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[28979] (習作)竜の住む国(エセファンタジー)
Name: 妄想男◆8fb82927 ID:58e5b8e6
Date: 2011/07/24 01:34
はじめまして、妄想男と申します。
なんとなく、竜、ファンタジーと考えついた物をつらつらと書いてみました。

ROM専でSSを書くのは初めてですが、どうかよろしくお願いします。

ちなみに冒頭のバイクの下りはあまり意味がなかったりします。
これ書く直前にキリンを読んだのでなんとなく書いて見ただけだったり…。



[28979] 第一話
Name: 妄想男◆8fb82927 ID:58e5b8e6
Date: 2011/07/24 01:35
―峠に爆音が響き渡る―
Rのキツい上りのカーブ、ジーンズに装着したプロテクターを擦りながら一台のバイクが凄まじい速度で駆け抜けていく。
峠道を行ったり来たり、一度も止まること無く、一定の区間を走り続ける。
一般人には理解しがたいその行為、一般人…というのもおかしな事か、彼もまた一般人なのだ。ただの社会人、ただの男、ただのバイク乗り。
目前にカーブが迫る。無表情のまま、左足でペダルを2回、トントンと踏み込む。タコメーターの針が一気に跳ね上がると同時にそれに応じた量だけアクセルを開ける。
ステップに強く力を込め、車体の左側に加重を目一杯かけてカーブを抜けていく。
確かに、普通に見れば自殺行為なのだろう。慣れた道とはいえ、動物が出てくるかもしれない。対向車がハミ出してくるかもしれない。公道はサーキットではない。何が起きるかはわからないのだ。
何が彼をここまでの速度で走らせるのか、対戦相手がいる訳ではない。一昔前ならともかく、今や世間では完全に『悪』と見なされた峠小僧たちはもういない。
金が貰える訳でもない。誰かに自慢する訳でもない。褒めて欲しい訳でもない。
ただ、がむしゃらにアクセルを開け、バイクを制御する。ただただ速く、数秒前の自分よりも速く。
きっかけは父親だった。昔の写真を見せながら、いつもとは違う笑顔を見せる父親を見て、彼は昔からバイクにあこがれていた。
「……ふぅっ」
一旦止まり、時計を見る。もう正午を過ぎていた。
「おぉ…昼飯だ」
腹はあまり減っていなかったが、彼は時間で飯を食べる派だった。どうでもいい話ではあるが。
鼻歌を歌いながらリュックサックからコンビニで買ったおにぎりと麦茶を取り出す。まだ暑い時期ではないが、おにぎりも麦茶も生暖かくなっていた。
「んーもう2,3往復して帰るか」
Kの文字の入った250ccのバイクに跨り、また何かを求めるように走り出す。
若気の至り、という訳ではないが、彼は自分は『道路の染み』となるなど思いもしなかった……。
「…っ!」
走り出し、彼が自分で決めたルートを2往復したころだった。対向車の軽トラックが曲がりきれずガードレールに接触、横転し彼の進路を遮った。
バイクという機械を操りだして3年、普通に乗るだけでなく必要以上に訓練した彼は対向車が少しくらいはみ出して来る程度なら避ける自信はあった。だが、これは…。
彼が最期に見たのは頭から血を流しながら目を見開いた初老のドライバー、白い車体、そして、ガードレール。
彼の体は投げ出され、ガードレールを越えて崖下へと消えた。
こうして、21歳、彼女無し、うだつのあがらない社会人だった佐々木良太の人生は終了した。


そう、『この世界』では。


「んっ?」
目を覚ます。良太は草原に大の字で寝ていた。
「あ…れ? 俺……」
頭に手を当て、ハッと気づく。ヘルメットが無い。
「…あれ、脱いだのか? っていうか、どこも痛くない……」
あの一瞬、痛みは感じなかった。当たり所がよかったのかとも考えたが、そんなはずは無い。確かに落下していく自分も認識していた。
上半身だけ起こし、全身をチェックする。ヘルメットはしていないが、頭にタオルを巻いている。血は出ていない。
「手…足、折れて無いな」
ナックルガードがついたメッシュグローブ、膝パッドが入ったジーンズ、そしてダブルタイプのレザージャケット。どこも破れていない。
「あっれぇ……」
立ち上がってみても異常は無い。考えれば考えるほど訳が分からない。
「ってーかここ、どこだよ」
そう、さっきまで自分は郊外の峠道を走っていたはずだ。今自分がいる場所は遠くに山は見えるが、多少の隆起があるずいぶんと見渡しのいい平原。峠道を走り崖から落下した自分がいるはずが無い。
ポケットからガムを出し、口に入れる。ハーブミントの味が口内に広がり頭がすっきりする、が、やっぱり訳がわからない。
「アレか、今俺は実は救急車で運ばれてて、夢でも見てるとか……あ、会社どうしよ…」
なんとも暢気な話ではある。というより、ここまではっきり考え事ができる夢などあるだろうか。
「とりあえず、ちょっと歩いてみようかな」
何事にも前向きな彼はとりあえず周囲を散策してみる事にした。
彼は気づいてはいない、ここでの行動は『元いた場所』の数倍、自分のこれからに関わる選択肢となることを…。

―草原、良太に近い場所―
「はぁっはぁ…!」
少女が草原を駆ける。走る速度は並の成人男性よりも速い。すばやいというよりも脚力の問題か、その小さな体では信じられないスピードで走っている。何かから逃げるように。
「いたぞー! はやく! こっちだ!」
幌のついていない馬車に乗った3人の男、格好は『その世界』の一般的な格好だが、手には棍棒、鎌、弓矢。その3人とは別に1人、鉄製の胸当てや籠手、肩に大きな剣を下げている。
少女の足は確かに速かったが、馬には勝てず、目の前に回りこまれた。
「気をつけろ! 近づきすぎるなよ!」
禿た男が少女から目を逸らさずに仲間に注意を促す。目の前の少女はまだ10歳にも満たないだろう。そんな少女に全員が敵意と恐怖を抱いた視線を浴びせていた。
「…おい、どいてろ」
「いえ、先生はお待ちください。我々でどうにもならない場合の約束です」
鎧を纏った一際背の高い男の言葉に少々細身の男が答える。
「…好きにしろ。ただし、手を出さなくともある程度の金は貰うぞ」
舌打ちしながら馬車の傍まで鎧の男が下がる。その他の男はジリジリと間を詰める。
「…いや、ぃゃ…私、なんにもしてないよぅ…」
「同情ひこうったってそうはいかねぇぞ化物…!」
懇願する少女に男たちは尚も恐怖を浮かべたままジリジリと近づいていく、だが、空気の読めない青年もその場に近づきつつあった。
「おぉっなにこれ馬車? お、お兄さんなにそれ、本物ですか? その鎧! あっ! 剣まで!」
間抜けな声にちらっと横を見る鎧の男、足音からこの青年、さっきから近場をうろうろしていた良太の存在には気づいていたが、こんな間抜けな問いをしてくるとは思っていなかった。
「なんか用か?」
「あ、いえ…なんか人が集まってたんで……なにやってるんです?」
「…取り込み中だ」
投げやりな鎧の男の返答に一瞬たじろぐが、元々好奇心の塊のような人間は止まらない。
どうせ夢なら楽しんでしまおうと開き直ったのか、良太は興味津々に馬と鎧の男の間を行ったり来たりする。
「な、なんだお前、どこから来た!」
「うちの村のヤツじゃねぇな? 何者だ!」
鎌を持った男と弓を持った男が良太へと向き直り、敵意をあらわに問いかける。
「え、ちょっ! なんですか!?」
「こっちが質問してんだ! 何者だ! 何の用だ!?」
男達が良太に気が向いたその一瞬、少女が男達の影から飛び出し良太の後ろに隠れる。
「おっ?」
「あっ、おい! お前、そいつの仲間か!?」
「だったら容赦しねぇ! おい、逃がすなよ! 囲め!」
あっという間に3人に囲まれた良太、いよいよただ事じゃない雰囲気に気づく、というよりも男達の手に持った武器を見てようやく気づいた。この人達はヤバい。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! なんですか仲間って! っていうかこの子が何かしたんですか?」
「何言ってんだ! そいつは人間なんかじゃない! 竜だ! 災いをもたらす神だ!」
「子供のうちに殺しておかねぇと! うちの村じゃずっと昔っからの言い伝えなんだ!」
怯える少女を背中に庇った良太に男達の敵意は更に強いものとなった。それに対して良太の表情はまた間抜けなものになる。
「竜? 災い? なに言って…」
「いいからその子を差し出せ! 殺して、山に捨てなきゃなんねぇ!」
「いやいや……どうしようか…」
ジリジリと間合いを詰めてくる男達、喧嘩をしたこと無い訳では無いが、鎌や棍棒を持った大人を制するほどの能力は良太には無い。当然だ、ただの一般人なのだから。
「ちょっと待ってくださいよ!」
「うるせぇ! 逃げられる前に! 仲間を呼ばれる前にやっちまえ!」
叫びながら男が走りより棍棒を振り下ろす。
「ひっ!」
短く叫びながら少女を庇うように飛びのく良太。鈍い音と共に地面に小さな小さな窪みができる。
「マ、マジかよこいつ…!」
「うぁらぁっ!」
尻餅をついた良太に男がまた棍棒を振り下ろす。
「うひぃ!」
「んなっ!?」
完全に躊躇無く振り下ろした棍棒を良太の素手ががっちりとつかむ。
「えっ?」
「くっ…離せぇ! なんて力だコイツ!」
男がギャーギャー喚きながら両手で棍棒を引っ手繰ろうとしているが、別に力を入れてる訳ではない。何度目の間抜け面だろうか。だが、なんとなく理解できてきた。
「あ、そうだわ。俺の夢だもんな」
手を離す。反動で無様に尻餅をついた男の顔面に蹴りを叩き込んだ。
「ひっ…ぎぃ! 鼻が…鼻がァ!」
鼻血を撒き散らしながら蹴られた男がのた打ち回る。あまり喧嘩慣れしていない良太にとってはそれは決して気持ちのいい光景ではなかった。
続いて、鎌を持った男が怯えた声を出しながらめちゃくちゃに鎌を振りながら突進してくる。冷静になった良太はとりあえず鎌を手で止め、これまた顔面に拳をめり込ませた。
「おぉ、すげぇ…グラップラー俺って感じ?」
武器を持った大の男を一撃で戦闘不能にした自分に驚きを隠しきれない。鎌を止めた時もなんの衝撃も感じなかったし、ちょっと集中して見たらまるで止まっているようだった。
「すごい! お兄ちゃんすごい!」
「え? へへっ…すげぇな俺!」
「テメェ! 動くな!」
調子こきまくりの良太に弓を持った男が狙いを定めて叫ぶ。恐怖で手が震えている。素人の良太でもあれは当たらないと直感した。
「ちょっと落ち着いてください。とりあえず話し合いませんか?」
「化物め……!」
男が弓を引き絞る。当たらないだろうとは思ってもやはり少し怖い。後ろの少女に当たっても問題だ。一瞬良太がたじろぐ。
「おい、まぁまて、ここからは俺の仕事だ」
「先生……はい、お願いします…!」
鎧の男が割って入った。肩に下げた剣を抜く。人一人くらいは真っ二つに出来そうな大きな剣だ。
「お前…本当にナニモンだ? 動きはまるっきり素人だが……」
「素人ですよ……でも、今はスーパーマンかも?」
ビビりながらも『ここが自分の夢』と思い込んでいる良太はドヤ顔で答える。鎧の男は真剣な顔をしたまま眉も動かさない。
「そうか…まぁ、とりあえずお前をぶっ殺してその子を村に渡すのが俺の仕事らしいんでな。悪く思うなよ」
「うっ…!」
一閃、さっきの男が振った鎌や棍棒とは比較にならないスピードで横薙ぎの一撃を繰り出す。間一髪、腰を屈めて避ける良太。
「潜った…? 人間の反射神経じゃねぇな」
「い、いや…無理だろコレ!」
驚いたのは両方だった。鎧の男が驚いたのは、必殺と思えた速度で胸辺りを狙った横薙ぎを、降り始めた後に屈んで避ける反射神経と動体視力。確かに人間のソレではない。
そして、良太が驚いたのは明らかに人を殺すことに躊躇の無い一撃、さっきの棍棒や鎌とはレベルが違う。直感で感じた。この人は人を殺した経験がある。
「いつまで逃げ切れるか。まぁ武器もねぇんじゃたかが知れてるな」
「うっ……ちょ、ま…」
言い終わる前に一閃、二閃。肩口から斜めへ抜ける袈裟切り、良太が下がって避けた瞬間に体を回転させ、横薙ぎの剣撃。それも屈んで避ける良太。
避けれてはいるが、後ろに少女を庇っているのは忘れてはいない。いつかは追い詰められるだろう。
「ちょ、ちょっと待ってくださいって! マジで!」
「テメェがそこをどいてその子を差し出すってんならいつでも止めてやるよ」
「今更そんなことできんでしょうよ!」
剣撃を避けた際に掴んだ砂を鎧の男の顔面に投げつける。目潰し作戦だ。
「うっ!」
「よっしゃ! おい、えーっと…」
その後の事を考えてなかった。
「お兄ちゃん!」
少女が良太のズボンを引っ張る、妙に力が強い気がしたが、それどころではなかった。
「と、とりあえず!」
「とりあえず?」
「逃げるんだよォォォー! ほら、行くぞ!」
少女を脇に抱える。予想通りとても軽く感じる。いくら小柄な女の子とはいえ、おぶさるのではなく小脇に抱えての全力疾走など、鍛えていない良太にできる訳がないのに、だ。
それだけじゃない。走るのも異様に速いし息切れもほとんど感じない。
「だっはははっ! 夢様様だなオイ!」
「あっちー! あの山! 私の家があるよ!」
「よし来た!」
子供一人抱えているとは思えない速度で逃げていく良太、さっきの戦いを見て弓を持った男は完全に自分には無理と追うのを止めていた。



