を正確に判定する必要性が指摘されたのだ。

 こうした状況を受け、財団法人日本建築防災協会は木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造といった構造ごとの被災度区分判定の基準を自主的に作成した。さらに日本建築士事務所協会と組み、教習と技術者証の発行、名簿作成を行っている。またこの名簿は応急危険度判定協議会の各都道府県の窓口にも備え付けられ、復旧のための住宅相談の実施などにも役立てられることになっている。

 応急危険度判定は建築士個人を名簿登載するのに対し、被災度区分判定では、建築設計事務所単位で登録する。これは、復旧の設計図面を描く作業は、民間事務所の仕事と判断しているからだ。当然、ボランティアではなく、設計料を伴うビジネスとなる。

 被災度区分判定に沿って建物の継続使用または建て替えを的確に判断できるようにすれば、合理的な復旧が可能になる。過剰な費用の投資も抑えられるはずだ。

 以上が、地震時に行われる3つの被害判定の内容である。

 ただでさえ混乱を生じ、安全や生活への不安が高まる被災者にとって、正確な知識を持つことは大きな力となる。特に、応急危険度判定と罹災証明のための判定は区別しておくことが必要だ。いざという時に一刻も早い生活再建に取り組めるようにするためにも、正しい理解をお願いしたい。

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