フランス・ルールマラン(Lourmarin)の墓地にあるアルベール・カミュ(Albert Camus)の墓(2009年11月21日撮影)。(c)AFP/ANNE-CHRISTINE POUJOULAT
【8月10日 AFP】1960年に自動車事故により46歳の若さで亡くなったフランスの小説家、アルベール・カミュ(Albert Camus)は、旧ソ連の秘密警察に暗殺されたのかもしれないとする論文が8日、イタリアの日刊紙コリエレ・デラ・セラ(Corriere della Sera)に掲載された。
論文は東欧を専門とするイタリアの学者、ジョバンニ・カテッリ(Giovanni Catelli)氏が執筆したもの。根拠とするのは、チェコの詩人Jan Zabranaが生前に書き残し、書籍化された日記だ。問題とされるのは、イタリア語版では削除された箇所。原文は次のように書かれているという。
「わたしは、多くを知り、確かな情報源も持っている男から、非常に奇妙な話を聞いた」「彼はこう言った。1960年にアルベール・カミュの命を奪った自動車事故は、ソ連のスパイが仕組んだものだと。特定の速度になるとタイヤをパンクさせる装置を仕掛けて、タイヤを破裂させたそうだ」
カテッリ氏は、「男」とは当時のソ連国家保安委員会(KGB)の関係者であったと見ている。
では、なぜカミュの命が狙われたのか。カテッリ氏は、カミュが1957年にフランスの雑誌に発表した記事が当時のドミトリー・シェピーロフ(Dmitri Shepilov)ソ連外相を激怒させ、外相本人から殺害指示が出されたと考えている。記事の中でカミュは、前年のハンガリー動乱でソ連軍を武力介入させる決定を下したとして、同外相を名指しで非難していた。
■懐疑論続々
映画「007」を彷彿とさせるこのシナリオには、多くの専門家が首をひねっている。フランスの哲学者でカミュの伝記を執筆中のミシェル・オンフレ(Michel Onfray)氏は、AFPに、「そうは思えないね。KGBがカミュを消すとしたら、別のやり方をとるんじゃないかな」と語った。
同氏は、カミュは死亡時、クリスマス休暇を家族とパリ(Paris)で過ごすため、自宅のあるプロバンス(Provence)とパリ間の往復券を所持していたことも指摘した。
カミュは直前になって、出版社ガリマール(Gallimard)のミシェル・ガリマール(Michel Gallimard)夫人が運転する車で向かうことに同意したという。
車は凍結した道路を通行中に木に激突し、カミュは帰らぬ人となった。オンフレイ氏は、夫人の車ファセルベガ(Facel Vega)はタイヤが路面を捉える力が特に優れていたわけではなかったと付け加えた。
チェコの首都プラハ(Prague)にある政府の組織「Institute for the Study of Totalitarian Regimes(全体主義政権研究所)」のVojtech Ripka氏も、カテッリ氏の説には懐疑的だ。「いずれにせよ、(カテッリ氏の説を)実証するのは不可能でしょうね。ロシアは旧ソ連の秘密警察に関する情報を極秘扱いにしていますから」(c)AFP
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