―どこかの山奥―
良太と少女は森を歩いていた。少女は山を歩きなれているようですいすい進んでいく。対して良太は、まったく息が切れないが歩きなれていないため、情けないことだが少女に続く形になっていた。
「んー、まずは名前からだな。名前、なんてーの?」
「ルーニァだよっ」
良太の問いに元気よく答える少女、白磁の肌に紺碧の瞳、鮮やかなセミロングの金髪。はっきり言って、可愛い。育てば美人になるだろう。
「そりゃ、外人だよなぁ。日本語うめぇ…」
「ニホンゴ?」
言ってから気づく、そういえばここは自分の夢だった。言葉の壁なんて政治家の謝罪並みに薄いだろう。
「お兄ちゃんは? どこから来たの?」
「うん? おぉ、佐々木良太って言うんだ。どこから来た…か、どこからだろ?」
どこから来たのか、というより、どうなるのかわからんというのが本音だろう。目が覚めれば病院……仕事先や親の事を考えると目を覚ますのが怖いような気がする。
「ササキリョウタ……」
「リョウタでいいよ」
ふと足を止め、こっちを向いた女の子になるべく優しくそう返す。
ロリコンでは無いが、子供好きだ。ついでに言うと美人に優しい。モテないが。
「リョウタ、助けてくれてありがとう」
「ん…あぁ、どういたしまして、かな」
ジッと見つめながらかみ締めるように言うルーニァの姿に一瞬圧倒されるリョウタ。一瞬だが、何かここから先は聞いてはいけないような気がした。
少女はまた歩き始め、リョウタが追従する。
「リョウタはいい人だねっ」
「んー、そうだな」
いい人と言われて悪い気のする人間はいない。どっちかというとリョウタは褒められたいタイプだった。というよりも単純なので人の言葉で気持ちが左右されやすい…か、自分の半分以下の背丈の少女にこう言われただけで少しいい気になっていた・。
「リョウタは……人間さん?」
「え? そりゃ……人間だろ? そんなこと聞いて……」
ルーニァは違うのか、そう聞こうとして言葉を飲み込む。あの男達の怯えた目、化物と、竜だと叫び殺そうと武器を振り回しながら突っ込んできた……あれは尋常じゃあない。
「…いや」
そう、これは夢なのだ。多分この子がヒロイン的な重症を追った自分の見ている夢。
そうでなければありえないだろう。さっきの戦いでもそうだが、今ももう随分話しながら歩いている。大きな岩をよじ登ったり、自分の背丈ほどもある草を払いながら獣道を歩いている。会話をしながらこんなに自分が歩けるわけが無い。
「ところで、家があるってこんな山奥にか? ルーニァは耳が尖ってないけどエルフとかそんな感じ?」
「ううん、私は…」
再度ルーニァが足を止める。くるりとリョウタに向き直り、不安そうな声で一言。
「…リョウタは、私が竜って言っても怒らない? 追いかけたりしない?」
「んー…本当に竜って言われてもな。追いかけてどうすんだ?」
信じる信じないは別とする。これは自分が見ている夢と思い込んでいるからだ。そもそも、目の前の少女が竜というのも無理がある。尻尾も羽も無けりゃうろこも無いのだから。
だが、さっきから見ているとこのルーニァと言う少女はやけに力が強く身軽なようだ。邪魔な倒木を、太さそれほど無いとはいえ、はよっこらしょといった感じで持ち上げて潜ったり、自分の頭より高い場所に手をかけて簡単によじ登っていく。
「ルーニァが竜だとしても、なんであの人達は追いかけて来たんだ?」
「わかんないよ……」
「…そっか」
怖かったんだろう。大の男4人に馬まで使って追いかけられたのだ。急にシュンとしてしまった。
「あー……もうすぐつくのか?」
「うん…あ、あそこ!」
ルーニァが指を指す場所には茂みに人一人通れる穴が開いていた。ルーニァはそこに躊躇無く入っていく。
「家…ねぇ……おっ?」
続いて入って見ると、ただの茂みに見えたが、どういうことかはわからないが地下に向かって少し傾斜になって人が一人通れるトンネルが出来ている。
壁は岩だったり土だったり、木の根が見えていたりするがなぜか崩れるという不安感は一切無かった。
「おもしろ……って、あれっ」
リョウタが周りに見とれているとルーニァはいつの間にかいなくなってしまった。
一本道なのでそのまま足早に進んで見ると、すぐに開けた場所に出た。
周りを見ると、壁が木の肌で出来ている。木造の家ではない。まったく加工した痕跡が無い気が壁になっている。
信じられないことだが、リョウタは巨大な樹の中にいるのだと理解した。リョウタの目の前には巨大な白い岩が横たわり、真上を見上げると吹き抜けになっているらしく日差しが眩しい。
「…すげぇ……」
現実では絶対に見ることの出来ない風景、完全に呆けて見とれていた。同時に自分が予想以上にメルヘンチックな心の持ち主ということにも驚いていたが。
「おかあさんっ! ただいま!」
「ん? あ、ルーニァ」
見るとルーニァが岩に抱きついている。岩に見えたがこれは家か。こんなところに住みたい…そう思ったところでリョウタの思考は完全に停止する。
「う…そだろ……本当に…」
岩では無い。岩肌ではない。鱗がある。
「……竜、だって?」
「おかえりなさい、ルーニァ…無事でよかった。ありがとう、リョウタよ。貴方は思った通りの人でした」
今日、リョウタの価値観は180度変わる事になる。平凡な人生の終わりでもあり、非凡な人生の幕開けだった。




[28979] 第二話
Name: 妄想男◆8fb82927 ID:58e5b8e6
Date: 2011/07/25 14:04
「さて…どこから説明しましょうか。失礼…まずは私の頭のほうにまわってくれませんか?」

白い巨大な物体、いや、生物か。真っ白な鱗に背には金の体毛が見える。漫画やゲームではいろいろな姿のドラゴンを見るが。この竜は巨大なトカゲのような体系をしていた。
リョウタは言われた通りに頭側を探して前にまわりこんだ。大人が手を開いたほどの大きさの瞳がリョウタをじっと見つめる。

「あの…」
「いいのです。まだ理解できないでしょう。貴方達は自分が信じていなかったモノを受け入れるのが苦手ですから…」

確かに、目の前に超巨大なトカゲのような生物がいて人語をしゃべっている事が理解できない。というよりも理解することを拒絶していると言った所か、リョウタの知る現実とはかけ離れ過ぎている。

「ゆっくりでいいのですよ。一言一言を噛み砕きながらよく聞いてください」
赤子をあやす様に、竜は優しくリョウタに語りかける。語りかけるというのは少し違うか、テレパシーのようなモノだろうか。竜の口は動いていなかった。
「まず……私は、もう余命幾許もありません」

ポツリと呟く、その目はどこか悲しげに見えた。ルーニァも俯き、少し下がって地面に座る。

「貴方達人間には、想像出来ないほど長い時を生きてきました。が、やはり私も生物として土に還るのが世の理のようです」
「……」

リョウタが来てからずっと伏せていた頭を空に向け、ふぅ、と溜息を吐く竜。

「私は良いのです。十分長生きしましたから……ですが、生まれてまだ50年も経っていないルーニァを置いていくのが不便で……」
「ご、50?」
「今年で48歳だよー」

思わずリョウタの顔が引きつる。見た目ではどう見ても10歳に達しない女の子だ。いやそれが竜の常識なのかもしれないが…。

「貴方達の感覚から言えばまだ幼少期ですね。生まれたばかりの竜は、私のような姿をしていますが、40年ほど経つと人にの姿となり、その後50年、人間の姿で成長するのです。それからは人にも竜にもなれる存在として落ち着きます」
「ひ、一粒で二度おいしい感覚?」

冗談を言う余裕などなかったが、本気でそう思ったのだから仕方がない。
ふっ、と呆れたような笑みを見せた竜はまたポツりポツリと語りだす。

「ともかく、あと50年以上ルーニァは人の姿のままなのです。貴方も感じているとは思いますが、竜がとる人の姿…仮に竜人としますか。竜人は身体能力では人を完全に上回っています」
「あぁ、それはなんとなく…」

ルーニァの足の速さ、腕力、思い当たる節はここに来るための移動だけでいくつもある。
だが、ふと気がついたことがある。リョウタはとりあえずその質問は飲み込んだ。まだ質問をするには情報が足りなさ過ぎる。
しかし一つだけ、これがただの夢じゃないことだけは薄々気付きはじめていた。

「貴方自身にも、思い当たる節はあるのではないでしょうか……自分の能力に、何か違和感などを…」
「そうだ…俺があんな、武器を持った大人相手に立ち回れるなんてありえないですよ……これって」

竜が目を細める。

「貴方には謝らなくてはなりません。感謝の言葉の前にそれを言うべきでしたが……まずは説明をしなければ理解できないと思いまして」

嫌な汗がリョウタの背筋を這う。これは夢ではない。それを頭の中で拒否し続けるが、このリアリティをどう説明すると言うのか。

「ルーニァ、少し奥で休んできなさい。これからする話は貴方が聞かなくてもよい話です」
「…はぁい」

渋々ルーニァは壁に開いた穴の奥へと姿を消す。リョウタのほうへ向いて、心配そうな視線を送ったが、それに答える余裕は無くなっていた。
自分の心臓の音が聞こえる。夢でそんな体験はあるか? 腕に鳥肌が立つのを感じる。そんな感覚が夢でわかるか?

