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■絶対的価値と格闘した「ガキ大将」
先月80歳で死去した作家、小松左京。日本にSFを広めた開拓者だった。その姿を、ともに歩んだ作家、眉村卓(76)に聞き、作品に魅入られた同時代の記憶とともに振り返った。
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小松さんがいなければ、日本にSFは広まらなかった。いわゆる「SF第一世代」の代表的存在だった。星新一が先駆者として道を拓(ひら)き、小松左京が万能ブルドーザーで地をならし、口笛を吹きながら筒井康隆がスポーツカーを飛ばしている、とも言われた。
SFをどう広めるのか。「SF戦士」と表現されたけれど、小松さんは常に格闘していた。作品は本格派。「小松流のSF」があって、宇宙や文明とは何かを考える作品を書いた。
小松さんの以前には、そんな作品を書く人は日本にいなかった。『2001年宇宙の旅』を書いた英国人作家のアーサー・C・クラークの流れなのだと思う。
代表作は、新種のウイルスが蔓延(まんえん)する『復活の日』だろう。ウイルスが広まった後の世界がどうなるのか徹底して調べていて、執筆中に「1週間で研究状況が変わるから困る」と言っていたのを覚えている。読んだ時に自分も新種のウイルスにかかっている気がして、ひやっとした。リアリティーがあって、状況が目に浮かぶ。ストーリーテリングは抜群だった。
そして人間を絶対視せずに、ヒューマニズムのエゴを描こうとした。3500年後の人類を描いた『神への長い道』は、厳しい人類の未来を描き「ハートがない」と意見した人もいたけれども、小松さんが自分の信念を貫いた作品だった。
やはり戦争体験が大きかったのだろう。小松さんは旧制中学、旧制三高の出身。体制がひっくり返るのを目の当たりにした。だから絶対的価値が永続すると思わなかったのだと思う。