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[29147] 【ネタ】女の子を召喚したと思ったら男の娘だった件
Name: のぶな◆197e18b3 ID:6c262ae5
Date: 2011/08/06 20:46
ここは『リスティア学園』と呼ばれる、剣と魔法を修めるための学び舎だ。
王宮に仕える騎士や魔導師。世界を股にかけて冒険をする者。故郷を発展させるためのすべを得ようとする者。
かなり少数派だが、単に見栄を求める者もいる。

目的はそれぞれ。だが、その目的を達成するためにはそれ相応の力を得なければ何も成す事が出来ない。
その自分の目的を達成するための力や知識を得るための機関として、この学園は存在しているのだ。
そして俺もまた、そんな学園に通う学生の一人だ。

入学してから色々とあったが、先日めでたく第一段階の試験を突破する事が出来た。
そして現在。進級するに当たってひとつの儀式に挑もうとしている真っ只中だったりする。

──サモン・パートナー

それが、今俺が挑んでいる儀式だ。
この儀式はその名の通り、これから先パートナーとなる存在を召喚するもの。
自分に足りないモノを補う、あるいは長所を更に伸ばしてくれる、仲間以上に身近な存在を近くに置く事で成長を促すとかなんとかという理由があった気がする。
まあ、その辺りの細かい経緯は話すと長くなるだろうから割愛。今は儀式を成功させる事が重要であると、改めて意識を引き締める。

俺の将来志望は冒険者。その中でも魔物討伐を主とするハンターを目指している。
そのために実戦技術を主に専攻しており、成績の方は遠距離(ロングレンジ)と近距離(ショートレンジ)、共に良い評価を得る事が出来た。
ただ、良い評価だとは言っても優れていると言える程では無い。平たく言えば器用貧乏なのが今の俺だ。

現在の俺は前衛も後衛もこなせるが、どちらをメインにするかを決めかねている。
多くは第一段階の時点で自分の適性と希望によってだいたいの方向性を決めている中で、この時点でまだ迷っている俺は非常に少数派だ。
そこで今回、遠距離と近距離。そのどちらをメインにするかをパートナーによって決めようと思っていたのだ。
もしパートナーが前衛型だったなら俺は後衛に回るだろうし、逆のパターンも十分にあり得る事。
だから、他の同期の連中よりも、俺にとってこの儀式は将来を決める重要な事なのだ。

今回の儀式で、能力値は色々と中途半端な俺の呼びかけに応えてくれるのは、果たしてどんな相手なのだろうか。

……だが、今の俺の心を占めるのはそんな事では無い。ただひとつの想いを込めて儀式の祝詞を上げる。
俺の抱く、将来への展望以上に重要な事。それは、

(どうか、どうかッ。すっげー可愛い女の子が出てきますようにぃッ!!)

そうっ、俺が前衛になる事も後衛になる事も瑣末事。何より可愛い女の子と一緒に居られる事へのモチベーションアップこそが至上の命題なのだ!

パートナーという言葉の通り、召喚という形態こそ取っているが、そこに生じるのは主従の関係では無い。対等な立場による関係だ。
パートナーの方から一方的に契約を破棄する事も出来る。召喚主だからと言って、殆ど優位性は無い。むしろ、契約の破棄に関してはパートナーの方が権利を持っている。

故に、召喚主である事を盾にパートナーへ何かを強要する事は出来ない。可愛い女の子を召喚出来たとしても、別に恋仲になれるわけではない。
それでもっ、可愛い女の子とパートナーとして常に一緒に居られる事は何事にも代えがたい魅力に満ち溢れている。
この想いが実現するというのなら、俺は前衛だろうが後衛だろうがなんだってやってやるさ!

(可愛い子来い、可愛い子来いっ、可愛い子来い……ッ!!)

実際に召喚されるのは獣型や鳥型などが大半を占めており、人型のパートナーが現れる事は多くない。
猫系とモフモフしたいという願望もあるが、希望としての次点であるその想いもかなぐり捨て、男としてロマンを叶えるために一心に願い続ける。

──そして、その時は訪れる。

「お……、ッ……!?」

淡い光を放っていた床に描かれた魔法陣が突如としてその輝きを増し、同時に魔法陣を中心に大気が渦巻く。
彼我の世界の狭間にある齟齬を抑えるために魔法陣が俺から魔力を吸い上げてゆく。
魔力量が少ない俺にとってこれはかなりきつい。魔力の喪失から意識が混濁しそうになるが、ここで儀式を中断するわけにはいかない。歯を食いしばって意識を繋ぎとめる。
目の前がかすみ、力が入らなくてその場に膝をついてしまう。それでも呼びかけに応え、世界の向こう側から何者かがこちらへと顕現しようとしている様を必死に見やる。

……一瞬か、あるいは数時間が経ったのか。朦朧とする意識は時間を認識する事が出来ない。
それでも、この現象は永劫には続かない。光り輝く魔法陣の上にひとつのシルエットが浮かび上がるのを俺は認識する事で、大詰めがもうそこまで来ている事を知る。
浮かぶシルエットは巨大なドラゴンのようで、あるいは小さなネズミの姿のようにも見える。輪郭は揺らぎ、どんな姿をしているかを知ることが出来ない。
だが、俺のパートナーはもうすぐそこまで来ている。それだけは間違いない。だから、俺は全力でそこに手を伸ばす。
俺は此処に居ると示すべく、世界の向こう側にいる俺のパートナーとなる存在へと万感の想いを込めて儀式の最後の一節を唱える。

「──古の盟約は今ここに新たなる絆をッ。来たれっ、我が友よッ!! 是非とも可愛い子!!」

……というか、うっかり本音を付け加えてしまったぁぁっ!?
やばい、すげー恥ずかしいぞコレっ。いくら誰にも聞かれていないとしても、ガラスハートの俺には羞恥に過ぎるぞ!?
つい詠唱に付け加えてしまうくらいに願っている証明だと思えば良いが、なんとも心に痛い。

刹那、一際眩い閃光が儀式を執り行っていた石造りの部屋を白く染め上げる。
ショックを受けていた俺はもろにその閃光を直視してしまい、目が眩んで何も見えなくなってしまう。
……アホだ。儀式の最終段階ではこうなると聞いていたのに、自分の発言に自分で驚いて呆けていたアホが此処に居る。
なんかもう、穴があったら入りたいですというぐらいにテンションがだだ下がりだ。

とはいえ、儀式は完遂した事に違いは無い。事実、俺しか居なかったはずのこの部屋に自分以外の気配を感じる。
初めて感じる魔力の波動。それは世界の向こう側からの来訪者である事の証明。視覚が利かないが故に、逆に鋭くなった感覚がそれを明確に感じさせる。
一体、俺のパートナーはどんな存在なのか。直視したあまりの光の量に目の奥がじくじくと痛むのを堪えながら、徐々に鮮明になる光景を捉えようとする。

「あ……」

居た。既に光は収まり、ただの白線となった魔法陣の上にひとつの影があった。
白い外套を羽織り、その下にチェインメイルを補強した軽装鎧を身に纏う。
腰には細身剣を佩き、二本の足でしっかりと起立するその姿は獣型や鳥型とは違う、俺と同じ人の姿。
そして何より、桜色の髪は後ろで三つ編みで一纏めにし、少し釣り目がちな瞳が醸し出す勝気な雰囲気は、凛々しくも可憐なる騎士。つまり、

「よっしゃ、可愛い女の子来たァーーーーーッ!!」

そうっ、そこに居たのは俺の待ち望んでいた可愛い女の子の姿! その事実にアホな事をして下がったテンションが再び最高潮に返り咲く。
俺はやったんだ。圧倒的に低い可能性の中から未来を掴み取ったのだ。これで……、これで俺は勝てる!
何に勝てるかは知らんが、とにかく俺は勝てるんだぁっ!!

