宮城県東松島市大曲浜のノリ養殖業者の女性たちでつくる「のり工房 矢本」が、津波に襲われながらも奇跡的に残ったノリの販売を始めている。「地元の品を送って、『ありがとう』の気持ちを伝えたい」と、被災者が震災の見舞い返しとして買い求めるなど人気を呼んでいる。
大曲浜のノリは今年まで6年連続で皇室に献上する特産品だが、津波で漁船や施設が壊滅した。工房の代表、津田清美さん(52)は「みんなで手にした『献上ノリ』の看板を養殖再開の日まで忘れられないように」との思いを込める。
工房は昨年6月、一家でノリ養殖を営む津田さんと阿部美知江さん(52)が設立した。厳選した風味豊かな上級品を塩ノリや焼きノリにして直販。夫や息子が丹精込めたノリを新鮮なうちに消費者に届けられるのが喜びだった。
津田さんの夫千家穂(ちかお)さん(50)は1月の品評会で優勝。「献上ノリ」の栄誉を手にした直後に、漁船や養殖施設、自宅を流された。「もうノリの仕事は終わりかなあ」。清美さんはそう思っていた。
4月上旬。石巻市のノリ業者から連絡が入った。「流されたうちの車に津田さんのノリがあった」。ワゴン車に積み重なるがれきを撤去し、段ボール箱を開けると、加工を依頼していた4万枚のノリが無傷で残っていたという。更に、この業者の倉庫の2階部分が浸水を免れ、大曲浜産のノリ15万枚も残っていた。
のり工房が、このノリを元手に5月から本格的に販売を再開するとうわさが広まった。震災後も手に入る数少ない東松島の特産品とあって、震災の見舞い返しや中元品として地元住民を中心に注文が殺到。救援活動に来た北海道、東京、埼玉といった自治体職員やボランティアも、震災支援イベントでの販売用などに購入してくれている。
今、千家穂さんや後継ぎの三男大(ひろし)さん(24)はノリ養殖の早期再開を目指し、仲間と必死に沖合のがれき撤去などを続けている。
津田さんは「いつまで手持ちのノリが続くか分からないが、復興に向け頑張っているお父さんたちを応援したい」と話す。問い合わせは、同市の特産品を扱うアンテナショップ「まちんど」(0225・83・3391)。【竹内良和】
毎日新聞 2011年8月12日 10時34分(最終更新 8月12日 12時17分)