これは富士銀行赤坂支店の中村稔という課長が、富士の架空預金通帳を地上げ屋に渡して、ノンバンクなどから総額7000億円以上をだまし取った事件である。彼が逮捕される直前にインタビューしたのだが、そこには有名な政治家の名前がたくさん出ていた(橋本龍太郎の秘書がからんでいたのは公知の事実)。
一課長が7000億円もの預金証書を偽造したというのもすごいが、大阪ではイトマン事件では5000億円が闇に消え、尾上縫が総額2兆7000億円という想像を絶する詐欺事件を起こした(ぜんぶ私が取材した)。もちろんバブルはよくないのだが、「あのころの元気はすごかったよね」と赤坂の飲み屋で思い出話をした。
大きなイノベーションが生まれるときは、たいていバブルが起きる。19世紀の鉄道や電話に始まって、コンピュータもインターネットもバブルを起こし、崩壊した。それで損をした人も多かったが、経済全体としては投資が集まって、メリットのほうが大きい。タレブもいうように、バブルはイノベーションの生みの親なのだ。
日本でも90年代末にITバブルが起き、サイバーエージェントやオン・ザ・エッヂ(現ライブドア)や楽天は、このとき調達した巨額の資金を使って成長した。他のほとんどの会社は怪しげな擬陽性(false positive)だったが、それによる経済的打撃は少なかった。彼らの資金調達がほとんど元本を保証しない株式で行なわれたからだ。
他方、ライブドアや村上ファンドが刑事事件でつぶされて経済が萎縮し、有望なプロジェクトが育たない擬陰性(false negative)が増えた。設備投資の少ないソフトウェア産業では、擬陽性のコストは大したことがないが、擬陰性の機会費用は大きい。「アニマル・スピリッツ」が失われ、投資不足が慢性的に続いていることが不況の最大の原因だ。
いわば日本全体が逆バブルに入った状態(ゲーム理論でいう「協調の失敗」)が続いているのだが、経済学が正しいとすれば、これを崩壊させる方法はいくつかある。その一つは、経済を攪乱して突然変異を増やすことだ。つまり擬陽性を意識的に増やすのだ。日銀が国債を大量に引き受けてハイパーインフレを起こすのも、逆バブルを崩壊させる方法としてはあるかもしれない――もちろんリスクも大きいが。
一課長が7000億円もの預金証書を偽造したというのもすごいが、大阪ではイトマン事件では5000億円が闇に消え、尾上縫が総額2兆7000億円という想像を絶する詐欺事件を起こした(ぜんぶ私が取材した)。もちろんバブルはよくないのだが、「あのころの元気はすごかったよね」と赤坂の飲み屋で思い出話をした。
大きなイノベーションが生まれるときは、たいていバブルが起きる。19世紀の鉄道や電話に始まって、コンピュータもインターネットもバブルを起こし、崩壊した。それで損をした人も多かったが、経済全体としては投資が集まって、メリットのほうが大きい。タレブもいうように、バブルはイノベーションの生みの親なのだ。
日本でも90年代末にITバブルが起き、サイバーエージェントやオン・ザ・エッヂ(現ライブドア)や楽天は、このとき調達した巨額の資金を使って成長した。他のほとんどの会社は怪しげな擬陽性(false positive)だったが、それによる経済的打撃は少なかった。彼らの資金調達がほとんど元本を保証しない株式で行なわれたからだ。
他方、ライブドアや村上ファンドが刑事事件でつぶされて経済が萎縮し、有望なプロジェクトが育たない擬陰性(false negative)が増えた。設備投資の少ないソフトウェア産業では、擬陽性のコストは大したことがないが、擬陰性の機会費用は大きい。「アニマル・スピリッツ」が失われ、投資不足が慢性的に続いていることが不況の最大の原因だ。
いわば日本全体が逆バブルに入った状態(ゲーム理論でいう「協調の失敗」)が続いているのだが、経済学が正しいとすれば、これを崩壊させる方法はいくつかある。その一つは、経済を攪乱して突然変異を増やすことだ。つまり擬陽性を意識的に増やすのだ。日銀が国債を大量に引き受けてハイパーインフレを起こすのも、逆バブルを崩壊させる方法としてはあるかもしれない――もちろんリスクも大きいが。