「何言ってんだオマエ。オレは男だぞ?」

………………あれぇ?

ちょっとハスキーな感じの声で齎されたその言葉に、俺のテンションは瞬間凍結される。何だろう、今、凄く理解に苦しむ単語が聞こえたような気がする。
いやいや、待てよ。そんな訳があるわけない。こんな可愛い子が男なわけがあるわけないじゃないか。
うん、きっと俺の聞き違いに違いない。

「まあいい。オレの名はアルフォンス。これからよろしく頼むぜ、相棒」

って、紛う事無き男の名前ぇぇッ!?
そんな、そんなまさか……。いや、まだ希望を捨ててはいけない。女性なのに男性の名前を付けられたという事も十分考えられるじゃないか。

「しかしまあ、どうしてこの男気溢れるオレが『可愛い』なんて条件指定で引っ掛かたのか、さっぱり分からん。
つぅか、『可愛い』の上に『子』だなんて、男子を指定しているオマエも大概おかしいとは思うがな」

……あれ、今度は聞き捨てならない単語が聞こえたような気がする。
そう言えば『子』という言葉は、基本的に男性を示しているモノで、そこに『女』という字を付け加えて『女子』とする事で女性と差別化している
と、そんな話を以前に何処かで聞いた気がする。
そして、そう言えば召喚の最中は『可愛い女の子』ではなく『可愛い子』と何度も念じていたような……?

ふむ、なるほど。理解した。つまり、俺は間違いなく『可愛い子』を召喚する事が出来た。だが、『可愛い女の子』を召喚したのではない、と言う事か。
おいおい、すげーじゃないか、俺。召喚の儀式において、望んだ通りのパートナーを呼ぶなんてそう出来ることじゃないぞ。
まったく、俺の自分の才能を空恐ろしく感じるぜ。あっはっは~。

「……って、なんじゃそりゃぁぁぁぁッ!?」

笑えるわけないだろうがッ。俺の魂の叫びは部屋に反響して自分の耳にも痛いがそんな事を構いはしない。
今はただ、この心の赴く衝動のままに──

「うるせーよッ」
「あがっ!?」

そして直後、俺はアルフォンスに殴られる事で強制的に黙らされてしまう。
元々魔力枯渇で限界だった俺はそのまま気を失うのだった。そして思う。目が覚めた時、これが夢であって欲しいと願うのだった。
つーか、何であの外見で女の子じゃねーんだよぉぉっ!!







そして、アレは全然夢じゃなかったけどな!

……とまあ、そんなサモン・パートナーの儀式があったのは一週間前。今は俺とアルフォンスのふたりでダンジョンへと赴いていた。
ここは国が管理しており、基本的に部外者は立ち入りを禁止されているが、利用申請をして許可を得られれば俺達のような学園生も鍛練場として利用可能である。

鍛練場としてダンジョンを利用するメリットは、外では遭遇が運任せな魔物と高確率で遭遇する事や、探索によって様々な素材を得る事が出来る等がある。
まあ、先に言ったような利用許可を取る面倒さや、相応の入場料を取られる等のデメリットもある。
だが、申請は書類を提出すればある程度学園でやってくれるし、入場料もダンジョン内で得たモノを換金やら提出やらで補う事が出来る。
そんなわけで、デメリットよりもメリットの旨味の方が大きいのだからと、学園生の多くはこうして利用しているわけだ。
学園生でいる内は、学園の方で色々と優遇してくれるしな。

そして今回、この一週間の内にパートナーであるアルフォンスとの親睦を終えて、では実際にお互いの技量を確かめようという事で、実地としてダンジョン利用許可を申請。
昨日にその許可を取得する事が出来たので、こうして昨日からダンジョンに挑んでいたわけなのだ。

……ちなみに、この一週間は饒舌にしがたいものが多かった。
詳しくは言いたくないが、簡潔に述べるならばアルフォンスは間違いなく『男』だったという事だ。
最初は俺も理想と現実の狭間でもがき苦しんだものだ。だが、一週間という時間が俺にある程度でも割り切る事が出来るようにしてくれたのだった。
時間とはどんなに願っても決して止まったり戻ったりは出来ない惨酷さを持つが、今はその時の流れという癒しが俺には嬉しかった。

ただ、アルフォンスのふと見せる小首を傾げる仕草や、頬をリスのように膨らませながらもきゅもきゅとご飯を食べる姿などが可愛い過ぎて困る。
思い切りの良さや口調は男らしいとは思うが、立ち振舞いに表れる気品や、適当さからくる無邪気さが、その男らしささえも可愛く見せてしまう。
そして風呂上りにほのかに香る良い匂いを感じた日なんかもう、越えてはいけない一線を越えちゃってもいいんじゃね? なんて素で考えてしまう自分自身が怖い。

……いや、これ以上この事を考えるのは止めよう。むしろ、考えてはいけない。
下手にアルフォンスを意識し過ぎて、気が付いたら思わず目でその姿を追ってしまうレベルになってしまったらそれこそ取り返しがつかなくなってしまう。
故に、今の俺に出来る事といえば現状の維持ぐらいのものだと思考を放棄。ダンジョンを探索するべく歩みを進める。

「……ちょい待て」

だが、その足もすぐに止まる、手で示して俺の後ろを歩いていたアルフォンスを制する。
全てを言葉にせずともその行動の意味を察したアルフォンスは、ダンジョン探索のセオリーとして前を見据えたままの俺と対になるよう、挟み打ちを警戒して後ろへと意識を伸ばす。
互いに何を語る事も無い。静寂がこの場に降りる。

そして静寂であったからこそ、俺の耳に届くものがあった。
それは靴音。コツコツと一定のリズムを刻みながら、近づいてくる。
当然、俺もアルフォンスも足を止めている。これは間違いなく俺達以外の第三者が発した音。だが、それ以上に重要なのはこれが『足音』では無く『靴音』だという事。
通常、魔物は靴なんて履かない。履く意味が無い。つまりは──

「やあ、これは珍しいところで鉢合わせたね」

──俺達と同じ、ダンジョンを探索している誰かの物、という事だ。
そしてダンジョンの暗がりの奥から姿を現したのは、俺も良く知っている人物。

手にした明りの範囲に入った事で浮かび上がったのは、赤みを帯びた茶髪をポニーテールに纏めた長身の女性の姿。
学園指定の制服の上に、肩に引っ掛けるように軽く外套を羽織り、左手には甲の部分に宝石をはめたフィンガーレスグローブを身につけている。
ダンジョンを探索するには軽装に過ぎると誰が見ても思う格好ではあるが、彼女からすればこれで十分に装備は足りていると俺は知っている。

