インタビュー急接近

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急接近:藤村靖之さん 節電を単なるブームにしないためには?

 <KEY PERSON INTERVIEW>

 ◇経済成長以外の幸せを--非電化工房代表・藤村靖之さん(66)

 発明家で非電化工房代表の藤村靖之さんは長年にわたり「電気に頼りすぎない生活」を提唱してきた。しかし、今の電力供給量不足に対応する「節電」の大合唱には、「このままでは単なる“節電ブーム”に終わってしまう」と危機感を募らせている。【聞き手・鈴木敬吾】

 --東京電力福島第1原発事故をどう受け止めましたか。

 ◆ ずっと健康と環境をテーマに活動してきたので、原子力発電には当初から反対でした。40年以上、反原発の活動を続けてきて、事故を食い止められなかったことに、心身ともに打ちのめされてしまい、アメリカ先住民族の長老が、征服者の白人のやり方について語ったという言葉が思い浮かびました。

 「人間が最後の木を切ったとき、最後の川を汚してしまったとき、そして最後の魚を焼いてしまったとき、やっとそのことに気づくだろう、お金は食べられないということを」

 もちろん、私たちには木も川も魚も残されてはいますが、気持ちとしては、「最後」に等しかった。いや、対応次第では、本当に「最後」になってしまうかもしれないと思っています。

 --「非電化」への取り組みを教えてください。

 ◆ 元々企業の研究所で、コージェネレーション(熱電併給)やガスヒートポンプの研究をしていました。それなりの成果もあげ、賞もいただきましたが、83年、結婚して4年後に授かった長男にぜんそくが出てしまったことが転機でした。調べると、日本の子どもにはアレルギーの発症が非常に高かった。なぜだろうと、さらに調べてたどり着いたのが、環境です。高度成長が環境と子どもを犠牲にして成し遂げられたことに気づき、“企業戦士”だった私は猛反省しました。会社を辞め、子どもの安全と環境をテーマにした発明、事業化に取り組みました。

 21世紀に入り、「グローバリズム」と「電脳化」がセットになって、世界を席巻するようになりました。アフリカやモンゴルのような国の人たちが「私たちは不幸だ」と言い始めるようになった。理由は「経済成長がないから」です。だから貧しいのだと。先進国は、果てしのない経済競争の末に何が待っているのかを承知していながら、経済成長を“指導”しています。そのアンチテーゼとして、提唱したのが「非電化」です。冷蔵庫やテレビなどが豊かさの象徴のアフリカやモンゴルの人に、電気エネルギーに依存しなくても幸せになる方法、別の選択肢を提示したかったのです。

 --具体的には。

 ◆ モンゴルでは羊の肉を貯蔵するために、放射冷却を利用した屋外設置型の非電化冷蔵庫を開発し、ナイジェリアでは、政府の要請を受けて、現地のオレンジをジュースに加工する非電化工場を提案しました。

 しかし、電化製品の恩恵を最も受けている日本人にこそ必要な方法だと気付き、塩化カルシウムを含ませたろ紙を利用した除湿機や、掃除機、もみすり機、懐中電灯、ひげそり機などの非電化製品を開発し、システムを提案しています。

 --節電の動きは「非電化」の考えにつながりませんか。

 ◆ 電気エネルギーに過度に依存した社会への疑問、反省が生まれるのは基本的にはいいことだと考えていましたが、日がたつにつれて、単なる節電ブームになってしまったと感じています。エネルギー構造のあり方を、社会のあり方を、どう転換していくかという議論は消え、夏をどう乗り切るかの低次元の話にすり替わってしまった。

 夏を乗り切った後で、「ああ、夏はつらかった。やはり電気は大切。電気がないと不幸せだ」と多くの人が感じるでしょう。それでいいのか、です。

 アインシュタインは「ある問題を引き起こしたのと同じマインドセット(心の枠組み)のままで、その問題を解決することはできない」と言っていたそうです。現在の電力消費量が不可欠だと前提にしている限り、根本の問題は解決しません。

 ◇電気を使わずに楽しく

 --しかし電力消費量を落とせば、経済成長は止まります。

 ◆ 経済成長がなければ、GDP(国内総生産)が大きくなければ、本当に幸せでないのでしょうか? 支出が少なければ、収入も少なくていいのです。国が考えるべきは、個々の収入の大きさではなく、全体の雇用でしょう。

 でも、それを言い始めると社会システムの議論になってしまう。「非電化」が提唱するのは社会システムの変革ではなく、ライフスタイルの提案です。

 「非電化」は「否電化」ではありません。電気を否定するのではなく、電気を使うのがあまりに当たり前になりすぎていることを、あえて電気を使わずに楽しくやってみようという呼びかけです。例えば、ほうきや圧力鍋など、昔からあるものを見直してみればいいでしょう。もちろん、電化製品の快適便利さには及びもつきませんし、手足や技を使うことも多くなるでしょう。でも、動くことの楽しさもあるでしょうし、健康をもたらすかもしれません。近所の人との共同作業が増えて、ぬくもりのある人間関係が築けるかもしれません。貧しい昔に戻るのではなく、新しい豊かさを実現するための選択肢の一つとして考えてほしいのです。

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 ■ことば

 ◇非電化工房

 栃木県那須町にアトリエがあり、生活機器のほか、もみ殻を断熱材に使い、エアコン不要というもみ殻ハウス、バイオトイレなど展示。予約制の見学会を開いている。那須の子どもたちを放射能汚染から守る活動にも取り組んでいる。情報はホームページ(「非電化工房」で検索)で。

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 ■人物略歴

 ◇ふじむら・やすゆき

 大阪大大学院博士課程修了。工学博士。コマツ熱工学研究室長、カンキョー社長などを経て、非電化工房代表、日本大工学部客員教授。科学技術庁長官賞、発明功労賞のほか、今年度の大同生命地域研究特別賞を受賞。

毎日新聞 2011年7月23日 東京朝刊

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