「貴方は、既に、死んでいるのです。そこにいる貴方は私が創った……竜人なのですよ。佐々木良太」
「……そんな」

後頭部を思いっきり殴られたような感覚、死んだ? 誰が? 俺が?
じゃあここにいるのはなんだ。創った? 竜人? 生まれたのではないのか? そんな馬鹿な話があるものか。今ここで、グルグルと脳みそをフル回転させて情報処理をしようとしているのは誰だ。

「私はルーニァを麓にある人間の村に送り出しました。私がここで息絶えた後の生活を考えれば、人里で静かに暮らせるのが望ましいと考えたからです」

続く言葉はリョウタの耳には入ってこない。ずっと頭の中で自分が死んだ事とここに存在する理由を考え続けていた。

「…少し休憩しましょうか」
「い、いや…ちょっと待ってくれ。俺のことについてもう少し詳しく…」
「そうですね。では、もう少し詳しく話しましょう。貴方は事故によって身体を無くしました」

ふっと足元から力が抜ける。死ぬのが怖いなど思っても見なかった。バイクに乗っている時は何も考えず、ただ速さだけを求めていた。
誰が死んだ後に貴方は死にましたなどと言われることを想像するだろうか。ただ即死するならそっちのほうがよっぽど楽に思える。
その場にしゃがみ込んだリョウタに、竜は言葉を続ける。

「うまくは言えませんが、魂というのは確かに存在します。ただ、普通死して魂だけになった存在は、そのまま世界に同期し消え行くだけです。私は貴方の魂をそこから拾い上げた」
「……」

漠然と理解する。霊能力者じゃあるまいし、すべてを理解するのは無理だ。だが、なんとなくは分かる。

「魂をここに運び、私の毛と鱗、そして寿命を縮める事にはなりましたが、少しばかりの『力』を使い、貴方の肉体を『再現』しました」
「再現……復元じゃあないのか」
「復元で人間を作ってもは、役に立ちませんからね。貴方を呼んだのは、ルーニァに危険が迫ったからです」

バッサリと切り捨てる。確かに、リョウタが普通の青年なら最初の時点でルーニァと共にあの場で死んでいただろう。しかし、魂というのがどの程度リョウタを形成しているかは不明だが、とにかく今ここにいる肉体はリョウタの形をしたリョウタでは無いモノなのだ。それを頭で理解し、身体で拒絶している。貰い物の身体で。

「すみません。貴方達人間の死に対する概念は、私とは異なるモノなので……このことによって貴方に責められるのも覚悟しています」
「責められるのを覚悟して、ルーニァが危ないから俺を創って守らせようと…虫のいい話じゃあないですかね」

リョウタはその場に座り込み、責める様な視線を送る。心底憎い訳ではない。言い方を帰れば死の淵から蘇らせてくれたのだ。しかしリョウタの、人間の思考回路でさっさと飲み込めるような事態ではない。

「……もし、俺がここで断ればどうなるんですか?」
「なにもありません。ルーニァは独りになり、貴方は見知らぬ世界で新しい人生を歩むことになるでしょうね。貴方を創ったのが私の罪なら、その償いは貴方の新しい人生と言ってもいいでしょう」

淡々と竜は語る。要は好きにしろという訳だ。
額に手を当てリョウタは俯く、てっきり消されるとでも思っていた。一つの都合で人一人『創って』しまう存在だ。消すのも造作ないことだろうと。
いっそそれなら、恨みながらでも渋々とこの巨大な存在の命令に従っただろう。だが、自由にしろと言われては選択しなければならない。
だが、実際に竜にはほとんど力が残されていなかった。純白の鱗には神々しさはあれど、力強さは伝わってこない。会話の度に動かす表情もどこか気だるげだ。

「卑怯なのでしょうが、貴方を選んだのはそれなりに理由があってのことです……そこは誤解無きよう…」
「……話を変えませんか。この世界で、あんたたち竜はどういう位置づけなのか……教えてください」

まずは情報収集、そして整理だ。この一生をかける命令を受ける受けないは即答できる物ではなかった。
ルーニァはファーストコンタクトの時点で追われていた。殺意を持って追いかけられる経験など、一般人であるリョウタにあるはずもない。明らかに異常事態だ。

「この世界には、数多くの『竜』が生息しています。彼らは姿形、寿命、能力……すべてバラバラで、人間に認知されている竜の大半は何らかの神とされています」
「その神の子供だろ? なんで追いかけられていたんだ?」

神とは畏れられ、敬われ、祀られるモノ。宗派はあれど、それは共通しているものだ。リョウタは無信教者だが、神社によれば賽銭を入れるしクリスマスにはお祝いもする。
実在する存在が神ならば宗派も何もないだろう。それが何も知らないリョウタの感想だ。

「神、というのはいろいろいるものです。邪神、疫病神……人に対し悪いものと決め付けられれば人はそれを排除しようとかかるもの……それができない場合はおとなしくしていますが、ルーニァに対しては排除しようという選択を取ったのでしょうね」
「…あんた達はその……邪神とかって分類に入るのか?」

俯き額に手を当てたままの姿勢で会話していたリョウタがハッと顔を上げる。それに対して竜は何か寂しげな表情を見せながら首を横に振る。

「それを決めるのは貴方達人間です。私がここで行っていたのは、この付近の天候や地質の管理……恩を着せる訳ではありませんが、あの村の長い歴史の中、私があの村を救った事は2度や3度ではありません。作物の豊作不作も私の意のままです。その上であの村は長い長い歴史を紡いできました」
「じゃあなんで……」
「物事は捉え方で180度変わる物。例えば私が、大きな災害を未然に防いでいたとしましょう。村の人間はそんなことなど知る由もありません。しかし、村の長い歴史の中、私の事は確かに伝えられているのです」

大きな災害を未然に防ぐとする。それは知らなかった人にとって、防いだというよりは起こらなかった事、縁の下の力持ちは縁の下に入らないと見つからないのだ。
大きな災害を防ぐにはそれ相応の力を要する。手を抜くところでは手を抜かなければいけない。竜は全ての力を人間に使うために生まれた訳では無いのだ。
その結果、小さな災害……と言っても、小さな小さな人間達には大きな災害となりえるか、竜が見過ごしたそれをいつしか人間は『竜の怒り』として認識するようになっていった。

「ここしばらくは私の力も弱まり、人間の村にまで及ばなくなっています。そこでルーニァが竜の子と知った人間達は竜を排除しにかかったんでしょうね」
「知らないとはいえ……変な話だ」
「私もあの子には自分が竜の子と主張しないよう注意したのですが……なぜ気づかれてしまったのでしょうか…」

48歳と言ったが、人の知識は人の形態で備わるモノ。ルーニァはまだほんの8歳ほどの知識しかない。何かの拍子でしゃべってしまったとしても不思議ではなかった。

「村に来て、家の天井から落ちて大怪我した子供の怪我を治したり、焚き火をしている老人に薪だと言ってドデカい丸太をもってこりゃあ馬鹿でも疑うさ。人間じゃねぇってな」

ハッとリョウタが立ち上がり、後ろを向く。いつの間に近くまで来ていたのか、先程完全にまいたと思っていた鎧の男がそこに立っていた。既に剣は抜いている。

「怪我を治した? っていうか滅茶苦茶自己主張してるじゃないですか…」
「竜の特徴として、人間を遥かに上回る魔力を備えています。あの歳で人の傷を完全に治すほどの魔術を使えば魔術師としてよほどの天才か……人ならざる者だと思われても不思議ではありませんね。まぁ…確かに私は竜だと言わないように言っただけでしたが…」

多少罰が悪そうに竜が答える。率先して人と違うことをしたら注目されるというものだ。
魔術、また一つリョウタの頭を混乱させる話が出てきた。人一人創るのだから今更不思議な話ではないのだが…。
一歩、鎧の男は竜とリョウタに近づく。

「魔術だけならまだしも、自分の身長よりデカい薪を軽々と持ってきちゃ誰だって驚くさ。まぁあのお譲ちゃんは喜んでほしくてやったのかもしんねぇけどな……ま、平民ってのは恩を仇で返すのが好きなのさ」

また一歩、リョウタは警戒しながら同じ歩数だけ後ろへと下がる。
さっきは目潰しして逃げ延びたが、おそらく、素手で敵う相手では無いだろう。戦いのことに関しては素人だが、それは感じていた。

「おい、テメェはどっちの味方をするんだい」
「どっち……って」
「利用されそうになってるだけなんだろ? 詳しい事ぁ理解できねぇがとにかくお前はこのまま自由になるか一生をあの譲ちゃんの面倒を見るかって話だろ」

確かに、とリョウタはさっきの話を思い出す。強制はされない。ルーニァを見捨てれば、自分はこのまま、勝手の知らないとはいえ、新しい土地で新しい人生を始められる。
ルーニァを助ければ、少なくともあの竜の少女を迎え入れてくれる棲家を探す事になる。もちろんそのまま放置も出来ないだろう。最低でもしっかり自分で物事を判断できるようになるまで面倒を見る必要が出てくる。

「……俺は…」

竜を見る。頭を伏せ、竜はリョウタをじっと見返すだけだった。

「…通るぜ、あの奥でいいんだな」

鎧の男は竜を気にしてはいない。敵意も脅威も感じていなかった。リョウタを創りだしたのは本当に緊急事態の事だったのだろう。もう侵入者を排除する力さえ残っていなかった。
一歩、また一歩と鎧の男はルーニァのいる部屋への道を進む。
そうだ、忘れて逃げてしまえばいいのだ。小脇に抱えて逃げた時、軽かったあの少女を、殺意を持った男の視線を避け、自分の後ろに隠れた小さな少女を、自分が竜と言った時の、不安そうな目をした少女を…。

「俺は……」






気づけば、リョウタは、足元の石を拾い上げ、思いっきり振りかぶって鎧の男に向かって投げつけていた。




「っ…!」
肩の、肩甲骨辺りに直撃し、男は呻きながら膝をつく。人よりも強い肉体を持つ、創られた竜人が目いっぱいの力を込めて投げつけた石礫は投げた本人の予想を上回る威力を有していた。

「見捨てられる訳ねぇだろバカヤロー! 先がどうなるとかわかんないけど……ここで逃げたら絶対後悔する!」
「テンメェ…!」

竜は、満足そうに微笑んだ。これこそが竜がリョウタを選んだ理由だった。性格、一言でそう片付けてもいい。だが、敢えて言うのなら、たとえ自分の置かれた状況が理解できなくとも、自分のやるべきこと、そして自分のやりたいことを決めれる心を持っていた。
たとえ自分の半生があの少女のために消費されることになろうとも、そんな先の事はどうでもいい。今、助けてあげたいから行動する。それが竜がリョウタを選んだ理由だった。

「アンタはそれでいいのかよ! さっき恩を仇でって言ってたじゃないか! あの子を逃がしてもいいって思ってんじゃないのかよ!」

敵意をあらわに男がこちらへと向きをかえ、歩を進める。握りなおした剣は確かに殺意を発していた。

「俺は金をもらえればそれでいいのさ。傭兵稼業は金と信用だからな…」
「それだけかよ! あんなに小さいんだぞ!」
「同情はするさ……だが、仕事だからな」

無駄の無い挙動で繰り出される必殺の剣撃、紙一重で避ける。さっきとは状況が違う。リョウタは自分が強化された事を知った。どの程度までできるのかはわからないが、素人の自分でも、それなりに戦える事を知った。
覚悟も出来た。守りたいと決めることも出来た。後は、そう、戦うための術のみ。

(リョウタ、あれが見えますか)
「んっ?」

さっきの頭に響くテレパシーと違う、直感的に自分のみに回線を絞ったテレパシーだと気づく。
あれと言われてもと思ったが、一瞬、脳裏に竜が見ているらしい光景が映る。
少し盛り上がった土に大きな剣らしきモノが刺さっている。どうやらそれを手にとれというらしい。

「い、いやっ、デカいだろあれ」
(貴方にあるのは身体能力と竜人であるということだけ、ならばそのアドバンテージを活かす戦いをするのです)

一理ある。が、剣を手に取るというのがそういうことだろうか。相手は少なくとも、リョウタのいた世界の剣道を齧った程度の人間くらいなら瞬殺する程度の腕はあるだろう。まだ腕や頭が飛んでいないのはひとえにこの反射神経、動体視力のおかげだった。