「俺としてはあまり会いたくなかったな。学年主席」
「ふふっ、随分とつれない返事だね。というか相変わらず名前を呼んでくれないとは、いやはや寂しい限りだよ」

そう、この俺の突き放したような返事に残念そうな口ぶりを示すも、その実、楽しげに口元に笑みを浮かべている人物が同期、いや、現学園最強と名高い学年主席。
かつて名を馳せた英雄の直系の子孫であり、高い身分と魔力資質、そして身体能力を持ちながらも、それを鼻に掛ける事無く研鑽を積む。
その上、性格はさっぱりとしており誰隔てなく接するその在り方は多くの人から『英雄の子孫』では無く個人として信頼を集めている。
いうなれば凄い人だ。その点は素直に称賛する。

……ただ、俺としては、彼女の事は眩し過ぎるのであまりお近づきになりたくないと思っている。
だが、以前にちょっとした契機で顔を覚えられてしまったために、何かある度にこうして親しげに声を掛けてくるようになってしまったのだ。
今回も出来れば遭わないようにと、わざわざ中途半端な時間帯を選んでダンジョンに挑んでいたというのに、どうしてお前が此処に居るんだという話だ。

「それは、マスターにとって貴方如きの浅知恵を読む事など造作も無いというだけです」
「いや、人の心を読むなよ。……って、なっ!?」

思わず素で返してすぐに、俺が喋っていない事へと答えられた事に強い違和感を覚える。
……他人の心を読むなんて、そんな魔法は存在しない。つまり、これはパートナーが持つ固有技能(オリジナルスキル)だろう。
一体主席のパートナーはどんな奴なのか。その興味と苦手な相手への対応法の一環としてその姿を知っておきたいと、声の聞こえた主席の背後へと視線を向ける。

「サトリ。私の事を気遣ってくれるのはありがたいが、彼は私の友達だ。あまり友人の心を覗き見る真似はして欲しくないな」
「……申し訳ありませんでした、マスター。以後、善処します」

いや、俺は主席とは友達じゃねーし。というか善処って止める気全然無いだろ。そして俺の事を『如き』やら『浅知恵』と、さらっと毒を吐いた事はスルーなのか?
短い主席とそのパートナーとのやり取りだったが、ツッコミ所が満載なのはどうなのよ?
……そんな想いに駆られたのだが、主席に続くように現したそのパートナーの姿に、俺は言葉を失っていた。

そこに居たのは、獣型でも鳥型などでもない。アルフォンスと同じ、圧倒的に少数派である人型のパートナー。
そう言えば、今回の儀式において完全な人型のパートナーを召喚したのは3名だと聞いた気がする。
その内に一人が俺。そして、もうひとりが主席だったというわけか。

だが、俺が言葉を失ったのは、主席のパートナーが人型だった事では無い。
何を隠そう、主席のパートナーはシックなメイド服に身を包んだ黒髪の少女だったのだ!
しかも、あまり感情の起伏は少なそうながらも、その端正な顔立ちは十分以上に可愛らしく、そして何よりメイド服、だと……?

俺から言える事はただひとつ。本当にありがとうございます!!

「マスター。あの方は変態です。あまりマスターの交友関係に口を出すべきではないとは思いますが、御学友としてあの変態は不適切であると愚考します」

って、心をまた読まれたぁぁぁッ!? しかも告げ口されてるぅぅぅッ!!
……ダメだ。終わった。俺の学園生活はこれで幕を下ろした。これから先、変態と後ろ指差されながら学園生活を送るなんて、このガラスハートには耐えられない。

「そうだ、旅に出よう。そして誰も俺の事を知らない新しい土地で、新しい生活を始めよう」
「オレを置いて逃避をするな」
「痛ッ!?」

現実逃避の妄想をしようとしたら、アルフォンスに頭をグーで頭を叩かれた。
おかげで海の見える小高い丘に立つ白い家で暮らす、幸せヴィジョンも霧散してしまったのだが、その点に関してはある意味とても助かった。
何故なら、その幸せヴィジョンにおける白い家に住んでいたのは、俺と、下着の上にエプロンのみを着用した、俺の事を「あなた」と呼ぶアルフォn──

「やはり変態です。しかも度し難いレベルです」

そしてまた心を読まれたぁぁぁッ!?

「ふふ、相変わらず君は楽しいな」

無感情ながらも何処か汚いモノでも見下すような黒髪メイドな少女の視線に耐えきれず、俺は地面に両手と膝をついて打ちひしがれる。
そして主席は嘲るなどでは無く、ただ純粋に友人との談笑を楽しむかのように笑顔を浮かべていた。
主席は本当に嬉しそうで、楽しそうで。……何よりとても綺麗だった。その笑顔を見ていると抱いている怒りや悲しみの感情が氷解していくようだ。

……やはり、俺にとって主席は鬼門だと再確認する。

「……さて、こうして学園の目の届かないダンジョンで出会ったのだ。
どうだい、ここはひとつ私と手合わせをしてみないかい?」

と、不意に主席は浮かべる笑みの質を変えてそんな提案をしてきた。
俺の中で黒いモノが蠢こうとするが、変わった場の雰囲気に自分は出る幕では無いと判断したかのようにソレは再び鳴りを潜める。
残ったのは、普段通りの俺の心。普段通りなのだから、主席のその提案も普段通りの俺として丁重にお断りしたいところだ。

「何、遠慮する事は無い。偶然にも丁度この先に私が人払いの結界を張った手頃な広さのフロアがある。
君達にしても、昨日からそっちのアルフォンス君との連携の訓練をしていただろうが、この階では魔物が弱くて物足りなかったのではないかい?」

……何が偶然だよ。俺達の鍛練の丁度一区切りついた時に現れたり、先に結界を張った場を用意してあるだなんて、どう考えても待ち伏せしてただろ。
ああもう、元々学園の成績としても主席と中堅の俺とでは実力の差があるし、この様子だと逃げた時の対処法もありそうだ。
つまり、断りたいのだが、この戦いは避けられそうにないという事だ。

「ふん、いいじゃないか。コイツは相当な手練なんだろ。オレも同期におけるトップの実力ってヤツを知っておきたいしな」

そして、アルフォンスも主席の提案に乗り気な様子。
……まったく、俺には選択肢がないじゃないか。






主席の先導によって連れて来られたフロアは、確かに広々としていながらも、ダンジョンのただ中でありながら魔物の気配が全くない。
見れば、部屋の四方に楔のように魔法陣が展開されている。おそらくはアレが人払いの結界の起点何だろうが、魔物までも完全に払うのだから驚きだ。
まあ、俺としても、魔物の邪魔が入らない事は主席を相手取るのに集中を削がれなくて都合は良い。
そんな事を考えながら、俺達はフロアの中央で主席とサトリのふたりと対峙する。

「さて、まずはサトリ。君は今回、下がって置いてくれるかい?」
「お断りします。マスターの実力は存じておりますが、彼は──」

戦いを始める前にと、主席は自身のパートナーに参戦をしないようんい申し出るも、サトリはすぐに自分も共に戦う意志を示そうとする。
だが、そんなサトリの言葉を遮るように主席はメイド服に包まれた小柄な体を抱き寄せる。

「君は能力特化型で戦闘は苦手だ。そんな君にこの程度の事でその身を危険に晒して欲しくないのだよ。
何、心配はいらないよ。ただ、私に君の事を守らせてくれないか?」
「ま、マスター……」

耳元で囁くような主席の言葉に、サトリはそれまでの無感情から一転、頬を赤く染めながらうっとりした表情で自身の主の顔を見上げていた。
百合だ。ふたりの後ろで百合の花が咲き乱れているのが見えるぞ。これは何という眼福か!?

