「現在」
国際宇宙ステーション計画の今後に、問題が山積していることは、あきらかである。たとえば、計画の遅れが、科学実験にさまざまな困難をもたらした。また2010年にはスペースシャトルの運航停止により、輸送手段の制約が生じる。
また現在の国際宇宙ステーションISSは、全体が108.5m×72m、重量約450トンという巨大な構造物である。当然ながらその維持管理には、参加各国が莫大な支出を要求される。日本の場合は、年間の出費が400億円と見積もられている。
なぜISSがこれほど大規模になったのかは、不明である。しかしこれほど大規模である必要性がないことはたしかである。参加各国が、特に日本が、このような問題を放置しておくべきではない。JEMとHTVをふくむ国際宇宙ステーションISSは、日本にとっては唯一の有人宇宙インフラである。ISSの存続が困難になった場合、日本はその有人宇宙インフラのすべてを失ってしまう。そして長い将来において、同等の機会を手にすることがむずかしくなる。
そうした問題を回避するために、われわれは「JEM」を、可能なかぎり長期にわたり、最大限に活用してゆくべきである。
「提案1」
ISSを長期にわたって活用するためには、規模を縮小して、維持費を大幅に減らすべきである。現在は3人の宇宙飛行士が滞在しているが、将来においては常駐の必要性はない。必要なときに利用できる、宇宙インフラであればよい。
また、ISS建設の初期段階に組み立てられたモジュールやトラスには、すでに老朽化したものもある。そのいっぽうで、「きぼう」やヨーロッパの「コロンバス」のように、ほとんど“新品”のモジュールもある。
そこで、これらのモジュールと機器のなかから、設計寿命の長いものを優先的に選択し、可能な限り小さな宇宙ステーションとして再構成する。主要なモジュールは、日本の「きぼう(JEM)」、米国の「ノード1(unity)」「ノード2(Harmony)」、ヨーロッパの「コロンバス(Columbus)」、ロシアの「ソユーズ(Soyuz)」である。構成要素の重量は、以下のようになる。
JEM 27.t
NODE1 12.8t
NODE2 13.2t
QUEST 6.0t
Columbus 10.0t
Soyuz 7.1t
HTV/SM (19.0t)

HTV/SMとは、日本のHTVを改造したサービス・モジュールである。2010年にスペースシャトルが運用を終了したあと、ISSでの宇宙活動は現在よりも減少すると思われる。そのため貨物量も減少し、HTVの運用は当初の計画よりも余裕が生まれることが予想される。そこで製作を予定している7機のHTVのうち、1機を、ユティリティ機能をそなえるサービス・モジュールに改造・流用する。
HTV/SMの重量19.0tは、ISSにおける同様の機能を有するロシアのサービス・モジュール「ズヴェズダ」の仕様を参考にしている。したがって実際には、あらたに開発されるHTV/SMは、これよりも軽量になると期待される。
この構成で総重量は、多く見積もって 95.1t で、ISSの4分の1から5分の1になると試算される。与圧室の容積は、290m3で、ISSの4分の1前後になると思われる。このことから必要電力量は、27kwと仮定できる。
この電力量は、ETS-VIIIの太陽電池パドルSAW(Solar Array Wing 発生電力7.5kw)の約3.6倍である。
実際には、さらに低くなると予想される。なぜならば前述のように、2010年以降のISSにおける宇宙活動は、現在よりも減少する可能性が高いからである。したがって必要電力量27kwは、少なすぎることはない。
こうした再構成により、運用コストは4分の1になることが期待される。
「宙の会」は、この再構成案を「JSS (Joint Space Station)」として提案する。

「提案2」
ISSを小規模化する目的は、たんに運用費の削減だけではない。可能な限り長期に、効率的かつ多目的に利用することである。そのためには構成だけではなく、運用の形態も変えるべきである。たとえばJSSにおいて、実験モジュールが2つ以上存在する必要はない。JEMあるいはコロンバスのいずれかを居住モジュールとすることも選択肢とすべきである。宇宙飛行士の常駐も必要ない。JSSは、必要におうじて宇宙飛行士が滞在する、軌道上の拠点とする。
また、技術試験衛星でおこなっている工学試験、あるいは将来の宇宙活動に向けた実験等を、可能な限り船外パレット等に集中する。「JEM」の大型曝露部は、他のモジュールにはない特徴でもある。この大型曝露部において、日本の宇宙産業界がもっとも必要としている民生部品や宇宙用材料等の環境試験、実証試験を、長期にわたって低コストでおこなうことができる。さらにロボティクス技術の試験、宇宙服の研究開発に不可欠な生命維持装置の実験を進める。また宇宙エネルギー利用としての太陽光発電による電力の伝送実証試験も可能である。これらの試験を大量に効率よくおこなうことは、日本の宇宙産業には大きな貢献となる。
さらに、有人仕様のHTVの有効活用として、カプセル技術を組み合わせて部分的に改造することにより、ISSから、あるいはJSSからの物資や実験成果物を地上にもどす、回収型宇宙機:HTV-C(HTV-Capsule)とすることも、充分に可能である。HTV-Cの先に、日本の有人宇宙往還機技術があることはいうまでもない。
2010年以降の輸送が、ロシアのソユーズに頼るほか方法がないのは直近の問題である。しかし日本は、JEM等の使用を提供することにより、その交換条件として日本人宇行士搭乗の権利を確保することになるだろう。また、ロシアが計画している新型宇宙往還機の開発に参加することも、一つの選択肢として、積極的に検討すべきである。
「結論」
ISSをJSS(Joint Space Station)とするには、たんに宇宙分野だけではなく、参加各国の政治的な諸問題がかかわってくる。そのため、参加国間のとりまとめや運用は、困難になることが予想される。しかし参加国のなかで、比較的自由な立場にあるのは、日本である。
また現在の宇宙活動は、宇宙開発先進国に占有されているといってよい。しかし時代の推移とともに、衛星やロケットを開発していない国々も、宇宙活動へと目を向けることはほとんど確実である。そのとき、さまざまな国々との関係を築いて対応してゆくことができるのは、文化的にも宗教的にも政治的にもきわめて緩やかな日本である。そのため、JSS(Joint Space Station)により開かれた宇宙インフラを作り上げてゆく作業のリーダーは、日本が演じるにふさわしい役柄である。
したがってISS再構成によって生まれるのは、日本の主導でおこなうJSS(Japan Space Station)といってもよい。日本がリーダーシップをとって積極的に開発のとりまとめにあたることを基本とし、2015年に着手し、2020年までに実現すべきである。
|