先週土曜日の東京新聞「本音のコラム」でも書きましたが、ネット上で騒がれているフジテレビのボイコット騒ぎ。いったいあれ、なんなんでしょう?
たぶん、ご存じない方もおられると思うので簡単に書きますと、今回ボイコットまでの騒ぎになったきっかけは俳優高岡蒼甫さんがツイッター上で、「正直、お世話になったことも多々あるけど8は今マジで見ない。韓国のTV局かと思う事もしばしば。うちら日本人は日本の伝統番組を求めていますけど。取り合えず韓国ネタ出てきたら消してます。ぐっばい」と書きこんだこと(上記書き込みはWikipedia「高岡蒼甫」より)。その後、高岡さんが所属していた事務所に「自主的ではなく」契約を解消されたことが、「テレビ局(8はフジテレビ)の圧力ではないのか」という憶測を呼んだ。
ここから話が複雑になる。(高岡さんが女優宮崎あおいさんのご主人で、ツイッターでも「妻も同じ意見」と書いたことでゴシップ記事になりかけたが、そこはその後高岡さんがこれまた意味深な発言をして別の憶測を呼んでいますが、それはそれで別に置くとして、)高岡さんの解雇疑惑から「フジテレビ」に批判が集中したわけです。しかし、そこには「フジは確かに韓国ドラマばっかりで見ていられない」という意見、「公共の電波をなぜ韓国ドラマに使う」という意見、「どうして日本の良質のドラマを開発していこうとしない」という意見、「フジは日本と韓国のスポーツ試合を『韓日戦』と呼ぶ」という批判、「フジの大株主は外国人でこれは違法だ」という批判…もう書きだすときりがないくらいのいろんな批判や意見がほとばしり出、「8月8日にフジテレビをボイコットしよう」という呼びかけまで起こった。
その辺、まじで書ききれないので、興味のある人はインターネットで検索してください。読み切れないくらい出てきます。
とはいえ、わたしは北京暮らしですから、フジなんて真面目に20年くらい見たことがない。ただ、あたしも韓国ドラマには興味ないので、それをやっているチャンネルはこちらでも見ない。だから、どうして日本で暮らす人たちはフジが韓国ドラマやっている時に裏番組見ないの?という疑問を抱くくらい、ネットでは「フジ批判」を目にするようになった。そこで「フジ嫌いなら見なければいいじゃん」とツイッター上で言ったところ、まいろいろなリアクションがあったわけです。
ただ、そのリアクションを見ていて思ったのは、わたしが「韓国ドラマいやなら他のチャンネル見ればいいじゃん」とAさんをさとしたら、Bさんが「見なければいいという問題ではない、フジは韓国政府から金をもらっているんだ」と言う。それに「じゃ、証拠ください」と言ったら、Cさんが「今や韓国政府は国家予算を使って他国の文化を侵略するためにテレビ番組を輸出している」と言う。一方でDさんが「だいたいフジは韓国より。スポーツ番組も『韓日戦』と呼ぶ」と言う。Eさんは「見る見ないとかの問題じゃないんです。このままでは子供たちが…」と言う。Fさんは「日本文化への侵略だ」と言い、Gさんは…もう助けてください。あたしは誰の何を聞いて、何を考えて、どれを理解すればいいのか分からない。ただ、皆さんが「韓国に絡めてフジが嫌い」と言うのはよく分かるんですけど、論点がもう全然見えない。挙句の果てには「おまえは論点がずれている」(というか、その人のポイントをわたしが語っていない)から「ふるまいに論点をすり替えられた」という人まで出てくる。
これがこの騒ぎの難しいところだと思います。わたしの発した言葉に、「フジボイコット」を叫ぶ人たちがそれぞれ自分の思いのたけをぶつけてくる。それを全部集めていたら、最初に発言した人と、その後で意見を言う人との論理が実は180度違う。それでも「フジテレビは間違っている!」という点で結びついている。理論も減ったくれもない。ただの怒りのベクトルだけでボイコット運動が盛り上がっている。
その一方で、フジテレビはどういう対応しているのかな、と思ったら、これが今のところなーんにも対応していないんですね。東京新聞のコラムを送った時にその編集デスクと、またわたしの身の回りの新聞記者さんたちともちょっと、「ネットだからって馬鹿にしてんですかね? フジどころか新聞とかも全然書いてないですよね? これでいいんすか?」と尋ねたら、いろんな答が返ってきたんですが、それをまとめたところがこういうこと:http://togetter.com/li/171471
それでもフジ側のあまりの静けさがとても気になったので、まずわたしがとても信用できると思っている東京在住のテレビっ子に事の次第を尋ねてみた。そしたらその人も、「ずっとかどうかは知りませんが、サッカーかな?韓日という表現をした事が。スタジオ後ろの模様も韓国国旗をアレンジしたみたいな柄とか。日本が勝った時に君が代は流さないのに、キム・ヨナ優勝の時には韓国国歌を流したり」というお話。高岡氏個人の話をしてももうしょうがない域まで来ていることを確認して、これを知り合いのフジテレビの「中の人」(以下、「フジの人」)にこの声を投げて尋ねてみた。
