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[16306] (ネタ追加)丁稚のいうことを聞きなさい!(GS×パパのいうことを聞きなさい!)
Name: ナナヤ・改◆7a88187c ID:df74c293
Date: 2011/08/06 23:43
どうもナナヤ・改です。

マジ恋とか恋姫とか書いてたんですが、続けられそうにないので、
とりあえずチラシの裏だからこそやれる一発ネタ集にすることにしました。

色々思い浮かんでいるネタはあるので気ままに乗っけていきたいと思います。
たまに書いた奴の続編も書くかもしれません。




[16306] マジ恋の世界に横島が来たようです。
Name: ナナヤ・改◆7a88187c ID:df74c293
Date: 2010/05/10 12:35






その日の朝は実にいい天気だった。
別にこれまで雨が続いていたとか曇りばかりだったとかそういうことはなかったが、その日は雲ひとつないいい天気だった。

そんな気持ちのいい朝、ピンクの髪をした背の小さな彼女……甘粕真与(あまかす まよ)は目を覚ます。
時間はまだ真与ぐらいの年齢の起きている者が少ない朝の6時。
なぜそんな時間に起きるのかというと家族の朝食を作るためだ。

別に彼女に朝食を作ってくれる親がいないわけではない。
両親は二人共元気だし、少々やんちゃすぎる弟も二人いる。

ただ、真与の家は世間一般の基準でみると貧乏といわれる位置にあり、
そのため両親は毎日一生懸命生活のため働いていたりする。
そんな両親を助けるために真与は家事全般を進んでやっているのだ。

真与は先に顔を洗うために洗面所へと向かう。
その後二年前に水洗式に変えたトイレを通り過ぎ玄関へと向かう。
新聞を取りにいったのだ。

家の外に出た真与はいい天気だと、ぐ~っと背伸びをする。
それから新聞をポストから引き抜き―――固まった。
目をまん丸にして固まった。

真与が見る視線の先には常識では考えられないことが起きていたのだ。
真与は自分の目を擦り改めて確認するが変わらずそれはあり、今度は頬をちょっと強めに抓ってみるが悲しいことに痛みがあった。

夢ではない……。
そう確信した途端真与の顔は真っ青になる。
それは仕方のないことだろう。なざなら――

自分家の玄関先の地面に人が足を空に突き出しながら頭から刺さっていたのだから。

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!?」

真与は人生初と言えるほどの大きな叫び声を上げた。















30分後、甘粕家全員が玄関先に集まっていた。
真与の叫び声を聞き慌てて駆けつけてきたのだ。
家族全員の第一声が真与の無事を確認するものだった辺り、この家族は相当に仲がいいのだろう。
そして真与の無事を確認した後、家族は目の前の光景に頭を悩ませていた。

「人……だよな?」

「人……だと思うけど」

「だ、大丈夫かな?救急車呼んだほうがいいかな?」

「うわーすっげぇ!本当に刺さってる~」

「触ってみようぜ!つんつんっ。つんつんっ」

下の弟二人以外困惑を隠せないでいた。
こんな場面に遭遇したことなど今まであるはずも無く、救急車なり呼べばいいのだろうと思ってはいるのだが、なぜかそんなことをしなくても大丈夫に思えていたのだ。

「あっお姉ちゃん!今これ動いたぜ!」

「本当だ!ちょっと動いたよ!」

「ええっ!?ふ、二人ともこっちに来てください!」

その言葉を聞いて慌てて真与は二人を呼び戻し地面から出ている両足を見る。
と、確かに動いていた。ぴくぴくと動いていた。
その光景に冷や汗を流しながら緊張した面持ちでいると今度は激しく足をバタバタさせ始める。
思わず抱き合う家族を他所に動きはどんどん激しくなっていきそして――

「っぷはー!死ぬかと思ったーー!!」

「「「「「生きてたー!!?」」」」」

赤いバンダナを巻いた一人の男が出てきたのであった。











「こらうまいっ!こらうまいっ!」

「あっ横島兄ちゃん!俺の卵焼きとるなよ!!」

「だからって僕のをとらないでよ!兄さん!」

「わわっ、そんなに慌てなくてもまだありますよっ!」

「はは、いい食いっぷりだな~横島くん」

「はい、お茶も飲んで。喉を詰まらせるわよ」

「ありがとうございます、紗江さん。
お礼に今夜僕と熱い夜を過ごしませんか?」

「あらあらお父さん、私ナンパされちゃったわ。
まだまだ捨てたもんじゃないのかしらね」

「当たり前だよ母さん。母さんは世界で一番綺麗なんだから」

「まっ、お父さんったら」

「姉ちゃん、卵焼き早く~」

「こっちも~」

「は~い、ちょっと待って下さい~っ」

慌しい朝食風景が甘粕家の今では起こっていた。
地面から這い出て来た男、横島忠夫に事情を聞こうとしたところで横島がバタンと地面に倒れこみ、

「は、腹減った~」

と言ったことで一家は横島をこのままにしておくことなど出来ず、彼を朝食に誘ったのだ。

ちなみに互いに名前だけは交換を済ましている。
甘粕家の家族の名前はこの通り。
一家の大黒柱の甘粕大吾(だいご)。
その柱を支える妻、甘粕紗江(紗江)。
長女である真与。
その弟で長男である大樹(だいき)。
次男の武(たける)。
の五人家族である。

「ふひ~腹いっぱいだ……ども、ご馳走様でした」

「いやいや、困ったときは助け合うものだからね」

朝食と言っていいのか分からないぐらいの量を食べた横島が甘粕家に頭を下げ、大吾はそれを優しく笑い答える。

「あの横島さん、もう一杯お茶どうですか?」

「おお、お願いするな。それとメシすっげぇ旨かったぜ真与ちゃん」

「本当ですか?それなら良かったです」

お礼の言葉を言いながら横島は真与の頭を撫でる(ちなみにまだ真与の年齢を横島は知らない)、
それを真与はどこかくすぐったそうにしながら嬉しそうな声で返した。

初めは出会い方が出会い方のせいで横島に対し少し恐怖心を抱いていたものの、実際に話てみて恐怖心は無くなった。
それは真与だけではなく家族もそうだったようで、小学生の弟二人なんて横島にじゃれ付きながら甘えている。




「それで……横島くん、どうして君はウチの玄関先に刺さっていたんだい?」

「地面に刺さるなんてそう起こることないわよね?」

朝食を終え、落ち着いたところで大吾と紗江が横島に聞く。
警戒心を解いたとはいえ、一体どういうことなのか知らなければいけないのは代わりない。
ただ、
「いやぁ、地面に刺さるなんてことは結構あるもんすよ」
と横島が言っていたのは無視したが。

「う~ん、なんというか俺も良く分かってないんスよね。
多分事故でこの家の前に刺さったんだとは思うんすけど……」

「事故?」

「うっす、仕事の時にちょっと……あ、俺一応GSなんですよ。
まぁまだ見習いなんすけどね」

そう言って照れ笑いを浮かべ頭をかく横島は、次に大吾が発した言葉に固まることになる。

「ごーすとすいーぱー?……何かなそれは?」

「………え?」

GSといえば横島だけではなく世間一般の人が知らない人がいないぐらい知名度の高い職業のことだ。
それを大吾は知らないと言う。
横島はここに来て初めて嫌な予感を感じ冷や汗を流しだす。

「じ、GSっすよ?本当に知らないんすか!?」

「すまないが……母さんは?」

「私も知らないわね」

「私も知らないです」

「「しらな~いっ!」」

「う、ウソだろ……っ!そ、そうだっちょっと電話借りてもいいっすか?」

「え?ああ、構わないけど。ホラ、あそこにあるのを使っていいよ」

大吾の了承をへた横島は少し足早になりながらダイヤル式の電話へと向かい。
恐る恐る事務所へと電話をかけた。

そして――

『おかけになった電話番号は現在使われておりません』

嫌な予感は的中した。

「(な、なんでやっ!?昨日今日で電話番号変えるなんて話聞いてないし……そうだっ!他にもかけてみるかっ!)」

そう思い他にも覚えている電話番号を押しかけてみるが、どれもこれも『現在使用されておりません』のセリフが流れてくるだけだった。

まさかまさか……と、横島が現状に一つの仮説をたてた時、それが視線に飛び込んで来た。

「…………真与ちゃん、きょ、今年って平成何年だっけ?」

横島は震える声で、心配そうにこっちを見ていた真与に尋ねる。
真与はいきなり何でそんな質問を?とは思ったものの答える。

「平成21年ですが?」

「は、はは、はははははははは」

「よ、横島さん?」

「兄ちゃんが壊れたー!」

「だ、大丈夫かい?横島くん?」

心配して声をかけてくる甘粕家を他所に横島は一頻り乾いた笑いを続けた後、

「ワイが何したっちゅーんじゃこんちくしょーーーー!!!!」

そう叫び声を上げた。











きっと続かない。




あとがき

マジ恋に横島をクロスさせたくて描いてしまった。
でも続けられそうにないから一話だけネタとして投稿してみました。
多分後、二、三話ぐらいは描くかもしれませんがその後はわかりません。
では、ここまで見てくれてありがとうございました。







[16306] 何とか続いた二回目。
Name: ナナヤ・改◆7a88187c ID:df74c293
Date: 2010/02/09 22:08










「ち、チカちゃん……」

「真与……どうしよ、私……」

小笠原千花は思う、どうしてこうなったのかと。





もうすぐ二年生となり新学期を迎えるある春の日、千花は親友の真与から一本の電話を受けた。
内容とは、千花の実家の和菓子店でバイトを一人雇ってみないかと言ったものだ。

実は、最近真与にバイトが一人やめてしまい誰かいい人がいないか愚痴を言ったことがあったばかりであったりする。

そんな親友の電話に千花は一つ返事で「じゃあ面接するから連れてきてくれる?」と返した。
親に確認もせずそう言ったのは真与への信頼感からである。
真与は小さな外見にもよらず、責任感のある芯の通った人物であり、そのことを親友である千花はよく知っていたからだ。
だからその真与が紹介してくれる人なら悪い人じゃないと思ったからである。

真与との電話が終わった後、そのことを両親に伝える。
千花の両親も真与のことを知っており、嬉しそうに「分かった」と頷いた。

真与が来るのは客が余り来ないお昼過ぎ。
それまでさして用事のない千花は、真与が連れてくる人物がどんな人なのか気になり店の手伝いをすることにした。

そう、あんなことになるとは知らずに……。









その後客足も引き、約束の時間が近づく。
おそらくもう来るころだろうと千花が店の入り口を気にしていると、見慣れたピンクの髪を見つけた。そして隣にいる男の姿も。

千花はその一瞬で男を瞬時に観察・評価する。
歳はおそらく同じくらい。
ルックス……普通。
ファッション……地味。
お金……持ってなさそう。
総合評価……彼氏にするには程遠い。

その自己評価に千花は肩を落とす。
実は結構イケメンがこないかと期待していたのだが、それはただの夢だったようだ。
肩を落とすもののバイトだしまぁいっか、と思い。
真与へ声をかけようと顔を上げた時だった。





「生まれる前から愛していましたーーーーーーーー!!!」





千花の時が止まる。

眼前には自分に向かって飛び込んでくる一人の男。
ていうか真与と一緒に来た横島。

え?何?……キモッ。

あまりの突拍子もない行動に驚き、次に横島のあまりに必死な顔に嫌悪感を抱く。
それからそんな感情を抱いた男が今まさに自分へと向かってくる恐怖心が湧き上がる。

そこからは無意識だった。
本能からの行動。危機回避のための行動。

気づけば千花は――

「ぐるぼぅるうーーーーーーっ!!!?」

己の右手を全力で横島の顔面を殴っていた。

その殴られた横島は放物線を描き店の外へと飛んだあと、何回もバウンドしながら転がっていく。
そして道の真ん中まで転がった後、ガクリと動きを止めた。

「ち、チカちゃん……」

「ま、真与……どうしよう、私……」

千花は震えながら己の手を見つめる。

おそらく初めてではないだろうか?
誰かを全力で殴るなんて。

そして思う。
確かに殴り飛ばした男は気持ち悪かった。
だが殴り飛ばした瞬間、なぜかとてもスッキリし――

「ちょっと気持ちよかったかも」

「チカちゃんっ!!?」

小笠原千花(おがさわら ちか)、新しい世界(Sの世界)へと足を踏み入れた瞬間であった。














マジ恋の世界に横島がやって来たようです。
第二話















「なるほど、色々あって真与の家に居候することになったのはいいけど、
ただで居候なんて気まずいからお金入れるためにバイトをしたいと」

「うぅ、ヒモは嫌なんや~!」

「よ、横島さん」

「って何よ居候って!?
ダメよ真与。こんな人に飛び掛るような怪しい奴家に上げちゃ」

「あはは……悪い人じゃないんですよチカちゃん」

その後、結構勢い良く殴られたくせにまったくの無傷で起き上がってきた横島を店に通し、一応面接をすることに……。(その際、ケロッと起き上がってきた横島に皆あいた口が塞がらなかった)

「大体アンタ幾つよ?私たちとそう変わらないと思うけど、何で住む家すらないのよ?」

「いやぁ色々あったんだよ千花ちゃん。
ちなみに高校2年だぞ俺は」

「「同い年!?」」

実際には少し違う。
横島は確かに二年生だったが、季節は2月の冬。
それに比べてこちらはまだ学校すら始まっていない春。
少しだけ横島のほうが年上ではあるのだ。

「おおタメやったんか……って何で真与ちゃんまで驚いてんだ?
まだ小学生ぐらいだろ?」

「ぷっ」

「っ!!」

横島の言葉に二人はすぐさま反応する。
まぁ千花は吹いてしまっただけだが。

「わ、私も横島さんと同い年です!
し、失礼ですよっ!」

「なんやてー!?」

驚きながら横島は千花を見る。
千花は笑いをこらえながらも何とか頷いた。
それを見て横島は真与に視線を戻す。
横島のいたクラスにも背の小さな女子はいたが、ここまで小さな女子はいなかった。

「む、む、むー!この私のお姉さんキャラとしての威厳が分からないんですかっ!」

横島の反応に口を膨らませ怒る真与。
残念ながらその姿は小さな子供そのものだった。

そんな姿に横島と千花は顔を見合わせてからお互い真与の頭に手を置く。

「そうだな。真与ちゃんはお姉さんキャラだもんな」

「そうよ。真与は大人の女よ」

そう口では言うものの二人の視線は生暖かい眼差しだった。

「え、えへへ~分かってくれればいいんですよ~」

だが真与はそんな眼差しには気づかず無邪気に喜ぶ。
その姿に二人は更に笑みを深めるのだった。







「とりあえず試しに明日一日働いて欲しいんだけど大丈夫?」

「おう!全然大丈夫だぞ」

「じゃあまた明日来てくれる?朝8時に時間厳守だかんね」

「わかった」

「まぁ採用するかは明日次第だけど、明日働いてくれる分はちゃんとお金出るから」

「マジかよっ!うぅ……優しさが目に染みる」

「大げさな……お礼ならお父さんに言ってよね」

そう言われ横島は千花の両親にお礼を言う。
その横で真与は千花へと話かける。

「ありがとうございます、チカちゃん」

「別にいいわよ、ウチも募集してた所だしね。
ちょっとキモイ……変な奴だけど」

そう言う千花に真与は苦笑いを零す。
横島が悪い人じゃないのは分かっているが変だという千花の言葉も分からなくはなかったりする。

「よっしゃ、真与ちゃん帰ろうぜ」

「はい。それではチカちゃん、またです」

「うん、またね真与。
明日遅刻しないでよね、横島~」







「いやぁサンキューな真与ちゃん。
お陰で何とか働き口が決まりそうだ」

「いえいえ、お父さんも言ってましたが
困った時は助け合うものですから」

千花の店から出た後、二人は夕食を買いに行くためスーパーへと向かっている。

「メシを食わせてもらって、住むとこまで世話してもらって、働くところまで紹介してもらって……うぅ、こんなにいい人がいるなんて思わんかった」

「な、泣かなくても。家賃は貰うことになってるんですし」

横島、真与の家で居候することになったのはいいが、まず甘粕家には家族に加え横島を養うなんて余裕はない。
だから家賃を払うことで住まうことになった。
それでも家賃は破格的な安さだが。






