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[28993] 【習作】黄忠伝(真・恋姫†無双)
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:d0675f60
Date: 2011/07/24 21:00

前書き

はじめまして、地雷Gと申します。
真・恋姫†無双 のSSを読んでいたら久方ぶりにHENTAIを書きたくなったので、筆を取らせていただきました。


本SSは最近見る事が少なくなったHENTAIものです。
内容としましては、蜀陣営モノっぽい劉備ちゃんよいしょかつおっぱいで中二病な話に急展開と無理やりなギャグを混ぜ込んだ物となっています。
時代考証、史実との噛み合わせは諦めているので、地雷作品です。
ただ勢いと雰囲気を楽しんでください。
「3話ぐらいで更新しなくなるパターン乙wwww」と嘲笑して頂ければ。


独りよがりな自慰めいた拙作ですが、楽しんでいただけると幸いです。







――――――序


まだ、俺が幼かった頃、彼女に恋をした。

力は強かったものの、ただの一兵卒でしかなかった俺に気さくに話しかけてきてくれた。
恐らくは、そんなことが切っ掛けであったのだろう。
生憎と、俺は自分の大切な記憶であるはずなのに、自分が彼女に恋に落ちる瞬間を覚えていない。
気が付けば、彼女のことが好きだった。
どこにでもあるような、そんな初恋だ。

彼女は物腰が穏やかな人間だ。しかし、同時に腹黒い面も多々見受けられるから油断ならない。
俺の気持ちに気が付いているのだろう彼女は、いつも彼女の友人と一緒になって俺をからかってきた。
自分より背の高い彼女たちが意地の悪い笑みを浮かべて迫ってくる様は、未だにトラウマとして残っている。
ともあれ、幼い俺はからかいが恥ずかしいと同時に、彼女が俺にかまってくれることが嬉しかった。

そんなある日。
俺が、兵隊から将として取り立てられる事が決まった。
それは、少し前から俺が戦場で賊将の首を上げる事が多くなってきた為、上の人間から目を付けられたからだ。
もっとも、そんな事程度では俺のような村人に毛の生えたガキが取り立てられる事はない。
ただ、当時の俺はそんなことも分からずに、彼女に嬉しそうに報告をしたものだ。


『やったよ、ついに俺の力が認められたんだ!』


『そう、良かったわね。今日はお祝いをしましょうか?』


『見てて、すぐに追いついてみせるから!』


『あらあら、気合は充分ね』


彼女は嬉しそうに俺の言葉にそう返してくれたが、今にして思い返してみればそれほど驚いていなかったように思える。
それがつまりどういう事か。少しばかり年を経た今の俺には分かる。
恐らくは、彼女が俺を推挙してくれたのだ。
でなければ、たかが賊将の首を挙げた程度では一足飛びに将にはなれない。
そんな少し考えれば誰でも分かる簡単な事実に気が付かない馬鹿な俺は、その後将として少しずつではあるが経験を積んでいく。
もちろん、自分自身の鍛錬も欠かさずに行い、彼女に負けない武力を手にしたと自負している。

そして、いつしか身長も彼女を追い越した。

そんなある日だった。
珍しく、彼女がいつも湛えている微笑みではなく、真剣な表情で俺の部屋を訪ねてきたのは。
時は夜半。
月も出ていない新月の夜の事だった。


『結婚、することになったわ』


いきなりの言葉であった。
正直に言えば、俺は彼女がずっと俺のことを見守ってくれるのではないかと考えていたのだ。
現実は逆。
彼女は俺の傍から離れる事が決定していた。


『な、そんな…。誰とだよ!?』


『韓玄様、と仰るそうよ。城の太守だとか』


『誰だよ! てか、いつ恋仲になってたんだ!?』


『……恋仲ではないわ。だって、これは政のためだから』


『政?』


『そう。最近、劉璋様が劉焉様の後を継がれたでしょう? 劉璋様は老臣たちの支持が欲しくて、その中の一人に私を差し出すと言う訳』


『ふざけんな!!』


俺は激昂した。
好きな女が無理やり結婚させられると聞いて黙っていられるのは男じゃない。
と言うか、劉璋様は未だ幼いもののそんな無体なことを強いる人ではない。
別に黒幕がいるはずだと考えた俺は、居ても立っていられず直訴するべく主の部屋へと駆けだした。


『待って!』


『すぐに戻ってくる!』


俺はそのまま彼女が何か言っているのを無視して、劉璋様の部屋へと向かった。
しかし、そこで待っていたのは劉璋様ではなく、インテリヤクザと称される別の人物だった。


『お前、こんな所で何をしている? 劉璋様は?』


『……悪いが、』


少し大人しくしてもらおうか?
そう相手が呟いた瞬間、俺は室内になだれ込んできた大量の兵に取り押さえられてしまう。
そのまま、適当な理由をつけて営倉へと3日間叩き込まれた。

そして、俺が出てきた時には既に彼女は韓玄のものとなるべく旅立っていた。


『何故、あのようなことをしたのですか劉璋様?』


『だ、だって、朕がこれからも蜀を治めて民を守るには、そうするしかないって■■が……』


後日、オドオドと俺に言い訳にもならない事を言っていた劉璋様であったが、俺はそんなことも気にならなかった。
余計なことをしてくれた劉璋様よりも、俺を牢屋へとぶち込みやがったあの野郎よりも憎むべき相手がいる。

それは、俺自身だ。

あの時、彼女は俺に何を伝えようとしていたのか?
何故、あの時彼女の制止を振り切ってしまったのか?
それで、俺は彼女を悲しませてしまったのではないか?

