熊本市のいわゆる「赤ちゃんポスト」に交通事故で親を亡くした3歳のおいを預けた男が、おいに入った生命保険金など6000万円を着服したとして、埼玉県警から書類送検された事件で、男は、保険金をギャンブルなどに使い、「おいが小さいので世話に困って赤ちゃんポストに預けた」と話していることが、警察への取材で分かりました。
書類送検されたのは埼玉県熊谷市に住んでいた49歳の男です。警察の調べによりますと、男は、平成16年に交通事故で母親を亡くして身寄りのなかったおいを預かりましたが、平成18年に未成年後見人の立場を悪用し、おいの口座に入った母親の生命保険金などおよそ6000万円を着服したとして、業務上横領の疑いで書類送検されました。男は保険金が下りたその日に全額を引き出し、おいを連れて全国を転々としながら保険金をギャンブルや生活費などに充てていたということです。しかし、おいの世話を始めて3年がたった平成19年に、熊本市の病院に赤ちゃんポストが出来た直後、偽名を使って当時3歳のおいを預け、その後、行方が分からなくなっていました。預けられた当時、男の子の健康に問題はなかったということです。調べに対して男は「ギャンブルを続けるなか、子どもが小さいので世話に困っていた。赤ちゃんポストが出来たことを知って預けた」などと話しているということです。男はことし5月に愛知県内の警察署に出頭し、「東日本大震災で被災者が苦労しているなか、自責の念に駆られた」と話しているということです。
いわゆる「赤ちゃんポスト」を設置している熊本市の民間病院「慈恵病院」の蓮田太二理事長は、事件を受けて記者会見し、「子どもを預けた人の人格は非常に残念だが、自分の手元に置いておくより預けたほうが子どもにとってよいという思いがあったなら、預けていただいて非常によかったと思う」と述べました。そのうえで「子どもが預けられる背景はひとくくりにできない。あれはだめ、これはだめという風に決めてしまうのでは、救える命も救えない」と述べました。また、今後の運用については「事件は社会全体の問題であり、施設の運用を変えるつもりは全くない。匿名で預けられるというシステムは、預けに来る人のために絶対に必要だ」と話していました。一方、「赤ちゃんポスト」の状況を定期的に検証している熊本市の幸山政史市長は「事実であれば本来の趣旨に大きく反することであり、非常に残念なことだ。市として詳細な調査をしたうえで、専門部会で新たに検証をする必要がある」と話しました。また、匿名で預けられるというシステムについては「匿名性が事件につながったのかどうか、調査する必要があるが、今回の事例だけではいいか悪いかという判断はできない」と話しました。