侍の国と呼ばれていた時代が遠い昔となってしまい、今の江戸の町は事実上「天人」と呼ばれる異星人によって支配されているのが現状である。
そのため今のこの国の有り様に不満を募らす連中、「攘夷浪士」と呼ばれる奴等なんかが現れてしまった。
「攘夷浪士」は「天人」からこの国を救うというお題目の元で行動を行っており、過激な連中なんかはテロ行為も辞さない危険な連中だ。
そんな奴等から江戸の治安を守るために彼等、武装警察「真選組」という組織は存在している。
軸足に重点を置き、体が前屈みにならないようにしてラケットを構える。
その時に体へ余計な力が入らないように意識する事が重要である、変に力を入れてしまうとシャトルへ力が伝わりにくいのだ。
頭の中でシャトルの軌道をイメージして最適な位置へ来た瞬間に一閃、何千・何万と繰り返し素振りしてきた完璧なフォームよりラケットが振り下ろさせる。
手応えとともにラケットが風を切る鋭い音とが聞こえ、見事にシャトルが相手コートに叩きつけられるイメージが自然と浮かぶようだ。
「よし、今日も絶好調!」
「何が絶好調だァァ!!」
「痛っ!?」
武装警察「真選組」の拠点である屯所内で何故かミントンの素振りをしていた男が、不意に背後から頭を小突かれてしまいうめき声をあげた。
制服から真選組の関係者と解る彼は余程ミントンに集中していたのか、自分と同じ制服を着た人間が背後から怒りの表情で近づいてくるのを気付けなかったらしい。
「痛ってー、一体誰が…。 ふ、副長!?」
誰が自分に不意打ちを与えたのか後ろを振り返って確認した所、それが自分の上司である土方十四郎と理解した男は怯えた声を漏らした。
実は過去にも仕事中にミントンをやってた事が原因で土方に折檻を与えられ、散々な目にあった経験を持つ彼は咄嗟に言い訳を始める。
「い、いや…副長!? これはけっして遊んでいた訳ではなく、次の任務に備えて緊張感を維持をするためにミントンを行なっていただけで…」
「くだらねー言い訳をしてるんじゃねぇ! いいから俺に着いて来い、お前がミントンをしながら備えていたらしい次の任務をして貰うぞ」
「は、はい!?」
ミントンをしていた男は鬼の副長とも呼ばれる真選組ナンバー2の土方には頭が上がらないらしく、彼の一喝によって驚き竦んでしまうのだった。
「潜入捜査ですか?」
「そうだ、お前には今日からこの美術館に潜り込んで貰う。何でもその美術館を襲う計画を、何処ぞの攘夷浪士が企てているらしいんでな」
先ほどまで勤務中にも関わらずミントンをしていた男、真選組の監察方(密偵)に就いている山崎退は上司の土方から新たな任務を言い渡されていた。
彼に取って攘夷浪士の中に潜り込んで計画を阻止する仕事は朝飯前なのだが、どうも今回の仕事内容を聞いて違和感を持つ事になる。
「はー、攘夷浪士がですか。 奴等が美術館なんかにどんな用が有るのか…、もしかしてその美術館には天人が絡んでるのでは?」
攘夷浪士は江戸の町を支配している天人を強く敵視している、もしその美術館に天人と繋がりが有るのなら襲撃の計画があってもおかしくは無いと山崎は考えた。
しかしその推測は土方によってバッサリと否定されてしまう。
「いや、その可能性は低いだろ。その美術館は鴻上ファウンデーションが経営しているからな」
「えっ、鴻上ファウンデーションってあの財団の…」
鴻上ファウンデーション、それは近年に突然力を付けた謎の巨大財団である。
未だに全貌が掴めていない存在だが少なくとも「天人」との繋がりについて噂される事は今のところ無く、攘夷浪士達がテロのターゲットとして選ぶ可能性は極めて低いと考えてもよいだろう。
「でも、天人が絡んで無いなら何で美術館なんかに…」
「それが解らないからお前に探って貰うんだろうが! 頼んだぞ、山崎!!」
「了解です、副長!!」
こうして土方の命を受けた山崎は、鴻上ファウンデーションが経営するという美術館へ潜入を開始した。
(はー。もう潜入してもう二週間になるけど、全くの収穫無しかー)
