2011年6月10日 21時31分 更新:6月10日 22時31分
経済産業省は10日、東日本大震災でサプライチェーン(部品供給網)が寸断された影響で自動車が大幅減産に追い込まれたことを踏まえ、企業や車種ごとに規格が違う部品の共通化に着手した。緊急時の調達難を防ぐのが狙いだが、製品や技術の独自性が失われ、競争力が低下する懸念もあり、企業の意見も参考に進める。
経産省で10日開催された「日本経済の新たな成長の実現を考える自動車戦略研究会」の第2回会合で議論された。トヨタ自動車の豊田章男社長、日産自動車の志賀俊之最高執行責任者(COO)ら自動車大手や、深谷紘一デンソー会長など部品メーカーの首脳が出席。共通化の方向性では基本的に合意。来週中に報告をとりまとめて発表する。
同研究会は、共通化の対象を、機能や品質の違いが出にくい普及品に限定する方針。経産省主導で近く、自動車大手のほか、部品や素材メーカーなど業界の枠を超えて共通化を協議する場を設け、議論を深めたい考えだ。
自動車産業では、競合車と差別化するため、メーカーや車種ごとに多くの部品に仕様の違いが生まれ、部品各社が少量生産とコスト低減の両立を強いられている。研究会では、サプライチェーン強化に向けて部品・素材メーカーの経営基盤を強化するため、政府系金融機関の支援強化なども強調された。
このほか、国内空洞化を防ぐため、自動車関連税の廃止・減税の必要性も指摘された。海江田万里経産相は研究会で「日本再生を確実なものとする政府全体の戦略策定に結びつけていく」と強調した。【野原大輔、田所柳子】
一方、メーカーからは「どこまで共通化するかなど、課題は山積している」(曙ブレーキ工業の信元久隆社長)との声が漏れる。国内メーカーは部品の独自性を競うことで技術力を磨き、高性能な自動車を供給して世界の自動車産業をけん引してきた。独自性が失われればモノづくり力の弱体化を招きかねない、との指摘がある。
「(部品共通化に)合意したかどうかは、経産省の報告を聞いていただければ」。日本自動車工業会の志賀俊之会長(日産自動車最高執行責任者)は会議後、部品共通化の実現性について慎重な言い回しに終始した。
自動車部品は同車種でもグレードの違いで形状などが異なり、部品各社は「量産ができず、収益確保がままならない」との悩みを抱える。共通化が進めば収益改善につながり、震災に備えた生産拠点の分散などができる。
ただ、量産規模を追求すれば、韓国や中国メーカーとの低価格競争にさらされる懸念がある。円高などで製造業を取り巻く環境が厳しく、議論が国際競争力強化に結びつくかは不透明だ。【宮崎泰宏、米川直己、宮島寛】