「っつっても迷ってる暇は、っとぉ!」

後ろに飛びのいて上段から振り下ろした攻撃を避ける。迷っている時間は無い。

(一瞬ですが、私が時間を稼ぎます)

言うが早いか鎧の男の目の前に小さな、無数の火の粉が現れる。気づいた瞬間にはそれらは集まり、バレーボールほどの火球となって鎧の男に直撃した。
「クソっ!」
竜の巨体からしたらほんの小さな力だったのだろう。だが、人間からすれば十分な攻撃だ。
鎧の男の動きが止まった瞬間に、リョウタは全力で剣の場所まで走る。走った本人も驚くほどのスピードだった。

「これ…抜けるんかよ……」

近くまで来て驚いた。抜けば自分の背丈ほどはありそうだ。分厚く、幅も広い。人間が振り回すのだとしたら相当な力自慢で無い限り不可能だろう。
しかし、今の自分はスーパーマン、そう思い込むことにしたリョウタはとにかく剣の柄を握り。思いっきり引き抜いてみた。

「ぬぉわっ!?」

すっぽ抜けた。軽い、見た目からは想像できないほどしっくり来るのだ。握った柄は手に吸い付くようにフィットする。

(貴方は私が創った竜人です。その剣は昔、ドワーフがこの地を訪れた時に私の爪から作ったモノ、どんなに体重が重い人も自分の腕を度を越えて重いと思う人はいません。それは貴方の腕の一部なのです)

力を抜いて剣を地面に立ててみると勢いよくめり込んだ。つまり、実際にこの剣は重いらしい。だが、リョウタは重みを感じない、むしろ程よいフィット感を感じる。
これなら、剣を知っていなくとも、ただ振り回すだけで相当な脅威になるだろう。
体勢を立て直した鎧の男が剣を振るう。だが、リョウタは避けず、その手に持った巨大な剣で防御する。

「そんなデケェのを扱えるのか……つくづく化け物だな…」
「よし! 今度はこっちの番ってね!」

必要以上に振りかぶり、リョウタが上段から振り下ろす。バレバレのその挙動は鎧の男を間合いの外に逃がすことになったが、攻撃の効果は即座に現れた。

「で、でたらめだ…」

攻撃は外れてしまったが、挙動以外はむしろ完璧と言えた。その剣は重さとリョウタの腕力が合わさり、剣で金を稼いできた鎧の男以上の速さで目標地点に振り下ろされ、直撃した地面は爆ぜるように抉れた。
人に当たればどう考えても即死の一撃だ。

「…こりゃちょっとは加減しないと……」

必要以上の衝撃は剣を傷める事になる。今の所、この剣はリョウタの重要なアドバンテージ、ハイ折れましたじゃ話にならない。

「さて…どうしますか。このまま引き下がるなら見逃します」
「急に強気になりやがって……言っただろうがよォー…傭兵稼業は信用と金が命、相手がちっと強いからって逃げてたんじゃ務まらねぇんだ!」

男が剣の握り方を変える。速度を重視した先程までの攻撃ではなく、今度の一撃は先程までより数段重くなっていた。
だが、逆に言うならば切り返しの速さは遅くなっている。今のリョウタに見切ることは容易かった。幅広の剣で余裕を持って捌く。

「シィッ!」
「…っ!」

右上段からの袈裟切り、斜めに剣を構えたリョウタによって受け流された瞬間に体を捻りもう一閃。重い剣撃の後、そのままの勢いから出す追い討ち、鎧の男はこれで何人もの同業者や山賊などを葬ってきた。
しかしその一閃はリョウタには届かなかった。今の攻撃はファーストコンタクトで既に見ている。あの時は今ほど気迫の篭った一撃では無かったが。
横なぎに繰り出された一撃を剣で受け止め、リョウタもその場で一回転、剣を反転させ、峰打ちで鎧の男を横なぎにする。
「ぐっ!」
リョウタがその場で回転した瞬間、剣を剣で受け止めるよう防御の姿勢に入った鎧の男だが、あっけなく剣はへし折れ、超重量の物体でぶん殴られた鎧の男は壁際まで吹き飛んだ。

「おぉ……すっげぇ…」

自分のしたことが未だに信じられない。漫画でしか見ることの無い剣の達人を相手に、これまた漫画でしか見ることの無い巨大な剣で打勝つなどと。こちらへ来てから、リョウタの頭のキャパシティを超えることばかりだ。

「ぐ…カハっ!」
「だ、大丈夫…ですか? ってのもおかしいかな……」

鎧の男の左腕はあらぬ方向へ曲がっている。恐らく肋骨も数本折れているだろう。額に脂汗をかき、口の端から血を流している。

「や、やりすぎたかな……いやでも殺されそうだった訳だし……」

さっきぶん殴った男達とは違う。放っておけば明らかに死に至る傷を負わせてしまった。言うまでも無く初めてのことである。

「リョウタ! どいて!」
「うぉ!? ル、ルーニァ?」

ルーニァが男の傍らにしゃがみ込み、傷口に手を当てる。
目を閉じ、なにやら聞き取れないがブツブツと呟くと、ルーニァの手のひらから淡い緑色の光が出てきて鎧の男の体を包み込む。

「…痛みが……」
「治癒ってやつか…でも、ルーニァ……」

リョウタが身構える。ルーニァの治癒の力がどれほどのものかは知らないが、もし動けるほどに回復したらまた襲い掛かってくる可能性があるからだ。
それならばルーニァの治療を止めればいい、確かにその通りだが、ルーニァを止めるという選択肢はリョウタには無かった。

「喧嘩はしちゃ駄目だよ……こんなことしたら痛いよ」
「いや、でもソイツは…」
「この人はあの村の人と違うもん。やりたくてやってる訳じゃないって、わかるから…」
「………」

金のため、確かにそうだ。戦争や山賊狩りで生きて帰ってくるのは決して高い確率ではない。剣で金を稼ぐことを選んだとはいえ、鎧の男も一人の人間だ。リスクを考えれば今回の依頼は必ず成功させておく必要もあった。
人が生きるためにほかの動物を食べるのを許されるのなら、こういった商売の人間がほかの人間を仕事内で殺すのは、動物を食べるのと同じことではないか。
怪我の程度から見ると、意外なほど早く治療は終わった。男は立ち上がり、折れた剣をその場に捨てた。

「……どうするんです? まだやるっていうのなら…」
「リョウタ…」

剣を地面に刺したまま、ジッと睨みを利かせる。ルーニァはリョウタの服の端を握っていた。これ以上やってはいけないということだろうか。

「…武器がよ。折れちまった」
「え、あ…すんません…」

ふっと鼻で笑って鎧の男はリョウタを見る。その目に既に敵意は無かった。
どかっと座り込みルーニァをジッと見る。いきなり見つめられて照れたのだろうか、ルーニァはリョウタの後ろに隠れてしまった。

「謝ることじゃねぇだろ。ったく、大損だぜ……武器は無くすわ、金は入らんわ…いらねぇ借りまで作っちまった」
「…アンタ」
「借りは作らない主義だ。今回は見逃してやる…ただし、それはその譲ちゃんに対しての借りだ。お前の借りはまたいつか返す」

腕の具合を確かめるように2、3回振り、どこも痛くないことを確認して男が立ち上がる。
元々気の乗らない仕事だった。金の為に背に腹変えられないと思っていたが、敗れたのならまぁ納得もいく。

「お前、これからどうするんだ」
「これから…」

ここまでしておいてさすがにはいサヨナラもないだろう。リョウタの心は決まっていたが、面と向かって聞かれると少し困る。
金も知識も無い。水道もガスも電気も無い世界。よく考えればここでルーニァを見捨てる選択をしても結局困ったのではないか。

「その事ですが…私も伊達に長生きしてはいません。大昔の貢物の中には貴方の助けになるものもある筈です。とりあえず、金銭の問題は解決するでしょう」
「おい、やっぱ貸し借りの話は無し。ちょっと詳しく聞かせろ」
「えぇ~…せっかくちょっとカッコいい感じだったのに…」

見栄えなんかよりも金だと男は語る。ここまで行くとむしろ清清しい。
竜が自分の尻尾を持ち上げると、ここに来た時のような穴が開いていた。

「おぉっ宝石?」
「こりゃ高く売れるな。とりあえず資金面はこれで十分だろ」

今までの貢物がやや乱雑にまとめてあった。ゴテゴテな装飾の剣や斧は多少錆びが浮いていたが、宝石や金などの類はまだ売れば金になるだろう。
この世界の通貨は知らないリョウタだが、これを売ればとりあえず当面の生活費は大丈夫そうだ。

「ま、剣の弁償代くらいは戴いていくかな」
「いや…アレはアンタが……ま、いいけどさ」

鎧の男は自分の腰から下げた袋に目一杯宝石を詰め込む。持ち主である竜が何も言わない以上、リョウタが咎められる事ではない。
ルーニァも真似して自分の部屋からもってきた袋に宝石や金を詰め込んでいた。

「いいんですか? 貰ってっても」
「その傭兵はともかく、貴方には必要でしょう。私にはもう必要ありませんから」

そういうことなら金はありすぎて困る事は無い。リョウタもルーニァの部屋から皮袋を持ってきてありったけの宝石を詰め込む。

「おいおい、欲張りすぎると換金する時に苦労するぞ。お前らみたいな若造がこれだけの宝石を持ってたら怪しまれる」

鎧の男が満足そうに腰に下げた袋を叩きながら忠告する。すっかり味方面だ。

「まだ皮袋ありますけど?」
「ん、そうか? まぁ別の町で小分けにして換金すりゃあいいか」
「や、分けるとは……」

リョウタから皮袋を引ったくりまた宝石を詰め始める男、呆れながらもこれだけ素直に、業突張りに行動できればさぞ気持ちいいだろうなと少し羨ましくなったりもした。





「さてと、とりあえず準備はこれでいいかな」
「うんっ」
ルーニァは白いワンピースから旅用に丈夫で身軽な服に着替え、リョウタは鞘に納まった大剣を背負って肩からいくつかの皮袋を下げている。
ちなみに、鎧の男は詰め込めるだけの宝石をもってさっさとこの場を去った。宝石の見返りはこの地を村人に知らせない事だそうだ。

「行ってきます。おかあさん」
「えぇ……気をつけるのですよ。貴方達の無事を祈っています…」

竜の顔に抱きつくルーニァ、目を瞑り、なすがままにされる竜。
リョウタは『向こう』に残してきた家族の事を思い出した。だが、今の自分はもう家族には二度と会えまい。そう思うと少し悲しくもあるが、それもまたこの現実を受け入れるための諦めにもなる。

「リョウタ、貴方には何度礼を言っても、何度詫びても足りません」
「いえ…形はどうあれ、俺がここで生きてるのはアンタのおかげですから……」

最初は驚いたが、結局自分は助けられたのだ。そう思うとやっぱり感謝はするべきなのだろう。

「普通、もっと余裕を持って竜の子は産まれるものです。ルーニァがこのような時期に生まれたのは単なる偶然なのか、意味があることなのか……それはわかりませんが、貴方達二人には辛い思いをさせますね…」

早くして親を亡くすルーニァ、勝手の分からない世界で少女を守りながら住む場所を探すリョウタ。確かに大変な事だろう。

「さぁ、もうお行きなさい。私の命も持って数日でしょう……私の死に目をルーニァに見せたくはありません」
「……うん」

ルーニァは悲しそうに頷く、リョウタはかける言葉も見つからなかった。そういえば、祖父母もまだ亡くなっていない。家族の中で自分が一番先に死んだかと思うとなんとも親不孝な事だと気分が滅入る。

