金言

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金言:「活魚車」が結ぶ日韓=西川恵

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 竹島(韓国名・独島)問題で日韓がギクシャクしている。しかしナショナリズムをあおる行動と言辞の一方で、両国関係のための地道な努力が関係者によって続けられていることはもっと知られていい。

 「活魚車」をご存じだろうか。魚介類を生きたまま運搬する車(トラック)だ。現在、韓国の活魚車が日本国内に乗り入れできるようにするため、外務省を中心に関係省庁の調整が最終段階にある。

 日本の業者は1970年代から韓国に活魚車を乗り入れてきた。九州からフェリーで釜山に渡り、日本近海でとれた活魚を韓国の業者に売る。イセエビ、アワビ、ナマコなどの活魚は韓国の消費者に人気で、業者は韓国の水産物を積んで戻る。当時、韓国には活魚車はなく、日本の業者の独占だった。現在も韓国には無登録、無税で乗り入れる。

 90年代から韓国でも活魚車をもつ業者が登場し、日本に乗り入れようとした。ところが高い障壁があった。道交法上、日本車として登録し、種々の税金(重量税、自動車税など)を払わねばならない。車庫をもつ必要もある。活魚を降ろすと、すぐUターンして韓国に戻るのにである。

 安全基準、排ガス規制もあった。例えばヘッドライト。日本は左側通行で、対向車がまぶしくないよう車の右側ヘッドライトは下向きでなければならない。しかし右側通行の韓国は逆だ。また韓国車には側面に巻き込み防止器がなく、排ガスも測定方法が異なるなど、国内法を満たさない事項が数多くあった。

 日本の活魚車は認めているのに、日本は国内法を盾に韓国車を締め出していると、韓国政府は00年代初めから善処を求めてきたが、法務、国土交通、経済産業、財務、総務など8省庁にまたがる問題だけに難航。しかしこの3年、調整役の外務省を中心に複雑に絡む糸を一つ一つほぐしてきた。

 ヘッドライトは欧州を参考にした。英国と欧州大陸もレーンが逆で、行き来する時は偏光ステッカーをヘッドライトに貼る。実験すると光が十分下向きになることが分かった。排ガス基準は韓国のものを認める。韓国の活魚車は日本車として登録するが、税金は軽減措置をとる。実態を重視して車庫も求めない。

 日本乗り入れを望む韓国の業者は約10社。規模は大きくないが、韓国政府は日韓自由貿易協定(FTA)交渉再開に向けた日本の“やる気度”を測る象徴的案件とみてきた。日本側は残る安全基準の細部を確認して承認するが、両国に必要なのはこうした実務レベルの努力と、「日韓関係を後退させない」との政治意思である。(専門編集委員)

毎日新聞 2011年8月12日 東京朝刊

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