友人有志70余人で、上方落語のホープである桂吉坊を招き、噺を2席聴いたあと、立食パーティーで歓談するという会を28日、都内でやった。
吉坊は、その名の通り童顔だが、8月で30歳を迎える。1999年、桂吉朝(故人)に弟子入り。その後、大師匠にあたる人間国宝・桂米朝のもとで3年間の内弟子をみっちり務めた。歌舞伎や文楽が好きで、よく勉強している。この日の演目「七段目」は芝居好きのスカタンな若旦那が主人公。もうひとつはドケチすぎる男が笑わせる「始末の極意」。歌舞伎役者になりきったり、ケチ自慢を飄々と語ったり、硬軟のメリハリに富み、容姿の若々しさが吹き飛んだ。
さらに感心したのが、まくら。
小松左京さんが亡くなって数時間後の高座だったが、いまどきの落語家はツイッターもフェイスブックも使いこなす。吉坊も、すぐにこのホットな訃報をネタにした。
「小松左京先生は、大変に落語を愛されていて、『地獄八景亡者戯』を『これはSFや!』とおっしゃっていた。大師匠の米朝とは50年来の仲で毎年、米朝独演会にも来られてました」
このあとが面白い。
ある年の独演会に小松さんの姿がなかった。
「死んだんと違うか」
「ンなアホな…」
楽屋でそんな冗談が交わされ、理由を聞けば、「自分の入れ歯に噛まれた」と小松さん。
「胸ポケットに入れ歯を入れてた時に、こけはって、それで噛まれたらしい。先生ご自身がSFでした」
客がドッと笑う。落語好きの小松さんらしい、いい話だ。普通の若手にこんな噺はできないだろう。
2年前には、『桂吉坊がきく藝』(朝日新聞出版)というスゴイ対談本を出している。
登場するのが、小沢昭一、茂山千作、市川團十郎、竹本住大夫、立川談志、喜味こいし、宝生閑、坂田藤十郎、伊東四朗、そして米朝−。東西の第一人者に、かわいがられながら見事にエピソードを引き出している。芸が伴った耳年増なのだ。
■中本裕己 夕刊フジ芸能デスク。昨年の“目劇”数はコンサート110本、映画33本、落語会12本、舞台11本。まだまだ修業が足りない。