「それじゃ行くか」
「うんっ」

ルーニァの手を引いて来た道を戻る。あの巨大な樹から出て、少し歩いたところで振り返ると最初に入って今出てきた穴は無くなっていた。



[28979] 第三話
Name: 妄想男◆8fb82927 ID:58e5b8e6
Date: 2011/07/26 21:15
「あぁ、暇だ。眠たい腹減った」
一息で3つもの不満が出た。辺りは一面真っ暗で、目の前には焚き火の火がゆらゆらと揺れている。リョウタは火起しなど出来ないが、ルーニァが魔術で簡単に火をつけてしまった。
あの大樹を出発したのが昨晩の夕刻、太陽の昇り方は前の世界と同じというので方向はなんとなくだがわかる。北に向かえば街道があると言われ、その通りに歩いて街道に合流した。
ここまでは順調だったのだ。そう、ここまでは……。
今日の昼、食料が尽きた。予想以上にルーニァは大食いだったのだ。あんなに小さいのにリョウタと同じだけ食べる。
あの竜は食料を溜め込んでいた訳では無かった。ルーニァも獲物の捌き方と罠くらいは知っていたが、まだ自分で獲物を捕ったことが無く、リョウタに至っては当然狩猟経験などない。アウトドアなんて家族とキャンプした事くらいだ。
食料の調達も考えたが、リョウタもルーニァも面が割れている。あの村には寄れないし、小さい村では宝石も一度には売れないだろう。それにあの村の住人の行動範囲に寄れば面倒ごとに巻き込まれかねない。
結局、食料カツカツのまま北に進んで大きな街に出ることにしたのだ。

「あぁ……眠たい。暇だぁ……腹減ったなぁ」

自分の分を平らげた後、こっちをジッと見つめるルーニァの無言の圧力に屈して自分の分の干し肉をあげてしまった。ルーニァに悪気は無い。ただお腹が空いていただけなのだ。目の前のお肉に肉食のルーニァが見蕩れてしまうのは仕方の無いこと……なのだろう。たぶん。
寝ずの番は2日目だ。1日目でルーニァに「おやすみ」と言ったところで気がついた。傭兵がいる世界で山賊がいないはずも無い。野犬等の獣もいるだろう。
動物の類はとりあえず火を焚いておけばと思ったが、何かの本で火を怖がらない動物は普通にいると見たことがある。山賊等は火を見つけたら寄って来る可能性だってある。

「さすがに寝込みはな……」

リョウタは漫画に出てくるような戦士ではない。近くに敵が来たからといってガバッと飛び起きて応戦などできるはずも無い。むしろ間抜けにいびきをかいているうちに首を裂かれるのが目に見えている。
ルーニァに寝ないで見張りは辛いだろう。暗くなってきたらすぐに眠そうにしていた。夜9時に寝るのはいい子かもしれないが、頼りないといえば頼りない。
会社で夜勤の経験はあるが、夜勤は終われば昼には寝れる。今はそういう訳にはいかないのだ。夜は見張りで昼は歩く。おまけに明日は食料をなんとかしないといけない。水も山を降りる際に多めに持ってきたがそろそろきれそうだ。

「うーぬっ……」
「ん?」

ルーニァがゴロリとこっちへ転がり胡坐をかいていたリョウタの足にくっつく、モソモソ動いた後に落ち着ける体勢になったのかまた寝息をたてはじめた。
起こさないようにそっと頭を撫でながら、リョウタは炎を見つめて物思いにふけることにした。思えば、おかしなことになったものだ。
まず最初に想うのは両親のことだ。父親はリョウタがバイクに乗ることに対してとても喜んだ。母親は好きにしなさいと言ったが、守る物が何も無い二輪車に乗るのはやはり、多少の心配はあっただろう。
速さばかり求めて峠通いを始めた時、父親は後悔だけはするなと言った。あれは、今思えば父親なりの心配と反対の言葉だったのだろう。

「実際、ちょっと後悔してるしなぁ……」

こうして腹を空かして、野犬や山賊に脅えているといかにあの世界の自分が恵まれていたのかよくわかる。
腹が減ればコンビニで好きな物を買って食べ、どこを歩いても水道もある。

「送り返してくんねーかな……ルーニァと一緒に」

つぶやいておいて何を馬鹿なと自嘲気味に笑う。戸籍も無い少女を連れて死んだ人間が戻ったところでどうやって生活できると言うのか。
現実逃避よりも、考えるべきことはあるのだ。いつまでも過ぎた事を悔やんでも仕方が無い。まぁ自分が死んだことを仕方無いで割り切れるのがリョウタの強みか。

「あぁ……広いな。空」

空を仰いで溜息をつく。バイクで北海道に行った事がある。その時は空の広さに感動したものだ。高い建物が建ってない山ばかり走ったからそう思ったのだろう。まっすぐ向いていても地面の上には空しかない景色に感動したものだ。
だが、今のこの空を見るとその考えは間違いだった。あの空は感動するほどに広い訳じゃなく、ほかに比べて多少広く見えただけだったのだ。
周りに明かりはひとつも無い。目の前にある唯一の明かりも頼り気が無いくらい小さな炎。空の高さも星の明るさも、闇の深さもすべてがあの世界とは別格だった。
この景色だけは、この世界に来てよかったと思えるものだった。

「代償にこの暇と空腹があるんだけどね」

ボヤいても始まらない。だんだんと眠くなってきた。
寒くは無いが、寝たら死ぬ。いや死なないかも知れないが死ぬかもしれない。
一度死んでいる以上、死んでもいいやとは軽々しく言う気にもなれない。

「よっし……」

立ち上がり、剣を取る。
本で読んだ程度の知識しかない。竹刀や木刀よりもバットの方が馴染みが深いくらいである。まぁ当然といえば当然だが。
剣術の知識といえば、るろ●に剣●くらいか。さすがにこのデカブツで抜刀術は無理だろう。

「アレだよな。剣の持ち手はちょこっと離して……」

ブツブツと呟きながら剣を振るう。重さと腕力で剣速だけは大したものだが、いかんせん挙動が素人のそれである。
何度も何度も剣を振る。一度ハマってしまうと極端に集中する癖があるリョウタはいつしか空腹も忘れていた。







「んぉ……あれ? ルーニァ?」
目が覚めるとルーニァがいなくなっていた。剣をしこたま振った後、落ち着いたら空腹がとんでもないことになったが、なんとか朝まで耐えた後にルーニァに見張りを頼み仮眠を始めたのだが……。

「……はぁ」

溜息をついても仕方が無い。太陽を見るとまだそんなに時間は経っていないように思える。まぁ正確な時間なぞ絶対にわかりっこないのだが。
荷物が何も盗られていないことを確認し、とりあえずどうするかを考える。

「戻ってくるのを待つか……探しにいくか……」

もしかしたら獲物を捕りに行っているのかも知れない。川に水を汲みに行ってるのかも知れない。
まぁ、近くにいるのだとすると、あまり心配することも無いかもしれない。あれから二人で歩いて気づいたのは、多分本気で怒らせたら普通の大人じゃルーニァをどうにかするというのはほとんど不可能に近いということだった。

「っつっても……心配は心配だよな」

もうすっかり兄の気持ちだ。大丈夫だと、待ってれば帰ってくるだろうと思ってもそわそわと落ち着かない。
結局探しに行くことにした。

「んっ?」

立ち上がると同時に、自分たちの進行方向から馬車がやってくるのが見えた。剣を背負い、いつでも抜けるようにして様子を見る。
50代半ばほどの、少し太り気味の男がこっちを見て馬車の中に向かって声をかけると、ヒョッコリと金髪の少女が顔を出す。

「あっ、リョウタ起きてた!」
「……ルーニァ、知らない人について行っちゃ駄目だ。すみません、この子が迷惑かけませんでしたか?」
「アッハッハ、いやぁ迷惑なんてかけてないさ。びっくりはしたがね。なんてったってゆっくり進んでいたとはいえ、馬車に追いついてくるんだからな」

先が思いやられる。よくおかしな子だと疑われなかったものだ……。見たところこの人も旅をしているようだが、あの村に寄ってルーニァについて聞いていたらどうなっていたかわからない。

「あのね、おじさん乗せてくれるって! ね、乗っていこう?」
「えっ、いいんですか?」
「あぁ、多少人が増えたところで問題ないさ。そうそう、荷物には触れないでくれよ。大事な商品だ」

どうやらこの人は行商人らしい。この辺りは最近不作続きで寄り道はしなかったそうだ、運が良かった。
行き先はこのまま北に進んだ所にある大きな街、リョウタ達も目指している場所だった。そこなら宝石も捌けるし、人ごみに混ざってしまえばそう目立つ事も無いだろう。ゆっくり休養して食料等も補充ができる。

「またやけにデカい剣を持ってるなぁ。若いのに、訳ありかい」
「えぇ、まぁ……」
「んん……すまんね。軽々しく聞く事じゃあ無かったかな。いや、前の村で用心棒を降ろしてしまってね。運賃代わりに期待してもいいかな?」

幌の中で休ませてもらい。馬を操る御者の商人と少し話す。ルーニァは商人の娘であろう女の子と遊んでいた。
ルーニァから何を聞いたかはあえて聞いてはいないが、流石に100%利潤追求無しで商人が人助けをする事も無い、ということだろう。
もちろんこの状態で火の粉が降りかかればリョウタは払うしか無くなる。文字通り命がけで戦う傭兵を運賃だけで雇えるのなら得というものだろう。

「えぇ任せてください。ルーニァの遊び相手もしてもらっていますし。あ、もう一つお願いが……余っていたらでいいのですが、食べ物なんかを恵んでいただけませんか」
「あぁ、構わんよ。干し肉とパンがある。朝飯は食べたかね」
「いえ、実は昨日食料を切らしてしまいまして……」
「そうかそうか、まぁ街に着くまで足りなくなる事も無いだろう」

パンを一つ貰って真ん中を縦に切り、干し肉を挟んで食べる。ルーニァにがっつかないよう忠告してから食べたが、ペロッと平らげてしまった。
もっちりとしたパンと硬めの干し肉がなかなかウマい。特にリョウタは昨日の昼から何も食べていない。空腹は最高のスパイスとはよく言ったものだ。今ならどんなものでも美味いと思えるだろう。

「しかし、食料も無しでこの道をずっと進むってのは自殺行為だぞ? こういっちゃなんだが、私らが通りかかってよかったよ」
「あー……そう、ですよねやっぱり」

確かに見通しが甘かった。後2日あんなことが続けば行き倒れていたかもしれない。とにかく寝不足だ。
このまま馬車で行ったとしても到着は明日の朝だと言う。徒歩で、ところどころ休憩と仮眠を取っていたらもっとかかるのは言うまでも無い。

「……街についたら小さめの馬車でも買う事にします」
「ハッハッハ、そういって簡単に帰るほど安いもんでもないよ。金はあるのかい」
「うーん……値段見て決めます」

ここで簡単に荷物を見せるような真似は流石にしなかった。流石にそこまで馬鹿ではない。
少し寝ようと目を閉じているとルーニァが寄ってきた。紐と皮を使ったアクセサリー大事そうに握っている。

「リョウタ! 作ってもらった!」
「ん、よかったなぁ。お礼言ったか?」
「うん! シア、ありがとう!」

ルーニァの頭をグリグリ撫でながらシアという女の子に礼を言う。にっこり笑って手を振るショートボブの女の子、こうしていると本当に子供なのだ。48歳だが。

「これから大変だなぁ。アンタ」
「はは……ま、可愛いもんですけどね」
48歳だが……。






太陽がちょうど真上に来るころ、少し暗がりになっている林に差し掛かった。こういうところは野党が出たりもするという。
昼飯も干し肉を食べ、とりあえずコンディションは上場だが、もし襲われたらどこまで戦えるかはわからない。

(流石に武器持った村人よりゃ強いだろうし……あの傭兵みたいなのが大勢来たら危ないかも)

いくら戦えると言ったところで戦闘経験が不足しすぎている。正直な話、誰かに師事してもらいたいくらいだった。
ルーニァの戦力は見込めない。二人きりの時は治療に魔術にで頼りになるかもしれないが、今はダメだ。最悪怖がって降ろされてしまう可能性だってある。
せっかく快適な移動手段と食料にありつけるのだ。なんとか街までお願いしたい。

