敦賀市白木地区。
夏は関西や東海地方から、家族連れが海水浴などに足を運ぶ。
美しい砂浜は、間近に高速増殖炉「もんじゅ」を臨む。

<マル調>
「失礼します」
白木の歴史を知る人物を訪ねた。
20歳の時から地元の出来事を記録し続けてきた橋本昭三さん、82歳。
60年以上ほぼ毎日書き続けた3万5,000枚を超える手記。

まさに白木の歴史そのものだ。
<橋本昭三さん>
「これは『もんじゅ』の事故の時のことやね」
「平成七年十二月八日十一時頃、就寝中の小生宅に電話がかかってきた」「もんじゅ発電所からも連絡が入り、間もなく報告にお宅まで寄せていただくとの連絡があった」(手記)
手記には16年前の事故の一報を受けたときの状況が、克明に記されている。
<橋本昭三さん>
「『もんじゅ』は1,000枚、2,000枚じゃないでしょ、『もんじゅ』に関係したものは。2,000枚も3,000枚もあるんと違うかな、『もんじゅ』だけの問題でも。この辺の生活状況を変えたから。特に、昔からこの村始まって以来の問題やね、『もんじゅ』がここに来たということは」
橋本さんは「もんじゅ」建設が決まった1970年当時、ここ白木の区長だった。
わずか15戸、70人ほどの小さな漁師町は「もんじゅ」により様相が一変した。
今では跡取りの多くが「もんじゅ」をはじめ原発関連の仕事に従事している。
<橋本昭三さん>
「今のところ雇用面でも大きなことですから。それが話も何もなしにね、いきなり止めるとなると、雇用の問題やら就職の問題やら大問題になると思うんですわな。地元の者は皆、再開を望んでいると思う」
白木の住民にとって、事故で休止中の「もんじゅ」の運転再開は悲願だ。
ところが…
<菅直人首相・8月8日>
「『原発依存』の中には使用済み燃料をどうするか、『再処理』や『もんじゅ』のことも含まれている」
8日、「脱原発依存」を掲げる、菅総理から飛び出した「脱もんじゅ」ともとれる発言。
状況は厳しさを増す。
そもそも「もんじゅ」は、使用済み核燃料を使って半永久的に発電できる「夢の原子炉」として1994年に運転開始した研究用の炉だ。
ところが翌95年、ナトリウム漏れ事故を起こし停止。
去年15年ぶりに運転を再開したものの、その3か月後に炉内の部品が落下する事故が起こり、再び運転休止に追い込まれている。
そこへ、福島の事故。
脱原発の流れが強まる中、「再開中止」の噂は絶えない。
<橋本昭三さん>
「安易に『脱原発、脱原発』という人が多いですけど、そんなら今、日本に原子力がなかったらどうするのか。今まで地元の福井の人が一生懸命、電力需要に協力してきたのを踏みにじるようなものの言い方は避けてほしいと思う」
地元の敦賀市長も、あくまで「もんじゅ」の開発継続を訴える。
<敦賀市 河瀬一治市長>
「当面、原子力っていうものが私はまだ必要であろうと思っていますので。そうなりますと、『もんじゅ』についても研究をここですべて終わっていくというのは非常にもったいないといいますか、残念であるなと思います。できれば研究の灯は消さないほうがいいなと思っています」
しかし、「マル調」が取材を進めると、「もんじゅ」から地元政界への、ある資金の流れが浮かび上がってきた。
<マル調>
「それぞれ38万円分のパーティー券の購入があったことが記されています」
<敦賀市 河瀬一治市長>
「当面、原子力っていうものが私はまだ必要であろうと思っていますので」
福島原発事故で、もんじゅの運転再開が危ぶまれる中、必要性を強調する敦賀市長。
「マル調」は福井県選挙管理委員会を訪れ、市長の政治資金について調べることにした。
入手したのは河瀬敦賀市長の政治資金管理団体の収支報告書。

政治資金パーティーの収入内訳についても記載されている。
「マル調」はこのうち、2つの会社に注目した。
<マル調>
「『高速炉技術サービス』と『TAS』、それぞれ38万円分のパーティー券の購入があったことが記されています」
「高速炉技術サービス」と「TAS」、この2社は2000年から2008年の間に河瀬市長のパーティー券282万円分を購入していた。
実はこの2社、「もんじゅ」とは密接な関係があった。
「高速炉技術サービス」。
業務内容は「もんじゅ」の保守作業のほか食堂や清掃業務にもおよび、収入の8割は
「もんじゅ」を運営する「原子力機構」から。
最近まで大半の業務を随意契約で請け負っていた。
社長は「原子力機構」出身で、「もんじゅ」の開発部長も勤めていた、いわば「もんじゅ」の「ファミリー企業」だ。
もう一つの「TAS」も同様に、売上の大部分を機構からの発注が占め、社長は「もんじゅ」の元所長代理だ。
つまり、河瀬市長は「もんじゅ」の「ファミリー企業」からパーティー券購入という形で「政治資金」を受けていたことになる。
長年、原発被曝者の支援を通じ、反原発運動を続けてきた中嶌哲演さんはこう指摘する。
<若狭で反原発運動を続ける 中嶌哲演さん>
「『もんじゅ』自体、国策として強力に推進されてきた事業。それを順調に敦賀市や福井県が受け入れてやってくれることを大いに期待して、お金の面でもテコ入れをしたという面があろうかと思う」
「もんじゅ」再開の最終判断は市長に委ねられているが、このカネの流れが判断に影響を及ぼす心配はないのだろうか。
<敦賀市 河瀬一治市長>
「いや、まったくございません。地元企業ですから、皆さんが法律に則って応援してくれただけのこと。それはそれ、それくらいがあったくらいで、そんな大きな安全の判断が変わることは一切ない」
<マル調>
「今後も政治資金パーティーが行われて、同じように『ファミリー企業』からの購入あった場合は?」
<敦賀市 河瀬一治市長>
「こちらからはお願いしないが、仮に応援しますよというのがあれば、正々堂々と受け取っていきたいと思います」

単なる地元企業で問題ないという。
しかし、2社がパーティー券を購入していたのは河瀬市長に留まらない。
福井県の西川知事の支援団体からもパーティー券を購入していた。
「マル調」は知事に取材を申し込んだが断られたため、岐阜県で公務を終えた西川知事を直撃した。
<マル調>
「高速炉の開発という意味では、基本的に推進の立場?」
<福井県 西川一誠知事>
「核燃料サイクルをきっちり議論することが基本になると思いますから。それを政府の責任といいますか、国家プロジェクトでしっかり進めてほしい」
<マル調>
「『もんじゅ』の『ファミリー企業』からパーティー券の購入を受けていましたが?」
<福井県 西川一誠知事>
「それはちょっともう…」
<マル調>
「判断に影響は?」
<福井県 西川一誠知事>
「関係ないですよ」
<マル調>
「今後、同じような購入があった場合は?」
<福井県 西川一誠知事>
「・・・・」

西川知事からは、明確な回答は得られなかった。
パーティー券購入問題に限らず、「もんじゅ」と「もんじゅ」の地元自治体の長は密接な関係にある。
核燃料サイクル自体の存続が検討される中、私たちは今後も原子力施設と地元自治体の関係をチェックしていく必要がある。
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