もう8年前になる。03年8月、「政党のお客さん」と題して、以下のようなコラムを書いたことがある。
政権交代すると具体的に何が変わるのか。それは政党の「主たるお客」が変わることだ。自民党の主たるお客は業界や団体。長く続けば既得権益となって癒着が生まれ、政策は偏りがちになる。では、民主党は誰をお客にするのか。それがよく分からない……。
政権交代しても世の中180度変わるわけではないし、逆にそんなに激変してもらっても困る。でも、お客、つまり政策の優先順位が多少なりとも変わる意味は決して小さくない。当時、そんな話を繰り返し書いたものだ。
民主党の子ども手当は、その優先順位を少し変える政策だと思っていた。長い間、この国の政治はお年寄りを大事にしてきた。だが、今後は若い世代をもっと大切にしないと少子化に歯止めがかからず、日本はじり貧になる。世論調査をみると今も評判は悪いようだが、「裕福な家の子どもも、そうでない子どもも等しく社会全体で育てる。だから手当支給に所得制限は設けない」という考え方には「若い世代全体を優遇する」というメッセージが込められていると思ってきた。
勝手な思い込みだったかもしれぬ。与野党の駆け引きの末、子ども手当は廃止され旧政権以来の児童手当を拡充し復活させることになった。既に民主党が所得制限に同意した時点で「子ども」も「児童」も中身はほとんど変わらなくなっていた。理念も何もどこかへ消えてしまったというほかない。
マニフェストの変更はあって当然だと思う。でも財源に限りがあるのは最初から分かっていたことだ。民主党が当初約束した「月額2万6000円」を本当に実現させるのであれば、例えば高齢者向けの施策の支出を減らすくらいの覚悟が必要だったし、それこそが政権交代の意義だったはずだ。
ところが、どの世代にもいい顔をしたいから負担増は言い出せない。で、一昨年の総選挙前「政権交代すればいくらでも財源が出てくる」と言い張って財源確保の作業をサボった。民主党は改めて深く反省すべきである。
「徹底的に無駄の削減を」と言いながら、さして切り込めなかった鳩山由紀夫前首相が「政権交代の原点が失われる」と批判する姿はもはや滑稽(こっけい)。国会はやっと動き出す気配だが、いいかげんな公約と与野党のメンツ争いに翻弄(ほんろう)される子育て世代はもっと怒っていい。(論説副委員長)
毎日新聞 2011年8月10日 東京夕刊
8月10日 | 若い世代はもっと怒れば=与良正男 |
8月3日 | 通る法案、通らぬ法案=与良正男 |
7月27日 | 実は「菅続投」を望む自民党?=与良正男 |
7月20日 | 「私の考え」はいけないか=与良正男 |
7月13日 | ボランティアの闘いも続く=与良正男 |