他人の横島に対してそこまでする理由は言えば勘違いからであったりする。
いくら人のいい甘粕家といえど、年頃の娘がいるのに自分の家に居候させるだろうか?
答えは簡単。
甘粕家の皆が横島がそりゃもう不幸すぎる境遇にいると勘違いしているからだ。

事のいきさつはこうだ。
横島が電話をかけまくり、もしかしてここ平行世界?とか思いだしている時、
どうしたのか?と大吾たち一家の質問に横島はこう答えて言ったのだ。

「連絡はついたのかい?」

「いえダメでした。多分(平行世界に来ているみたいやし)皆もう、いないんだと思うっっす……連絡つく場所には」

「(家族は死んで独り身なのか?)知り合いは?」

「もうここには居ないっす(というより俺があっちの世界から居なくなっちまったんだろうなぁ)」

「(そんな、じゃあ横島さんは本当に一人ぼっちなんですか……!)帰る家はあるんですか?」

「あるにはあるんだけど……今行っても無駄だと思う(何しろ住んでた世界が違うんやから、俺の住んでたボロアパートあるわけないわな~)」

「(差し押さえされたのかしら?)それで、横島くんはこれからどうするつもりなの?」

「とりあえず適当に日雇いで何か働けるところ探しますよ。
幸い怪我も何のなかったっすから」

「……住むところは?」

「安ホテルに泊まるか最悪野宿でもしますよ」

「野宿って……危ないですよ!」

「大丈夫だよ真与ちゃん。……………慣れてるから(もっと酷い状況なんていっぱいあったもんな~……、あかん、思い出したら涙が出てきた)」

「「に、兄ちゃん……」」

その言葉と涙が決めてだった。
色々と勘違いした甘粕家はひとまず家族で話し合い、横島を居候させることを決めたのだった。








「そ、そうです。今晩は横島さんの好きなおかずを作ります。
何がいいですか?」

「真与ちゃん……なんていい子なんや。
その気持ちだけでワイは十分や」

さらに激しく涙を流す横島に真与は慌てる。
慌てていると、横島が真与の頭に手を置く。

横島の顔を見るとそこにあったのは涙顔じゃなく無邪気な子供みたいな笑顔だった。

「ありがとうな、本当に。感謝してんだぜ」

それから優しく真与の頭を撫でる。
真与はその手の暖かさになんだか頬が熱くなるのを感じた。

「俺の好物は別にいいから、大樹たちの好きなもん作ってやってくれよ。
真与ちゃんのメシはうまいからな、何が出てきても楽しみだ」

「……はい」

真与は何とかそれだけを言い、俯く。
何となく恥ずかしくて、今の顔を横島に見られたくなかったのだ。

それから買い物を済ませ二人は帰路へついた。








翌日、横島は千花の店に来た女性客をナンパするなどしたものの(した瞬間千花に折檻されたが)、それ以外の働きは一般以上の働きを見せ、無事働くことが決まった。













続く……かも







あとがき
とりあえず二話です。
うん、続いてあと二、三話かな……。
結構見たいとの意見があったので頑張ってはいきたいと思います。
ただ、更新は不定期になると思います。

ではここまで見てくれてありがとうございました。






[16306] おそらく先がない三回目。
Name: ナナヤ・改◆7a88187c ID:df74c293
Date: 2010/05/06 03:51








「お疲れ様っした~」

「おう横島、お疲れさん」

朝の5時、横島はある家屋から外へとでる。
その家屋の横には看板が一つ、『川神新聞』と書かれている。

そうこの家は新聞販売店。
横島が始めたもう一つのバイト先である。

「あれ横島、もう終わったんだ?」

と、横島が店の外に出た時声がかかる。
横島が声のほうに顔を向けるとそこにはポニーテールの活発そうな少女がいた。

「おう一子ちゃん、今終わったとこだぜ」

「はっやいな~。まだ初めて三日だよね?
しかもアタシと同じで走って配ってるのに……」

彼女の名前は川神一子(かわかみ かずこ)
言わずもがなヒロインのひとりである。
そんな一子だが、横島が配達を始めるときに教えたのが彼女である。

横島にはいきなり飛び掛られた時はビックリしたが、その後自分の走るスピードに着いてこられたことに更にビックリしたものだ。

「それに汗もかいてないし……アタシだって終わるころには汗かいてるのよ?」

「まぁ俺は走るだけなら結構走ってきたからなぁ~(仕事で敵から命がけで逃げたり……大変やったアレは)」

「アタシだってもう何年もランニング続けてるわ。
う~修行不足ね!今日は倍の距離を走るわよ!」

「頑張るな~毎日」

「当たり前よ!お姉様に追いつくためだもん」

「噂のお姉様か~今度紹介してくれよな」

「……色んな意味で止めた方がいいと思う」

一子は横島が姉に飛び掛った据えボロボロにされる姿を想像し冷や汗を流しながら言う。

「じゃあアタシ行くね。修行修行!」

「おう、一子ちゃん今度お茶でもしような~」

「アハハ、暇があればね~」

そう言って一子は走り出す。
一子自身横島のことは嫌いではない。
一子に声をかけてくることは九鬼と同じだが、そこにしつこさは無く一子も軽く受け流せるので、それほど苦手意識はない。
それに仕事自体は真面目なので好意的には見ているのだ。

それから走り去っていく一子を見送り横島も真与の家へと戻るのだった。








「お帰りなさいです、横島さん」

「ただいま~真与……ちゃ……ん」

新聞配達から帰った横島を迎えるのが真与の日課になっていた。
そして今日も帰ってきた横島を迎えたのだが、真与の格好をみて横島は固まる。

真与の方も少し恥ずかしそうに横島の反応を見ていた。

しばらくして横島はようやく言葉を出す。

「真与ちゃん………………………………本当に高校生だったんやな」

「し、失礼なっ!?」

そう叫ぶ真与は真与が通う川神学園の制服。
そう、今日から二年生として真与の学校生活が始まるのだ。














マジ恋の世界に横島が来たようです。
第三話














「ほら出来たぞ」

「うわ~すっげぇ!」

「兄さん貸して貸して」

学校が始まって二日、その日の夕方真与の家の庭先では横島と大樹と武の声が響いていた。

「三人とも何してるんです?」

「おっ真与ちゃん、おかえり」

「姉ちゃんおかえり~」

「おかえり姉さん」

と、学校から帰ってきた真与が庭へと出てくる。
部屋に戻らず来たのか制服のままである。

「これっ、これ見てよお姉ちゃん!」

「何ですか?」

弟の大樹が差し出してきたものに視線をやる。
そこには木で彫って出来た弟二人が日曜の朝に見ているTVのヒーロー人形があった。

「わ~これ良く出来てますね。
コレどうしたんですか?」

「聞いたら驚くよ?これ横島兄さんが彫ったんだ」

「凄いよな~そこらへんのオモチャより出来がいいんだぜ!
ほら、ベルトの模様までちゃんと彫ってあるんだ」

「ええっ、これ横島さんが彫ったんですかっ!?」

驚いて横島の方を見ると照れ笑いしながら頭をかく横島がいた。

「ちっさい時から手先だけは器用なんだよ」

「凄いです。これ、まるでプロの方が作ったみたいに上手ですよ!」

「うん、凄いよ兄ちゃん!」

「次はブラック作ってよ!」

真与たちの反応に横島はさらに照れを深める。
実際誰かに何かをここまで素直に褒められたのは初めてな気がする横島。
そのせいか普段から褒め慣れておらず、とても無図痒い気分になる。
悪い気分ではないので悪い気は全然しないのだが、どう反応すればいいのか戸惑ってしまう。

「悪ぃな、そろそろ日も暮れるし家に入ろうぜ。
ブラックならまた今度作ってやっから」

「ちぇ~約束だぜ兄ちゃん!」

「約束だかんね!」

横島にそう言った後、弟二人は家へと戻っていく。
それを横島と真与は微笑ましげに見ていた。

「弟二人もすっかり横島さんに懐いちゃいましたね。
お姉ちゃんとしては少し寂しい気持ちですが、三人を見てると嬉しい気持ちになります」

「でも何だかんだいって真与ちゃんに一番懐いてると思うぜ二人共。
話にもしょっちゅう出てくるんだぜ?ありゃ将来絶対シスコンだ」

「それならそれでいいです。私もブラコンですし」

そう言ってお互い笑い合う。
二人に流れるとても穏やかな空気。
真与はそんな空間にいることが幸せでならなかった。

「そうだ真与ちゃん、明日学校終わった後って時間あるか?」

「え?特にありませんよ」

「だったらちょっと買い物に付き合って欲しいんだけど、
バイト関係で携帯あった方がいいと思って買いたいんだけど、
まだここら辺って何があるか知らねぇからさ」

ちなみに戸籍のない横島のため名義人は大吾が変わりになってくれるそうだ。

「そういうことなら喜んで、といっても私もそれほど詳しいわけではないですが」

「でも俺より全然詳しいだろ。頼んます」

「はいっ!」

元気に頷き真与は、何だか明日が楽しみだ。
と、機嫌が更に良くなりその日の晩御飯はいつもより少しだけ豪勢なものになったのだった。











「ありがとうございました~、お姉さんまた来て下さいね。
それから俺とデートしましょうっ!」

「ふふっ和菓子を買いにね。
デートは遠慮しとくわ」

「ちくしょーまたダメやったー!
やっぱ男は顔なんかー!?」

まだ働いて一週間ぐらいしかたっていないにも関わらず、ある種名物となりかけている横島の女性客に対してのナンパ。
当初客入りが減るのではと千花は心配していたのだが、横島のナンパは一度断ると諦めてくれるしつこさが無いナンパで(また店に来た時はナンパするが)、
千花がいるときは千花がナンパをした横島を折檻する姿が以外と好評で、
実のところ若干客の入りが増えていたりする。

「店でナンパするなって言ったでしょーが!!」

「ごぶろっ!?」

声と同時に横島の頭に踵落としを落とされる。
横島はそのまま派手に床に顔面をぶつけた。

「まったく飽きもせずナンパナンパってキモイのよアンタ」

「よ、横島さん大丈夫ですかっ!?」

その横島に踵落としをくらわせたのはこの店の看板娘の千花。
口ではキモイといいながらその顔には若干の高揚感が浮かんでいる最近Sに目覚めかけの娘である。
その横ではいつものことだと思いながらも横島に駆け寄る真与。
学校が終わり直接千花の店に来たのだ。

「死んでまうわー!!」

「……ほんとすぐ復活するよね、アンタ」







「まさか千花ちゃんも来てくれるとはな~」

「何よ、嫌とかいうつもり?」

「まさか。両手に花状態じゃねぇか。
くぅー例え携帯を買うためにとはいえ、
仕事以外で美女、美少女を連れて歩ける日が来るなんて人類にとっては大したことなくても、ワイにとっては多きな一歩やーーー!!」

バイトを上がり横島たち三人は川神の街を歩く。
目的は横島の携帯を買いに行くためだ。

「やはり私だけじゃ心許なかったのでチカちゃんにお願いしたんです」

「真与に頼まれちゃ断れないからね。
ありがたく思いなさいよ」

「おう!二人共サンキューな。
千花ちゃんには後でお礼の熱いベーゼを――」

「いるかーーーー!!」

「ごぶろっ」


そんな感じで三人は歩き、千花オススメの携帯ショップへとたどり着く。
横島は明らかに自分のいた世界のより技術が進み便利で形も違う携帯に驚き。
真与は携帯はもちろん見たことあるが、お店自体にはあまり来る機会のないこともあり珍しそうに店内を見渡す。

そしてそんな真与をチラリと確認し、横島が千花に近づく。

「(ところで千花ちゃん、ほんと何で来たんだ?あっちの準備とかやるんじゃなかったのかよ?)」

「(アッチはもう完了したんだって連絡があったの、それにアンタ一人じゃ心配だったしね)」

「(準備終わるの速いなっ。って千花ちゃんにとってワイって信用ないんやな~)」

「(当たり前でしょ?信用されたいんならまずナンパをやめなさいよ。
本当にキモイわよ)」

「(無理や!美人をナンパすんのは男の義務だからな)」

「(……アホね)」

「二人共どうしたんですか?」

と、店内を見回していた真与が何か小声で話している二人に気づき話しかける。
二人は真与の声にすぐさま反応し、何もなかったような顔で向き直った。

「いや、種類いっぱいあるからどれがいいかって聞いてたんだよ」

「そうそう、横島は普段から地味だからね~。
ちょっと派手めのがいいんじゃないかな、とかね」

二人のごまかしに気づく事無く、真与はその言葉を信じ
三人は携帯探しを再会する。

「ちなみに真与ちゃんはどういうのが好きなんだ?」

「あぅ~私は本当に全然詳しくなくて、
どれがどういう機能があるのか知らないんです。」

「いやいや別に機能知らなくても見た目とかでさいいからさ、
俺も気にいるかもしれんし」

「そうですか?じゃあ―」

そう言って真与はもう一度店内を見渡す。
その隣では横島と千花が、

「(上手いじゃない)」

「(へへっ、こんなもんよ)」

と、目で会話していた。

「あっ、これとか好きかもしれません」

「ん?どれだ」

「どれどれ?」

二人は真与が指す携帯へと目をやる。
そこには真与の髪と同じ薄いピンク色の他の携帯より小さめの可愛らしい携帯があった。

「へ~可愛らしい奴だな」

「うん、真与らしいって感じかな」

「えへへ、そうですか」

真与は少し照れた後携帯を置く。
それから困ったように横島の方へ顔を向けた。

「でもこれは横島さんにはあわないですかね」

「いや参考にはなったよ、サンキューな真与ちゃん」

「はいっ!」

その後、横島は三人の評価が一番高かった携帯を購入に携帯ショップを後にした。











それから数十分、三人はもうすぐ真与の家に着くぐらいの所まで来ていた。
千花がいるのは最近の携帯の使い方を知らない横島に簡単な使い方を教えるためと、真与の母である紗江に千花の母からお裾分けを持って行くためである。
――と、真与には説明していた。

実際の理由は違う。それは――

「ついた~っと。うっ、良いにおいが……腹減ってきた」

「本当ですね。おかしいです、今日はお母さん仕事が休みではないはずなのですが……」

「とりあえず入ってみましょう?」

「そうですね」

家の中からするいい匂いに真与は疑問を浮かべながら玄関の戸をあける。
そしてその瞬間『パァン!』と大きな音と紙ふぶきが真与を襲った。

「わ、わっ!?な、何ですか一体!?」

いきなりのことに驚き目を瞑る、それから恐る恐る何事かと真与はゆっくり目を開く。
そこには家族全員が笑顔でたっていた。
手にはそれぞれクラッカーを持っていて、さっきの音はこれが原因だと理解する。
だがどうして?と、そんな真与の疑問はすぐに解消される。

