2011年6月10日 21時40分 更新:6月10日 23時57分
関西電力は10日、夏の電力不足に備え、7月1日~9月22日の平日午前9時~午後8時、企業や家庭に昨夏のピーク需要に比べ15%程度の節電を要請すると発表した。これまで東京電力などに余剰電力を送る電力融通をしていたが、要請期間中はやめることも表明した。東電福島第1原発事故を受け、管内でも定期検査中の原発の運転再開が見通せないため。東日本大震災後に生産などの「西日本シフト」を進めてきた企業には困惑が広がっている。【野原大輔、谷多由、竹地広憲】
「電力不足で西日本の経済が落ち込めば、震災の復興、日本経済に大きな影響を与える」。海江田万里経済産業相は10日、関電管内の需給逼迫(ひっぱく)に強い懸念を示したうえ、原発の立地自治体に、定検中の原発の早期運転再開に理解を求めた。
関電は、福井県内に11基を保有。うち5基の営業運転を福井県が了承せず、再開は見通せない。さらに関電は今回、夏のピーク需要の想定を、猛暑だった昨夏と同じ3138万キロワットに上方修正。供給力は2938万キロワットで、6.4%不足の見通しとなった。
関電の需給逼迫で、西日本の電力会社から103万キロワット分の電力融通をあてにしていた東電の供給計画も揺らぎ始めた。東電は当初、中部電力からの融通を期待したが、浜岡原発停止で取りやめに。大型火力の復旧などで7月末に5520万キロワットの供給力を確保する見通しだが、ピーク需要6000万キロワットに及ばず、夏の15%の電力使用制限などで何とか帳尻を合わせたばかり。ところが、関電からの融通も中止となり、東電は「今後の融通を精査し、供給力を見極める」と動揺を隠せない。夏場に東電から140万キロワットの融通を受ける東北電力の需給に影響する懸念も出てきた。
全国で夏場の運転再開が見込まれた約15基の扱いは、いずれも宙に浮いている。北陸電力は志賀原発停止で供給不足に陥りかねない。九州電力は6月末以降、節電要請の有無を判断する。中国電力を除けば、他社に融通する余裕はなく、「各社にドミノ的な電力不足が生じかねない」(関係筋)。
経産省幹部らは5月から、立地自治体を訪れ、再稼働への理解を求めた。今月9日には九州電力玄海原発の地元、佐賀県で説明。安全性を説明し運転再開を求めたが、県会議員から「安全を議論する場で再開を求めるとはバカにしている」などの批判が出た。
耐震性への懸念が指摘された浜岡原発の停止と引き換えに、他の原発の運転継続をもくろんだ菅直人首相と海江田氏。だが、自治体の懸念は強く、来夏までに国内の商業炉54基の全面停止になりかねないとの指摘も出ている。
関電の節電要請で、大震災に伴う電力不足に備えて生産などの西日本シフトを進めた企業に困惑が広がった。九州電力や北陸電力など夏場の供給力に不安が残る他社が追随する可能性もあり、各社は対策の検討を始めた。
「東電の節電の時に比べ、時間的な余裕がない」。半導体大手ルネサスエレクトロニクスの赤尾泰社長は10日、苦渋の表情を浮かべた。同社は茨城県の半導体工場が被災。震災や電力不足などのリスク分散を目的に、滋賀県の工場に製造ラインを新設すると決めたところだった。
工場には、停止すると再稼働に時間がかかる設備もあるが、関電の節電要請で滋賀県の電力供給も不安定になれば、生産計画が揺らぎかねない。東電管内の夏の電力使用制限の場合は被災から4カ月程度の時間があったが、関電の節電までは1カ月もない。赤尾社長は「特例措置などを検討してほしいのだが」と頭を抱える。
アサヒビールは兵庫県西宮市と大阪府吹田市の工場で生産量の27%をまかなう。西宮工場は8月末に閉鎖予定だったが、震災後に閉鎖の1年先送りを決定。被災した福島工場(福島県本宮市)の再開が9月以降にずれ込み、夏場は西宮など福島を除く8工場のフル稼働で対応する。だが節電要請で、見通しが一気に不透明になった。
関西の電機大手は主力工場への影響が懸念される。シャープは、液晶パネルを生産する主力工場が堺市にあり、「半導体や液晶パネルなど24時間稼働の工場は除外してもらいたい」。パナソニックは兵庫県・尼崎工場でプラズマテレビのパネルを生産。4月以降、全国の工場で休日や夜間への勤務シフトを検討しており、節電につなげる。
関西経済連合会の森詳介会長(関電会長)は10日、経産省で海江田経産相と会談。「一日も早く(原発を)稼働し、節電要請を取り消せる状況になってほしい」と述べた。