……とはいえ、主席が相手だ。向こうがイチャイチャしているからといってこっちに余裕があるわけじゃない。
この光景をゆっくり見る事が出来ない事は残念だが、やる事はきっちりやっとかないとな。

「アルフォンス、まずは前衛を頼む。主席は基本、魔導師だ。だが、無詠唱で少なくとも下級と一部の中級魔法までを瞬間的に行使出来る。
おかげでクロスレンジ戦に持ち込んでも普通に魔法をぶっ放してくる上、格闘のセンスもずば抜けてるという反則仕様だから気をつけろ」

まずはと、俺はダンジョン内では扱い易いようにと短槍と棍に分割していたそれを再連結、一振りの槍としつつ、簡単にアルフォンスに主席の戦力を説明する。
主席が無詠唱で使えるのは基本的に威力が低いモノばかりと“なっている”が、それでも威力減衰のないゼロ距離から放たれると回避も碌に出来ず、ダメージも大きい。
だからと言って距離を置けば、遠距離こそが主席の本領。
次から次へと放たれる無詠唱の弾幕で相手の動きを拘束している内に同時進行の詠唱魔法で一気に殲滅するのが必勝の戦闘法。

「なるほど、それは楽しめそうじゃないか」

はっきり言って、主席の戦闘力は今の時点でも単独で軍勢を相手取って戦えるレベルだ。その危険性はきっと伝わっているだろう。
それでもアルフォンスは不敵な笑みをその端正な顔に浮かべ、すらりと腰に佩いた細身剣を抜き放つ。

アルフォンスはパートナーとして召喚されただけあって、能力値的には俺と同じレベル。
そして俺と同じく万能型。前衛も後衛もどっちもいけるぜ! というタイプだ。
違うところといえば、足を止めてでの迎撃をメインに、効果範囲を絞って威力を高める俺に対し、アルフォンスは軽い身のこなしと範囲攻撃を得意としている。

俺はパートナー次第で前衛か後衛かを決めようとしていたが、パートナーもまた両方をこなせるというのなら、俺も両方を選ぶ事にした。
遠距離と近距離の両方を修めようとしたなら相応に大変だが、得るものも確かにあり、そしてアルフォンスとならやれると判断したのだ。
状況によって激しく前衛・後衛をスイッチしながら戦う。それが、これからの俺達が模索する戦闘スタイル。

「さあ、何時でもかかってくると良いよ」

見れば、向こうも話が着いたのか、主席がひとりで俺達と向かい合っている。その周囲には、言葉の通り臨戦体制は整っていると、濃密な魔力の気配が漂っている。
……まったく、これだけでも既に規格外であると見せつけられている思いだ。
だが、だからと言って戦う前から敗北を認める程、俺は、そしてアルフォンスも物分かりは良くは無い!

「オレは春を司る妖精族が騎士、アルフォンス。オマエはオレ達との戦いを『この程度』などと言っていたが、その言葉、訂正して貰うぞ!」

最初に動いたのはアルフォンス。その身を一陣の風と成したかのように素早く一気にその距離を埋める。
そして手にした細身剣を狙い定めた切っ先を突き放つ。それは遠慮の欠片も無い。急所である心臓を的確に貫こうと奔る。

「おお、速い速い」

だが、そんな一撃にも主席は動揺する事無く、身を翻して回避して見せる。
その様は見ていて危なげ等何処にも見て取れない。アルフォンスの攻撃を完全に見切った上での回避行動だ。
……というか今、主席は加速と回避の加護の魔法を無詠唱の魔法名呼称すらも省略で、しかも二重並列の即行発動をさせてなかったか?
見切りという戦闘技術と魔法並列処理という魔法技術をまるで呼吸をするようにごく自然にやってのけるその姿は驚愕という言葉でも足りないくらいだ。

「ふん、この程度はむしろ避けて貰わないとなッ!」

初撃をいとも容易く回避されたアルフォンスだが、それに戸惑い刃を鈍らせる事はしない。
刺突という直線を描いた軌道が、一切の溜めと停止を経る事無く避けた主席を追うように弧を描いて横に払われる。
更に円を描いた軌跡は唐突に跳ねあがり、止まる事無く今度は振り下ろされる。
その一連の動作に淀みは無い。円と直線の入り混じるアルフォンスの剣舞が主席を捉えるべくひた奔る。

「……ふむ。何とも軽やかな剣筋だ。それでいて決して軽くない。さすが私の親友のパートナーだ」

それに応えるのは、無詠唱で奏でる魔法をダンスのパートナーとした舞踏で応えて見せる主席の姿。
紙一重ながら、それでも羽織る外套にすら変幻自在に舞う切っ先を掠らせる事すらさせていない。
そのふたりの競う様は戦闘という荒々しさは何処にもない。ただ優雅に美しく、見る者を魅了する舞が繰り広げられる。

……つーか、何俺を親友だなんて勝手にランクアップしてんだよ、主席。
と、俺的には魅了よりもツッコミの方が強かったりするのだが、それはさておきアルフォンスが時間を稼いでくれたおかげで俺の方も準備は整った。
さて、ここからは俺も参戦させて貰おうか?

「はぁぁっ!!」

まずは長柄武器である槍の特性を生かすように、遠心力を利かせながらその切っ先を全力で床へと叩きつける。
その衝撃に石造りの床が砕け、その欠片が弾け飛ぶ。

「──魔法付加・旋風(エンチャント・エア)!!」

弾け飛んで浮かび上がった床の欠片達は魔法により付加された風を纏い、俺の周囲の宙に固定される。
付加された風は渦巻き、螺旋を描く。風に巻かれ、欠片もまた回転をする。徐々にその速度は増していく。
実弾と魔力の複合であるそれらは、小さいながらも鋭利なる槍の弾丸。纏う渦巻く風も相まって生半可な威力では無い。

「行けッ!」

だが、この程度で主席をどうにか出来るとは思っていない。コレの狙いはあくまでアルフォンスの援護。
加速の魔法で高機動を実現する主席の退路を塞ぐように風纏う破片の弾丸を展開する。退路を奪う事で主席のこれ以上の回避行動を妨害し、嫌がおうにもアルフォンスと真正面から対峙するように誘導する。

「──土連槍(アースグレイブ)!」
「く……っ!?」

だが、主席もそんな思惑にそう易々と乗ってくれるわけが無かった。
主席は自身の周囲に床より幾つもの土の槍を出現させる。それは厚い壁という防御と、正面に位置したアルフォンスへも攻め手を示す。
事実、俺の放った弾丸はその土塊を貫くには至らず、アルフォンスもまた咄嗟に飛びのいて攻撃よりも回避を優先していた。

そう、主席はたったひとつの魔法を発動させただけで、俺達の思惑を打ち破っただけでなく、一気に攻勢に出てみせたのだ。

「──魔法付加・炎破迅雷(エンチャント・ブレイズ&ライトニング)」

……ま、主席ならこの程度はやるだろうなと想定内だ。既に俺は手にした槍には、破壊力の炎と突破力の雷が相乗して付加させてある。
刀剣であったなら刃全体に行き渡るところだが、俺が手にしているのは槍。二つの魔力は切っ先という一点に集中される事でその威力を向上させている。
武器への魔法を宿らせるのは、付加術師(エンチャンター)の本領だ。

そして俺は槍士(ランサー)だ。炎と雷の発する熱量に、陽炎のように揺らめかせる切っ先を進むべき前へと指し示し、深く腰を据えるように中段に構える。
見据える先はただ一点。体内を巡る魔力が脚部へと流し、瞬間的にその跳躍力を強化する。
アルフォンスは既に俺の射線上から退避済み。ならば、この猛りを抑える必要は何処にもない。

「おォォォォッ!!」

裂帛の気迫を叫びに乗せて、主席へと向けてその間にある距離を踏破する。
アルフォンスの変幻自在の動きを疾風と称するのなら、俺の突撃は宿る雷の通り、まさしく稲妻。
ただ早く、一直線に突き進む。先に放った弾丸を防げたあの土塊も、俺のこの一撃前には盾の意味を成しはしない!