「せーのっ」

千花の掛け声。その直ぐ後に

「「「「「「真与(ちゃん)(お姉ちゃん)誕生日おめでとう!」」」」」」

祝福の声が真与を包んだ。
そう、今日は真与の誕生日だったのだ。









Said:真与

すっかり忘れてました。今日が私の誕生日だってことを。
横島さんが住むようになって慌しくも楽しい日々に誕生日のことは頭から消えていたようです。

「その顔じゃ忘れてたみたいね、真与」

「はい。なのでビックリしました」

「まぁそっちのが、計画した側としちゃ良かったからな」

横島さんが悪戯が成功した時のような顔で笑う。
それからお父さんとお母さんに何かを渡し、それを持った二人が私の所まできました。

「真与、私たちからの誕生日プレゼントよ」

そう言って渡してきたのは、よく見知った袋。
それはさっき買いに行った携帯ショップの袋でした。

「え?これって横島さんのじゃ……?」

「俺のはこっち、いいからあけてみなよ」

横島さんがもう一つの同じ袋を私に見えるように掲げ言う。
私は少し戸惑いながらも袋の中身を確認してみることにしました。

するとそこにあったのは――

「この携帯は……」

それは私が横島さんに好きだと答えた携帯でした。

「僕たちじゃ何がいいかわからなくてね。
やっぱり真与が気にいったのがいいと思うから」

「でも……携帯なんてお金のかかるものなのに」

「真与もお年頃だからね、友達との付き合いもあるでしょうし必要だと思って。
それにお金なら大丈夫よ。だから心配しないで」

「家は他所より貧乏だから偉そうなことは余りいえないけど、
子供は親に甘えるものだよ。
特に真与はあまり僕らに甘えようとはしなかったからね。
ちょっと心苦しかったりもしたんだ。
だから受け取ってくれないかな?」

「お父さん……お母さん」

二人の言葉が胸に染みます。
こんなに想ってもらえるなんて私は幸せ者ですね。

お金も本当は大丈夫なわけないはずです。
でも、ここで断るのは二人を傷つけてしまう気がします。

「ありがとうございます。
この携帯……大事に使います!」

そう言うと二人は笑顔で頷いてくれました。
それから次は弟二人が駆け寄ってきます。

「姉ちゃんっ!コレ俺達から!」

「二人で一緒に作ったんだよ!」

そう言って二人が渡してきたものは、小さなネコの木彫りでした。
ところどころ歪んでいたりしていますが、十分に上手な出来といえるでしょう。

「わぁ、凄いです。二人とも上手ですねっ」

「へへっ実は横島兄ちゃんに教えてもらったんだ」

「でも、作ったのはちゃんと僕たちだよ」

横島さんを見ると頬をかいて笑っていました。
ということは昨日の木彫りのヒーローはこれを作っていて余った材料で作ったのでしょうか?

「これにヒモついてるでしょ?
携帯に付けられるようにしたんだ」

「僕がつけてあげるね」

二人が手作りのネコのストラップを携帯につけてくれました。
このストラップと携帯……一生大事にしよう。

「私からはこれ」

今度はチカちゃんが可愛らしく包まれた袋を渡してくれます。
中をあけてみるとそこには千花ちゃん手作りのアメと化粧品が入っていました。

「真与ももうお年頃なんだからお化粧の一つもしないとね。
好きな男を落とすにはまず自分を綺麗に飾らなくちゃ」

そう言って笑うチカちゃんは凄く綺麗です。
私もお化粧をすればチカちゃんのように綺麗になれるのでしょうか。

「ありがとうございます。チカちゃんっ」

「どういたしまして、真与は親友だからね。
これからもよろしくね」

「はいっ!」

「んじゃ最後は俺だな」

「わわっ横島さんもプレゼントを?」

「ああ、真与ちゃんには世話になりっぱなしだからな。
ちょっと後ろ向いてくれるか?」

「は、はい」

横島さんに言われた通り後ろを向きます。
な、何がおこるのでしょうか?

と、ドキドキしているといきなり後ろから両手を回されました。
一瞬抱きしめられる?と思ってしまいましたが、どうやら違ったみたいで、後ろで何かを結んでるみたいなのを見ると、アクセサリーをつけてくれたのでしょう。

「俺も何か買ってやりたかったんだけど金がなくってな。
こんなもんしか用意できなかったけど」

横島さんはそう言って千花ちゃんから借りた手鏡で私を写してくれました。
そこには綺麗な珠を首に巻いている私がいました。

「わぁ、とても綺麗ですっ」

「本当だ。宝石……じゃないわね。
横島、コレ何なの?」

「ん~なんていうかお守りみたいなもんかな。
いっつもソレが俺を助けてくれたんだ。
んで店に頼んで糸を通してもらったってわけ」

「そんなものを頂いてもいいんでしょうか?」

「いいって。どうせ元はタダなんだし。
ソレが真与ちゃんを守ってくれるさ」

そう笑う横島さんの顔にドキリとしてしまいます。
横島さんの場合、こういう子供っぽい笑顔を見ると胸が熱くなってしまうのはどうしてなんでしょうか?
他の人だとそうはならないのに。

「じゃあ皆プレゼントを渡し終えたことだしパーティをしようか」

「そうね。真与もお腹すいたでしょ?」

「はやく行こうぜ姉ちゃん!」

「今日はご馳走です」

「すいません私まで頂いて」

「よっしゃー食うぞ食うぞ!」

アンタは少し遠慮なさい!と横島さんがチカちゃんに叩かれます。
暴力は好きじゃありませんが二人のやり取りはなぜか温かみがあります。

「ふふっ」

自然と笑みがこぼれます。
それから頭をさする横島さんと目が合い――

「真与ちゃん」

「はい?」

「行こうぜっ」

「……はいっ!」

一緒に笑い合いました。




そうしてこの日は今まで生きて来た中で最高の一日となりました。
私はこの日を一生忘れません。







あとがき

初めに三話ぐらいまでは書くって言っていたので時間はかかりましたが何とか書きました。
でももう限界です。
おそらく続きは書くとしても時間がかかるでしょう。

おそらくこのスレッドは短編集に変えるので、違うネタを今度はやると思います。
そんないい加減なSSですが、また見てくれると嬉しいです。






[16306] マジ恋を久々にやったから出来た四回目。
Name: ナナヤ・改◆7a88187c ID:df74c293
Date: 2010/06/10 17:40







「忠夫くん。店の前の掃除お願いしていいかしら」

「うっす!了解です!」

真与ちゃんの誕生日会があった次の日曜。
俺はいつも通り新聞配達のバイトの後、千花ちゃんの店のバイトに出ていた。

今は調度客足も引き暇な時間帯になっている。
こういう時間に掃除とかを済ませるってわけだ。

「それにしてもまだ一月もたってないっていうのに、もう店になじんでるのね忠夫くんは」

「そうっすか?」

「まぁ、忠夫くんのおかげでウチもまた少し有名になったから」

「うっ……」

確かに俺のナンパのせいで近所では有名になっているらしい。
しゃーないやないか!美女がいたらナンパするんわ男の義務なんやー!!

「責めているわけじゃないのよ。
実際客足も増えたしね。千花は怒るけど」

そう言って千花ちゃんの母親である風香さんが苦笑する。
俺にとっては嬉しくない理由だが、客足が増えたのは
俺にナンパされにくるんじゃなくて、ナンパした時に千花ちゃんに折檻される様を見るためらしいからな……。

「本当はあまりナンパばかりされるのも考え物なんだけどね。
忠夫くんは仕事は人一倍にこなしてくれるし客足も増えている現状じゃ文句なんて言えないもの」

「俺の情けない姿見たくてくるってのも嫌ですけどね……」

「大丈夫よ。ちゃんと忠夫くんを気に入ってきてくれるお客もいるもの」

「……毎回軽くあしらわれますけどね」

確かに千花ちゃんがいない時間帯にいつも来てくれる綺麗な姉ちゃんはいる。
だけど毎回軽くあしらわれているのを考えると只単にからかわれているだけやろうな。

「ま、とにかく掃除いってきます」

「はい、お願いね」

箒を持って外へ出る。





「それにしてもいい天気やな~」

掃除を始めて数十分。
少し手を止めて空を見上げると雲ひとつないいい天気だ。

次に忙しくなりだすのはもうちょっと日が傾いてからだろうな。
その頃には千花ちゃんも戻ってるだろ。

千花ちゃんは今日用事があるとかで出かけている。
普段なら日曜は千花ちゃんも店に出てくるんだが、俺が入ったことで余裕が少し出来たらしく、たまに休みをいれることがある。

千花ちゃんにそのことだけは褒められたからな~。

「んなことで褒められてもな」

苦笑して塵取を取ってくる。
ゴミを塵取に入れたら掃除は終わりだ。
また店じまいの前にやらなきゃいけんけどな。
そう思って塵取を持って戻って来た時、店に向かって歩いてくる女の子が見えた。

真与ちゃんと同じ制服から学校は同じなんだろう。
黒くて長い髪を後ろで二つに結び、竹刀とかを入れる袋を方に担いだ女の子。
でもんなことは俺には関係ない。
俺にとって大事なこと、それは……可愛い女の子だっつーことだ!!

俺は箒と塵取をその場に投げ出し駆け出した。








黛由紀江はその日、クラスメートの女子の話題に上がっていた茶屋へと足を運んでいた。
なんでも凄く美味しいらしく、どちらかといえば甘いものは和が好きな由紀江は休日である今日、行ってみようと心に決めていたのだ。

まぁその話は自分で聞き出したのではなく、ただ耳を立ててクラスメートたちの会話を聞いていただけなのだが…。

何を隠そう彼女には、友達と呼べる人がいなかったのだ。
いや、現在進行形でそれは続いている。

原因は分かりきっている。
自身の極端なまでの内向さと、表情が原因なのである。
なぜ表情がというと、人と接するとき緊張のあまり笑顔を浮かべているつもりが引きつり睨んでいるような顔になってしまうのだ。
その顔がまた凄く怖く、人がよってこないという仕組みになっている。

「はぁ、クラスの人とも更には寮の人とも友達になれませんでした…」

「まぁまぁ元気だせよ、まゆっち」

「松風……」

落ち込んでいた由紀江に声をかけたのは、由紀江が持つ黒い馬のストラップ。
ストラップがなぜ話せるか?はおいといて松風は彼女のたった一人の親友である。

「今日の所は噂の和菓子でも食べて気分転換だぜ」

「…そうですね!」

親友の励ましに頷き足を進める。
そして、店が見えるぐらい近づいた時だ。

「こんにちは僕、横島!
可愛いお嬢さん!僕と一緒に優雅な一時を過ごしませんか?」

「!?」

由紀江は気がつけば見知らぬ男に手を両手で握られていた。

この時、由紀江の中に駆け巡った感情は驚愕、警戒、羞恥の順であった。
周囲にはその実力を知る者は少ないが、由紀江は凄腕の剣士である。
その由紀江が手を握られ、あまつさえ声をかけられるまで男の存在に気がつけなかったことへの驚愕、そしてその事実を理解した後に脳を駆け巡る警戒。
最後に男性に触れられたことへの羞恥だ。

「出来れば優雅な一時の後は熱い夜の時間へと………ひぃぃっ!!!?」

お得意のナンパ……成功率はゼロだが……を続けようとして悲鳴を上げる。
仕方ないだろう。今の由紀江の顔はとにかく凄かった。
三つの感情による鬩ぎあい、何より人と触れている緊張から由紀江の表情はかつてないほど凄みを増していた。
そう、それはもう人を表情だけで殺せるぐらいに……。

横島の背に嫌な汗が走る。

「あ、あの………………なんかスイマセンッし――」

痛い目に会う前に得意の土下座をしようとしたが、
その前に由紀江の感情が爆発し

「ぴぃぃぃーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「グラボゥッ!!!?」

奇妙な叫び声と共に横島の顎に綺麗なアッパーが決まった。

















マジ恋の世界に横島が来たようです。
第4回目















「まごとにもうじわげございまぜんでじだ……」

「何?それで謝ってるつもり?
ほらもっと頭を地面にこすりつけなさいよ、惨めな豚みたいに」

「うごごっ!めりごんでる!
床にめりごんでるっ!!」

「あ、あああああああのっ。そこまでしなくても!
全然怒ってないですからっ!」

「………そう?」

「プハッ!し、死んでまうわー!!」

「アンタが簡単に死ぬわけないでしょ?」

横島が宙を舞った後、伸びてしまった横島にあたふたした由紀江とその場にちょっと早く用事が終わった千花が出くわし、瞬時に横島がいつも通りナンパをしたのだと悟り、倒れふす横島の顔面に蹴りを落とす。
その後、由紀江の目的が千花の家の和菓子であると知り、移動した後ビンタを千花にされながら細かい状況を横島が話し現在にいたる。

押さえつけられていた頭をポリポリかきながら横島は由紀江を見る。
今も緊張のため睨んでいるように見え、内心もの凄くビビッているのだが
手を握った時の反応を思い出し気合をいれる。

「え~と……由紀江ちゃんだっけ?」

「由紀江ちゃっ?!……な、ななな何でしょうか!?」

「いや、ホントスマンかったな。
俺って可愛い子を見るとついつい飛びついちまうんだよ」

「か、かわっっ!!??」

「ひ、ひぃぃ!!」

由紀江は可愛いと言われ照れただけなのだが、横島にはその表情がさらに怒りを増した睨みに見え悲鳴を漏らす。
千花の方も若干冷や汗を流していたりした。

「ちょ、ちょっと横島っ!
やっぱりめっちゃ怒ってるじゃないこの子!どうすんのよ?」

「わ、ワイに言われても……」

「アンタのせいでしょうがー!」

「あ、あの……」

「あばばばばばばば、ち、千花ちゃっ……脳が…揺れっ」

「アンタって奴はいつもいつもーーー!!」

「あのっ……」

「ちょっ……止め……死……」

「このアホッ!馬鹿っ!キモ男っ!」

「あわあわあわ……」

「ま、まゆっち……、そろそろ止めないとそこの兄ちゃん死んじゃうぜ?」

初めは肩を強くゆするだけだった千花だったが、次第に横島にまたがり顔を何回も殴りつけている。
ちなみに殴っている千花の表情は物凄く快感に溢れた表情だった。
それを見て止めないと松風の言う通り、本当に危ないと思った由紀江は一瞬躊躇った後、大きく息を吸い込んだ。

「あ、ああああああああのっ!!!!!」

「は、はいっ!す、すみませんウチの店員が…っ
横島っアンタも頭下げて!!」

「ぐっ!がぼっ!ぶろがっ!」

「ひゃあぁぁぁっ更にひどいことにっ!?
本当にっ本当に気にしてませんからっ!
だからもうやめて下さい~~!!」








「びや~、ぼんどうにわつがっだな(いや~、本当に悪かったな)」

「い、いえ……」

顔面全体を腫らした横島に軽く怯えながらも返事を返す。
というかあんなに殴られて普通に動いていることにビックリだ。

「本当に怒ってない?まだ足りないなら私がもっと横島を殴……」

「だ、だだだだ大丈夫ですっ!
私、昔から緊張すると顔が強張って睨んでるように見えるらしく……
だ、だから本当にもう気にしてませんからっ」

そう言うと千花は振り上げていた手を下ろす。
由紀江はその顔がとても残念そうなのは見ない事にした。

「なんだ…そういうことか。
てっきり殺されるんじゃねぇかって思っちまったよ」

「そ、そんなことあるわけ………ってもう傷が治ってます!?」

見るとあんなに腫れていた横島の顔はすっかり元通りになっており、
今初めて横島を見た人なら傷を負っていたなんて言っても信じないだろう。

「ん?やっとか……千花ちゃん最近容赦なくなってきたからな~
復活に時間かかるようになってしまった」

「会った当初はすぐ元通りになってたもんねアンタ」

それは人間ですか!?っと聞きたい衝動に駆られたが由紀江はぐっと堪える。
そういえば由紀江が通う学校にも横島と似たような回復力を持つ人がいるのを彼女は知っていた。

川神百代。武道四天王の一人、そしておそらく最強の武神。
彼女の持つ能力の一つに超回復というものがある。
受けた肉体ダメージを瞬時に回復するというものだ。
横島もそれに似た、もしくは同じ能力を持っていると由紀江は想像する。
実際はギャグの時にしか発揮できない、なんともいい加減な能力なのだが、
由紀江がそれを知るのはこれより先の話である。

「なぁなぁまゆっち、話がすんだんならそろそろ和菓子を買って帰ろうぜ~」

「あ、松風。そうですね、そうしましょう」

松風の言葉に頷いた後、由紀江は二つの視線に気がつく。
視線の正体はもちろん横島と千花である。

「え、えと……黛さん?(この子ストラップを使って腹話術してる……)」

「あ、こここの子は松風と言いまして、私の親友でしゅ………かみまひた」

「おーよろしくな~、二人共」

「あ、あはは……よろしく」

「………」

松風の言葉に千花は若干引いた苦笑いを、
横島は驚いた顔で松風を見ていた。

「そ、そうだっ!黛さんウチの和菓子を買いにきてくんだよね?
横島が迷惑かけたし、お詫びで何品か包んでくるね!」

千花はそう言って逃げるように店の奥へと入って行く。
そうして取り残される二人と一匹?

