三菱重工業の大宮英明社長が8日、毎日新聞のインタビューに応じ、一部で報道された日立製作所との経営統合の可能性を否定した。両社は新興国で需要が急増する社会インフラ事業の統合を検討したが、「経営統合」との報道が先行したため「動きにくい」(大宮社長)状況になったという。当面の交渉進展は難しそうだ。ただ、海外展開における競争力向上のため、提携を重視する姿勢は変わらず、今後の戦略が注目される。【宮崎泰宏、寺田剛】
両社の「経営統合に向けた協議入り」が一部で報じられた4日午前、三菱重工では決算取締役会が、日立では臨時取締役会が予定されていた。電力や鉄道などの社会インフラ事業の強化に向けた提携策をそれぞれ決議する方針だったとみられる。
しかし、「経営統合」の報道が先行したことで流れは急変。複数の両社関係者によると、日立は臨時取締役会を急きょ中止し、「懇談会」に変更。中西宏明社長は社内で「報道されたような話はない」と説明した。三菱重工が午前10時から開いた取締役会でも、大宮社長が「話が煮詰まる前に表に出てしまった」と説明。事業統合に関する議題は見送られた。
一瞬で交渉が中断状態になったのは、両社の考え方にずれがあったためだ。日立側は「やるなら経営統合」(幹部)との認識が強く、将来の経営統合に向けた「布石」という位置づけだった。一方、三菱重工側は社内やOBの間に「売上高で3倍大きい日立にのみ込まれる、との警戒感が強い」(三菱グループ幹部)。「経営統合」の報道を否定するコメントを2度にわたって公表するなど、強い拒否反応を示した。日立側には「決裂したわけではない」(関係者)と交渉継続への期待があるが、業界では「三菱重工は日立の軍門に降るほど追い込まれていない」(重電幹部)との見方が根強い。
ただ、両社とも、今後の収益の柱となる新興国へのインフラ輸出を伸ばすには、規模拡大と技術集約による国際競争力の向上が不可欠との認識では一致している。大宮社長は8日のインタビューで、日立に限らず幅広く提携相手を探す考えを表明しており、両社の次の一手が注目される。
毎日新聞 2011年8月8日 22時21分(最終更新 8月9日 0時30分)