鴻上ファウンデーションが経営する美術館に警備員として潜入した山崎は、美術館の内部から調査を開始し始めていた。
攘夷浪士達が狙う程の物なのだから美術館を装って武器等の保管庫でも有るのかと推測してみたが、色々と内部を探って見ても此処に有るのは訳の解らない美術品だけである。
この二週間で美術館について一通り調べ尽くしたが不振な点は何も見付からず、山崎の潜入捜査は早くも手詰まりの状態になっていた。
(ヤバイ、マジで手詰まりになってきた!? もう一層、此処に襲ってくる攘夷浪士達を捕まえた方が早いんじゃ…)
捜査が行き詰まり追い詰められた山崎は、事件を未然に防ぐ事を諦めるという警察に有るまじき考えを脳裏に掠めてしまう。
しかし彼の危険な思考は、同じ警備員の服装を着た男に声を掛けられる事で止められた。
「どうしたんですか、山崎さん。そんなに難しい顔をして?」
「ああ、火野くん。 いや、ちょっとウトウトしちゃってね…」
この美術館で警備員のアルバイトをしている火野映司に声を掛けられた山崎、どうやら良からぬ考えが顔にも出ていたらしく彼に不審に思われたらしい。
「駄目ですよ、眠っちゃたら。 俺達は今日の夜勤当番なんですから」
「はっはっは、それもそうだね…」
深夜の時間帯にあたる現在、山崎は火野とともに美術館の夜間警備を行っている。
よくよく考えてみればこの時間には自分を含めた数名の警備員しか美術館に居ないため、攘夷浪士達が押し入る絶好の機会と言えるだろう。
(まずい、これは気を引き締めないとな)
攘夷浪士達の意図は結局解らなかったが、真選組として最低でも此処を守らなければならない。
自分に課せられた使命を再確認した山崎は、改めて自分の任務を全うする事を決意するのだった。
「…それでその前の上司が横暴でさー! 何につけても言葉と一緒に手が出てくるんだよ!!」
「へー、それは大変でしたね…」
先ほどの無駄な決意から数十分後、眠気覚ましに興じ始めた火野との雑談が盛り上がってしまった山崎はすっかり自分の任務を忘れていた。
「いやー、今でもあの上司の事は夢に見るよ。全く、仕事中にミントンぐらい許してくれてもいいじゃんかよ!?」
「し、仕事中にミントンはまずいんじゃないですか…」
火野の朗らかな人柄につい気が緩んでしまった山崎は、思いっきり愚痴を始めた。
勿論、彼の言う前の上司というのはあの鬼の副長である事は言うまでもない。
「本当、火野くんが羨ましいよ。火野くんは世界中を旅してるんでしょ?」
「はい、このバイトも次の旅の資金を集めるためにやっています」
聞く所によるとこの火野という青年は、世界を放浪してい回っていると言う。
本来なら警察官として定職も持たずにフラフラする青年を止めるべきなのだが、今の環境に不満が溜まりっ放しの山崎には彼の自由さがとても輝いて見えていた。
「いいよなー、旅! 俺も何処か他の場所へ旅立って、こんな面倒な仕事から開放されたいよ…」
「いやー、そうとも限らないですよ、山崎さん」
「えっ!?」
山崎の逃避願望をやんわりと否定して火野は、何かを思い出しているのか何処か遠くを見つめたような視線で語りだした。
「俺も色々とそこら中を見て回ってきましたが、解った事がひとつだけ有るんです」
「解った事って、一体どんな事が?」
「結局、何処に行っても楽園なんて物は存在しない。皆それなりに苦労して生きていました…」
楽して助かる命が無いのは何処も一緒ですよ、そう言葉を締めて火野は山崎を励ます。
「はー、やっぱりそうだよな。楽して助かる命は無いのは何処も一緒ねー…」
火野の言葉には世界中を回った経験が活きているのか奇妙な説得力が有り、現実の厳しさを教えられて落ち込む山崎であった。
「ぐーがー」
「うーん、土方のアホーー…」
その後、話し疲れた山崎と火野は夜間警備を忘れて眠ってしまった。