「うぅ~松風、また気味がられてしまいました……」

「しっかりすんだまゆっち!オラがついてる」

「松風っ!」

そう言って抱き合う……というか由紀江が松風を胸に抱いただけなのだが、
その姿はどこかシュールだった。
その隣では固まっていた横島がようやく再起動する。

「……驚いたな。まさか九十九神に会うなんてな」

「「……え?」」

由紀江と松風の声が重なる。
それもそうだろう。
横島の反応は今まで松風の存在を知った人たちがとって来た言動と違うことだったからである。

「え、えと……今なんて?」

「いや、だから九十九神がいるとは思ってなくてさ。
まさかこっちでも見れるとは思わんかったな~」

そういって何処か嬉しそうに笑う横島に二人は改めて面食らった。

「オラがわかんのかい?」

「おう!俺は横島、お前は?」

「オラは松風ってんだ。よろしくな!」

次にオズオズと由紀江が声をかける。

「あの……気味悪くないんですか?」

「ん?なんでだ?」

「い、いえ……今まで会った人たちには奇異な目で見られたもので。
その……腹話術をしてるとかなんとか」

「あ~確かに声が似てるもんな。
でも、松風は本物なんだろ?」

「は、はい!松風は親友ですから……」

それは疑問でわなく確信に満ちた言葉だった。
なぜなら横島の瞳に嘘の色がなかったから。

「でも、なんで……?」

「ん~俺ってさ、前の仕事が霊脳関係の仕事やっててさ。
こういう存在とはそりゃもう毎日会ってたりしたんだよ」

「霊能力者…ですか?」

「の助手な。だから分かるんだ、本物か偽者かぐらいわな」

もちろんそれどころか悪霊を退治する力も横島にはあるのだが、
別に言う必要はないだろうと判断し、横島はそこは言わないことにした。

「それに由紀江ちゃんと一緒で俺にも九十九神のダチもいるからな。
まぁソイツは松風みたいにちっこい奴じゃなくて机の九十九神なんだけど」

その言葉に更に驚く。
由紀江自身、松風以外の九十九神を見たことがなかったので横島の言葉には驚かされてばかりだ。

「へ~そいつは興味があるな~」

と、松風。

「ま、初めて会った時は喰われそうになったんだけどな」

「喰わっ!?」

実際は本当に喰われたのだが……。

「でも何だかんだいって学校に存在を認められて同級生になって、ダチになって……。
ほんと面白い奴なんだ」

「は、はぁ……凄いですね」

相槌を打ちながらも由紀江はその九十九神を思い出しているのであろう横島がする微笑みを見て、こんな顔も出来るのだと少し驚いていた。

それから横島は由紀江の手に持つ松風に視線を移す。

「それにさ、九十九神ってのは長い年月や経験を経たモノに生まれるって言われてるけど、
大切にされてきた時間、想いによっても生まれるんだ。
見たところコイツは九十九神が生まれる程長く時間が経ったようには見えない。
ってことは由紀江ちゃんが大切にしてきたからこそ生まれたってころだろ?
そんなにモノを大切に出来る由紀江ちゃんが気味悪くなんてあるわけねぇよ」

「あ……」

「大切……なんだろ?」

「はいっ!!」

嬉しかった。
松風と話す自分を見て気味がらなかった人はいなかった。
だが、目の前の横島は違う。
気味がるどころか理解して認めてくれたのだ。
そんな人は始めてだった。
家族でさえ今はそうでもないが初めは奇異な目で見ていたのだ。

「大体、俺にとってんなことは重要じゃないくて……」

真面目な顔になる横島。
そんな横島を見て由紀江は少し胸が高鳴る……が。

「そのチチ、シリ、フトモモがあればあとはどうでも
「やめんかアホー!!!!」
だぼらばぁっ!!!?」

いきなり飛び掛ってこうようとした横島の頭を踵落としで沈めた千花を見て、
その高鳴りは一瞬で心の奥底へと引っ込んだのだった。







「あ、あの……本当にいいんですか?」

「いいのいいの、横島が迷惑かけたわけだしね」

「でもあれ俺の給料から――「何かいった?」いえ何もないですマム!」

由紀江の手にはお詫びということで和菓子を包んだ袋がある。
もちろんタダでだ……その分は横島の給料から引かれているのは割愛する。

「そういうわけだから気にしないで」

「は、はぁ」

『すいませーん』

「あっいらっしゃいませー!横島、後お願いね」

「うっす」

他の客が店に来たことにより千花はそちらへと移る。

「あの……じゃあ私は」

「外まで送るよ」

二人頷いて店の外まで出る。
うっすらと空は茜色に変わっており、人の数も増えていた。

「今日は悪かったな。今度は出来るだけ押さえるからまた店に来てくれよ」

「は、はい」

手を上げ「さよなら」を示す横島に由紀江は言葉を返すだけで動きを止める。
足が……動いてくれなかった。

「由紀江ちゃん?」

「まゆっち?」




友達が欲しかった。

優しい家族はいた。
でも、友達は一人もいなかった。

その原因が自分にあるのも理解している。
家柄のせいであまり自分に関わってくる人がいなかったのも事実だ。
でも何より極度の内気の性格のせいで、まったく人は近寄ってこなかった。

ただ一人例外として父の作った携帯ストラップの松風だけ。
彼がただ一人由紀江の親友であった。

一人、友が出来ると欲が出た。
いや、欲が戻ったのだ、諦めていた欲が。

そして決めた。
川神への引越しを期に、友達100人作ると。

だが、まだ学校が始まって間もないのもあるが結果は惨敗。
地元にいたころと何も変わらない。
寮の人とも仲良くなろうとしているものの上手くはいかない。
正直、心のどこかで「またか…」という想いが生まれていた。
また、自分は一人なのだと。

でも現れた。
初めて自分の顔に恐怖しながらも離れていかない人を。
初めて親友との会話を見ても離れていかない人を。
初めて親友の存在を理解してくれた人を。
初めて自分に恐怖した後でも、微笑みかけてくれた人を。

この人なら友達になってくれるんじゃないかという期待。
この人と友達になってみたいという欲求。

勇気を出すなら今しかない!

由紀江は心を決め、口を開いた。

「あ、あああああああのっ!」

「ん?何だ?」

「わ、私とっ…と、友達になって下さい!!」

「いいよ」

「んなぁぁぁぁーーー!?」

由紀江はずっこけた。
色々考え、なけなしの勇気を振り絞って言った言葉なのに
こんなにあっさり返されてずっこけてしまったのだ。

「だ、大丈夫か!由紀江ちゃん?」

「………して下さい」

「へ?」

「私の勇気を返して下さい~~!!」

「し、知らんがなーー!?」

横島からしたらただ八つ当たりを受けただけなのだが、
由紀江は涙目にないながら横島の肩を強く揺らし続けたのだった。





「す、すいませんっいきなりあんなこと……!」

「いいって千花ちゃんに比べたら全然平気だしな。
あの女、最近容赦なくなってきてるからな……」

「あはは……」

「横っちも大変だな」

「まぁな。でも千花ちゃんいい女だからな~。
くそーっ!いつかあのチチとシリとフトモモを思うがままに堪能したるんじゃー!」

そう叫ぶ横島を見て苦笑する。
ナンパというか飛び掛られたのは初めてだが、横島に対して嫌悪感は湧かなかった。
もちろん驚きはしたが。
千花がこれでもかと制裁してたのもそうだが、基本的に悪い人ではないのは由紀江にも分かった。
この人は自分に素直なだけなのだ。
ただ素直すぎるのはたまに傷だが……。

「それじゃあ私そろそろ帰りますね」

「ん?おうそっか」

そして由紀江が横島に「さよなら」と言おうとした時だ。

「“また”なっ由紀江ちゃん、松風」

「―――――」

心臓が、止まったような気がした。

その言葉は今まで他人から言われたことのない言葉だった。
そして知る。
言葉一つ。言葉一つだ。
たったそれだけなのに、言われてこんなに嬉しいなんて知らなかった。

由紀江は泣きそうになるのを堪え、なんとか一言だけ返した。

「はい。“また”」





その日、由紀江の携帯のアドレス帳に一人追加された。
それは家族以外で初めてのこと。

名前は……横島忠夫。










あとがき

タイトル通りマジ恋を久しぶりにやったところ、やる気が出たので続きを書きました。
でも内容はグダグダ感が否めないものになってしまいました。
しかも今回は真与がかけらも出てこない……。
一応メインヒロインなんでしけどねw

とりあえず次の話は考えてあるので長くても一月以内に更新すると思います。

感想ありがとうございます。
続きを書けたのは皆さんの感想のお陰でもあります。
力も貰い、ありがとうございました。

では、また次回。








[16306] 回数を重ねるごとに質が落ちていく五回目。
Name: ナナヤ・改◆7a88187c ID:3497460d
Date: 2011/02/23 15:32







日も高く上り、もうすぐ昼になるだろう時間。
横島は真与の家で与えられた部屋で目を覚ます。

「ふぁ~~~~、今何時だ?」

起きたてでまだ眠たい目をこすりながら時間を確認すると、今は朝の11時。
朝刊の配達が終わり眠りについてから4時間くらいたっていた。

「結構早く起きたな……千花ちゃんとこのバイトが休みの日はいつもならもっと寝てんだけどな~」

そう、今日は週6で入っている千花の家のバイトの休みの日なのである。

「ま、目が覚めちまったもんはしゃーねー。
よしっ、起きるか」

そう言い横島は身を起こす。
それから洗面台へいき軽く顔を洗い歯を磨いた後台所へ。

なぜ台所かというと昼に起きた横島のために、
真与が学校が休みの日以外毎日お弁当を横島のために作っておいてくれているのだ。

一人暮らしをしていた横島にとって
誰かがご飯を作ってくれるということはとてもありがたいことであり、
横島は真与に感謝している。

「さぁて、今日の弁当は何だろな?
真与ちゃんの弁当旨いからな~」

と台所へついたところで横島は動きを止めた。

別に弁当が置いてなかったとかではない。
きちんと弁当は置いてあった。
しかし、三つあったのだ。

いつも横島が食べる弁当箱と並んで、一回りも小さく可愛らしい弁当箱が二つあった。

「これ、真与ちゃんのか?
……多分そうだな、大樹も武もこんな可愛らしい弁当箱なんて持ってかねぇよな。
それに千花ちゃんの分も作ってるって言ってたし……じゃあ真与ちゃん弁当忘れたのか」

それから少しの間考え横島は改めて時間を確認する。
時刻は11時半。
もし昼が過ぎていれば諦めただろうが、幸いにもまだ昼前。
学校はまだ昼休みにはなっていない時間だ。

横島は一人頷き真与の弁当を持つ。

「普段世話になってるもんな、届けにいくか。
確か川神学園だったよな」

そう言って横島は玄関へと向かった。















マジ恋の世界に横島が来たようです。
五回目














「へ~ここが川神学園か~」

時刻は正午を回ってから三十分。
つまり横島が真与の家を出てから一時間半が経過していた。

誤解のないように言っておくが、真与の家から学園まで一時間半もの時間はかからない。
ならなぜ横島はこんなに時間がかかったかというと、もちろんナンパである。

この男、真与の弁当を届けるのをそっちのけで街中の女性たちをナンパしていたのだ。

「しっかし危ないとこだったぜ、もう少しで警察に捕まるとこやった……」

横島の外見は言うまでもなく若い。
横島自身まだ学生であるべき年齢である。
だからそんな若者が街中で真昼間からナンパなんてしていたら通報されても文句は言えないだろう。

そして横島の言葉通り警察が動き、横島は捕まりそうになったところを慌てて逃げてきたのだ。
そんなこんなでようやく横島は川神学園についたのである。

「しっかしデカイ学校だな~、俺んとこよりかなりデカイ」

キョロキョロと学園を見渡しながら足を進める。
そして敷地内に入ろうとした時だ、

「そこの少年、この学園に何か用かな?」

「ん?」

声がかけられそっちに視線を向ける。
気だるそうに視線を移したのは、声が男の声だったからである。
そしてやはり横島の目に映ったのは七三ヘアーにジャージ姿の男だった。
恐らく教師だろう男は校庭から横島に近づく。

「え~と、この学校の先生っすか?」

「そうネ、ワタシはルーという。君は?」

「あ、俺は横島っていうっす」

「フム、でどうしてこの学園に?」

ルーが出て来たことは横島にとって幸運だっただろう。
なぜならルーはこの学園にいる教師でまともな部類に入る教師だからである。

「あ~(話しをややこしくしちあれだし)従妹がこの学園にいて、
弁当忘れたみたいなんで届けにきたんすよ」

「従妹?」

「はい、甘粕真与っていうんすけど…」

まぁだが、横島が何も問題を起こさず無事に学園に入れるわけがないのだが……。
それを裏付けるように、また一つの影が横島に近づいてきた。
真与の担任の小島梅子である。

「どうかしましたかルー先生?」

「小島先生!実はこの少年が甘粕真与という生徒の
お弁当を持ってきたと言ってネ」

「甘粕の?」

自分のクラスの生徒の名前を出され、
その尋ねてきた少年……つまり横島に視線を向けるが
そこには横島の姿はなく……

「生まれる前から愛してましたーーーーーー!!!」

何故かパンツ一丁になり自分に飛び掛っている男が目の前にいた!

