有機ELなど底力
そんな状況で、日本メーカーは技術面で先行することに勝機を見いだそうとしている。DRAM世界3位のエルピーダメモリは、DRAMとして最小となる回路線幅25ナノ(ナノは10億分の1)メートル製品の量産を世界で初めて開始した。従来の30ナノ製品に比べて消費電力が約20%(待機時)削減でき、スマートフォン(高機能携帯電話)用に一段の需要が見込まれる。「(回路線幅を細くする)微細化競争はサムスンが先行してきたが、これで反撃の芽が生まれた」(業界関係者)と期待も膨らむ。
サムスンが「ポスト液晶」と見込んで先行する有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)でも好機はある。世界シェアの8割を握るサムスンだが、もともと日本メーカーが世界で初めて量産に成功し、基礎研究の蓄積ではサムスンを上回る。
現在、東芝とソニー、日立製作所の3社は官民ファンドの産業革新機構を巻き込んで中小型液晶パネルの事業統合を模索しているが、「真の狙いは次世代品である有機ELの共同生産」(政府関係者)だ。サムスンは2013年にも有機ELテレビを商品化する計画だが、日本勢が“国策”として有機ELの研究・開発に取り組めば、逆転のチャンスも十分にある。
さらにサムスンには新たな不安要因も浮上。好調なスマホやタブレット端末の「ギャラクシー」シリーズが、「iPhone(アイフォーン)」などを抱える米アップルから「露骨な模倣」として4月に提訴され、訴訟合戦に発展したのだ。
サムスンはアップル製品の基幹部品を数多く生産するが、「アップルが他社に乗り換える可能性がある」(日系部品メーカー)ともいわれる。市場では、今秋発売の新型アイフォーンに「東芝製のフラッシュメモリーが採用されるのでは」との臆測も飛ぶ。隙をうかがう日本勢、猛追する中国勢…。“絶対王者”は大きな岐路に立っている。(田端素央、ソウル 加藤達也)