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小松左京さんが残してくれたもの:毎小掲載のインタビューより

2011年8月 5日

作家、小松左京さんが先月26日、80歳で亡くなった。代々の先輩記者が何度となくその戸をたたき、原稿や談話をお願いしてきた。昨年夏、小松作品が久々に文庫化されたのをきっかけに取材を重ね、私が図らずも最後の担当記者となった。毎日小学生新聞には、次代へのメッセージ(7月16日、23日、30日掲載)も残してくれた。毎小に掲載された小松さんのインタビューを再録するとともに、取材報告をしたい。【鶴谷真】

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 「いろんなことを調べてきたけど、今度の地震の、特に津波の映像はショックだったね。津波がああやって押し寄せ、しかもあんなに破壊力があるとは......。夢に出てきて、寝小便をしそうになるほどの、ショックでした」

 「日本の国土はこれまで揺るぎないと言われてきたけど、そんなことはない。われわれはいかに危うい国土で暮らしているか、ということを改めて肝に銘じるべきですね。ただ、今回の映像は貴重で、津波を知らない世界の人々には大きな警告になる。津波被害を少なくするためのキャンペーンに生かすべきです」

 「日本は必ず立ち直りますよ。自信を持っていい」

 ◇人間としての哲学と美学を伝えねば--作家の原点

 「SFの発想の原点は、やっぱり、戦争じゃないかな」

 「あれがボクの原風景ですね。最初に書いた小説『地には平和を』は、もしあの戦争が終わらなかったらどうなっていたんだろう、という設定でした。そのことで、戦争というものの愚かさを伝えたかった。戦後の日本が世界に誇っていい最大のもの、それは平和主義です。ただ、その状況の中で長く暮らしていると、平和のありがたさが分からなくなってくる。これは危険なことでもあるんです」

 「大人は子どもに何を伝えるべきなのか。私は、人間としての、しっかりとした哲学と美学を伝えるべきだと思うね。少子高齢化が進む中で、子どもはまさに国の財産なんだ。日本が国際社会から沈没しないために、子どもにどんな良質な栄養を与えるか、が大切になっているんだよ」

 ◇好きなことこそ学問--子どもたちへ

 「面白いと思うことなら、何でもいい。読むなり、調べるなり、研究するなり。好きな道をやってみることだね。有名な学校、大学に行くことだけが学問ではない。本当の学問とは、自分の好きなことを一生懸命やることだと思いますよ。ボクの場合、最初はマンガだったけど、それでもいい。子どもは、やりたいことをやりなさい。親は黙ってみてあげてなさい」<このインタビューは5月に行いました。聞き手は森忠彦・毎日小学生新聞編集長>

 ◇核兵器への怒り、無限の想像力

 1974(昭和49)年生まれの私は、小松さんの全盛期を知らない。黒縁眼鏡の小太りの姿をテレビで見た記憶も曖昧だ。95年の阪神大震災以降はメディアから遠のいていた。

 昨年夏、400万部超の社会現象となった「日本沈没」を初めて読んで驚いた。痛快なエンターテインメントだろうと思っていたのだが、何と暗く悲しい音調に満ちていることか。巨大地震が相次いで列島が沈降、日本人が国土を失って流浪の民となっていく様が切々と描かれる。刊行されたのは73年。高度経済成長が鈍化し、公害や資源不足などへの不安が強まったころだ。「日本沈没」の作品世界を暗鬱で重苦しいと感じた私こそ、白々した世界を能天気に生きていたのだろう。

 今年2月、小松さんの箴言(しんげん)集「宇宙にとって人間とは何か」(PHP新書)のインタビューで初めてご本人にお会いした。やせ細っていたが、タイトルの意味を問うとはっきり答えた。「やっぱり核兵器だ。原爆ね。あれはホントに、使い方ひとつ間違うと人類、生命体が滅びる。そんな人間を、宇宙はどう思っているんだ、と。僕ね、SF書いたのはね、日本に原爆落ちたからなんだよね」。今、福島の原発事故を思わずにはいられない。

 遺稿は、SF作家ら26人の文章を集めて今月下旬に刊行される「3・11の未来 日本・SF・創造力」(作品社)に寄せた序文だ。編集者の福田隆雄さん(35)によると、若きSF作家たちに対して「事実の検証と想像力をフル稼働させ、次の世代の文明に新たなメッセージを」と期待している。小松さんによる最後の校正の赤が入った原稿が福田さんの元に届いたのは7月19日。そして小松さんは逝った。

 秘書の乙部順子さん(61)が語る小松さんの最期の日は楽しげだ。「近親者が『銀座カンカン娘』を歌うと、小松さんも口を動かした。大好きだった日本酒を脱脂綿に含ませて口に近づけると、力強くチューチュー吸った。そして、未完の大作『虚無回廊』の主人公と同じく、新宇宙の探索に旅立った。いつかまた会えると信じています」

 宇宙の果てまで飛んだ小松さんの想像力。それは、私たちのすぐ足元に口を開ける暗い穴を見つめ続けたから生まれたと私は思う。

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