「──幾重の障壁(デュアル・ガーダー)ッ」

そして柔軟性は無い分加速に重点を置いた俺の突撃は、回避を許さない。故に主席もまた障壁を張って俺の行く手を遮る。
その障壁の数は無詠唱だというのに3枚。しかも一つひとつが一介の魔導師がきちんと詠唱した物の強度と遜色が無いのだから、またとんでも無い。
加速と共に破壊の力を込めているこの一撃には俺も相当な自信があったのだが、一枚、二枚と貫いたところまでが限界。三枚目を貫くには至らなかった。

今のは肝を冷やしたのか、頬に冷や汗らしきものを一筋流す主席が一枚の障壁を隔てて俺の瞳に映る。
この差は単純。炎と雷。二つの属性付加だけでは主席まで届かなかったという結果。

「──付加解放・旋風(リリース・エア)ッ!!」

だが、ならばもうひとつの属性を付け加えるだけだ。
設定しておいた解放のキーワードを告げると共に、先に放っていた弾丸に宿っていた旋風が解き放たれる。
土塊に阻まれていたソレだったが、主席の周囲を取り囲むように配置されていた事もあって、ひとつひとつは小さかったそれも混ざり合って巻き上がる。
さらに俺の切っ先に残っていた炎すらも巻き込んで、瞬間的に炎の嵐を形成して吹き荒れ、主席の展開した最後の障壁も打ち破る。

俺は魔力の絶対量はそう多くない。だが、使い方次第でそれは十分に補える。
得意の属性魔法を放出せずに留める付加魔法を使う事で持続力と火力を向上させ、今は亡き師から継いだ技は、確かに俺の力になっている。
魔法付加槍士(エンチャントランサー)。それが、俺の戦い方だ!

「……!?」

最後の障壁が破られる事は想定外だったのか、珍しく主席の顔には焦燥の籠る驚きが浮かび上がっていた。
それでも殆ど反射的なのか、主席は体内で魔力を練り上げて次なる魔法を発動させようとしていた。
対する俺は障壁を打ち破った時点で用意していた策は使い切った。それでもまだだと体勢を整える。

迎撃の主席と追撃の俺。……残念ながら、きっと主席の方が早いだろう事を何となく察する。
だが、俺は策を使い切りはしたが、それ以前の事として前衛と後衛をスイッチした頼りになるパートナーがいる事を忘れてはいない。
俺は主席から目を離せない状態だが、きっと後ろではアルフォンスが管楽器の一種であるトランペットを構えているだろう事を予測している。

サモン・パートナーの儀式で召喚された者は、主席のパートナーであるサトリの心を読む能力のように何かしらの固有技能(オリジナルスキル)を有している。
アルフォンスの技能は“音”を操る事だ。愛用のトランペットを介し、静かなる調べを奏でれば聞く者の心を鎮め、鼓舞される曲ならば士気そ向上させると言った具合だ。
そして、アルフォンスが単純に破壊の意志を込めたなら、それは“音”の衝撃波となって放たれる。それが、アルフォンスの固有技能、『告げる妖精の楽奏』だ。

「すぅぅぅ……ッ」

不思議と、距離はあるはずなのにアルフォンスの息遣いが俺の耳にははっきり届いた。
大きく息を吸い込んで準備は万端と、トランペットを吹きならすべく、肺に溜め込んだ空気を一気に注ぎ込む。
そして、

──ぽふぇ~

そのあまりの気の抜けた音に、アルフォンスを除く全員がずっこけた。

……まあ、トランペットを力任せに鳴らそうそうなるわな。
そんな事を思いながら、奇しくも全員の視線はその音の発信源に向けられる。
俺も主席に背中を向ける事になっていたが、なんかもう色々と台無しだったのだから、きっと問題は無い。

「すまん、失敗した」

そして皆の視線を一身に受けてあははと笑うアルフォンスは、謝ってはいるがあまり悪びれているようには見えない。
だが、その邪気の無い顔を見ていると許してしまいたくなるのだから始末が悪い。
トランペットに一生懸命に息を吹き込むアルフォンスの姿は何ともプリティだった所も許したくなる上でポイントが高かったがな。

「……しかしまあ、失敗した結果とはいえ敵味方全員の行動を強制キャンセルとは、全く以って末恐ろしい能力だなぁ」
「確かにな。まさに君のパートナーにふさわしい能力だと私は評しよう」

……いや、待てよ主席。それはどういう意味だよ?

こうして、俺達と主席との戦いはなんかグダグダなままに幕を閉じたのだった。










あとがき

ふと男の娘を主役にしたSSを~、と考えてみたらこんな話が出来あがった。
とりあえず面白そうな気がしたので文章化してみたんですけど、どうでしょうか?

ちなみに、思いついた事をそのまま書いただけなので、設定は全く練っていないです。
ところどころに何か伏線っぽいのは設置してみましたが、裏設定的なものはな~んもありません(笑)
なので、続きを希望するのならネタをプリーズ。むしろこのネタで誰かSSを書いて下さいという状況です。
というか、マジで誰か続き書いてくんないかなぁ……。


追伸
登場したアルフォンス(仮称)の外見イメージは、Fateの『コンプリートマテリアルⅣ』の中にあった没ネタ(?)のライダー、『アストルフォ』です。
知っている人はきっとそう多くないと思うけど、あのイラストのアストルフォがマジ「こんな可愛い子が女の子なわけがない」状態。ピンク髪、最高です。



[29147] 続いてみた。
Name: のぶな◆197e18b3 ID:6c262ae5
Date: 2011/08/07 11:25
ある朝、目が覚めたまま考える。

俺は元々一人部屋に住んでいた。もし先の儀式で召喚されたパートナーが犬や猫のようなものであったのなら、別にこのままでもなんら問題は無かっただろう。
だが、実際に俺のパートナーとなったのは一般の成人男性と比べれば小柄であるとはいえ、完全な人型であるアルフォンス。
当然の事として一人部屋にふたりで住むという事になるのだから、色々手狭になる。

もっとも、儀式を推奨している学園側もその辺りの事に配慮はある。
パートナーの召喚に伴い、それまでの部屋で不都合が発生するのなら部屋を引っ越ししても良いという決まりが既にあるのだ。
まあ、そこにある程度の成績を収めているという条件が付くのだが、俺も一応は成績優秀な方に入るのだから、申請すれば部屋を移動する事は出来た。

だが、ここでアルフォンスが別に部屋はこのままで構わないと言ってきたのだ。
まあ、アルフォンスはあの可憐な外見の割にかなりいい加減で適当な性格をしている。大方、引っ越しをめんどくさがったのだろうが、俺としてはありがたかった。
俺は部屋では机で魔法の研究の理論を詰めるか、ベッドで寝るかぐらいなのだから、個人的な事を言えばひとり増えた所で不都合は感じない。
それよりも、部屋を引っ越しするためにこれまで集めた魔法の研究資材を纏める手間を考えれば引っ越したくないというのが本音だった。