この間に同僚の警備員に成りすましていた攘夷浪士達が美術品を盗難しようとしていた事、そして美術品の一つに封印されていた欲望の化身「グリード」と呼ばれる怪人たちが目覚めた事に気付かぬまま…。
「んー、もう朝か? …なんじゃこりゃァァァァァ!!」
警備員の控え室で熟睡していた山崎は、顔の辺りに仄かな陽の光を浴びたに事よって目が覚めたようだ。
彼は起き抜けでハッキリと頭が動かない状態のまま辺りを見回し、そこで控え室の壁が盛大に大穴が開けられて外が丸見えになっている事に気付く。
異常な光景を目の当たりにして脳が漸く活動を始めた山崎は状況を把握するために急いで外に飛び出し、美術館がボロボロに荒れ果てた現状に驚愕の声を轟かせるのだった。
「えっ、マジ!? 俺が寝ている間に攘夷浪士達が美術館を滅茶苦茶にしちゃったのかー!!」
正確には美術館へ盗難に入った攘夷浪士のちょっかいによって目覚めたグリード達が暴れた事が原因なのだが、勿論暢気に眠りこけていた山崎が知る筈も無い。
「ヤバイ、これはマジでヤバイぞ…。この事か副長にバレたら、職務放棄とみなされて問答無用で斬られる!?」
この美術館を襲う計画を建てていた攘夷浪士達を探る筈がまんまも出し抜かれてしまい、しかも事件中に自分は眠っていたという不始末である。
このままでは確実に行われるであろう鬼の副長の制裁を逃れるため、山崎は混乱中の脳をフル回転して必死に考えた。
「どうする、どうするー! はっ、そうだ、俺が一人で犯人を捕まえればいいんだ」
考慮の末に惨事を引き起こした犯人を自分が捕まえれば、きっと失敗は帳消しされて自分は助かるのではと山崎は思い至たる。
しかし名案風に言ってはみても常識的に考えて今から犯人を捕まる事は容易で無いのだが、テンパリ中の彼にはそこまで気が回らない。
「よーし、そうと決まったら早速犯人を追っかけないとな!! …あれ、何か蹴飛ばしたか?」
彼は方針が決まったとその場から駆け出すが、しかし足元かから金属を弾いた音を聞こえて思わず足を止める。
どうやら駆け出した拍子に何かを蹴飛ばしたらしく、山崎は自分の蹴った物が気になったのか足元に視線を降ろした。
するとそこには鳥の紋様が描かれた赤いメダルが落ちているではないか、思わずそのメダルを拾った山崎はそれを繁々と眺め回す。
「これは…、何かのメダルか? …あ、こんな事をしている場合じゃ無い!?」
自分が危機的状況に瀕している事に気づいた山崎は、拾ったメダルをポケットに入れてそのまま駆け出した。
とある路地裏で明らかに人と異なる造形の存在、封印より目覚めた3体グリード達は苛立っていた。
「どういう事だ、何故俺のコアメダルが足りない!!」
体中のあちこちに昆虫の特徴を持つ緑色の怪人、ウヴァが自分の激情のままに叫ぶ。
しかしウヴァの下半身は上半身の意匠と比べ、何故か貧相な姿をしていた。
「メズール、何処だー」
他のグリードたちの比べて一回り巨大な下半身を持つ銀色の怪人、ガメルは何かを求めるように視線を彷徨わせる。
ガメルの上半身も下半身のそれと違い、貧弱な造形になっていた。
「コアメダルの在処なら解るよ、どうやらあいつが持っていったらしい」
全体的に猫科のイメージを思わす姿をした怪人、カザリがウヴァの疑問に答えた。
ウヴァの体も他と同じように、上半身が貧しい物となっている。
「何、あいつがか!? くそっ、姿が見えないと思ったらそんな真似をしてたのか…」
「本当、よくやるよね。コアを殆ど失った状態で復活した癖に…」
彼らグリードと呼ばれる存在は、コアメダルと呼ばれる9枚のメダルによって構成されている。
しかし美術館にあった石碑による800年間の封印から開放された時、グリード達は自分たちのコアメダルが何枚か欠けている事に気づいた。
そのため体の一部が不完全な状態、「セルメン」と呼ばれる姿で復活をしてしまったのだ。
「くそっ、コアメダルを取り返してやるぞ!!」
自分のコアメダルを取り戻すため、グリードの内の一体であるウヴァが動き出した。
山崎は当ても無く江戸を彷徨い、美術館を襲ったであろう攘夷浪士達を探し続けていた。