「っ、教育的指導ッ!!」

「んぎゅらぼぁ!!!」

いきなりのことに普段のクールな表情を少しだけ崩し、
いつもの三倍ぐらいの威力でムチを振るう。

そのムチは見事に横島に襲いかかり、横島は地面を派手に転がった。
さらにムチの肌を打つ痛みが効いたらしく、その場で大げさに悶えていた。

ついでにその光景を見ていたルーは、
あまりの容赦ない攻撃に身体を少しだけ震わせた。

「何だキサマはッ!?
いきなり人に飛び掛るなど常識がないのか!!」

「ふっ、僕の名前は横島忠夫。
いきなり飛び掛ったのは貴方が美しかったからです。
ささっお互いの自己紹介もすんだことですし、すぐそこでお茶でぷごはぁっ!?」

「人の話を聞けーーーーー!!」

今度は思いっきり全力で踵落としをくらい、
顔面を地面へとめり込まされる。
人の顔が地面に埋まるのは何ともシュールな光景だ。

「…………で、ルー先生この者は?
甘粕の弁当を持ってきたとか言ってましたが」

「(顔が地面にめり込んでるけど彼は気にしないほうがいいネ……)
ワタシもそう聞いただけで詳しくは知らないネ」

「そうですか………では警察を呼んで
連れていって貰いましょう」

「甘粕クンには知らせないのかネ?」

「こんな不埒者があの甘粕と知り合いの筈がない。
よって警察に頼むのが一番です」

「そうかもしれないネ……でも」

「でも?」

ルーは先程まで横島がいた場所を指差す。

「彼………もう居ないヨ?」

そこには既に横島の姿は綺麗さっぱり消えていた。
その数秒後、梅子の中の何かが切れる音がルーには聞こえた。



その頃横島はというと―

「はっ、警察に連絡するやと!?
せっかく女子高生がいる所に来たんや!ナンパもせずに帰れるかーーーーーーーー!!!」

すっかり本来の目的を忘れ、
女子高生をナンパするために学校に侵入していた。









「あっ!」

「どうしたの真与?」

「……すいません千花ちゃん、お弁当忘れてきてしまいました」

一方、真与はお昼になってようやく自分が弁当を忘れていることに気づいた。
真与だけの分ならまだしも千花の分の忘れてしまい、申し訳そうに千花に謝る。
そんな真与を気遣うように千花は笑う。

「いいよいいよ。真与のおいしいお弁当食べられないのは残念だけど、
こっちは作ってもらってる身だし。
それにたまには学食でも行こうよ。
私が奢るからさ」

「で、でも……」

「いつも私がご馳走になってるんだし、たまには……ね?」

「………はいっ」

申し訳ないと思いつつも、親友の優しさに感謝に微笑む。
と、そんな様子を見ていた一子が二人に近づく。

「ねぇねぇ、千花ってさ委員長には特に優しいよね」

「そりゃ親友だからね。
アンタと直江っちたちみたいな感じよ」

「おーなるほど~!」

その言葉に大いに納得する一子。
彼女は周りからも自分たちでも風間ファミリーと呼ばれる一員である。
一子も千花と真与みたいに風間ファミリーのメンバーのことは
他の人より深く考えるだろうと自分でも自覚していた。

「ワン子、餌の時間だよ」

「わ~い!」

と、一子の後ろから声がかけられる。
紫髪のショートヘアーの美少女、風間ファミリーの一人である椎名京(しいなみやこ)だ。
一子はそのまま抱きつくように京へと駆け寄っていった。

「……じゃ、私たちも学食へいこっか!」

「はい、そうですね」

そして真与たちも楽しい昼食のために食堂へと向かい始めた時、

『侵入者だ!!』

大きな声。

放送マイクから流れる声は真与たちの担任の梅子のもの。
それは直ぐに分かったのだが、その担任が発した言葉を直ぐに理解することは出来なかった。

『繰り返す!我が学園に侵入者が現れた!』

二度目の言葉。
それでようやく、生徒たちは自体が飲み込め始める。

「侵入者!?」

「この川神学園に!?」

普通の高校なら混乱が起きるだろう。
恐怖にかられわれ先と逃げ出す者がいただろう。
だが、この学園は普通ではないのだ。

『全員に抜刀許可を与える!
目的は侵入者の制裁、そして確保!!
侵入者は女好きと思われる!女子はしっかりと身を護れ!!』

「まじで!?」

「抜刀許可がおりるのかよ!!」

全校生徒に衝撃が走る。

川神学園の各教室には幾つもの武具が立てかけてある。
しかもそれは見世物ではなく刃は抜いているが生徒同士の決闘や、
何かあった時のために使われるために存在している。

だが、もちろんそれを易々と使えることは余り無い。
だからこそ、抜刀許可の事実は川神学園に通う熱い心を持つ生徒たちに火をつけた!

『特徴を言うぞ!性別は男!格好は古臭いジーパンにジージャン、額に赤いバンダナをつけている!
外見は屈強には見えないが私のムチを受けても直ぐに立ち上がった!
体力はあると見ていいだろう!
最後に……侵入者を捕まえた者には食券50枚進呈だ!!』

それは……既に燃えている火に油をそそぐ言葉だった。

「「「「「「「「うお、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」」」

「ジーパンジージャンに……」

ただ…、

「赤いバンダナ?」

「それって……」

これから食堂に向かおうとしていた二人と、
この間横島と友達になった少女たちを残して。

「「横島(さん)~~~~~~~~~~~!!?」」








後半へ続…………けばいいなぁ







あとがき。

どうも久しぶりです。
久しぶりのマジ恋のssです。
久しぶりすぎてかなり雑になってます。
そしていつもより短いです。

マジ恋では梅子先生のルートだけやってないので、
うめてんてーの性格が良く分からない……。
そしてルー先生………とりあえず~~ネ。とかつければいいやw
こんな適当ですいません。

さて学園に乗り込んできた横島、これからどうなるのか!?
え、続き?

あは、ハハハ。
ハハハハハハハハハハはハッハハハハハはハハハハハはアハハハハハはハハハハハはハハハハハ。






[16306] 月と魏の護衛(暁の護衛×真・恋姫)
Name: ナナヤ・改◆7a88187c ID:df74c293
Date: 2010/05/10 12:45






自分にとって一番大切なものが何かと聞かれた時、
『自分』と答えられる奴は正しい。

その考えは昔から…正確には俺が『俺』になった時から変わることのない事実。

今も俺の中にある真実。

だが、何事にも例外はあるのだと、最近気づいた。

いや気づいたというより、そう思えるようになったと言ったほうが正しいだろう。

なぜなら俺自身良く分からないからだ。
自分に命の危機が迫った時、今までの俺ならば迷うことなく『自分』を最優先に考えただろう。

だが今の俺には分からない。
命の危機に陥った時、俺は『自分』より優先してしまう可能性がある物が出来てしまったからだ。

それは今俺の腕の中で安心したように眠る――――。










「おはようございます………海斗」

「ああ……おはようツキ」

一時間程の睡眠から目覚めた俺の目に映ったのは、俺のすぐ隣でこっちの顔を覗く紫の髪に可愛らしいパジャマを着た少女だった。

それが今俺が付き合っている女、ツキだ。

俺自身、出来るなんて思ってもいなかった大切な女。
女としても、いろいろな意味でも特別な存在。

そんなツキの顔を俺はじっと見つめる。

「なに見てるか」

最初にこっちを見てたのはお前だ。と言いたくもあったが、
そこには触れず質問に答える。

「嫌か?」

「そんなことはない……ですけど……。
海斗の顔を見てると、気持ち悪く……うぷっ」

「乳揉むぞ、オラッ」

さっと手を伸ばしたが、避けられてしまった。

というかこんなやり取り前にもあったような…



その後ツキは逃げるようにベッドから抜け出しメイド服に着替えを済ます。

可愛らしいツキは引っ込んだか…
まぁ朝はたいてい引っ込んで今みたいな態度になってるんだが。

「じゃ、私仕事行くから」

「何言ってんだ?今日は休みだぜ?」

「それは学校の話。メイドの私には関係ない」

「……そりゃそっか。ま、仕事頑張れよ」

「ついでに言えば海斗も学校が休みなだけであって麗華お嬢様のボディーガードとしての仕事がある」

「麗華が普段頑張ってる俺に今日は休みをくれるって言ってくれたんだ」

そう言った瞬間ツキにジト目で見られた。
まぁ、100パー嘘だからな。

ちなみに麗華というのは一応俺の雇い主?になる。
かつ俺が警護するプリンシパルだ。

「……麗華お嬢様は今日お出かけするそうです。もちろん海斗も連れて行くと言っていました」

「…………」

「…………」

沈黙が続く。

「……行くか」

「はい」

そう言ってから朝に行う通例の行事を済ませて二人で部屋を出た。




二階堂家。
世界でも屈指の大富豪。
そこが今俺が住む場所だ。
なんで俺がそんな所に住んでるかって?
さっき言った俺の警護対象、麗華はこの家の娘だからだ。
ちなみにツキはこの屋敷のメイド長なんてのをしてる。
詳しくしりたいならゲームでもやってくれ」

「………一人で何を言ってるか?」

「気にするな」

ちょっと可哀相な人を見る目で見られて傷ついた。















「ふぁあ〜」

「大きな欠伸ね」

「そうか?」

朝飯の後、ツキから聞いた通り麗華の買い物に付き合って街まで来ていた。

といっても既に買い物は終わり後は帰るだけ。

帰り道なんてのは暇なもんで最近ずっと夜は一時間程しか眠れてなかったからか欠伸がでてしまった。

「あんた、私との話忘れてないわよね?」

隣を歩くピンクの長い髪をした胸も体格も小柄な少女、麗華がそんなことを言ってくる。

「麗華との話?新しい小説を好きなだけ買ってくれるって奴か?」

「してないわよそんな約束!……ツキとのことよ」

「ああ、ツキの貯めてる金を俺に譲るってやつか?」

「違うわよ!ま………性行為のことよ」

「ああ、そのことか」

最初から気づいてはいたがな。

「節度を守るって言ってたけど……寝不足ってことは、あんたまさか」

「心配すんな。ちゃんと節度は守ってるよ」

「………それならいいけど」

「せいぜい毎日やってるくらいだ」

「全然節度守ってないじゃないっ!!」

いやぁ、ツキとは何度体を重ねても飽きが来ない。
まさに魅惑の体だ。

「……あんたのことだから、そんなことだろうとは思ってたけど。……避妊はしてるんでしょうね?」

「俺に『ウスイウスイ君』を買う金はない」

「あんたねぇ!!」

そんなこんなで屋敷までの時間ずっと小言を言われ続けた。











「何やってるんだ?」

「あ、海斗」

屋敷に帰り、麗華と別れた後、部屋に戻る途中の廊下でツキを見つけた。

「鏡?」

「はい。なんでも中国の……さんぎょくし?」

「三国志のことか?」

「あ、それです。その時代の銅鏡だそうで、それを旦那様が購入なさったんです」

へぇ、三国志か…
俺もいくらかある三国志の小説は読んだことがある。
昔の実話らしいが、なかなかに面白く、たまに読み返したりもしてるもんだ。

興味が湧き手を伸ばしてみる。

「何するか」

ツキに手をはたかれた。
めげずにもう一度手を伸ばす。

「だから何するか」

またはたかれた。

「いや、ちょっと触ってみようかなと」

「駄目」

「何でだよ?」

「旦那様に言われた。海斗にはこの銅鏡に近づかないようにって」

「まるで俺が壊すみたいな言い方だな」

「事実、この間壷を壊した」

そういやあったな、そんなこと。

「違う壷買って弁償しただろうが」

「買ってない、特別に譲ってもらっただけ。それに払っていたとしても、それは旦那様のお金」

「…………」

「…………」

どうやら触らせてはくれないらしい。
こうなったら……

「ツキ、愛してる」

「私もです」

鏡に手を伸ばす。

またまたツキにはたかれた。

「何すんだよ?」

「それはこっちのセリフ。触っては駄目」

愛してるよ作戦は駄目だったか……仕方ない。

「ちっ、わかったよ」

そう言って背中を向ける。

そこから少しだけ歩いた後、すぐさま振り返って鏡に手を伸ばした。

「バレバレ」

だがツキが鏡を守るように立ちふさがっていた。

なめるな!!

俺はツキを一瞬で交わし鏡に手を伸ばした。

「っ!?」

「もらった!!」

そして後数センチで鏡に届くって時、ツキの手が俺のスーツの袖を掴んだ。

「あ」

「あ」

同時に漏れる声。
その数秒後、何かが割れる音がした。

「…………」

「…………」

「……どうするか、これ?」

「さてと、部屋に戻って小説の続きを……」

「待つ」

「……なんだよ」

「どうするか、これ?」

「接着剤で直そうぜ」

「…………」

「…………」

沈黙があたりを支配する。

「このままじゃ二人ともきっとクビになる」

「だろうな」

「だから海斗を殺して私は生きる」

「待て!お前は生きるのかよ!!」

「当たり前。海斗が全面的に悪い」

「…………」

その通りなので何も言い返せなかった。

と、その時だった。

「え?」

「なんだ!?」

突然割れた鏡が光を放ち――

「ツキ!」

「っ海斗!!」

なんとかツキを腕の中に抱いた俺達二人を―





光が飲み込んだ。

















「……くっ」

全身を打ち付けられたような衝撃に声が漏れる。
だが幸い腕の中のツキは気絶はしているが無事らしい。

「一体なんだってんだ?」

現状を確認するため顔を上げる。
そしてたいていのことは動揺を隠せる俺が固まった。
いや、固まるしかなかった。

ビルや背の高い建物に邪魔されることない、どこまでも続く青い空。
赤茶色の果て無く広がる荒野がそこにはあった。

「……は?」

呆気にとられるなんて言葉はこんな時のためにあるんだろう。
気がつけば目の前が荒野一面ってどういうことだ?

