菅直人首相が国会であらためて退陣を明言した。民主、自民、公明の三党が主要政策見直しで合意し、公債発行特例法案の成立が確実になったためだ。一方で、与野党の違いが見えなくなった。
自民、公明両党は子ども手当など民主党の主要政策をばらまき4Kと批判し、見直しを公債特例法案に賛成する条件にしていた。
民主党は三党協議で子ども手当に所得制限を導入する一方、高速道路無料化は二〇一二年度予算案に計上せず、高校授業料無償化と農家への戸別所得補償も見直しを約束した。
菅首相は退陣条件に挙げた二次補正予算に続いて公債特例と再生可能エネルギー法案も月内に成立見通しとなって、さすがに観念したのだろう、国会で「(成立なら)総理の職を辞する」と語り、退陣をあらためて約束した。
六月以来、首相が本当に退陣するかどうかが政治の最大の焦点になっていた。この間、東日本大震災の復旧・復興をめざす本格的な政策や予算の議論はなく、東京電力福島第一原発事故の被災者救済も十分に進まなかった。
退陣への道筋が決まり、これ以上の政治空白を回避できるなら、ひとまず妥協を歓迎したい。
一方で、今回の合意は新たな問題を呼び起こす。民主党が主要政策を撤回し、野党第一党の自民、第二党の公明両党と妥協するなら、与野党の違いは一体、どこにあるのかという基本的問題だ。
子ども手当は民主党の看板政策だった。民主党は実現するために「予算組み替えで財源を生み出す」と約束し、〇九年総選挙で圧勝した。その仕掛けが「脱官僚・政治主導」という旗だった。
ところが脱官僚に失敗し、財源を捻出できなかった。今回、政策見直しに追い込まれた根本の原因はそこにある。民主党が一〇年参院選に敗北した一因でもある。
党の綱領がない民主党は「脱官僚」という旗と子ども手当などの政策が党を束ねる柱になっていた。旗と政策を失った民主党は「自民党とどこが違うのか」と問われても仕方がない。
合意を受けて次の三次補正と一二年度予算案は事実上、自民、公明両党と共同で編成する流れになる。重要課題である増税と脱原発・エネルギー政策で三党執行部が同じ路線を歩むなら、その先にあるのは大連立ではないか。
ポスト菅政権がどうなるか。ここは重要な政治の節目である。
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