フジの人:実は「韓日」と言っている、という事実を知りません。自分の所属する部署では「韓日」という言葉は使いませんが、スポーツ局に聞いてみます。
テレビ局はでかいっす。いくら「フジの人」といえども、共産主義のような「意思統一」ができているわけではございません。さらに言えば、共産主義だって…(以下略)。しかし、その方もネットを使い回している人なのですが、わしが尋ねるまで「韓日」と言う言いかたを知らなかった、つか、つまりそれが問題(の一つ)になっていることを知らなかった、というのはちょっとどうなのよ、とも思いました。そうこうするうちに、こういうお返事が来た。
フジの人:スポーツ局と報道局は別の基準で放送しており、ニュースでは「日韓」を使っています。サッカーでは標記はホームゲームが先が慣例。ですが去年、韓国のアウェイ戦の番組宣伝で「韓日」を使ったようですが、すぐに訂正しました。
(注:これはまとめた言い方で、葉通りではありません。実際にはここまでちょこちょことやりとりと、細かく確認をしました。)
そこで「訂正を流したのであれば、なにかネットで確認できる文書やビデオはありますか?」と尋ねたところ、その訂正は社内の判断でなされて行われたので、視聴者に対してなんらかのスタンスはとらなかったという。残念ですが、視聴者の一部が耳にしてカチンときた「韓日」は結局社内で訂正してそのまんま、になっているようなのですね。
フジの人:ただ、自分個人としては、スポーツ局か会社かが、説明をした方がいいと思っています。
ということでした。
もちろん、当事者ではない(つか、当事者ってだれ?)ので、すべてをこの方が答えられるわけもなく、またこの方がはっきりとした返事ができないあいまいさも言葉に感じます。ただ、このやり取りの合間にこの方がきちんと社内で尋ねてきてくださったことはこまごまとしたやり取りでよく分かりました。ただ、事態の流れはこの人、そしてこの人が話を聞いた担当局の方が動かせるわけではなく、たぶんもっと責任のある方が判断するしかない(って誰?)。
わたしがこのことをツイッターで流しておこう、と思った時に、津田大介さんも同様の話をフジテレビの人から聞いて流しておられ他のに気付きました。でも、「フジの人の言うことなんか信用できるか」的なやり取りがフォロワさんと交わされていますね:http://togetter.com/li/171048
わたしにも同様の「フジテレビの人が言うことに信ぴょう性はあるか?」というリプライありました。
津田さんもつぶやいておられますが、わたしも「信ぴょう性があることを証明するため、ではなく、フジではこう説明している。フジの論理ではこうなのだ」という点を知ることは、もし本当に事態の意味を知りたい人には有効だと思います。疑うことも自由ですが、その信ぴょう性を疑うには理由がいる。わたしも津田さんも、それぞれに話を聞いた相手は個人的に信頼できる方だったから尋ねたまでで、また相手も我々を信頼してきちんと答えてくれたと思います。だからこそ、その声を皆さんにお伝えしようと思ったまでで。
「フジテレビの人はみんな信用できない」と思うのは勝手ですが、だからといってあなたの不信を我々に押し付けるのは別問題ですね。そこからどう行動するかはこれまたそれぞれでしょう。そういうことを考えていたらいろいろと思いつくままに、今朝こういうツイートを連続で流していました:http://togetter.com/li/171910
不信感を持つな、とは言わないけれど、不信感を募らせるには理由がいると思う。少なくともわたしはわたしたちの疑問に答えてくれたフジの中の人を個人的には信頼しているし、彼らの言葉通りフジ側が「なんらかの説明をする」ことを期待しています。デモやボイコットを呼びかける人の一人一人が正しいわけではないのと同じように、フジの人がみな正しくないわけでもない、そう思いませんか?
もちろん、今の今までなーんの対応を見せていないフジテレビは、臆病者なのか、それともネットで発言する視聴者を馬鹿にしているのか。そんな視聴者の怒りはわたしも理解できます。わたしはフジが韓国ドラマを流しまくることには反対しませんが、その姿勢に対する疑問の声に尻尾を丸めて頭を隠しているのではなく、きちんと自分たちの考えを明らかにすること――それは少なくとも「情報発信」や「発言」に関わる企業として必要な姿勢ではないでしょうか。
きちんとした自分の態度を示すこと、つまり自分たちの「立ち位置」を公に示す。まずは話はそこから。それもできず、浮き草のように浮遊したままのあいまいな態度をとり続けることは、それぞれの視聴者の絡み合った意見や批判がもっともっと面倒に絡み合って面倒くさいことになってしまう原理だと思うんですけど。
2011年08月08日
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