「……ん」

「ツキ!気がついたか?」

「か……いと?………………………え?」

ツキも周りの景色に驚いている。
俺もよほどのことじゃなけりゃ驚くことはないって思ってたが、
これはそのよほどのことに入るだろう。

「海斗……ここはどこですか?」

「さぁ?俺も知らねーよ」

「ウソ。どうせ、鏡を割ったのがバレるのを恐れた海斗が、
その現場を目撃した私を気絶させてここに連れて来ただけ」

「嘘じゃねぇよ!気がついたらここにいたんだよ」

俺だってここまでおして誤魔化すなんてことしねぇよ。

「ほー、へー、なるほど……。
で、ここはどこか?」

「だから知らねーって」

「………」

「………」

「きゃ~、助けて~私に欲情した朝霧海斗に犯される~」

もの凄く棒読みだった。

「……で、ここはどこか?」

そして分からず屋だった。

「だから知らねーって言ってるだろ」

「はぁ……いいですか海斗?
365日暇な海斗とは違い、私は365日メイドの仕事があるんです」

「俺の事は流すとして、そんぐらい知ってるよ」

「だったらすぐ屋敷に帰る。
鏡を割ったことなら私も一緒に謝りますから」

「ああ、俺も帰れるなら帰るさ」

「だから…………………………ん?
もしかして本当に知らないか?」

暫くツキも俺が嘘を言ってないと思ったのか聞いてくる。
……俺って信用ないな。

「だからそう言ってんだろ」

「え……じゃあここは?」

「さぁな。
っ!……ツキ、俺の後ろにいろ」

そう言ってツキを俺の背に立たせる。

「海斗?」

「……向こうから誰か来る」

俺の言葉にツキが前を見ると、向こうから小さな砂埃が上がっていた。
その中心に小さな点。

一人……二人……三人か。

「ちょうどいい。ここが何処か聞いてみるか」

向こうも都合よくこっちに真っ直ぐ来てるしな。
と、思っていたんだが……。

「アニキ!こんな所に人がいやすぜ!」

「ほんとなんだな」

「ああん?なんあこいつら、見たことも無い服を着てやがんな」

現れたのはチビにデブにリーダー格の男の三人……なんだが。

「……海斗」

「なんだ?」

「これはあれですか、こすぷれ?というやつですか?」

「ああ、多分な」

こいつら格好がおかしい。
何百年も前にあったような古臭い服に、格好いいとでも思ってるのか知らないが黄色の頭巾を巻いている。
これじゃ一昔前の盗賊だ。

しかもこいつらが持っている物は……。
ツキもそれに気がついたのか俺の裾を掴む。

とりあえず声をかけてみるか。

「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「なんだ?」

「ここ、どこだ?」

「……はぁ?」

俺の質問にチビが訳が分からないといった感じて眉を傾ける。
なんかムカつくな。

「それにその格好……なんかそういう集会でもあるのか?」

「………?」

「アニキ。こいつ、頭がおかしいんじゃないすか?」

「ああ、俺もそう思っていたところだ」

こいつら失礼だな。
しかし言葉がかみ合わないな……。

「言葉通じてるよな?」

「そりゃこっちが聞きたいぜ、兄ちゃん。
俺達の言ってること、ちゃんと分かってるよな?」

「まぁ一応な。なんだちゃんと通じてるみたいだな」

「そうかそうか。なら……金、出してもらおうか」

その言葉と共に俺の頬に冷たい鉄の感触が触れる。

「……っ!」

ツキの息を呑む声が聞こえる。

やっぱり本物か……。
さっきから気にはなっていたんだが、このご時世にここまで堂々と銃刀法違反をする奴がいるとはな。

「おい!聞こえてなかった?
金を出せって言ってんだ!!」

「それとも怯えて声も出ないか?」

「な、情けないんだな」

俺がビビッていると思ったんだろう。
三人は馬鹿にした笑みで俺達を見る。

「か、海斗っ」

不安そうなツキを安心させるように頭を撫でる。

「てめぇ!いちゃついてんじゃねぇよ!」

……それにしても甘い。
こいつらは甘すぎる。

「死にてぇのか!?」

こいつらの殺気からして人を殺したことはあるんだろう。
だが、その割にはまだまだだ。

初めから奪う気でいるんなら徹底的にしなければならない。
獲物に気取られること無く一瞬で命を絶つ。

考える時間をやるなんてもってのほか。
牙を持っていると、噛みつかれるからだ。

つまりこいつらは奪うことに脅しを使った時点でまだまだ甘い。
そして甘さは死に繋がる。

ここが何処か聞かないといけないから殺しはしない。
だが、多少は痛い目にあって貰う。

「ちっ!もういい、適当に痛めつけて服引っ剥がした後、男は殺して女は売るぞ!!」

「ツキは俺の女だぞ?させるかよ」

「海斗……」

「ガキが!ぶっ殺してやる!!」

そう言って三人が襲い掛かってくこようとした時――

「待てぃ!!」

「なっ!?誰――ぐあっ!!」

「ふぐぅっ!?」

「がふっ!?」

三人の声を無視して、声の主は男達を吹き飛ばした。
そしてソイツは俺達を守るように前に立つ。

「力のない庶人たちを襲うなど卑劣な所業……許さんぞ貴様ら!!」

「ぐっ!何だコイツ……ちっ、逃げるぞ!」

「逃がすか!」

男達は明らかに実力が上のソイツに部が悪いと思ったのか逃げていく。
逃げ足は速いな。
あれは追いつけない。

それにしても……

「大丈夫ですかー?」

「ああ」

こいつらは一体誰だ?

「傷は……ないみたいですね。
だったら包帯はいらないか風」

「そだねー。でも包帯は稟ちゃんが全部使ってもうないですよ」

「……そうだったっけ?」

金髪に頭に変なものを乗っけた小さい女。
眼鏡をかけた女。

そして――

「やれやれ。すまん、逃げられた」

男達を倒した蒼い髪の女。
どれも個性的で何処か中華風な服装をしている。
蒼い髪の女に限っては素人の俺にでも分かるくらい立派な槍を持っている。

「あの……ありがとうございます」

黙って観察しているとツキが三人に礼を言う。

「いえ、当たり前のことですから。
それにしても災難でしたねこの辺りは比較的盗賊少ないはずなんですが……」

「比較的?」

というか盗賊だ?
一体何百年前の話をしてるんだ?
盗賊なんてもう存在するわけないだろうに。

ツキも怪訝に思ったのか顔を傾けている。
それからツキが三人に声をかける。

「あの……風さん?」

そこからは一瞬だった。

「ひへっ!?」

「貴様っ……!」

風と呼ばれた女が驚きの声を上げたと同時、蒼い髪の女が怒気を膨らませ槍をツキへと突き向ける。

「っ!?」

が、俺がツキに対してそんなことをさせるわけがない。

「え?あ……海斗?」

俺は女の槍が突き出される前に片手で掴みその動きを止めた。

「私の槍が……動かない!?」

「テメェ、ツキに何しようとした?」

「くっ、離せ!どこの貴族か知らんがいきなり人の真名を呼んだのは貴様達だろう!!」

「真名?」

真名って名前のことか?
ツキが名前を呼んだからコイツらは怒っている?
どういうことだ?たかが名前で……。

「て、訂正して下さい……っ!」

まさか女の槍を止められるとは思ってなかったのか残りの二人は目を見開くが、
すぐに怒りを目に宿し言ってくる。

それに気づきツキが慌てて口を開く。

「分かりましたっ!て、訂正します!」

「……結構」

ツキの言葉でとりあえずは怒気は引いたみたいだな。

「それと、離してはくれませんか?」

「ん?ああ」

掴んでいた槍を離す。
ん?蒼い女がこっちを見てる。
何かしたか?

「星ちゃん」

「……ああ。お主たち、これからは勝手に人の真名を呼ぶようなマネをせんことだ」

それだけ言って三人はどこかへと去っていった。

ちっ、色々聞きたいことがあったんだが、あんな空気じゃ聞けないか。

「すいません、海斗。
迷惑をかけてしまって……」

「気にすんな、名前を呼んだだけだろ?
ただ、これからその真名って奴には気をつけたほうがよさそうだな」

ツキが頷く。
とりあえずここが何処か知らないといけないな。

おっ、そういや……。

「ダメか……携帯は圏外になってる。ツキのはどうだ?」

「こっちもダメ。こんなに広い荒野は見たこと無い……でも、圏外になるような場所とも思えない。
海斗、私たちは何処に来たんでしょうか?」

「さぁな。でもま……」

話ながら視線を変える。

「あいつらに聞けばいいだろ」

その先にはこっちに向かってくる軍隊のような姿が見えた。
そして現れたのは――

「誰?貴方たち」

鎧を着たたくさんの兵と赤と青い服を来た二人の女。
そして、麗華に良く似た雰囲気の金髪クルクルの女だった。







あとがき。

マジ恋に対しての感想ありがとうございました。
続けて欲しいとの声があったので、たまに更新できるようしていきたいと思います。

まぁ今回は違う話ですが。

暁の護衛と恋姫とのクロスです。
設定としたら、暁のほうはプリンシパルの休日のツキルート後の二人が恋姫に、
恋姫は魏ルートになってます。
これも一発ネタなので続きは気が向いたらになると思いますが、
また更新した祭には見てくれると嬉しいです。

ではここまで見てくれてありがとうございます。
また次回更新にてノシ





[16306] リリカルなのはとシャドウハーツ2をクロスしてみた。
Name: ナナヤ・改◆7a88187c ID:df74c293
Date: 2010/06/13 19:58









俺は俺らしく生きる。
そう決めた。自分で望んだ。
だから満足していた。
俺の人生。俺の命。俺の魂。
その全てに俺は満足していた。
だから死ぬことを決めたんだ。

なのに――

「どこ、ここ?」

目が覚めるとそこは見知らぬ廃墟だった。

「ててっ……俺、何で生きてんの?
俺は加藤を倒して……みんなを見送って……そして死んだはずだ」

そうだ。
地面から突き出た岩に胸を貫かれて俺は死んだ筈だ。
胸を貫かれた後は、なんだかだんだん眠くなって、最後には温かい何かに包まれたような気がする。
そして意識がなくなって俺は死んだ筈……だよな。

「でも、俺生きてる……」

………………。

「カレン!ブランカ!ゼペットじいちゃん!アナスタシア!蔵人!ルチア!ヨアヒム!
ロジャーのじっちゃん!!みんなどこ!?
傍にいるの?いたら返事してよ!ねー!!」

声を上げるが反応は何もない。
なんだか力が抜けてその場に座り込む。

「どこだよここ……。一体何が起こってんだ?」

少しして思い出す。
俺の心を消してしまう呪いのことを。

「そうだっ…ヤドリギの呪い……感じない。
俺の中にはもう……ヤドリギの呪いは……ない?」

あんなに苦しめられた呪いの力が今はカケラも感じられない。
それは呪いの消滅を意味していた。

「は……はは、ははは!解けた!呪いが解けた!
何だよラスプーチンの野郎、呪いは解く方法がないとか言っといてさ。
ちゃんと解けてんじゃん!」

笑いが止まらない。
俺の心は消えてない。
俺の思い出は無くなっていない。
俺は……死ぬ必要は………無い。

「はは…………はぁ。
……アリス、そっちにいくのはもうちょっと先になりそうだ」

ごめん、お前と一緒にいるって約束したのにな。
でも何でかな、旅をしていた時ほど寂しくないんだ。

それは多分、俺には理解出来てるから。
アリス……お前が俺の中で一緒にいてくれてるってことを。
心の中で、ずっと俺を支えていてくれてることを。

「………とりあえず此処がどこか調べなきゃな」

ズボンについた汚れを祓いながら立ち上がる。

「とりあえず加藤の言った通りだとしたら此処は俺の望んだ場所、世界ってことか?
でも俺死ぬの覚悟してたし……あー分かんね、考えるのは性に合わねぇや」

その時だ。
少し離れた場所、というか此処から下の方で物音がしたのが聞こえた。

「へへっ、タイミングいいじゃん」

何が出るか分からないが、俺は音のした場所へと駆け出した。



















どうしてこんなことに……!?
私の頭の中にはそんなことばかり浮かんでいた。

普段通り学校が終わって、すずかとなのはと別れて、車に乗って家に帰る途中。
信号で止まった瞬間、後ろにいた車から何人もの男が出てきて鮫島を気絶させ、私は誘拐された。
抵抗なんてまったく意味がなかった。
子供でしかも女である私が男のしかも大人の人に力で敵うはずがなかったのだ。
口をガムテープで塞がれ、暴れた私の頬を一発殴られる。
ただそれだけ、ただそれだけの抗うことが出来ない暴力の前に、私はすっかり震えてしまっていた。

今も体中震えている。
そんな私に出来るのは必死で恐怖を隠し、どこかの廃墟へと連れて来た張本人たちを睨むことだけだった。

「ひひっ、可愛い顔して睨んでも怖くもなんともないぜ?
アリサ・バニングスちゃん」

アリサ・バニングス。そう、それが私の名前。

私の名前を呼んだ男が口を塞いでいたガムテープを乱暴に剥がす。
ヒリヒリしたのを我慢して、私は目の前の男に言葉を投げつける。

「い、一体こんなことして何が目的よ!?」

そんなこと聞かなくても分かってる。
でも、何か言葉を発していないと恐怖に負けそうだった。

「はぁ?もちろんテメーとこの家の金に決まってんだろが?
バニングスといやぁ大企業の一つ。金もたんまりあるんだろ?」

「………こんな最低なことしていいと思ってるの?」

「また馬鹿げた質問だなぁ?
いいか?犯罪を起こす奴は皆分かってやってるんだよ?
これが世間ではダメなことぐらいな」

「だったらっ!」

「でもそれがどうした?」

「……え?」

「俺達はそんなもん怖くない。
悪いことだからやめましょう?知ったこっちゃねぇな!!
欲しいもんは欲しい!だから奪うんだろうが!!!」

「ひっ!」

男の形相に当等今まで我慢していた悲鳴が漏れる。
そうなるともう震えも隠せなくなってしまう。

「ヒヒ、まぁそう震えるなよ。
少なくとも金が貰えるまでは殺さねぇからよ」

それってお金が貰えてからは殺すかもしれないってこと……?
恐怖が私の中を駆け巡る。
もう強気なんて保ってなんていられなくなった。

「アニキ~。そろそろいいかな?」

「ん?おお、お前もほんと好きだな。
まだ10歳にもなってないガキだぞ?」

「それがいいんじゃないですか~」

「はんっ、まぁ殺さなきゃ好きにしていいぞ」

そう言うと男は私から離れ、今度は別の少し太った男が近寄ってきた。
私は男たちの言葉の意味は分からなかったが嫌な予感をひしひしと感じていた。

「な、何する気よ!?」

「何って……気持ちいいことだよぉ?」

ニタニタする顔が気持ち悪かった。
直感で私はこの男が何をするかを理解する。
詳しいことなんて私はまだ知らない。
でも、目の前の男に触れられるのなんて絶対嫌だ!

「やめてっこ、来ないでよっ!!」

「腰ぬかしちゃったかなぁ?可愛いなぁ
でも、これからもっと腰抜かしちゃうかもね?しばらく腰が立たないくらいにぃ」

そう言って男は私に手を伸ばし、服の上からだけど私の胸に触れた。
瞬間、駆け巡る嫌悪寒、混乱、恐怖、絶望。
私は一瞬で動けなくなってしまった。

「あ……ぁ、いや……」

「だ、大丈夫…や、やや優しくしてあげるから」

鼻息が荒い。乱暴に胸を弄る手。近づく顔。
き、キスするつもり!?
やだっ!絶対嫌だ!
それだけはしたくないっ!ファーストキスは……好きになった人とするんだもん!

でも私には抗う力もなく、体も動かない。
そしてどんどん近づいてくる顔。

もう……ダメなの?
諦めかける心。
でもそんなのは嫌だ!

無駄だと分かっていたけど、私は力の限り叫ぶ!

「誰か……誰か、助けてぇぇぇぇぇぇーー!!!!!」

「ふひっ無駄だよぉ?
まだ君の家にすら連絡してないんだ。誰も助けになんかこな――」

その時、男の言葉を遮るように携帯がなる。
鳴っている携帯はさっきアニキと呼ばれていた男のだった。

「おう、どうし『あ、アニキッ!大変だ』――ッ!?一体どうした!?」

私にも聞こえるほどの大きな声が携帯から聞こえる。
何?凄く慌てた声を出してたけど……。

『それがっば、化け物が現れたんです!
黒くてでっかい……まるで悪魔みたいな……!』

「はぁ?冗談言ってんじゃねぇぞ、悪魔なんているわけねぇだろうが!!」

『ほ、本当なんです!他の見張り役はもう殺されて俺しか……っ!?
う、うわぁぁあああああああああ!?く、来るなぁあああああああああ!!』

「お、おいっ!どうした!?」

『やめ、助けぐびゃっ…………………ツーツー』

「……………」

男が黙りながら携帯を耳から下ろす。
その顔は平常心を欠いた私にもはっきり分かるほどとまどいに満ちていた。

「アニキ…どうしたんで?」

「おい、今すぐ武器を持って入り口を警戒しろ」

そう言って皆に命令する。
此処にいるのは5人の男。
その全員が男の言葉に顔を変え銃を取り出し警戒した顔でこの部屋に入るためのドアもない一つしかない入り口を見る。

「どうやら外の仲間がやられたらしい。
誰かしらんが相当な腕だろう。
だが此処は入り口が一つ……影が見えた瞬間ぶっぱなしゃ俺達の勝ちだ」

その言葉に私は少しだけ平静を取り戻す。
もしかして……誰か助けにきてくれたの!?