(ま、何もなければそれが一番か)

幌から顔を出すと、昼間でも薄暗い林、ところどころ木立ちから太陽の日差しが漏れて木漏れ日となっている。
この世界に来てからはこんな些細な景色で感動しっぱなしだった。リョウタは外の景色を眺めるのに夢中になっていた。

「ん?」

異変に気づいたのはルーニァだった。何か不安な、虫の知らせというやつか。少し空気がおかしいと感じて立ち上がる。
シアがどうしたのかと聞いてもルーニァは答えない。何かを探るように神経を尖らせている。
その様子にリョウタが気づいた。

「どうした? 腹でも痛いか?」
「……なにか、来るよ」

そう答えるルーニァから只ならぬ気配を察したリョウタが商人の男に一度馬車を止めるように頼もうと立ち上がるが、それより先に馬車が急停止した。
バランスを崩してリョウタが倒れこむ。

「いでっ! ルーニァ! 大丈夫か!?」
「う、うん……」
「う、うわあぁああ!?」

商人が叫んでいる。いつでも抜けるように剣を握りながら馬車の前方にある御者が座るところへ飛び出すと、目の前に錆びた剣や斧を持ち、鎧を纏った『骸骨』が行く手を阻んでいた。
カタカタと顎を鳴らしながら気だるそうな足取りで近づいてくる。

「な、なんじゃこれ……」
「スケルトンだ! なんでこんな昼間に……こんな街道沿いで襲われたなんてもうずいぶん聞かないぞ!?」

アンデッドと呼ばれる存在、死んでいるが、死にきっていない者ども。かつて生命体であったものが既に生命が失われているにもかかわらず活動するという、理不尽な存在だ。
主に夜間活動するのが一般的である。街道というのはよく使われるからこそ街道であり、野党はともかく野生動物やこういった怪物が頻繁に現れる場所は駆逐するか、無理なら違う道が作られるはず。昼間から大量のアンデッドが現れるなどありえないことだ。

「すげぇ……なにで動いてんだ?」

馬の前に飛び出し、剣を抜く。用心棒として乗せてもらっている以上、働かなくてはならない。
馬車の後方と両脇を確認するが、今のところ敵はは前方のみに展開しているが、これからどうなるかはわからない。
何せ相手は骨が動いているような超常現象だ。常識が通じる相手でも無いだろう。

「……さて、どこまでやれるかな」

背筋を冷や汗がつたい落ちる。心臓の音が煩い。相手はパッと見ても2~30体はいる。動きは遅そうだが……まったくの未知の相手。
覚悟はしていた。魔術があって竜がしゃべる世界。傭兵と一戦交えたのだ。野党を相手取ることもあるのではないか。一人でどうにかできるのかも心配だったが、こうして遭遇すると流石にしり込みする。

――カカカカカッッッ――

ゆらゆらと、安定しない足取りでゆっくりと近づいてくる。声は発しない。当然だ。声帯が無いのだから。
あまり馬車に近づける訳にはいかない。乱闘になれば討ちこぼしが商人達の方にいくかもしれない。なるべく近づけない内に数を減らす必要がある。

「ルーニァ、二人を頼んだぞ!」
「うんっ」
「……? この子が?」

ルーニァに頼んだことに商人が首をかしげる。あくまでも緊急事態だが、ルーニァは魔術も使えるし力もそこそこ強い。普通の商人よりは戦力になるだろう。
商人もその娘も一応剣を握っているが、頼るべきではない。だが、頼んではおいたがあまり変に活躍しないでくれとも心の中で思う。
流石になんの予備知識も無しに竜の子だと確信するとは思い難いが、巨大な剣を振り回す男と魔術を使いこなしす少女のコンビは変に思われかねない。

「おっしゃぁ!」

踏み込み、横なぎの一撃、バラバラになりながら人骨が飛び散り、その後ろから剣を上段に構えたスケルトンが飛び掛るが、振り下ろされるより早く飛びのき、着地と同時に体を一回転させてまた真横に剣を振るう。
イケる。そう確信する。数はいるが動きは遅い。筋も内臓も無い骨が動いているのだ、どの程度で戦闘不能になるのかはわからないが、バラバラになれば生きていてもなにもできないだろう。リョウタの剣は一撃でスケルトン数体の身体を粉砕する威力があった。
目の前の数体から槍が伸びる。幅広の剣の腹で防ぎ、勢いよく地面に刺さるように受け流す。昨日の夜想定し、練習していた動き、ガードから身体を捻っての横薙ぎ一閃。粉々になった人骨が宙を舞う。

「これは……凄まじいな」
「あんなに大きな剣を……」
「凄いでしょっ! リョウタは強いんだよ!」

驚愕する商人の親子となぜか胸を張って威張るルーニァ、何を暢気なとリョウタは渋い顔をする。
3度の剣撃で10体近く吹き飛ばしたが、減っていないどころか敵は増えている。
優位に立っていてもスケルトンの出す骨の擦れ合う音やその風貌はリョウタに不安を与える。

「だぁぁあっ!」

横薙ぎ、上段、矢継ぎ早に巨大な剣を打ち付けるだけの攻撃を繰り返していく、単純だがこれでいい。敵に今のところ知性や戦略は見えない。獲物の長さと重さに任せ、とにかく一気に数を削る戦いをする。
間合いを詰めるどころか、敵は味方どうしで詰まって転んだりとなんとも緊張感が無い。絡まっている敵をもろとも叩き砕く。

「お、おい兄ちゃん! こっちにも来たぞ!」
「っ!」

馬車の右側から4体ばかりのスケルトンが現れる。リョウタの前にはまだ十数体の敵がいる。手は離せない。
シアの悲鳴、悲鳴を上げながらもしっかりルーニァを庇っているが、戦う前から剣を落としてしまっている。商人も顔が引きつっていた。無理も無いが。

「こっちはまだ手が離せません! そっちはお願いします」
「うんっ!」
「い、いや、下がりなさいお譲ちゃん! シア、お譲ちゃんを頼むぞ」
「は、はい!」

二人を自分の後ろへ庇い、商人の男が剣を構え、最初の一体に切りつける。鈍い音とともにスケルトンの腕部が切断されるが、剣を落としながらも盾で男を殴りつける。
「ぐっ…」
体勢を立て直し、上段から剣を一気に振り下ろす。頭蓋骨が粉々に砕けるが、元々死んでいるのだ。頭が無くともスケルトンは動く。
ルーニァは様子を見ていた。自分の行動でリョウタがどれだけ迷惑をかけるか、少しは考えている。
母親に習った魔術なら一気に掃討できるだろうが、それをした後で人間の怯えた視線を浴びるのは嫌だし、言うまでも無くリョウタに迷惑をかけてしまう。

「大丈夫? 怖くないからね……。パパがやっつけてくれる。貴女のお兄さんもがんばってるわ」
「……うん」

震える腕で強く身体を抱かれる。
怖いのは自分だろう。しかし、見た目、歳が下の少女をシアは庇い元気付ける。ルーニァはジッと戦う商人の姿を見ていた。

馬車の前方ではリョウタがまだ戦っている。敵は少しずつ減ってきていた。もう一息、とリョウタの表情に余裕が戻る。
商人のほうは、時間をかけてはいるが動きの鈍いスケルトン相手、1対1ならなんとかなるようだ。なるべく1体だけ相手にするように回り込んで戦っている。
だが、普通の剣では、戦うことに慣れていない普通の男性の剣では一撃でスケルトンを戦闘不能にすることは叶わない。首を飛ばしてもヤツらは動く。戦闘不能にするには腰から下を切断して動けなくするか。両腕を切断して攻撃手段を無くすしかない。

「うっ!?」
「パパ!」

シアが叫ぶ、横槍気味に右側から攻撃をうけてしまった。傷は浅いが、錆びだらけの切れ味が悪い剣は逆に肉をズタズタに引き裂く。
苦痛に顔が歪み、思わず膝を突く、その隙に残った3体に囲まれてしまった。

「パパァ!」
「シア! 来るな!」

振り下ろされる錆びだらけの剣、かろうじて商人は避け、倒れた体勢のままでもう一体の攻撃を剣で防ぐ。
片手で支える剣は、筋肉すらないのにやたらと力が強いスケルトンの剣に徐々に押されていく。

「パパ!」
「ダメ」
「っ!?」

剣を持ち、飛び出そうとしたシアをルーニァが引き戻す、自分より小さな娘が片手で自分の身体を引き倒したことに驚くが、次の瞬間、シアはさらに驚くことになる。
ルーニァが手をかざし、なにやら聞き取れないほど小さな声で呟くと、目の前に4つほど、小さな火の粉が現れる。次の瞬間に火の粉は合わさり、か細い火の帯となって商人と鍔競り合いをしているスケルトンの腕に直撃した。

「リョウタ!」
「おうっ!」

前方の敵の殲滅を終えたリョウタが、力任せに剣をブン投げる。横向きに回転しながら飛んで来た大剣は商人を囲んでいた3体のスケルトンの上半身を砕き、近くの木に突き刺さる。

「ふぅ……うまくいったか」
「あぁ、助かったよ」

泣きながらすがりつく娘の頭を撫でながら商人が溜息をつく。危なかった。まさかあの数に襲われるなど予想だにしていなかった。
リョウタはリョウタで、今回の戦いでまた一つ、不安と安堵の両方を抱えることになった。一つは十分に戦えること、もう一つはルーニァの能力を隠し続けるのは難しいかもしれないということ。
やはりこれからはなるべく二人で行動したほうがよさそうだ。

「痛てて、ちょっともらっちゃいましたね……」
「あぁ……錆びだらけだ。こりゃほっとくと破傷風になるぞ」

商人が荷物の中からアルコールを取り出し、タオルに含んでやや乱暴に傷口を拭う。ジワリと血がタオルに滲み、商人の顔が苦痛に歪む。

「すまないお譲ちゃん、火を起こしてくれないか」
「え、うん」
「火? どうするんですか?」
「焼いて治療する。破傷風になったら遅いからな」

リョウタの顔が引き攣る。自分も何箇所か攻撃を貰っている。アルコール消毒ならまだしも、焼いて消毒するなんて恐ろしい事はやりたくない。
ルーニァがこっちをチラッと見る。何かを期待する目だ。まぁ彼女もあまり痛そうなモノを見たくないのだろう。シアは場所の隅っこで縮こまっていた。

「ルーニァ、治せるか?」
「うんっ」

火を起こすのをやめたルーニァが、商人の傷口に触れて治癒の魔術を使う。徐々に痛みが引いていく感覚に商人が驚くが、先程、攻撃のための魔術を見ているのでこの子はよほど才能のある魔術師だと納得することにした。
その様子を見て、魔術は割と一般的に使われているということにリョウタは気づく。歳は問題だが、単純な魔術なら使っても怪しまれないかもしれない。もちろんあまり頻繁にとは言えないが。

「すみません、護衛として乗せてもらっているのに……」
「いやいや、あれは仕方ないさ。数が多かった」

森を抜けると、まだ草原は続いていたが前方に高い壁に囲まれた街が見えた。貿易都市として栄えているらしい。商人と貴族が支配する街だそうだ。
そういえば3日も風呂に入らず歩いたりするなど初めてのことだ。街に着いた後、換金をしたらちょっといい宿に泊まろう。美味い飯と風呂、暖かいベッドを想像して思わず顔がニヤけるリョウタだった。



[28979] 第四話
Name: 妄想男◆8fb82927 ID:58e5b8e6
Date: 2011/08/06 21:07
「「おぉぉー!」」

リョウタとルーニァが二人そろって歓声を上げる。目の前には巨大な石の壁、商業都市クレードルを護る外壁だ。
林を抜けた辺りから見えていたが、実際に近くまで来ると天まで突き抜けているような錯覚を覚えるほどだ。