という事もあり、引っ越しせずにそれまでの部屋のままだったのだが、問題は寝る場所だった。
当然ベッドはひとつ。中身は男とはいえ、見た目はどう見ても可愛い女の子なアルフォンスを床で眠らせるわけにはいかないというのが俺の主張。
対するアルフォンスは部屋の主である俺がベッドを使うべきだと言って、互いの意見は真っ向から対立したのだった。
その後の協議の結果、間を取ってふたりとも床で雑魚寝をする、という事に話は落ち着き、何故かベッドはあるのに使わないという謎のルールが発生したのだった。

……いや、当時は名案だとふたりとも心底納得していたのだが、どの辺りが間を取ったのだろうかと今思うと疑問しかない結果だ。

とまあ、色々と考えて来たが、結局何が言いたかったのかといえば、

「すぅ、すぅ……」

俺のすぐ隣で、アルフォンスが健やかな寝息を立てているという事だ。
何時もならば真上である天井を向いたまま寝ているはずの俺なのだが、今回は何故か横を向いていたらしい。
そのままうっかり横を向いて目を開けてしまったところ、丁度アルフォンスもまた俺の方に顔を向けるように寝ているのだから、その表情も良く見える。

人とは違う種族である妖精族だからなのか、その肌のきめ細かくて、陶器のように透き通る白さは何処か神秘的さを醸し出す。
元からして可愛らしい顔立ちをしているのだが、無防備に寝ていると普段の凛々しさや性格はすっかり鳴りを潜めて、なんともあどけない。
その安らいだ寝顔が、吐息がかかるのではと思う程にすぐ傍にあったのだ。

「んん……」

そして不意に小さな桜色の唇から漏れる吐息は何処となく艶めかしく、その幼さを感じさせる寝顔とのギャップがあるのに不思議とその魅力を更に引き立てる。
そこに居るのは、さながら幻想の物語に出てくる眠り姫。
瞳を閉じる姿は、自分を目覚めさせてくれる誰かのキスを待っているかのようだ。
だが、目の前にいるアルフォンスは幻なんかじゃない。手を伸ばせば触れる事が出来るくらい傍に居る。
だから、俺も見ているだけじゃなくて実際に触れてみたいと──

(いやいやっ、待てよ俺っ!!)

──ヤバイ。今のはヤバかった。殆ど無意識に伸ばされようとしていた自分の腕を、理性を総動員して何とか抑え込む。
多少寝ぼけが残っていたとはいえ、危うく一線を越えてしまうところだったと戦々恐々とした思いを抱く。
ただまあ、何とも惜しかったような気もするが、それは完全に気のせいであり、勘違いに違いないと思う事にする。

「むぅ……。ん、もう朝なのか……?」

と、俺が理性と衝動の狭間でもがいている気配を感じ取ったのか、アルフォンスの閉じていた瞳がゆっくりと開けられてゆく。
寝起き直後であるためかなり眠そうではあったが、それでも朝であるというのなら二度寝をする気は無いらしい。目が覚めたのだからとゆっくりとその上体を起こす。
それに伴い、普段は編み込んでいるというのに全くクセの付いていない長い桜色の髪が、さらさらと流れるように肩から零れ落ちてゆく。

アルフォンスは何やら『着古した感じが気に入った』とか言って、俺のシャツを勝手に寝巻代わりに使っている。
だが、一般の同年代より少し背の高い俺と、小柄な体格であるアルフォンスとではサイズが合ってない。
そのため袖の余らせて指先しか覗いていない手を持ち上げて、床に敷いた布団の上にぺたんと座りこんだまま眠たげに目を擦る。

「ん、ふわぁ~~…………、よし。おはよう。今日もいい天気みたいだな!」

そして残った眠気を振り払うようにあくびと共に伸びをひとつして、すっかり覚めた瞳を俺に向けて朗らかに朝の挨拶をしてくるアルフォンス。

…………ふぅ。押し倒さなかった俺すげーなっ!

「さてと」

俺の内心など知らず、アルフォンスは起き上がると早速指をひとつ鳴らす。
それと共にその周囲に柔らかな風が舞ったかと思えば、次の瞬間には下ろされていた髪は結い上げられ、何時も通りの髪型となったアルフォンスがそこにいた。

「……相変わらずの早業だが、流石は妖精族といったところか」

朝のたびに見る光景なのだが、それでも素直に凄いと毎回思う。
魔力の気配から、おそらくは一種の精霊のようなモノの力が働いているのだとは思うが、それを指を鳴らすというワンアクションで実行するのだ。
そんな事は、まあ主席辺りなら出来るかもしれないが、普通に考えて凄いの一言しか出てこないレベルだ。

「ん? ああ、コレはオレが妖精族である事と何にも関係無いぞ」

だが、俺のそんな言葉に対してアルフォンスは違うとあっさり答えていた。
その様子に、じゃあなんでだよと思っていると、アルフォンスは特に隠す事でもないと判断したのか、その口を開いて簡単に説明をしてくれる。

「いやな、元々オレは髪を切るのが面倒だと思って適当に伸ばしていたんだが、あるとき、いい加減邪魔だなと思ったんだよ。
だからナイフでこう、バッサリ切ろうとしたところでなんか知らんが上司やら同僚やらが必死にそれを止めてな。
そのあとは何だかんだとあって、王女様が自ら髪結いの精霊の加護をくれるっていう事になったんだよ。
ま、オレとしても髪を切る面倒が無くなって楽だから、そのまま今に至るというわけだ」

……とまあ説明してくれたわけだが、とりあえずナイフでばっさりなんて随分とワイルドな散発の仕方だな。
そしてアルフォンスの上司や同僚の皆さん、グッジョブ!!
あんな綺麗な髪を残してくれて、本当にありがとうございます!

「さて、そんな話よりさっさと着替えようぜ」

……油断した。
俺が見た事もない方々に感謝の念を送っていたのだが、アルフォンスはその隙に着替えようとその羽織るように来ていたシャツに手をかける。
いやちょっと待てよ、お前の生着替えは俺の精神力の許容範囲をだな、っておいぃぃぃ……ッ。

とりあえず一言。何故服を脱ぐのにあれほどの色気を出せるんだ、アルフォンス?







