2011年8月10日10時41分
短髪にジャケット姿で、イケメンの輪の中に飛び込む――。この夏、テレビドラマに女優の男装姿が目立っている。宝塚歌劇団の男役はじめ男装は珍しくもないが、なぜ、同時期にかくも集中したのだろう。
「桜蘭高校ホスト部」(TBS系)は良家の子女が集まる学校に特待生として入った「庶民」の女子高校生が、ひょんなことでホスト部に入部。イケメン男子に交じり、奮闘する。
累計1200万部以上売れた少女マンガが原作。「あり得ない設定な分、おもしろさを突き詰められる」と話すのは番組の演出兼プロデューサーの韓哲さん。10〜20代の若い女性を視聴者層に意識している。
ほかに「花ざかりの君たちへ〜イケメンパラダイス」(フジ系)、「美男(イケメン)ですね」(TBS系)も主人公が男装。また、仲間由紀恵が女性であることを隠して宦官(かんがん)を演じる「テンペスト」(BSプレミアム)、福田沙紀と剛力彩芽が性別のはっきりしない高校生を演じる「IS」(東京系)と、性別の設定にひとひねり加えたドラマもある。
■若い女性視聴者を意識
ある民放関係者は「(男装モノは)若い女性が好む多くの男優を配役できるのが魅力」と打ち明ける。女性が男性になりきるおもしろさより、イケメンの「大バーゲン」で視聴者をひきつけるわけだ。
確かに番組ホームページの人物相関図を見ると「美男ですね」には3人の男性バンドメンバーが、「桜蘭高校」は7人の男子高生が、「イケメン」では10人の男子高生が主人公を取り巻いている。
「多くの魅力的な男性を一度に見たいという『はしたない』とまで言える女性の欲望が、あけすけに表現される時代になったのではないか」。赤川学東京大准教授(社会学)は男装ドラマを、そう分析する。
一方、男装ラッシュの遠因を2003年の「ウォーターボーイズ」(フジ系)にみるのがテレビ評論家の丸山タケシさんだ。
00年代に入り、連続ドラマの低調ぶりがはっきりするなか、「ドラマを見ないとされていた10代がテレビにかじりついた」のが同ドラマという。男子シンクロという設定のほか、数多い若い男優陣が若い女性視聴者をひきつけた。「花より男子」(05年、TBS系)などが続き、「男装モノはウォーターボーイズ手法の最終形」と丸山さんは断言する。
ただ、肝心の視聴率は芳しくない。深夜枠の「桜蘭高校」は前クールと同水準だが、「美男」は初回と2回に10%を超えて以降は7〜8%台、「イケメン」も10%超の初回以外は5〜7%台と低迷している。
理由について丸山さんは「イケメンたちが貧相だ」と指摘。近年の韓国ドラマ人気で韓国俳優とも比較され、「視聴者をひきつけられていない」と手厳しい。
一方、女優の男装と言っても、「理想の男性」を描いて、女性を魅了する宝塚の男役とは異なる、と指摘するのは心理学者の小倉千加子さん。「どうみても女性にしかみえない。男と女の差を再確認させるものだ」と話す。
テレビ番組で「ブスのくせに」と言いたい放題なのは女装キャラで、ドラマで目立つのは男装キャラ。結局、普通のカッコで視聴者を引きつけられる若い演じ手が減ったというということか。(高久潤)
◆視聴率はビデオリサーチ調べ(関東地区)。