「でっけぇー……」

巨大な建造物は向こうの世界にも山ほど存在したが、こう、草原に囲まれた石造りの巨大な壁というのはまた違った感動がある。
これを造るのに何年かかったのだろうか。それを考えると感慨深いものがある。

「クレードルに来るのは初めてかな? この街は元々前線基地でね、戦争が長引くほどに外壁が高くなっていったのさ」
「戦争?」
「あぁ、亜人と人間のね。この辺りはゴブリンとオークが支配していたんだよ。もう30年ほど昔の話さ」
「へぇー……じゃあこの外壁は30年前の物なんですか」
「まぁ、そりゃあ少しずつ修繕やら補強はされてるけどね。基礎の部分は30年前のものだよ」

大昔、世界中で戦争があった。ほとんどの亜人種を相手取った人間の侵略戦争だ。亜人種は大抵、何らかの能力で人間よりも優れていたが、人間は戦争が長引くにつれ、新たな戦略、兵器などを用意し、持久戦の上で勝利することができた。
未だ頻繁に人の前に現れる種族の中では、ゴブリンやトロールは知能は低いものの、繁殖力がとても高く、成長も早い。オークやオーガは人間よりも筋力が発達してる。
中には人間に対して敵対行為を自重する者もいる。ヴァンパイアや鳥人族などは友好的とは言わないまでも、種族をあげて人間に敵対してくるほどのことでもなかった。

人間は数を増やす過程で様々な困難を乗り切ってきた。自然災害への対応、亜人種の撃退。そして亜人種の領への侵略。
この辺りはゴブリンとオークが縄張りを争って対立していた。そこに人間が割って入り。20年ほど続いた戦争の後、自分たちの支配下に納めたのだ。

「侵略戦争ねぇ……」
「まぁ、気持ちのいい言葉じゃあないが、そのおかげで今の私たちの豊かな生活があるというものさ」

所詮は弱肉強食と商人は語る。金があって話が通じればそこから抜け出せる。故に私は商人として生きることを選んだとも。
リョウタはともかく、ルーニァはあまりいい顔をしていなかった。やはり人ならざる者には今の話は理不尽に聞こえるのだろう。
こんなことで人を嫌いにならなければいいが、とリョウタは内心心配した。 恐らく、人の生活に紛れればそういう部分は嫌でも見えてくるだろうから。

「さぁ、私は商品の換金をしてくるが。君はどうするんだ?」
「あ、実はですね。俺は金はありませんがこういうものを持ってまして……換金したいんですが」

荷物から宝石や貴金属をチラリと見せる。まず間違いなく変な疑われ方をするだろうが、とりあえず目的地にもついている。最悪、厄介事と判断して降ろされてもまぁ仕方がないと思った。
何も知らないリョウタにとって、下手なところで捌くのは危険なことだ。信頼できる元締めだの大商会だのにお願いするのが一番いい。

「……これは?」
「えー…と、まぁ訳ありです。でも、怪しい金ではないので……」

竜に貰ったなどと言うのは十分に怪しい、だが、人を殺して奪ったりしたものではない。そういう意味での怪しい金じゃないということだったが、商人はとりあえず納得してくれたようだ。
とはいえ、皮袋3つ分もある。大きな金が動きそうだ。小さな店には任せられないだろう。

「ふむ……ならこのまま一緒に行こう。その量は一介の商人に扱うのは不可能だ」
「あ、はい」

正面の巨大な門で、騎士のような格好をした男の審査を受ける。審査といっても身分証明書があるような時代ではない。お尋ね者がいるかどうか顔を確認する程度だ。
簡単な質問と、サインを記入して街へ入る許可を得た。小さな村ではやらないことだが、これほどまで大きい街ではこういった事も必要なのだろう。

「「おぉぉー!」」
「ハッハッハ、大きな街に来るのは初めてかね」
「いや、なんつーか……賑やかですねぇ」

街に入ると一面が人、人、人。タープを張っただけの露店が立ち並び、果物や野菜、肉。アクセサリーや武器などが売られている。商品を手に取り、誰が何を言っているのかわからないほどに皆声を張り上げ自分の店をアピールしている。
一目でおのぼりさんだとわかるほど、リョウタもルーニァも世話しなく視線を動かし、目を輝かせていた。
リョウタの育った次代は言うまでもなく、人口ならこの世界よりも断然多い。都会の街までいけばこれくらいの人の数は普通に目にするだろう。
だが、ここにいる人たちはあの世界の人達とは違う。下を向いている人はほとんどいない。喧騒といえば騒がしく聞こえるが、皆が生きるのに意欲的というのが一目でわかる。

「すげぇなぁ……」
「リョウタ! あの並んでるのは食べていいモノ?」
「んなわけないだろ。お金払わないとな」
「…なるほどー」

言うが早いかルーニァは自分の持っていた皮袋から宝石を握り締めて駆け出そうとする。慌ててリョウタが捕まえた。

「駄目だってルーニァ! まだお金じゃないからソレ!」
「えー……」

かなり不満そうだ。とりあえず換金したら何か甘い物でも買ってあげようかと考えるが、これが幾らになるかわからない上に今の自分たちには稼ぐ手段が無い事を思い出す。無駄遣いは避けるべきだろうか。
馬車の中に引き戻してシアに面倒を見てもらうことにする。リョウタ相手ならともかく、シアを振り払ったりブン投げたりして駆け出す事はしないだろう。
程なくして一行は街の中心部にある巨大な建物へと到着した。この辺り一帯の物流を支配する巨大な商会、トレス商会の本部、ここでは陸路で運ぶ商品の管理と行商人からの商品の買取を行っていた。

「トレス商会へようこそ」
「以前こちらで毛皮を買い取っていただいたが、今日は麦と酒を持ってきた。時間を割いてくれるかね?」
「大歓迎で御座います。どうぞこちらへ」

案内役の男について門を潜る。トレス紹介は街の中枢部にあった一際大きな建物だが、門を潜るとぐるっと180度を建物で囲まれた広場に出た。
積荷を馬車に積んだり、荷物の数を検査していたりと皆忙しなく働いている。このトレス商会がこの辺り一帯の流通を管理している。入ってくる商品も出て行く商品もその数は膨大だ。

酒樽と麦の入った袋を下ろし、商人の男が商会の人間と交渉している。ルーニァをシアに預け、リョウタはそのやり取りを盗み聞きしていた。次に交渉するのは自分なのだ。
何度かの値段の修正の後、双方納得する値段に落ち着いたらしく、その場で金を受け取る商人の男。妥協で納得したのではなく、むしろ思っていたよりいい値段で買って貰えたのだろう。表情は満足気だった、

「ありがとう、ところでこっちは私の連れなのだが。私とは別に買い取っていただきたいモノがあるそうだ。頼めるかね」
「もちろん、大歓迎でございま……」

商会の男が何かに気づいたように言葉を中断する。

「その剣は……」
「あ、え…と。剣じゃなくてこっちの……」
「いえ、わかっておりますとも。ダリオ様から伺っております。宝石、貴金属をお売り頂けるのですね」
「えっ?」

ダリオという名前に聞き覚えは無かったが、リョウタが宝石、貴金属を持っていることを知っているのはこの商人とあの傭兵だけだ。つまり、あの傭兵はこの街に寄り、ここで手に入れた宝を捌いてついでに口添えまでしてくれていたのか。

「なんだ、意外とイイやつだったんだなぁ」
「でしょ?」
「なんでお前が得意げなんだよ」
「ダリオ様には懇意にしていただいております。さぁ、どれをお売り頂けるので?」

商会の男の前に皮袋3つ分の『売り物』を出す。明らかに男の顔が引き攣る。あの傭兵……ダリオが持って行った量の倍近くある。

「申し訳ありません。明日の朝までお待ち頂けますでしょうか。この量ともなりますと、準備するのにも時間が……」
「あ、構いませんよ。あー…そのかわり前金を少し頂けますか? 今持ち合わせが厳しくって……今晩の宿代が危ういんです」

リョウタは嘘をついた。持ち合わせが厳しいどころか無一文である。さすがに大都会に来て野宿も寂しい。なんとしても今夜はいい宿に泊まっていいモノが食べたい。風呂にも入りたかった。
こういう話は退屈なんだろう、ルーニァは座り込んでシアと遊んでいた。

「かしこまりました。それでは前金としまして、1万z(ゼニー)でいかがでしょうか」
(ゼニー…それがこの世界の通貨か)

商人の顔を見ると驚いた顔をしている。一晩を越すだけの前金で1万zを払うというのはあの商人を驚かせる値段というのも理解できた。

「うーん、この街で宿場の相場値段はいくらですか?」
「1000zから1500zほどですね。一晩と酒代、夕飯代では十分に足りるでしょう」

念のため、相場を確認するふりをしてどれくらいの値段で日常生活ができるかを探ってみる。宿が1000zほどなら食事は半分かそれ以下、食料を買うにしても問題ないだろう。と、言うよりもやはり前金で10泊はできるほど渡されるということはやはりとんでもない値段になりそうだ。
これだけ大きな商会なら間違いは無いだろう。傭兵もそう言っていたが、どの商売でもやはり信用は必要だ。値段が大きければなおさらだろう。

「じゃ、それでお願いします」
「有難う御座います。それと、ダリオ様から伝言も承っております。これで貸し借りは無しだ。と」
「都合のいい貸し借りばっか言うなぁ……ま、助かったけど」

程なくして、商会の男がリョウタが渡したのより少し小さい皮袋を持ってきた。パンパンに膨れている。
礼を言って受け取り、中身を確認する。銀貨10枚と5枚の金貨が入っていた。
やばい、リョウタはとある不安を抱くことになった。無理もない、この世界の常識は何も知らないのだ。

(……どれがどれだ?)

金貨は間違いなく価値が高いだろう。それは予想できる。
さっき商人の取引を盗み見ていたとき、銀貨は2種類あり、形と絵柄が決まっていた。おそらく日本円の用に種類があるのだろう。
銀貨の種類を聞くような真似はできない。一気に怪しまれる。となると、安いモノを買って見てお釣りで判断するしかないだろう。
リョウタは知る由も無いが、この世界の常識で金貨は1000zを表し、リョウタがもらった銀貨は500z、もう一種類は100z、10zと1zはそれぞれ銅貨で支払われる。

とりあえず、皮袋をベルトに巻き付けて固定し、後で買い物をすることにする。とりあえず果物のひとつも買えば把握できるだろう。

「さて、私らはここで失礼するよ。この街で傭兵を雇うことになってる。君らも大変だろうが、旅の無事を祈っているよ」
「はい。お元気で……道中ありがとうございました」

商人の男と握手を交わす。そこで、そういえばまだ名前も知らなかったと気づいた。失礼なことだろうが、商人はあまり気にしていない。傭兵を雇っても自己紹介なぞしないのかもしれないが。

「……ごめんなさい、名前も名乗ってませんでした。俺はリョウタって言います」
「ん、おぉ……すまないね。私も名乗っておらなんだわ。ゴンズという。またどこかで会ったらよろしく頼むよ」

傭兵に進んで良好な態度をとろうとする人間は少ない。所詮は金で雇う戦闘代行だ。前金さえ払っておけば、傭兵を残して逃げることもある。
リョウタを雇った経過は傭兵を雇うそれでは無かったが、ついつい、同じような対応をとってしまった事にゴンズは謝罪した。もちろん、リョウタに対しての態度は違ったが、やはり名を名乗らないのはよくない。

「…シア、元気でね。……さよなら」
「貴女も元気で……ルーニァ、また会いたい時はね。またねって言うのよ」
「…うんっ! またね、シア!」

シアとルーニァが抱き合い、別れを惜しむ。ルーニァにとっては初めて出来た人間の、女性の友人、別れは辛いだろう。
リョウタは兄の変わりはできるが、流石に女の友人の代わりにはなれないのだ。