で、でも…家に連絡はまだしてないって……まさか鮫島が?

そんな思考にふけていると…。

「おい、誰かくるぞ!」

その発現に意識を入り口へと向ける。
薄暗いけど、何か影が見えた。

本当に誰かが助けにきてくれたっ!
そんな嬉しさの次に気づく。
ダメだ、このまま来るとこの男たちに殺されちゃう!?

「来ちゃダメェ!!」

叫ぶ!
でも、影は止まるところか勢いをまして近づいてきた。

ダメ、ダメ!

「撃てぇえええええええええええ!!!!」

声と共に発射される弾丸。
それは飛び込んできた影に命中した。

そう…飛び込んで来た。

「なっ!?」

誰かの声。
私も目が限界まで見開いていた。
だって……信じられるはずないじゃない。
飛び出てきたのが……死体なんて!?

「うぷっ……!」

慌てて口を塞ぐ。
最初から血だらけだったのに、さっきの銃弾でさらに酷い事になっていた。
スプラッタ映画を一度見たことあるけど、あんなもの比じゃない…!
こんなの……信じられない!

「な、コイツは外で見張りやってた……」

「囮だってのか!?じゃあ、一体どこから……!?」

ミシリ……。

その音に私はいち早く気づく。
何かが軋む音、それは私から離れた場所、男達が向いている方とは逆側の壁からしていた。そして……ソイツは現れた。

轟音。
破壊される壁。
振り向く男達。
目を向ける私。
立ち上がる煙。
うっすら見える姿。
大きい、人とは思えない巨大な影。
少しずつ晴れていく煙。
見えてくる姿。

全員が息を呑んだ。

漆黒の巨体。
人にある筈がない巨大な羽。
そして人の顔なんて程遠い恐怖を抱かせる面構え。

なるほど。それは悪魔といえた。
ううん、悪魔としか言えなかった。

「あ……あぁ……」

私の声に反応したのか、悪魔がこっちを向いた。
一瞬固まる。恐怖が生まれる。
でも、それは一瞬だけだった。

悪魔の瞳を見た瞬間、何故か恐怖は消え、安堵が生まれた。
もう大丈夫だと。思ってしまった。
この悪魔は私の敵なんかじゃないって……。

「な、なんだこの化け物は……」

「ひ、でかい……」

「電話でいってたことは本当だったのか…!
くっ怯むんじゃねぇ!撃て、撃てぇ!!」

また撃たれる銃弾。
でも悪魔はその場所から動かず、何もせず銃弾の嵐を受けた。
それなのに、悪魔の体には傷一つなかった。

「銃が……効かない!?」

「う、うわぁああああああああああ!!?本物の化け物だぁああ!!??」

「に、逃げろ!?」

「ば、ばかっ俺が先だ!」

「嫌だぁぁ!死にたくない!!!」

そこから始まったのは一方的な暴力だった。

逃げる男たちへ信じられない速さで移動してその豪腕を振るう。
それだけで男は吹き飛び、命を落とす。

また違う男は顔を鷲づかみにされ地面を擦られた後、天井へと投げつけられた。

また違う男は銃を乱射するが通用せず、発狂した所を拳で一撃。

また違う男は狂ったように笑っているところを握り潰された。

最後の男はお腹を手で突き破られていた。

あっという間、一分もかかってないうちに男達は悪魔によって殺された。
私がまったく抗えなかった力を持った男たちを、
男達がまったく抗えない力で倒したんだ。

目の前で起こった殺しを前にして、私は更に震えを深くする。
でも、それでも彼に、目の前の悪魔に恐怖を抱くことは出来ないでいた。
なんでだろう?

「ぐっ……」

と、くぐもった声。
見ると、お腹を突き破られた人が何かを握り締めながら悪魔を睨んでいた。

いや、何かなんてものじゃない……!
あれって……爆弾!?

「くっ……でべぇも道連れだ!ばげぼのおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

叫びながら男は爆弾のスイッチを押す。
そして爆弾が光り――

――爆音と共に弾けた。












「……ん……え?えっ!?」

耳はキーンとなって痛い。
でも目を瞑っていたけど肉体的な痛みはまったくなかった。
なんで?爆発したのに……。

うっすらと目を開けてみる。
すると答えは直ぐにわかった。

大きな大きな翼に覆われ、ゴツゴツとした腕に抱えられ、目の前にはこんなに近くに悪魔の顔がる。
ああ、そうか。この悪魔、私を助けてくれたんだ。

「あの……ありが――え?」

私がお礼を言っている途中。
今度は悪魔が光りだす。
今度はなによっ!?って身構える。
そして光が収まると……目の前にはガラの悪い人相の男がいた。

え?え?どういうこと?あの悪魔は?
混乱する私に構う事無くガラの悪い男が口を開く。

「よう、大丈夫だったか?」

「え?あ、は、はい」

「そりゃ良かった。
……でさ、ここがどこか教えてくんない?」

「……へ?」

これが私とこの男、ウルムナフ・ボルテ・日向との出会いだった。












続かない!

というわけで、リリなのとシャドハ2のクロスでした。
マジ恋の方より先に出来てしまいました。
マジ恋は一月ほど待って下さいね。

ウル好きなんですよ。
僕の中で主人公ランキングベスト3には入る主人公ですね。
なぜリリなのかというと、ただ単にアリサとアリスって名前にてるね!
ってだけなんですよね理由w

まぁ完全な一発ネタです。
もしかしたら続きを書くかもしれませんが……。

では、ここまで見てくれた人ありがとうございます。
マジ恋の感想くれた人、力になりました。ありがとうございます!

それではまたいつかにノシ






[16306] マジ恋×GS 一発ネタ
Name: ナナヤ◆e2671e3b ID:0f7fa2a7
Date: 2011/01/03 15:55










不死川心とその男の出会いは劇的であった。
3年前、心が家の庭でお茶をしていた時のこと。
心がいる庭から少し離れたところで大きな音とともに地面が揺れた。

「な、なんじゃっ!?」

好奇心旺盛な心は一体何事かと音のした方へかけていく。
そしてそこで彼と劇的な出会いをしたのだ。

「ぎぃにゃ~~~~!!ひ、人が地面に刺さっておるーーーーーーー!?」

そう、頭から地面に刺さっていた彼――

「ぶはぁっ!、死ぬかとおもっだーーーー!!」

「生きとったーーーーーーーーーーーーーー!!!?」

横島忠夫と……。













心さんの護衛はGSのようです。
















そんな劇的な出会いを果たした二人だが、そこからは色々あった。
叫び声をあげた心の声に気づいた家の警備員たちがことごとく押し寄せ、
横島との追いかけっこが勃発。
あまりに凄まじい逃げっぷりに心がコイツ面白い!と横島を雇うことを決める。
その時に戸籍のない横島は心に使えるという条件で不死川家の力により戸籍を取得。
そこから一年はいい主従の関係が続く(その間に横島は屋敷中の女性をナンパしまくり、心の折檻が始まる)。
それからある日、心が不死川家の金目当てで攫われてしまう。
それを横島が助けたことにより心が横島に異性として惹かれることになる。
横島も心に劣情は抱かないが、将来有望な美少女に好意を持たれるのは嬉しくないわけはなく、
そこからは今まで以上に二人の仲は良くなっていく。
心の両親も不死川家に仕えるものたちも、あけすけない横島の態度に好意を持ち、横島が不死川家に雇われて二年が経つころには、横島は全ての住人にその存在を受け入れられた。
そして時は流れ、心と横島が出会って三年の月日がたったある日。
物語はここから始まる。














川神学園へと続く道にある河原で、川神学園へと通う……いや、そこに住む者たちにとっては当たり前になっている事が起こっていた。

「くちゃくちゃ、あんたが川神百代?」

「あんたの噂聞いてるぜ?俺達の地元“ちば”まで」

「で、調子のってくれちゃってるみたいだから、ぶっとばしにきたってわけ」

数十人の不良が一人の女性を囲んでいる。
その囲まれている女性というのが、世界でも知らない者が少ないと言われるほどの武人。

川神百代。

彼女であった。







Said:大和

「ふぁ~、今日は数が少ないんだな……やる気が出ないじゃないか」

数十人の不良に囲まれながらも姉さんは焦った顔なんてかけらも見せず悠々と立つ。
相変わらず立ち姿だけでもカッコいい。

俺もそうだけど、ファミリーの皆も心配そうな顔なんて一つもしていない。
むしろ不良たちが心配だ。

ワン子とクリスは自分たちも戦いたそうにしてるけど……、
ガクトやキャップなんかはまだ眠たいのかアクビをしてる。

と、そんなことを考えていた時だ。
隣に人が現れた。

「お?何やってんだありゃ?」

その発言に疑問を持つ。
この街に住んでいてその発言はおかしい。

それほど姉さんのことは有名になっている。
それなのにこの光景を初めて見るような発言。

俺は興味が出たので隣に立った男へと視線をやった。

そこにいたのはスーツを着て、キャップと同じように赤いバンダナを巻いた男だった。

余計に疑問に思ってしまう。
川神学園の生徒でこの光景を知らない?

気になったし聞いてみるか。
そう思った時、不良たちの悲鳴が響いた。

あ、もう終わったのか。
隣の男は目の前の光景に呆然としていた。

本当に見たことないっぽいな……。

「相変わらずモモ先輩の動きは見えないなぁ」

「私は見えたぞ」

と、モロの言葉に自慢げにクリスが答える。

「私も見えたわ」

張り合うようにワン子。

「一人一発ずつパンチを入れていってた」

と、俺の隣にいた京。

「流石ですモモ先輩」

黛さんも。

こいつらも姉さんレベルではないにしろ強いからな……。
俺も見えなかったし。

「ふっ、じゃあ最後の一人には何発入れてたか分かるか?犬」

「もちろんよ!4発でしょ?」

「ちがう5発」

「ふふ、京も犬もまだまだだな。
正解は6は――「なんだあの姉ちゃん!あの一瞬で9発もいれたぞ?」――え?」

その声は京と反対側の俺の隣から発せられた。
つまり、あの男からだ。

男の言葉に俺以外のファミリーの視線も男へと注がれる。

「おい、アンタ今の見えたのか……ってアンタもバンダナしてんのか!」

「ん、まぁな……ってイケメン野郎!?」

そう言ってキャップを睨みつける。
まぁキャップはイケメンだからな。

「クリ、まだまだだな。そこの男が正解だ」

やはり地獄耳、そこに姉さんがやってくる。
というか正解してたってことは見えたのかっ!姉さんの動きが。

その事実に改めて驚き男へと視線を戻すと、男はそこにはいなかった。

「え?」

なぜなら……

「やぁ綺麗で強いお姉さん。僕の名前は横島忠夫。
よかったらこれからお茶でもいきませんか」

いつの間にか姉さんの手を掴みながらナンパをしていたからだ。

「モモ先輩を……ナンパだとぉ!?」

「うわぁ、命知らず」

「ぬぬっ!やるなバンダナ!」

俺を含めた男連中は、あの姉さんをナンパしたことに。

「えっ!?いつの間に!」

「今の動き……見えなかった」

「あの人……迅い!」

姉さんを含めた女性陣はその速さに驚く。

「お前……(私が手を握られるまで近づかれたことに気がつけなかっただと?)……面白いな」

「え?本当!じゃあ今から――(うっしゃ~!これはもしかしてこの世界に来てからのナンパで初めての成功か!?)―――ぶりゅはばっ!?」

「は?」

疑問の声を上げたのは殴った本人である姉さんだった。

「おかしいな……弱い?」

「モモ先輩、そんなこと言ってる場合じゃないっすよ!
地面に減り込んでますよソイツ!!」

ガクトの言葉通り男は顔面が見事に地面にめり込んでいた。
足をピクピクしている所を見ると早く助けた方がよさそうだ。

「いや、私に動きを気づかせないくらい早いから
てっきり強いのかと……」

「それより早く助けないと!」

モロが男にかけよる。と―

「ぶはぁっ!!死ぬかと思った~~!!」

「「「「い、生きてたーーーーー!?」」」」

思わず俺も叫んでいた。
いや、どうみても無事じゃすまない筈だろ!?

「いきなり何すんじゃー!?死んでまう所やったやないかーーー!?」

涙を垂れ流しながら姉さんに詰め寄る姿は、
情けなく滑降だったけど、姉さんの凄さを誰よりも知っている俺たちだからこそ
目の前の男のことを笑えなかった。

「これって…モモ先輩と同じ超回復?」

「にしては血がまだ出てるが……」

女子連中は何か冷静に分析してるし……。

「やはり……お前、強いな?」

姉さんは好奇心全開で男に聞く。

「はぁ?俺が強いわけねぇだろ?
たく、折角ナンパ成功するかと思ったのに……ただのバトルジャンキー……。
ワイのドキドキを返せー!!
っと、こんなことしとる場合やない!
早くいかねぇと遅刻しちまう…!
そうすると心ちゃんに殺されてまう!!
うおおおおおおおおおおお!!」

「待てっ!」

姉さんの言葉空しく、そう言うだけ言って男は土煙を上げながら走り去って行った。
…一体、何だったんだあの男は?

この時、俺たちは気づいてなんかいなかった。
この男の存在が俺たちの生活を大々的に変えていくなんて……。












で、学校。

「や!今日から教育実習にきた横島忠夫といいます!
勉強を教えるのはまだまだかもしれないけど、生徒と先生の禁断の愛とか大歓迎だから
よろしくな!!」

「アホかーーーーーーーーーーーーー!!
先生になろうとする立場のお主が何を言っておるのじゃ!!」

「ぐわぁ!こ、心ちゃんっ落ち着いて!!」

「これが落ち着いていられるものか!
この、浮気者―――――!!」

「ぎゃああああああああああ!
堪忍して~~~~~~」

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」

本当…これからどうなるんだ?
