普通に考えて事件を起こした犯人が街中をうろついている訳が無いのだが、自分の命が掛かっている山崎はその事に気付けない。
「はぁ、はぁ…。くそっ、何処にも見当たらないぞ…」
「きゃっ!?」
「えっ、あの声は?」
走り疲れて息が切れた山崎は思わず立ち止まってしまう、そしてその場で息を整えた始めた彼の耳に何処からか悲鳴を聞こえてきた。
市民を守る真選組の一員である山崎は体の疲労を忘れたかのように、すぐさま悲鳴の聞こえた方向へ走り出す。
「何だあれ、新種の天人か!?」
悲鳴が聞こえた現場に辿り着いた山崎は、そこで少女に襲い掛かる謎の怪人を目撃する。
青い服を着た15・6歳くらいの少女が何かに苦しむように蹲りながら、カマキリを擬人化したような怪人と何かを話しているようだ。
「…くっ、ウヴァのヤミーか?」
「何故コアメダルを奪い、我々から離れたのだ? アンクなら兎も角、お前がそのような行動に出るとはな…」
「ふん、所詮グリードは欲望の化身よ。 こんな状態では、カザリ辺りにカモにされるのが目に見えていたからね」
「まあ理由などどうでもいい、コアメダルを返して貰うぞ」
己のコアメダルを取り戻すためにウヴァによって生み出された緑色の怪人、カマキリヤミーが少女に今にも襲い掛かろうとしていた。
その光景を目の当たりしていた山崎は、事情が解らないが少女を守るために怪人に向かって駆け出す。
「止めろ、婦女暴行の罪で逮捕する!!」
「がっ!?」
カマキリヤミーは少女の方に意識を集中していたため、運良く気づかれずに接近できた山崎は不意打ちを与えたられたが…。
「何だお前は!!」
「へっ、効いてないのかよ? うわぁーーーーーー!?」
いくら奇襲を掛けられたとは言え、人を大きく上回る強大な力を持つヤミーには余り有効なダメージを与えられなかったようだ。
こちらに気付いたカマキリヤミーから逆に反撃を喰らってしまい、山崎はあっさりと返り討ちにあってしまう。
「何なのよ、貴方は?」
「安心しろ、俺は警察だ! 此処は俺が引き受けるから、君は早く逃げるんだ!!」
突然の乱入者に驚く少女に、ヤミーから受けたダメージを圧して立ち上がった山崎は逃げるように指示をする。
そのまま少女を追い掛けようとするカマキリヤミーに対して、彼はは再び立ち向かうのだった。
「邪魔をするなー!!」
「ぐへぁーーーーーー!?」
力の差は歴然なのに関わらず、山崎はボロボロになりながらカマキリヤミーに立ち向かい続けた。
見ず知らずの自分に何故そこまで肩入れるするのか理解出来ない少女は、やがて謎の乱入者の正体にこう結論を付ける。
「…何だ、ただの馬鹿か」
「ちょっと待て!? 君のピンチに颯爽と現れた俺に対して、馬鹿呼ばわりとはどういう事だァァ!!」
身を挺して少女を守り続ける自分に対してのあんまりな評価に、山崎は目の前に入るヤミーの存在を忘れて思わず抗議を入れてしまう。
しかしその行動が原因で山崎の隙を逃さなかったカマキリヤミーから、手痛い一撃をまともに喰らう事になった。
「いい加減にしろー!!」
「ぐげェェ!?」
「あ、あれは!? ……もうこの手しか無いようね」
自分の邪魔をし続けるのが余程目障りだったのか、怒りを込めたカマキリヤミーの攻撃を受けて山崎は吹き飛ばされてしまう。
その衝撃で山崎のズボンから先ほど拾った赤いメダルが零れ落ちてしまい、それを見た少女は驚きを露にした。
そして地面に落ちた赤いメダルを拾い上げた少女は、そのままダメージを受けて蹲る山崎の側まで近付いて来る。
「君は…、逃げろって言ったじゃないか!!」
「ねえ、貴方。 名前は何て言うのかしら?」
「えっ…、山崎 退だけど…」
「そう、サガルね…」
此処から避難するように忠告する言葉を遮って少女が自分の名前を尋ねてきたため、山崎は咄嗟に己の名前を告げる。
少女は教えて貰った山崎の名前を噛み締めるように呟きながら、何処からか長方形の形をした物体を取り出した。
