今回のクリエイターズファイルのゲストは、『ムーンボール』『ゾーン』『ハイウェイスター』といった作品に携わってこられたマーク・フリントさんです。未だ名作と語り継がれる数多くの作品を手掛けてきた伝説のプログラマー マーク・フリントさん。プログラマーを志したきっかけなど、様々なお話をお聞きしています。それでは、早速お話をお伺いしていきましょう。
マーク・フリント氏: ALUCorpの『バリアント』『ムーンボール』、システムサコムの『ブラウンズラン』『ゾーン』『ハイウェイスター』などの作品や、アンティノスレコード『ガボールスクリーン』、エピック・ソニーレコード『ジェリーボーイ』、セガ『夢見館の物語』などに携わりました。
プログラマーを仕事にと決心したのは、NECがGDCというグラフィックスチップを発表したのがきっかけです。その後GDCはPC9801に搭載されました。 当時、CGは一般の人が作れる環境ではなく、このチップの登場がCGの大衆化を先取りしていました。そういう理由で、PC9801のソフトを数多く作りましたね。家庭用ゲーム機に関わるきっかけになったのはソニー・コンピュータエンタテインメントのプレイステーションと出会ったことです。
前回ご登場いただいた、井上さんとのお付き合いの中で、面白いエピソードなどがありましたらお聞かせ下さい。
マーク・フリント氏: 井上さんとはゲーム音楽の関連で一緒に仕事をさせていただいたことがあります。 井上さんからは音楽がMIDIで完全にソフトコントロール化されても感性が残ること、映像でも同様な状態になると予感させてもらいました。この出会いが、CGは単なるコンピュータ映像ではないと確信して、音源のサンプリングに対応する、3次元計測やモーション計測の開発のきっかけでもあります。
マーク・フリント氏: 一番大きいのはソニー・コンピュータエンタテインメントのプレイステーションに関わったことでしょう。ゲームがCG中心になることはこの頃からほぼ確信していました。 その意味でソニー・コンピュータエンタテインメントは先見の目があったわけですが、ハード主体の考え方が、逆に私のハード全能の考え方を根底から変えてしまいました。物の形状やモーションをコンピュータで取り込むだけでなく理解することが必要だと考えるようになりました。
思い入れが深い作品は『ムーンボール』です。これはピンボールゲームなのですが、プレイのし過ぎから、キーボードの特定のキーの故障が頻発して話題になりました。次に挙げるなら『夢見館の物語』です。この作品は、当時では不可能と思われた全シーンにおけるCG制作を実現しました。
マーク・フリント氏: 名作を1タイトル挙げるのならば、任天堂の『ゼルダの伝説』です。いままでに無かった中毒性を感じました。ゲームがソフトウェア技術中心で無くなったことを痛感させられた作品でもありました。 ちなみに、お気に入りのキャラクタはスーパーファミコンの『ジェリーボーイ』の主人公ジェリーです。人間ではなくスライムにさせられたままの主人公。ペットのような主人公、かわいらしさと悲しさが同居していました。
マーク・フリント氏: 今、一番興味を持っていることは感性を記憶させるのに向いたデータベースの開発です。当然のことですが、入出力にセンサーが必要となります。ですので、人の動きを認識する任天堂のWiiの動向は気になるところです。そしてもう一つ、仮想社会である「セカンドライフ」にも注目しています。これはゲームではありませんがバーチャルリアリティとゲームは同じ範疇(はんちゅう)に入るものと思っています。これから重要になってくるキーワードは「感性のコントロール」だと思います。CGのときに形状やモーションのデジタル化が重要であったのと同じように、仮想社会では感性のデジタル化が不可欠になります。また、同時にそのデータは生きていなくてはなりません。ですので、今日遊んだゲームの中の登場人物が明日も同じではいけないと思います。“人”は同じ事を繰り返すロボットではないのですから。 私はプログラマーです。ただ、私の時代の技術は既に枯れてしまい、実践的なノウハウは殆ど役に立ちません。しかし、プログラマーは一生続けるような気がします。これまで私は、ゲームプログラミング技術の黎明期から成熟期までを見てきました。この流れと共に人生を歩んだ人は非常に少ないはずです。この間に得たニ次的な情報は今でも十分役に立っています。
一番大事なのは、その時代、世代の感性だと思います。ハードは十分に進化したからです。ネット上ではまだ多くの人が文字でのコミュニケーションを基本としています。現実の世界ではこんなことはありません。ネットワークの世界は仮想空間の基盤です。現実世界の地面のような存在です。私達はまだ、仮想世界の文化を作り上げていません。一般に文明より先に文化が存在するのですが、半仮想世界と言っても良い今のネットワーク世界は、文明だけの世界ともいえます。この世界ではおそらく、そこに存在することがゲームであり、そこにいる私はゲームを操作する傍観者から当事者になっているでしょう。
技術ではなく、感性が大切だとおっしゃるマーク・フリントさん。生み出された作品は、進化した技術ではなく、その技術を扱う人の感性によって名作と呼ばれる作品へと昇華されていくのでしょう。まだまだたくさんのお話をお伺いしたいところですが、今回はここまでです。それでは、次回のお友達を紹介していただきましょう。
マーク・フリント氏: CGCGスタジオの山添武さんを紹介します。
数多くの作品のモーションキャプチャーを手掛けてきたCGCGスタジオの山添武さん。一体どのようなお話をお伺いできるのでしょうか、次回もお楽しみに。それではマーク・フリントさん、今回は本当にありがとうございました。
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