終わり。





あとがき。

お久しぶりです。

GSとマジ恋のクロスでした。
他にも書いてますが、こっちもネタを思いついたのでw

更新は亀更新ですが、他の書いてる奴も更新していきたいと思ってます。
よかったらまた見て下さいね。

ではここまで読んでくれてありがとうございます。
また次回の更新でノシ








[16306] 丁稚のいうことを聞きなさい!(GS×パパのいうことを聞きなさい!)
Name: ナナヤ・改◆7a88187c ID:b69bf2d6
Date: 2011/08/06 23:44



※このSSは容姿説明とかないので両作品を知っていないと多分楽しめません。
そこらへん注意してよかったら読んでやって下さい。















その日、横島忠夫は成人式の日に母にプレゼントされたスーツを着ていた。
この黒のスーツを着るのは実は二回目だったりする。
普段仕事は私服でやっているし、上品な方との付き合いもさしてない。
つまりところ彼はスーツを着るという機会に恵まれていなかった。
だがこの日、彼はついにその機会をえたというわけだ。
だからといって横島の顔が浮かれているといえばそうでもない。

「はぁ……行きたくねぇなぁ」

自然と愚痴が漏れる。
乗り気もしなければやる気も行く気も横島にはなかった。

「良く知りもしない人の葬式なんぞに、なんで俺が……」

それもそのはず、今横島が口にしたように彼がこれから向かうのは葬式会場。
しかも自分は一回もあったことのない人物のだ。
なぜそんな人の葬式に行かねばならないといえば先日の電話が原因である。

実はその電話がある少し前、ある事故が世間を騒がせていた。
飛行機の墜落事故である。
乗客の無事は確認できず、全員の死亡が発表されていたのを記憶の片隅くらいに横島も覚えていた。
だがその事故のせいで自分が葬式に出ないといけないとは夢にも思っていなかったのだ。
その発表があったすぐ後に横島に電話が入る。母からである。
何か嫌な予感がしつつも電話に出ると言われたことは横島をげんなりさせるに十分だった。

『この間の飛行機事故に私たちの友人が乗っててね、今度お葬式をあげるんだけど
どうしても行けそうにないのよ。
だからあんた変わりに行ってきて』

なんとも急で迷惑な話だった。
が、元々母親のお願い(という名の命令)を自分が断れる筈もなく、
同時にどこか元気のない母親の声に自然と頷いてしまっていた。
という訳で彼は良く知りもしない人物の葬式に出なければいけなくなってしまったのだ。

「横島くん、準備は出来た?」

「お~愛子か、後ネクタイだけなんだけどこれが中々……」

今朝ちゃんと起きれるか心配して部屋に来てくれた助手の愛子がひょこっとドアから顔を見せる。
もちろん机も一緒に。

「も~しょうがないわね。ちょっとジッとしてて」

「お、おお」

そう言って愛子がネクタイを締めてくれる。
その間横島はずっと顔を赤くしていた。
いくら高校の同級生だからって愛子は美人だ。
それがこんなに接近されるといい匂いがしてドキドキが止まらなくなってしまうのだ。
と言っても、流石に高校の時から飛び掛ることはなかった相手だ。
何とか我慢して無事ネクタイを巻いて貰った。

「とりあえず夕方までには事務所に顔だすと思うけど、
遅くなりそうなら電話すっから適当に上がってくれ」

「分かったわ。気をつけてね、しゃ・ちょ・う・さん」

「社長はやめろって」

そんなやり取りをして横島は家を出た。
愛子とのやり取りで少し元気が出た彼の足取りは気持ち軽かった。

これは横島忠夫…
美神の元から独立し、横島忠夫除霊事務所を設立。
今現在はやっとこさ地盤を築くことに成功した若きGSとして活躍してるようなしてないような
…22歳、夏の出来事である。










「はぁ……」

やっぱりこなきゃ良かった、と横島はここに来て思い直していた。
あっちをみてもこっちをみても悲しみにあけくれ涙を流す人たち。
ああ~すっげぇ慕われてた人たちなんだな~と思いながらも、全然その空気に馴染めない場違いな自分が少し嫌だった。
何より葬式が行われると集まるのだ……浮遊霊が。
今も視界のあちらこちらにお経を聞きにきた霊たちがうようよいる。

溜息をつきながら横島は視線を移す。
そこには二つの写真。母親の知り合いだったという死んだ夫婦がそこに映っていた。
旦那のほうはまったく興味がなかったが奥さんは生きていたら間違いなく飛び掛っていただろう美人であった。
くそ~こんなに綺麗な姉ちゃんやったら俺も知り合いになっておくんやったー!
なんて心の中で叫びながら再度視線を移す。
そして再び溜息。
気が重くなる。

「……三姉妹か」

自分達に降りかかった出来事が信じられないといった様子の長女。
涙と共にその瞳には絶望が広がっている次女。
そして良く分かっていないだろうまだ幼い三女。
どれもこれも将来が有望な美少女ぞろいだ。
だが少女たちを今はそんな目で見れなかった。
なぜなら少女たちは死んだ夫婦の子供だからだ。
これからを考えるといい顔なんて出来るはずもなかった。

夫婦の遺体は見つからなかったらしい。
だから棺おけの中は空っぽ。
そんな空っぽの棺おけを見て、葬式を見て、少女たちは何を思っているのだろう?
横島はそんなことを考えていた。









日が沈みかけた夕方。
横島はまだそこにいた。
結局最後まで彼は葬式を見ていた。
空っぽの棺桶が運び出されるのもみていた。
それを見送る三姉妹の姿も見ていた。

今はもう親類縁者の者は粗方引っ込んで、業者が片付けを始めている。

「あの、どうかされましたか?」

そこに横島に声がかかる。
見ると年はそこそこ言っているだろうが綺麗なご婦人だった。
おそらく親類の者だろう。
いつまでも残ってる横島を不信に思ったのか声をかけてきたのだ。

「いや…俺今日親の代わりにきたんすけど、
なんかしんみりきちゃって」

「親の?……失礼ですがお名前を伺っても」

「横島っす。なんかお二人とは友人だったみたいで」

「横島……まさか百合さんの?」

「お袋を知ってるんですか?」

自分の母親を知っていたことに軽く驚く、
知り合いなのは亡くなった夫婦とだけだと思っていたのだが違うらしい。

「もちろん。元々私の知人だったのを祐理さんに紹介したのは私なんですよ?」

祐理というのは夫婦の奥さんの名前だ。
なんでもこの人は死んだ奥さんの叔母らしく、横島の母親とは十年来の付き合いらしい。

「そういえば息子が行くとか言っていような。
確か…忠夫さんであってたかしら?」

「うす。横島忠夫です」

どうやら今日此処にくることは目の前の人物に連絡されていたらしい。
となると本当に結構親しい間柄なのだろう。
横島が母親の息子だと分かると、さっきまでの不信そうな顔を引っ込み、
親しげな顔をしている。
その柔らかな表情は遺影に写る祐理にそっくりだと横島は思った。

「その……今回はなんていったらいいか」

「いえ……本当につらいのはあの子たちでしょうから」

あの子たちというのはあの三姉妹のことだろう。
確かに一番つらいのはあの子たちだ。
横島は少し考えて口を開く。

「あの……出来たらでいいんスけど、会わせてくれないっすか?
お袋の代わりとして、せめて一言何か言ってあげたくて」

「それは……」

「お願いします」

頭を下げる横島に叔母は少し迷った後、小さく頷いた。









三姉妹がいる部屋やと続く廊下で横島は心の中で盛大に頭を抱えていた。

(うおおおおお!俺はどうしたらいいんじゃあ!!?
せめて何か一言って何を言うつもりだったんや俺は!!
そもそも絶望してる女の子に何を言えばええんやあああああ!!?)

だが吐いてしまった言葉は取り消せない。
あの時すぐに「やっぱりいいです」と言っていたならまだ間に合っただろう。
だが今横島がいるのは部屋の中。
つまり後戻りは出来ない。

(両親が死んで悲しいね……か?
きっと二人は君たちの心の中で生きているさ……か?
あかん……何を言っても慰めどころか空気の読めない奴になってまう。
そもそも他人である俺が出て行ってどうこうなる問題じゃないだろう!?)

完全に後の祭りである。
もうどうこう言っている時間もない。
叔母…よし子さんというらし…が足を止め横島のほうを向く。

「この部屋です」

「う、うす」

そう促されドアの前に立つ。
考える時間はなくなった。
だったら覚悟を決めていくしかない!
そう気合をいれてドアを開けようとした時だった……











「空ちゃんは誰と暮らすのがいい?」

理解したくない言葉。
私たちを引き裂く絶望の言葉。

不安で恐くて、寒くて仕方がない。

飛行機は墜落。お父さんも祐理さんも行方不明。
二人は帰ってこない。
その言葉の意味は分かる。
でも実感が全然湧かなかった。

ただ、漠然とした何かが私の心に穴を開けて気がつけば二人のお葬式が始まって、終わっていた。

嫌だっていったのに、それは聞き入れられることはなかった。

「私たち……三人一緒でいたいんです」

懇願。
大切な人を二人もなくして、これ以上奪われたくなくて、
護ってあげたくて……でも。

「ごめんね空ちゃん……それは無理なの」

現実は残酷なくらいに厳しくて……。
しがみついてくる二人の妹を奪われないようにしがみつく。
だけどそれは無理なのだ。
残念なことにそれを理解できるくらいには私は大人になっていて……。

ああ、どうして私はまだ中学生なのだろう?
どうして二人を護ってあげる強さもないんだろう?

悔しくて悔しくて悔しくて、でも何も出来なくて。
私に出来るのは哀れんだ目で私たちを見る親戚に涙を見せないことぐらいしか出来なかった。

説得しようとする大人たちの言葉に頷くことは絶対にするつもりはない。
でもそんなことをしても私たちが離れ離れになってしまうことには代わりはないのだ。

ああ、神様。
もしいるのならせめて。
大切な人を二人も奪っていったのだからせめて、
この二人を大切な妹たちを私から奪わないで下さい。

そんな馬鹿なことを思いながら、諦めて目を閉じようとした時、声が聞こえた。

「おっじゃましま~す」

それは今日がお葬式だなんて知らないんじゃないかってくらい明るい声だった。
見るとリビングのドアの入り口に見たことのない男の人が立っていた。
年齢は多分20台前半だと思う。
そしてトレードマークなのか赤いバンダナを頭に巻いていた。

親戚の人たちも私たちも一体何事かと男の人を見る。
すると男の人の視線が私たちで止まったと思ったら、またまたお葬式には似合わないすっごい笑顔になった。

「お~いたいた。やっぱ間近でみると本当に美少女やな~
こりゃ先が楽しみだ」

「あ、あの……」

「よっこんちわ。え~と悪い、名前教えてくんないかな?」

この訳が分からない状態のせいか、そう聞かれた私たちは
素直に応えていた。

「え、えと小鳥遊空です」

「み、美羽です」

「ひなはひなだよーおいたんは?」

「お、おいたん……。まぁいいか、
えと一番背の高いのが空ちゃんで金髪なのが美羽ちゃん、んで一番小さいのがひなちゃんね。
俺は横島忠夫。あ~…横島百合って知ってるかな?」

その名前には記憶があった。
たまに電話がきたり、一度だけ会ったこともある。

「……祐理さんの友達の?」

「私……何度か電話でお話したことあります」

「お、やっぱ知ってたか。俺、その息子なんだ」

その事には素直に驚いた。
けどそれだけだ。百合さんの息子さんが一体何のようなんだろう?
しかも家の中まで…親戚の人たちも警戒した表情になっているし……。

「お袋って今海外に住んでてさ…ってこれも知ってんのかな?
でまぁ今日どうしてもこられないってんで俺が変わりに来たんだよ。
で、せっかくだから一言挨拶でもしていこうかなって入れてもらったんだけど……」

言いながら周りの人を見る。
どうやら聞いてしまったらしい。

「あの……わざわざありがとうございます。
でも、今は忙しくて……」

そう、今は挨拶なんて交わしている暇はないんだ。
私たちが離れ離れになりそうな時に、暢気なことは出来ない。
せっかく来てくれたのは素直にありがたいって思うけど、
ここはもう帰ってもらったほうがいいだろう。

「だから……」

「ダメだ……」

「え?」

「本当にダメだな俺は……」

「あ、あの……?」

「一言声かけて帰るつもりだったのに……絶対愛子に怒られちまうだろうなぁ。
でも……ほっとけねぇよな。特に三姉妹は」

一瞬、ドキリとなる。
彼の目はとても強い色をしていて、その強い瞳で私たちを見ていた。
しゃがんでくれていて目線が同じというのもあるんだろうけど、
私たちは彼から目を離せなかった。

「うちに、くるか?」

「………え?」

初め、何を言っているか理解できなかった。

「いきなり今日まで会ったこともない他人だし、信用もへったくれもないし、
うちはそんな広くないし綺麗でもなけりゃ裕福でもない。
でも、三人一緒でいいぜ?」

次にその言葉の意味を理解すると、瞳が揺れた。
だって……欲しかった言葉だったんだもん。
無理だって分かってても、誰かに言って欲しかった言葉なのだ。
何も力を持たない私たちが一緒にいられる唯一の魔法の言葉だったんだ。

それを、今目の前の男の人が言ってくれたのだ。

「ま、待ちたまえ!そんなこと許せる筈がないだろう!?
身内ならまだしも赤の他人に…!
二人とは知り合いみたいだが、だいたい君は誰なんだ?」

「ああ、まだ自己紹介してなかったっすね。
俺はこういうもんです」

横島さんは親戚の一人に名刺を渡す。
そると親戚の叔父さんから驚きの声が上がる。

「ご、ゴーストスイーパーだと!?」

「うっす。ほらこれ証拠」

「ほ、本物の免許証だ……」

驚愕する親戚たちと同じように私も驚いていた。
GSといえば毎年長者番付の上位に入る程の人気職業だ。
横島さんがそのGSだったなんて……。

「ひなそれしってうー!
ゆーれいさんやっつけんの~!」

「お~よく知ってんな、ホレ」

っ!?
て、手が光って……!!
これが霊能力ってやつなのかなぁ。
凄い…初めて見た!

「すごーい!おいたんてがきら~んって!!」

「気ぃつけろよ、触ると危ないぞ」

今まで見たことない光景にひなが横島さんにかけより、はしゃいでいる。
そんなひなを横島さんは優しく見つめ頭に手をおいた。

「なぁ聞いていいか?」

「なぁに、おいたん?」

「おいた………いやいや、そうじゃなくて、
姉ちゃんたち、好きか?」

「うんっだいすき!!」

「ずっと一緒にいたいか?」

「うんっ!!!」

「だよな。姉妹は一緒にいないとな」

横島さんはそう言うと、ゆっくりと立ち上がり
光る手を消した後、私たちに手を差し出した。

「もう一度だけ聞くけど……うちに、くるか?」

魔法の言葉。
その言葉でまた回りがざわめいているけど、横島さんは一切気にせず
ただ真っ直ぐ私たちを見つめている。

いいのだろうか?
この手をとってしまっても?

「あの……」

その時、美羽が口を開いた。

「どうして叔父さんは……そこまでしてくれるんですか?」

美羽の疑問はもっともだ。
この人は身内なんかじゃなく赤の他人。
確かに祐理さんの友達の息子って繋がりはあるのかもしれないけど、
ここまでしてくれる理由はない。
もしかして私たちをどこか悪いことに利用するつもりなのかもしれない……。

でも、それでも……誰の助けもない今。
私はこの手をとりたかった。

そしてその後押しをしてくれたのは、
他でもない横島さん自身の言葉だった。

「んなもん簡単だ。
俺は綺麗な美人の姉ちゃんと将来有望な美少女の味方だからなっ」

言ってることは褒められたことじゃなかったけど、
そう言って笑う横島さんの笑みは本当に優しさに満ちていて……

「……いいんですか?手をとっても?
きっ……と迷惑になります」

「なるもんか。毎日将来有望な美少女三人の顔が見れんだぜ?
最高じゃねぇか」

気がつくと泣きそうな自分がいて……

「叔父さん……」

「ん?何だ美羽ちゃん」

「……助けてっ」

「おうっまかせろ!!」

その言葉と同時に私たちは横島さんの手を握っていた。
縋り付くように、離れてしまわないように……。

「空ちゃん、美羽ちゃん……良く頑張ったな」

そう言って頭を撫でてくれた横島さんを見て、
この選択は間違いなんかじゃないって……自然とそう思えた。






こうして、私たち三人は横島さんに引き取られることになったのだった。











あとがき。

うん、いやね、ハマっちゃったわけですよ『パパのいうことを聞きなさい』に。
で色々妄想してこんなん書いちゃいましたw
ちなみにこのSSでは本来の主人公の祐太くんはいません。
だっていると正史通りになっちゃいますし。すまん、祐太。
それに横島も二十歳越えてて成人してるし、事務所開いてるって設定で結構メチャクチャな感じになっちゃいましたね。
まぁ一発ネタなんでそこらへんはあんまり気にしないようにします。
気が乗れば続きも書きたいとか思いつつ、あとがきはここまでにしときます。
では読んでくれてありがとうございました。

何か感想・意見あればコメントしてくれると嬉しいです。





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