「サガル、貴方の勇気には感心したわ!」
「いやっ!? さっき君に馬鹿呼ばわりされたばっかりなんだけど…」
突然少女から自分に対しての評価が正反対にとなり、彼女の手のひら返しに山崎は思わず突っ込んでしまう。
少女は山崎の戸惑いを無視して、この場を潜り抜けるある秘策を提案した。
「あのヤミーは強力よ、このままでは私たちは二人ともやられてしまうわ」
そう言いながら少女は手に持った物体を山崎の腰に近づけると、外面を石膏のような物質で凸凹に覆われた長方形型のそれは光りだした。
すると光と共に表面部を覆っていた物が弾け飛び、本来の姿を取り戻したオーズドライバーが山崎の腰に巻きつく。
「うわっ、何だこれは!?」
「そ、それは、封印の…」
突然少女によって訳の解らない物を腰に巻かれた山崎と、そのベルトを見たカマキリヤミーは驚きの声をあげた。
「ふっふっふ、私が持っていたのはコアメダルだけじゃ無かったのよ!」
「おい、これは一体…」
「サガル、私たちが生き残るには奴を倒すしかないわ!!」
少女の謎の行動に山崎は疑問を示すが、それに意に介さず彼女は先ほど拾った赤いメダルを含む三枚のメダルを手渡す。
目の前に差し出されたメダルを受け取った山崎は、それぞれ鷹・虎・飛蝗の紋様が絵が描かれた赤・黄・緑のそれを目に入れた。
「メダルが三枚、此処に嵌めこむのよ! そうすれば力が手に入るわ!!」
「力が…?」
「乗せられるな!? その力を使えばただでは済まないぞ!!」
よく見たら自分の腰に巻かれたベルトのバックルにあたる部分には、少女が差し出した3枚のメダルが丁度入るようになっている。
そうして少女に言われるがままメダルを嵌めようとした山崎だが、カマキリヤミーの静止の声を聞いて手を止めてしまった。
「おい、あのカマキリ野郎が滅茶苦茶焦った声で止めたぞ!? このメダルってそんなにヤバイのか?」
「多少のリスクが何よ、このまま私と共倒れをしたいの?」
「やっぱりリスクがあるんじゃねーかよォォォ!?」
「早くしなさい、サガル! 変身するのよ!!」
「止せーーーーーー!?」
攘夷浪士を追っていたら何故か怪人と戦う嵌めになり、終いには助けた少女に変身しろと命令される。
何で俺がこんな目に遭うんだと現実逃避しかけた山崎だが、ふと昨晩に聞いた火野の言葉が脳裏に過ぎった。
その言葉に後押しされて覚悟を決めったらしい山崎は、少女に向かって意味有りげな笑みを浮かべながらカマキリヤミーの前に立ち向かう。
「な、何なのよ…」
「いや、ちょっとした事を思い出してね…」
山崎は景気付けに自分が今朝拾った赤いメダルを天高く弾いた、かんだかい金属音を鳴らしながらメダルが空を舞う。
そして重力に引かれて落ちてきたメダルを再びキャッチした山崎は、決意とともに火野から受けた言葉を口に出していた。
「楽して助かる命が無いのは何処も一緒か…、確かにその通りかもな!!」
その言葉とともに、ベルトのバックル部にそれぞれ鷹・虎・飛蝗の意匠をした3枚のメダルを嵌めこむ。
嵌んだ勢いでベルトのバックル部分、オーズテドラルが自然に斜めに傾いた。
「これを使いなさい!!」
山崎がメダルをセットした事を確認した少女は駆け寄りベルトの腰部分に接続されていた円形の物体、オースキャナーを差し出す。
少女から受け取ったオースキャナーを手に持った山崎は、バックルに嵌め込まれた3枚のメダルの上をなぞる様に滑らした。
"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。
オースキャナーが3枚のコアメダル上を通るとともに高らかな金属音が鳴り響く、その音を聞きながら山崎は自然と呟いていた。
「…変身っ」
"タカッ!"、"トラッ!"、"バッタッーー!!"。
"タットッバッ!"、"タトバッ!"、"タットッバッーー!!"。
何処からか聞こえてきた歌とともに、山崎の体が光に包まれる。
そして次の瞬間、山崎の姿は「仮面ライダーOOO」へと変わっていた。
