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初の米国債格下げ。収まらない欧州の債務問題。そして歴史的な円高ドル安――。財政赤字をめぐる不安が世界経済を揺るがす危機に発展しかねない。そんな切迫感から主要7カ国(G7[記事全文]
菅直人首相の退陣3条件のうち、残るは赤字国債を発行するための特例公債法案と、再生可能エネルギー特別措置法案だ。どちらも衆院での審議が大詰めを迎えている。ただ、今国会は余[記事全文]
初の米国債格下げ。収まらない欧州の債務問題。そして歴史的な円高ドル安――。財政赤字をめぐる不安が世界経済を揺るがす危機に発展しかねない。
そんな切迫感から主要7カ国(G7)が動いた。電話による緊急の財務相・中央銀行総裁会議を開き、財政再建や為替安定などで結束するとの声明を発した。機敏な反応を歓迎する。
米国債は長く世界で最も安全な金融資産とされてきた。その最上位の格付けを、大手格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が初めて引き下げた。債務上限の引き上げなどをめぐる米議会の政治的混乱から、本格的な財政再建への展望が暗い点を重く見た。
政府債務問題は「その国が返済できるかどうかではなく、返済する気があるかどうかの問題だ」(ボルカー元米連邦準備制度理事会議長)といわれる。まさにこの点への疑義が募った。米政府と議会に財政再建策の拡充を改めて求めたい。
ムーディーズ、フィッチという他の大手は最上位の格付けを維持した。相対的に信用が高く、発行量も多く、市場取引も活発な金融資産として、米国債に代わるものは他に見当たらない。投げ売りが広がる恐れは少ないとみられている。
ただし、格下げの間接的な影響だけでも無視できない。投資家は米国債のリスクが高まった分、もっと危ない投資対象を減らして対応する可能性が高い。株式や格付けの低い債券への影響が心配だ。まず懸念されるのが、すでに欧州で燃え上がっている政府債務危機の火に油が注がれることだ。
G7の緊急声明は、欧州が先に決めた欧州金融安定化基金の強化策を加盟国が早く承認して実行するよう催促している。イタリアの不安を抑え込むため、安定化基金の拡大にも急ぎ取りかかってほしい。
緊急声明はドル安と為替相場の混乱を防ぐため、協調介入もにおわせた。日本は戦後最高値に迫る円高の進行を押しとどめたい。だが、ドル安は日本だけの問題ではない。昨秋のような通貨安競争の再燃は避けなければならない。
進行中の危機は根が深い。市場の圧迫に耐え、景気悪化を防ぎ、しかも財政再建を進める。そんな3正面作戦に向けて主要国が腰を据えて協力できるかどうか。中国など新興国にも連携の輪を広げられるか。そして米国債の格下げで進むであろう国際通貨秩序の多極化にどう対応するか。山積する課題に、広い視野で当たってほしい。
菅直人首相の退陣3条件のうち、残るは赤字国債を発行するための特例公債法案と、再生可能エネルギー特別措置法案だ。どちらも衆院での審議が大詰めを迎えている。
ただ、今国会は余すところ3週間しかない。参院での審議時間を見込めば、今週内に衆院を通過させないと、成立がおぼつかなくなってくる。
私たちは両法案とも速やかに成立させるべきだと訴えてきた。首相がみずからの進退に絡めようが絡めまいが、両法案とも国民生活に必要な内容だと考えているからだ。
それなのに、与野党は単なるメンツの張り合いを続けているようにしか見えない。この国民不在ぶりは許し難い。
財政の現状に照らして、赤字国債発行は不要だという主張はあり得ない。それなのに、新年度に入って4カ月以上たっても審議中というのは異常だ。
先週ようやく、民主、自民、公明3党は、赤字国債の発行額を減らすための「子ども手当の見直し」で合意した。しかし、自民党はさらに高校無償化、高速道路無料化、農家への戸別所得補償の「3K」の見直しを迫り、ハードルを上げている。
確かに「3K」には改善の余地はあろう。だが、そもそも、赤字国債抜きに成り立たない財政構造をつくったのは、自公政権だ。それを棚に上げて、政権を追い込もうとするような自民党の手法が、世論の支持を得られるとは思えない。
米国では、政府の債務上限の引き上げをめぐり、民主、共和両党が妥協を拒み合い、国際経済の混乱を招いた。まさに反面教師とすべきだ。
自然エネルギーを普及させるための再生エネ法案も、福島第一原発の惨事を受けたいま、大きな異論はないはずだ。
もちろん、電気料金の値上げを踏まえ、電力を大量消費する産業や低所得者への配慮は要るだろう。それらは制度をつくってから、運用で改善したり、法律を修正したりして対応していけばいい。
どうやら、この法案には民主党にも自民党にも賛否が混在しているようだ。ならば各党が党議拘束をはずし、個々の議員の判断に委ねるのも一案だろう。
野党には、両法案が成立しても首相が退陣しないのではないかという疑念もあるらしい。けれど、内閣支持率の低下を見ても、3条件が満たされても居座れば、首相が世論の批判を一身に浴びるのは明らかだ。
衆院は粛々と、懸案の2法案を採決するときだ。