二人を見送った後、宿を見つけ、チェックインする。宿帳に名前を書く時にどうしようかと思ったが、字は自然と書けた。そういえば、字も読めたなとリョウタはいまさらながらに気づく。随分と都合のいい事だ。
所持金に余裕が出来たので、二人は最初くらい贅沢することにした。街の中でも一際豪華そうな宿だ。案内され、部屋に入ると大きなベッドが2つ、部屋もかなり広く、まったく文句は無い。あっちの世界でもこれだけ広ければ庶民が気まぐれで泊まろうという限界を簡単に超えているだろう。

「「おぉぉー!」」

何度目の歓声だろうか。この街に来てからリョウタとルーニァは些細な事にいちいち感動する辺りがすっかり同レベルになっている。

「ルーニァ、ちょっと」
「?」

ルーニァを抱きかかえ、ベッドに向かって放り投げる。2度ほどバウンドして、ベッドに倒れこみ、今自分に起こった事を理解するのにたっぷり1秒ほど要したルーニァが歓声を上げる。

「ふっかふか! これふっかふか! リョウタ! もう一回もう一回!」
「アッハハハ! やっぱり初めてだったか!」

走りよってくるルーニァをまたベッドに向かって放り投げ、自分もベッドにダイブする。実に4日ぶりの暖かい、柔らかいベッドだ。テンションが上がるのも無理は無かった。
その後、4回ほど同じことを繰り返した辺りで下の客に怒鳴り込まれて二人は反省することになるが、まぁそれは二人の名誉のために黙っておくことにする。






「へぇー……歩いて見るとまた違う感じだなぁ」

とりあえず、荷物を宿に置いた後、日が暮れるまで時間があったので街を散策することにしたのだ。人が多いのでリョウタはルーニァの手を握っている。
人は多いが、夏の縁日や初詣等を思えばまだ楽なものだ。といってもさすがに背負った剣は人に当たらないよう配慮する必要があるが。
剣はなるべく肌身離さず持っておきたかった。この街では使うことは無いだろうが、お守りとして持ってきた。威嚇という訳ではないが、さすがにこれをみて肩が触れた程度で喧嘩を売る人間はいないだろう。
それに、リョウタにとってはこの剣はこの世界での生命線だ。昨日のスケルトンも普通の剣なら押し負けていたかもしれない。
技を持たないリョウタにとって、普通の剣では付け焼刃に過ぎないのだ。

「あ、あれでいいかな」
「?」

美味そうな匂いの煙が上がっている屋台の前に立つ二人、ホットドッグを売っていた。ホットドッグ程度なら、銀貨を出せば釣りが来るだろう。とりあえずどの硬貨がいくらになるのかを見極める必要があった。
正直、硬い肉は飽きていた。朝も昼もパンと硬い干し肉では少しくらい贅沢したくなるものだ。それで選ぶのがパンとソーセージのホットドッグというのもリョウタ自身の発想力の無さか。単に美味しそうな匂いに釣られただけかもしれない。

「おいちゃん、2つ下さい」
「おう! でっかい剣持ってんなぁ兄ちゃん。傭兵さんかい」
「んー……えぇ、まぁ似たようなもんです」

手際よくパンに切れ目を入れ、ソーセージ2本を焼き始めながら屋台の主人が話しかけてくる。やはりこれだけ大きな剣は珍しいのだろう。持っているリョウタ自身、そんなに体格がいい訳でもないのでより目立つ。
鞘に収めている状態ではわからないが、重いといっても鉄で同じ物を作るよりは軽い。それでいても普通の人間に軽々と振り回せるものでもないのだが。

「そうかい、気ぃつけな。ここ最近、この辺りも妙に物騒でな。亜人や野党は前からだけどよ。最近はアンデッドや魔獣なんかも多いらしいぜ」
「そうなんですか? 俺も昨日、骨の集団に襲われましたが……」
「あぁ、やっぱ増えてんだな。最近は傭兵ギルドのほうでも人が不足するくらいらしいぜ。金稼ぐのはかまわねぇけど若い内から死に急ぐなよ…っと、はいおまたせ。二つで20zだ」

とりあえず、銀貨を渡すことにした。というよりも一番小さいのがその銀貨だが、リョウタは直感的にガムを買って1万円渡す光景を思い浮かべ、なんだか申し訳ない気持ちになる。
お釣り銅貨を8枚、おそらくこれが10zかと納得する。もう少し使い込めばわかってきそうだ。
道の脇に座り込み、ルーニァと二人で少し大きめのホットドッグを頬張る。
「うまいか?」
「んまぃっ!」
満面の笑みで答えるルーニァ、時折ケチャップで汚れた顔を拭いてやってる、竜族の娘とはいえ、普通にしていればまだまだ幼さが残る少女だ。任されたからというだけではないが、この子を守ってあげなくてはと言いようの無い気持ちが湧いてくる。

「さて、後は図書館かなんか探して……いや、明日でいいか」

幸い字は読める。情報収集は大事だ。地理的なこともわからないし、最低限の常識くらいは知っておかないといつボロを出すかわからない。
しかし、今はそんなことよりさっさと風呂に入ってゆっくりしたかった。慣れない旅で確実に疲労感は溜まっている。

「あ、そうだ」
「?」

宿へ戻る途中でリョウタは小さめの袋をルーニァに手渡す。その場でルーニァが空けると銀貨が3枚入っていた。
ルーニァは、先ほどリョウタがこれを一枚渡してホットドッグを買うところを見ている。これを渡すとそれに応じた物がもらえるのは理解していた。

「迷子になった時のために渡しとく、無駄遣いしちゃ駄目だぞ? 危なくなったり迷子になったりしたらな……そうだな、ああいうお店に寄ってお金渡して俺を一緒に探してもら……あれ?」
一瞬、目を離した隙にルーニァはいなくなっていた。慌てて探すと露店の前で銀貨を1枚渡して何かを買っている。

「ルーニァさァァァん!」
「はーい」
「んん! いい返事だ! ついでになにやってるか教えてくれると兄ちゃんすげーうれしい」
「おいしそうだよ。一口食べる?」
「いやひとつしか買ってないのかよ! ってそうじゃないわ。言ったよね? 無駄遣いしちゃだめって言ったよね? っていうか危なくなったらって言ったよね?」

肉まんのようなものを頬張るルーニァの頭をつかんでクシャクシャとやや強めに撫で回しながらリョウタが問いかけると、ルーニァは少し考えるような顔をして……、

「お腹が危なかった」
「さっき食ったばっかりだろ!」

デコピン、ヒヒヒとルーニァが照れ笑い。怒ってるんだぞとリョウタは脱力する。まぁ、今年で8歳になる子にお金を持たしてはいけないということなのか。
(確信犯な気もするけどな)
嫌になるので深く考えないことにした。

「……まぁ、いいや、一口ちょーだい」
「ん、それに私、迷子になんてならないよ」
「お、んまい……迷子にならない? ルーニァと出会ってからもう2回もいなくなってるんだけど」

草原で馬車を呼んできた時と今だ、まぁすぐに見つけているのだから迷子とは言わないが。
肉まんは二口目を食べようとするとルーニァが服を引っ張ってきたので渋々返すことにした。

「リョウタのいる場所はなんとなくわかるから。多分すっごく遠くに行かなかったら大丈夫だよ」
「ん? そうなのか? 俺はルーニァの場所わかんないけどな……魔術の応用みたいなもんなのか?」
「うーん、違うんだけど……なんでかな? お母さんはおうちから動かなかったけど、お母さんがいつもあそこにいるのもわかったし」

竜同士、なにかテレパシーのようなものがあるのだろうか、そういえばあの竜がリョウタに話しかける時もテレパシーのような感じだった。
ただ、気になるのがリョウタにそんな感覚は全く無いということだ。正直、それで迷子にならないと安心してルーニァがすぐに離れてしまってはリョウタが心労で潰れてしまう。危ないのは迷子になるだけではない。むしろ離れている間に何かがあることのほうが心配なのだ。

「あ、そういえばさ。魔術教えてくれよ。一応俺も使えるんだろ?」
「え? それは無理だよ?」

ばっさりと切り捨てられる。8歳の少女から才能ないよと言われるのを想像して欲しい。結構ショックだ。

「リョウタからは魔力を全然感じないの。おかしいよねぇ、魔力は皆、ちょこっとだけは持ってるものなんだよ?」
「え、そうなの?」

ルーニァが親指と人差し指の間でちょこっとを表現する。キョロキョロと周りを見渡し、人を指差しては親指と人差し指の間をほんの少しずつ広げたり狭めたり、人間はほとんど大差無いらしい。
実際、この世界の人間は筆舌しがたい修行を持って魔術師となる。最初から才能のあるものもいるが、それでも最初から魔術を使える者などはいない。

「うん、シアもあのおじさんもちょこっとはあったよ。全然無いのはリョウタだけ」
「……?」

一度死んだ肉体だからかとも考えたが、アンデッドは死んだ肉体が魔力で動くもの、それは当てはまらない。
まぁ、魔力が無かろうと体調が悪くなっている節は無い。まぁこのままでもいいかとリョウタは納得することにした。
火を簡単におこしたり、自分の傷の手当てができるようになるというのは魅力的だったが、できないのなら仕方ない。

「さ、風呂はいっぞ風呂」

ジャケットとジーンズを脱ぎ、軽装に着替える。街で下着も買っておいたが、どうも慣れるのに時間がかかりそうだ。
ジャケットもジーンズもだいぶ傷が入っている。リョウタにとっては、もう戻ることが出来ないであろう前の世界の名残の物だ。なるべく長持ちさせたいが、ジャケットはともかくジーンズはそのうち駄目になるだろう。

「ルーニァは風呂って入ったことあるか?」
「んー、ないよー。身体を洗うんだよね? 川でしてた」
「……さすが野生児」

まぁ、人の多い街すらはじめてなのだ。仕方がない。
さすがに初めての公衆浴場で一人にする訳にはいかないだろう。分別が無い訳ではないが、ルーニァの素性を思うと何がおきてもおかしくない。

「おぉぉー!」
「おー、風呂風呂、テンション上がるわ」
「一緒におーって言ってよ!」
「……いや、風呂くらいならねぇ…」

脱衣所や湯船は日本ではあまり見慣れない作りだったが、風呂そのものは巨大な普通の浴場といった感じだ。ただ、人が多い。
流石にシャワーは無いが、かけ流しの蛇口と石鹸程度はあった。これだけ大きな街だとそこそこの給水設備があるようだ。

「前は自分で洗えよ、背中は流してやっから」
「おぉっ? なにーこれ、ヌルヌル」
「それで綺麗にすんの」

その後、ルーニァが走って転んだり風呂のお湯を熱いと泣きそうになったりと、せっかくの久しぶりの入浴がやたら忙しいものになり、リョウタの疲労は取れるどころか増えたというのはいうまでも無い。




翌朝、ルーニァが寝ているうちにリョウタはトレネ商会で金を受け取り、買出しに奔走していた。
食料、水、衣類、地図。そしてそれを運ぶための袋。持ち運ぶのも大変そうだ。
「馬車……」
歩きでは移動に時間がかかりすぎる。目的は永住できる場所を探すことだ。なるべく早く決めたい。
しかし鉄で出来た馬ならともかく、生きている馬など当然リョウタは扱った事が無い。金には余裕があるが、使えない物を買う必要も無いだろう。

「ま、仕方ないか」

買った地図を広げる。前の世界とはまったく違う。北西と南東に大陸が1つずつ存在し、はさまれるようにポツポツと島が存在する。
商人の話や先ほど寄った図書館で見たところ、まだ亜人との小競り合いは続いているらしい。この街は南東の大陸の南に存在するが、中心にはこの辺り一帯を統べる国があるようで、その北側辺りではまだ亜人が活発的に活動しているらしい。

「とりあえず、城を目指してみるか」

単純に物珍しさからではあるが、とりあえず各地を回って図書館の本等では得られない常識を覚えていくのも重要だ。
目的はルーニァの保護だが、色々回ってみるのも面白いというのがリョウタの本音だった。


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