「何だ、あの歌は!? タカ・トラ・バッタって一体…」
「歌は気にしなくていいわ、それはオーズ。 それならあのヤミーに勝てるわ!!」
「気にするなって言っても…、うわ!? 何か体も変わっているぞ!!」
山崎は突然聞こえてきた歌や、光とともに自分の姿が変わっている事に心底驚いていた。
頭部は赤い鳥の紋様に緑の複眼が、上半身は黄色く腕に虎の爪のような物が備わり、下半身は緑色となっている。
そして胸部には上から腰に嵌めたコアメダルと同じように、鷹・虎・飛蝗を模った文様が描かれていた。
「くっそー、コアメダルを渡せーーー!!」
「うわぁ!?」
山崎がオーズへと変身した事に戸惑っている隙を狙い、カマキリヤミーがオーズに向かって攻めかかってきた。
カマキリヤミーが腕の部分に備わる鋭い鎌を振り下ろしてくるのを見た山崎は、咄嗟にその鎌の柄に当たる部分を両腕を受け止めた。
「…へっ?」
「くっそーー!?」
先ほどまでの自分ならあっさり吹き飛ばされている筈だったが、今の山崎は余裕でヤミーの力を受け止める事が出来た。
凄まじい衝撃を覚悟していた山崎は、予想以上にあっさりとヤミーの攻撃を防げた事に思わず気の抜けた声を出してしまう。
そうしてそのまま自分の腕に付いている虎の爪のような物で斬りかかり、今までのお返しにとヤミーに反撃を与えた。
「おおー、スゲー! 力が溢れてきた!!」
「ぐはっ!?」
山崎はついさっきまで殺されかけていた事が嘘のように、今度は連続で蹴りを浴びせていきながらヤミーを圧倒する。
その攻撃に思わずよろけるカマキリヤミーだったが、まだ余力が有るらしく攻撃の間隙に腕の鎌で斬りかかってきた。
「図に乗るなーーー!!」
「だーーっ!?」
ふとした拍子に攻守が逆転してしまい、山崎はヤミーの攻撃にまた防戦一方になってしまう。
カマキリヤミーの猛攻にたじろぐ姿を見た少女は、流れを変えるためにもう一枚のメダルを取り出した。
「サガル、これを使いなさい!!」
「えっ?」
山崎に緑色のメダルを投げ渡す少女、それを受け取った山崎は虎のメダルと交換して再びオースキャナーを滑らす。
"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。
"タカッ!"、"カマキリッ!"、"バッタッーー!!"。
オースキャナーが再びコアメダル上に滑らされた事により、さっきとは少し違う歌が響き渡りながら山崎の体が光に包まれる。
光が止むと彼の姿は虎のような黄色い爪が無くなり、代わりにカマキリヤミーと同じような緑色の鎌が備わっていた。
「ええーーー、また姿が変わったーーー!!」
「まだメダルかあったのか!? くそっ、コアメダルを渡せーー!!」
またカマキリヤミーが鎌で山崎に襲い掛かってくる、しかし山崎は逆に自分の手に備わる鎌でカマキリヤミーを切り裂いていく。
山崎の斬撃によってカマキリヤミーの体が切り裂かれていき、それに合わせて傷口から灰色のメダルが零れ落ちた。
「せいっ! せいっっ!!」
「くっ……」
ダメージが蓄積されてその場に倒れるヤミーの姿に、山崎は止めを刺そうと腕の鎌に力を溜めていく。
そして気合の雄叫びとともにカマキリヤミーに飛び掛り、両腕の鎌を振るって全力の一撃を繰り出した
「はーーーー、せいやーーーーーーー!!」
「ぐわぁーーーーーー!?」
渾身の攻撃を受けたカマキリヤミーは、爆発して自分の体を構成していたメダルがばら撒かれた。
「えっ、あのカマキリ野郎はメダルで出来ていたのか? …ていうか正当防衛とは言え、天人を殺害しちゃったよーー、俺!?」
もしあの天人が何らかの大物だったら、確実に外交問題に発展してしまう。
そうなれば自分は確実に責任を取らなければならず、もしかしたら自身だけでなく真選組全体にもとばっちりが掛かるかもしれない。
「どうすんの、俺!? どうするーーーーーー!!」
「……やっぱり唯の馬鹿ね」
最悪の想像に悶える山崎の狂態を眺めて、少女は辛辣な発言をするのであった。