国内通信第2位のKDDIが狙われている。東京電力が保有するKDDI株の処分に政府・民主党が介入、国際競争入札による売却の検討に入ったというのだ。中国政府の後押しを受けて世界中の主要企業に買収攻勢をかけている中国企業などが高値での落札に乗り出し、将来的に日本の「通信主権」が脅かされる懸念もある深刻な事態だ。さらに政府は、“虎の子”のNTT株売却まで視野に入れているという。民主党政権の売国的なたくらみをジャーナリストの町田徹氏が暴く。
東京電力が売却方針を表明しているKDDI株は35万7541株で、発行済み株式総数の7・97%に相当する。東電が売却した株式を全株取得すれば、第3位の大株主に躍り出ることができる数だ。売却の狙いは、福島第1、第2原子力発電所の損害賠償の原資に充てることだ。
東電がKDDI株を保有しているのは、通信業からの撤退を模索した際に、系列通信会社をKDDIに吸収合併してもらった経緯が存在するためだ。
通常、こうした友好関係にある企業が、保有しているパートナー企業の株式を手放す場合、まず保有会社(この場合は東電)が、株式の発行企業(KDDI)に自社株を買い戻す意向がないか打診したり、譲渡先に関する希望がないかを確認するのが常識的な対応とされる。
ところが関係者によると、今回は未曾有の事故によって東電が当事者能力を失っていることから、政府・民主党がこの売却問題に介入。民間企業同士の常識を無視して、少しでも多くの売却原資を獲得しようと、競争入札に付すことを検討しているという。
KDDIのような大手企業の株が今回のような形で、まとまった規模で売却されるのは、それほど頻繁にあることではない。保有株式が発行済み株式総数の1%を超えると、株主総会での議題の提案権が得られるほか、同じく3%を超えると臨時株主総会の開催請求権や帳簿の閲覧権も獲得できることから、投資妙味は大きくなってくる。
加えて、もうひとつ大きな問題がある。実は、KDDIの大株主(上位10社)に名を連ねている安定株主は、京セラ、トヨタ自動車、東京電力、日本郵政共済組合の4社だけ。そして、この4社の保有株にKDDIが保有している自己株を加えた割合は33・48%に過ぎないのだ。仮に、友好的でない企業が東電保有のKDDI株を取得すると、KDDIは、安定株主が一致団結しても、全体の3分の1を必要とする拒否権を行使できなくなってしまう事情がある。
換言すれば、東電保有のKDDI株の行方は、わが国第2位の通信会社が防衛策を失い、敵対的な買収から逃れられない危機を呼ぶ端緒になりかねない。
一見すると売却収入を増やすために効果的に見える入札だが、このことが及ぼす副作用の大きさは計り知れないのだ。
取り返しのつかない失策を避けるため、政府・民主党のような“経済の素人”は株式売却問題に介入するのを自重すべきである。