朝からとんでも無く困難な試練に直面したが、俺はなんとか乗り越えた。もし今の俺の精神力を数値化したら、かなり高い数値を示す事に違いない。
もっとも、この数値は対アルフォンスに特化しているのだから、他の事に関しては全く役に立たないだろうが。
そんな益体も無い事を考えつつも、俺は手を止めずひたすらに紋章を刻む作業を続ける。

俺は学科において、主に『神字(ルーン)』を専攻している。得意魔法は属性付加(エンチャント)なのだが、その補助として神字を俺は使っている。
俺が主席の三重の障壁を突破出来たのも、ひとえに前もって属性付加を使う下準備に神字による属性強化を幾重にもしていた結果だ。
ただ、アレだけの量を『相乗』して使うのは禁術に近いのだから、在学している身の上ではああいう学園の目の届かない場所でしか使えないのだが。

とまあ、過日の主席との一戦のおかげでかなり消耗してしまった物を補うべく、休日返上で研究室を借りてこうして地道な作業を続けているわけだ。
こうして神字を刻む作業は手間ではあるが、魔力量に不安のある俺にとって、こうやって前もって準備しておけるというのは非常にありがたい。
それでも、面倒な事には違いない。アレだけつぎ込んだというのに主席には防ぎ切られた事を思うとやるせなさも割増というものだ。

ただ、溜め込んだ神字を使うと決めたのは俺自身なのだから、文句を言える筋も無い。
手間の割に効果も地味という事もあって専攻する者も少ない研究室は、休日もあって俺の独占状態。そんな室内で黙々と作業を続ける。
対外的には無愛想で通っている俺には共同研究する相手もおらず、今までであったなら朝からずっとこの孤独な時間が続くのだった。

「へ~、『火』のルーンひとつとっても、方向性を変えて『発火』と『破壊』。そして『耐熱』を使い分けられるようにしていたのか。
さすが人間族。こういう小細工に掛けては天下逸品だな!」
「……アルフォンス、それは多分褒め言葉なんだろうが、あまり褒められている気がしないぞ」

だが、今回はその限りでは無かった。
今日は研究室に籠るからお前は好きにしていろと言ったのだが、アルフォンスは何やら俺の魔法に興味を持ったらしい。
モノ好きな事に何処かに遊びに行く事もせず、こうして俺の手元を後ろから覗きこむようにしながら、神字という魔法に対する造詣を深めている。
適当な性格のアルフォンスの事だからすぐに飽きるだろうと予想していたのだが、それに反してこうして感心した様子を見せる事は、俺にとって少し意外だった。

というか、その理解力と解析力は一体何なんだ?
俺は別に手元の作業について説明などひとつもしていないというのに、見ただけでその効果をほぼ正確に把握している。
しかも、今俺が刻んでいる物は試行錯誤を重ねてようやく最近形になったオリジナルの組み合わせだというのに、だ。
多くある種族の中でも精霊に最も近いとされ、魔力との親和性の高い妖精族だからなのかもしれないが、アルフォンスに簡単に見破られたというのは妙に悔しい。

「そうか? う~ん、オレはすげー褒めているつもりなんだけどなぁ……」

……まあ、可愛いは正義だから全然許すんだけどな!
俺の褒められている気がしないという言葉を受けて、良く分からないと首を傾げるその姿を横目にしながら、俺はそんな事を思うのだった。

「ところで、折角だからお前の意見も聞いてみたいんだが……」

それはさておき、騎士を名乗るアルフォンスがここまで魔法に関して理解を示す事は想定外だったが、ある意味好都合だ。
そう考えた俺は手元の作業をひと段落ついた所でいったん止めて、以前刻んだ神字の試作品を取り出し、まずは何の説明もせずにアルフォンスにみせてみる。

「これは……『硬化』のルーンか?
いや、それにしてはあんまり硬くなさそうだな。むしろ細いっぽい……?」

アルフォンスは俺の取り出した物を興味深げに観察して、自分の感じたままの事を口にする。
だが、明確な効果は予想出来ないのかその内容はいまいち要領を得ず、自分で言った言葉に自分で首を傾げている。
……なんというか、本当に大した解析力だな。

「大体は正解だ。これは俺が『硬化』を改造して『斬撃』の属性を作ろうとした、その試作品だ」

まあ、これはクイズ大会などでは無いのだから、あっさりとその答えを提示する。
硬い金属を鋭く研ぎ澄ます事で刃と成す。その考え方の下に『硬化』の神字に鋭さを加える事で『斬撃』としようとした、その結果がコレだ。
だが、実際にやってみると、鋭さとは即ち“薄さ”に通じるモノであるため、出来あがったのは『硬化』を損なっただけのものだという話だ。

「なるほどな。つーか、そもそも切れ味を向上させる魔法なんて色々あるだろうに、何でそんな事をやろうとしたんだ?」

俺の説明に、自分の感じた物に納得したらしいアルフォンスだったが、今度は別な疑問が湧いてきたらしい。
失敗作である試作品を手の中で弄ぶようにしながら、率直に訊ねてくる。

「言ったろ。俺は『斬撃』の“属性”を作ろうとしたんだよ。
確かに神字で斬撃を強化する方法はいくらでもある。だが、そもそも俺は『神字使い(ルーンファクトリー)』じゃなくて『付加術師(エンチャンター)』だ。
そして、俺が得意とする魔法は『属性を付加する』魔法だ」

俺が求めたのは、純粋な『斬撃という属性』だ。斬撃という概念を“補強”するのではない、付加術師として付加する事の出来る“属性”だ。
もし、斬撃を強化したいのなら鋭利の概念を内包する風属性を付加すればそれで済む。だが、それはあくまで『斬撃を強化』されたという結果だ。

もし斬撃属性という物があれば、武器に風よりも鋭い切れ味を付加出来る事は言うに及ばず、耐刃効果を特化して防具に付加する事が出来るはず。
ピンポイントでの属性付加は通常の属性を使うより凡庸性は下がるだろうが、その分魔力効率が上がるだろう事を考えれば、状況判断を間違えなければこの上ない武器になる。
そう考えたからこそ、その思いつきを実現しようとしてチャレンジしてみたわけだ。

「……あー、何となくわかった気がする」
「分かって貰えて何よりだ。ただ、他に硬化に重量を加えて『衝撃』や、水から『浸透』という属性を作ろうともしたんだが、俺の技術や知識では失敗だけだった。
という事で、お前にはどうすれば属性として成立するか、何か意見みたいな物は無いか?」
「いや、ちょっと待て。何が『という事で』なんだよ。オレは魔法の事は分かるだけで、詳しいわけじゃないんだぞ」

あれほどの理解力があるのなら、何か考えが出てくるのではと思っていたのだが、実はそうでもないらしい。
というか、魔法に対する知識もないのに、あんなに簡単に魔法を解析するなんて、妖精族はマジでハンパ無いな。

「それでも、だ。何、適当に思った事を言ってくれるだけでも構わない」
「む、ぅ……」

だが、今はそんな事はどうでもいい。行き詰っている今は何でも良いからとっかかりが欲しい所なのだ。
その想いが通じたのか、アルフォンスも戸惑うように言葉を詰まらせるが、俺の事を見捨てるような真似はしないらしい。
すぐに腕を組んで、なんとか考えをひねり出そうとしてくれた。それが何とも嬉しい。

「しかし、オレは妖精文字ならともかく、ルーンなんてありきたりな単語が分かる程度で、実際には読めやしないからなぁ……」
「……妖精文字?」

アルフォンスは何気なく言った事だったが、俺はそこに引っ掛かりを覚える。
妖精文字と言えば、神字に比べたなら格は下がるが、それでもこの世界においては古代に失われた言葉だと言われている。
アルフォンスは異世界の住人であるとはいえ、妖精族である事には違い無く、この世界で失われたものでも普通に読み書きが出来る、のか?
もしそうであるのなら、断片しか残っていない神字より、完全な文体の妖精文字を使った方が可能性はあるかもしれない。

「……妖精文字か。なるほど、試す価値はあるな」

確かに格は下がるし、刻む分量も増えるだろう。成功しない可能性の方が高いはず。
だが、どうせ今のままでも行き詰っている事には違いない。そもそも、今までの時点で相当な失敗を重ねて来たのだから、今更失敗を恐れるつもりも無い。
そうと決まれば話は早い。さっさと机の上の物をどけ、まずは刻む内容を考えるために紙とペンを取り出す。

「おいおい、マジかよ……。オレは人にモノを教える柄じゃないんだけどなぁ……」

アルフォンスからすれば何気ない呟きにここまで反応されて困惑気味だ。
だが、それでも仕方が無いなというように頭を掻きながら、手近にあったイスを持ってくると、机を挟んで俺の対面に腰を下ろす。
どうやら俺の我が侭に結構長い時間を付き合ってくれるようだ。

「今度、学食の超特製パフェを奢れよな」

ただ、よりにもよって学食で一番高いデザートを要求して来たのがなんとも財布に痛い。
だがまあ、特大のパフェを幸せそうに食べるアルフォンスの姿を想像してみれば、それも悪いものではない気がする。
こう、満面の笑みを浮かべながら「ほら、美味いからオマエも食べてみろよ」と言って、クリームを一口ぶんを掬ったスプーンを俺に差し出してくるとか。

「……よしっ、じゃあ早速始めようか!?」
「いや、何で急にそんなにやる気になっているんだ?」

むしろ俺にとってもご褒美です。そんな想いを胸にしつつ、新たな試みに取り組み始めたのだった。







そんな感じに始まったのだが、実際にやってみるとこれが中々難しい。というより理解が殆ど出来ない。
文体自体は俺達が普段使っているモノとはそう違いは無い。文字の種類も相当多いが、別に日常会話をするわけでは無いのだから、文字を限定すれば何とか出来そうではある。

問題だったのは、これが『使用が妖精に限定されている』という一点だ。

文字も文法も何となく理解は出来る。だが、はっきり理解しようとすると途端に思考に霞がかかったように言葉を認識出来なくなってしまう。
おそらくは言葉自体が一種の力を持っている影響で、妖精族以外の人の事を言葉自体が拒絶しているのだろう。

「って、また間違っているぞ」
「む」

今も基本的な文字を書こうとしたのだが、気がつけば意味を成さない線を紙の上に描いているのだから空恐ろしい。
この現象は神字を学ぶ際にもあったのだが、これはそれ以上だ。妖精族に直接教えて貰っているのにここまで拒絶してくるとは、どんだけだよという話だ。

とはいえ、これは俺が使う魔法と考えているのだから、俺自身が書かなければ意味が無く、アルフォンスに代筆して貰う事も出来ない。
今は数をこなしてこの文字のあまのじゃくっぷりに慣れるしかないと、言葉に宿る魔力に惑わされないように意識をしっかりと持って、ひたすらに書き連ねていく。

「……よしっ」

そうやってじっくりと時間を掛けて、ようやく書き切ったという手ごたえを自分の中に感じる。
アルフォンスの監修の下に俺が書き上げたその一文は、こう書かれていた。

“コノムッツリスケベメ”

「って、なんだとコラァッ!?」

何で文字に馬鹿にされなきゃなんねーんだよ!?
俺は可愛いモノを内心で全力で可愛がっているだけだっ。それを言うに事欠いてムッツリスケベ呼ばわりとはいい度胸だ。ちょっと表に出ろや!!

「いや、それはオマエが自分で書いたんだろうが」
「う……っ」

アルフォンスにツッコミを入れられて、勢い良く立ちあがってすぐに、力なく再びイスに座る俺。
さすがイタズラ好きで評判の妖精が使う文字。あまのじゃくっぷりがハンパ無い。神字以上に研究する人がいない理由が良く分かる思いだ。
なんかもう、絶対この文字達(こいつら)は出来ない俺の事を嘲笑っているだろ?

「これじゃあ日が暮れるどころの話じゃないな。……ったく、仕方が無い」

俺が文字の前に膝を屈しそうな想いを抱いていると、不意にアルフォンスはイスから立ち上がる。
一体どうしたのかと思う間もなく、机を回り込むようにして俺の背後に立ったなら、そのまま覆いかぶさるように身体を俺に寄りかけてくる。

「あ、アルフォンスさん?」
「ほら、こうやってオレがオマエの手を使って文字を書いてやる。これなら文字達もちゃんと応えてくれるはずだ」

その唐突な行動に俺もついどもってしまったが、アルフォンスの方は全く意に介さずに手を俺の手に添えてくる。
……なるほど、俺の手を使っても書くのはアルフォンス。これなら確かに妖精族が妖精文字を使っていると認識されるだろう。そして俺は書かれた文字を実感できる。
兎にも角にも、まずは文字を書くという最初の引っ掛かりを越える方法としては良い手段だと思う。

「ん、何身体に力を入れてんだよ。もう少しリラックスしろ」
「お、おう……っ」

というか、近い。そしてアルフォンスの吐息が耳にかかってくすぐったい。
体格で劣るアルフォンスが二人羽織りの後ろを担当しようとしても、普通にやっても長さの問題で俺の手元まで手が届かない。
その分を届かせようとして肩に頭を乗せるような格好になる程に密着しているのだから、その吐息がダイレクトに俺の耳に吹きかかる。
更には同じシャンプーを使っているはずなのにふわりと香るアルフォンスの髪の良い匂いが俺の鼻腔をくすぐってくるのだ。

僅かに視線を横に向けるだけでアルフォンスの長いまつ毛も間近に見える。
既に視覚、触覚、嗅覚、聴覚と五感の殆どをアルフォンスの事に占拠されてしまっているこの状態。
……コレ、なんて拷問?

いやいや、落ちつけよ俺。アルフォンスは男だ。実際、背中に感じるアルフォンスの温もりはまっ平らじゃないか。
これで動揺するなんて、そんな事あるわけがない。俺の鋼の精神はこの程度で揺らぎはしない!

「んっ、ちょっと変な風に動くな……っ」

……俺の鋼の精神はスポンジの精神になった!
なんだよその艶めかしくも魅惑のハスキーヴォイスはっ。可愛い過ぎて俺の理性は全面降伏だよ!?

これはマジでヤバイ。洒落になっていないぞ。対アルフォンスとして鍛えられてきたはずの精神力による防御壁が一瞬で大半を削り取られてしまった。
僅かに残ったなけなしの理性を総動員させて、アルフォンスの事を意識しないように他の事を考えなければっ。
こういう時はあれだ、哲学だ。宇宙の始まりと終わりという壮大にして深遠なる命題について考察を重ねるのだ。

そんな事を思いながら、アルフォンスの事を見ないようにして、ふと視線を下に落とす。

“ヘンタイメ、コンヤハオタノシミカ?”

「誰が変態だゴルアァァッ!!」

今夜は俺が何をすると思っているんだよお前はッ!?
妖精文字めっ、もうぜってーお前は許さない。覚悟しやがれぇぇぇっ!!

……そうやって、俺の精神の動揺を全て怒りに変える事で、何とかこの場を乗り切る事が出来たのだった。

「なんつーか、オマエらの仲がよさそうで何よりだな?」

文字と仲良しって、俺はどんだけ寂しがりだと言う気なんだよアルフォンスゥッ!!












あとがき

今回の内容は、

目が覚めたら可愛い子がすごい間近で眠っていたよ!
可愛い子が後ろから抱きすくめるような格好で手取り足とり勉強を教えてくれたよ!

それ以外の全てはただの辻褄合わせのオマケです(笑)

しかし文章だけで男の娘を表現するのが難し過ぎる。前回も今回も、ちゃんと男の娘を書けているかどうかの自信が無いです。
そして、今回で既に男の娘に対するネタの引き出しは殆ど尽きたので、連載が始まったとはちょっと言えない状況です。


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