本当に死ぬほど後悔した。

それから数年の後、俺はとある城に派遣させられることになった。
そう、それも――


『久しぶり、ね。逞しくなったわね』


彼女が夫の死後、城主となった城に。
久方ぶりにあった彼女は、最後にあった時よりもうんと女性らしくなっていた。
髪も伸ばし始めたのか、腰程度まで伸びている。

ただ、その優しげな笑顔だけは以前と変わりなかった。

ふと彼女の傍らを見ると、こちらを彼女の足に隠れて伺っている小さな少女の姿があった。
もしかしなくても、彼女の子供だろう。
彼女はあらあらとその少女の頭を撫でてやっていた。
その仕草は、以前俺がされていたものとなんら変わりはない。
同時に、俺は彼女がその子供を本当に大切にしている事が分かった。
かつて、俺がそうであったように。

瞬間、激しい憎悪が俺の中から沸き上がる。
その足元の子供を踏みつけ、得物で切りつけてぶち殺したい衝動に駆られる。
俺は、元来子供好きではないが、それでもここまでの嫌悪する対象ではなかった。

そう、俺はその子供が嫌いだった。今ここで殺したくなるほどに。

俺ではなく、韓玄との間に出来た子供と言う事からも俺がその子を好きになる義理はないのだが。
ただ、彼女の血も引いていることも分かっているので、なんとか好意的に見ようとするも、失敗。
心の奥底で蓋をして熟成していたはずの憎悪が沸き上がってくる。
気が付けば、ギロリとあらん限りの殺気を込めて睨みつけており、その子は小さく悲鳴を上げて彼女の背後へと隠れた。
そんな自分の子供の様子を見て彼女は驚いたように目を見張り、次いで悲しげな表情になる。


『貴方……』


俺は取りあえず、彼女が何かを言いきる前に笑顔で声をかけることにした。
これまで、幾度か彼女の噂話を聞く事はあったが、直接会うのは数年ぶりのこと。
話したいことは山ほどあった。

しかし、俺の口は思ってもみない事を口走ってしまう。


『久しぶり。相変わらず良い乳をしている。ジジイに揉まれてさらにデカクなったか?
むしろ、それに顔を埋めさせてください。ハァハァ、大丈夫、ちょっとだけへぶっ!?』


彼女の返答は、烈火のような怒りと拳だった。








黄忠伝











[28993] 一話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:d0675f60
Date: 2011/07/24 21:01


「おっぱいに挟まれるのは、マジ最高だと思うんだが、どうよ?」


「いや、知りませんよ」


雲ひとつない青空の下、城の城門にて俺は自分に付けられた副官とともに向こう側まで広がる荒野を眺めていた。
地平線を見渡せるような絶景が広がるそこには、特に異常は見受けられない。

そんな中、俺がふと思いついたことを問いかける。
正直、何も考えないで発言したのだがこの質問は案外良いかもしれないと思った。
と言うのも、男ならば誰しも母性の象徴を求めるもの。
この話題ならば、どんな人物とでも男であれば盛り上がる事ができる話題だろう。


「んな事ないだろー。ここには男しかいないんだし、恥ずかしがらずに言えよー」


「いえ、自分は童貞なのでその魅力は分かりかねます」


まさかの切り返し。
予想もしていなかった副官の返答に俺は驚愕すると同時に悲嘆にくれる。
なんと嘆かわしい事か。
男ならば、あの母性溢れるものに埋もることこそ至福のはずである。

だと言うのに、それを体験した事がないばかりか知らないとまで言ってしまうその考え方に俺は軽くめまいを覚えた。
しかし、ここで会話を諦めてしまえば副官がただの童貞野郎という面白くもない情報を握らされて終わりになってしまう。
せめて、どこか両者が歩み寄れるような妥協点を探さなければ。
俺は、なんとか自身を振るい経たせると彼にもう一度問いかける。


「童貞でも、オカズにすることあるだろ? もしおっぱいに挟まれたら?とかで」


「…いや、無いですね。自分、足派なんで」


「ちょっ、それはねーよ! 母性の塊であるおっぱいありきの足だろうが!
いいか、おっぱいはその様々な形で俺たちを楽しませてくれる! 巨乳は俺たちに幼い頃味わった母性と安らぎを、貧乳は俺たちに未来への希望や永遠を感じさせる!



「はっ、あんな脂肪の塊のどこが良いんですか? むしろ、足ありきのおっぱいですよ!
それに足はちょっとむっちりしてたら柔らかさを味わえ、引きしまってても楽しめる。言わば一粒で二回おいしいんです!
機能的に見て、明らかに足の方が優れていると言えるでしょう」


俺と副官は互いの額と額をくっつけながら至近距離から互いを睨みあう。
既に互いの怒りは有頂天。
いつ殴り合いに発展しても可笑しくはない空気を醸し出していた。
そんな時、慌てたような声が横合いから声をかけられる。


「で、伝令です!」


「あん? なんだ。おっぱいは至高だと言いたいのか!?」


「いや、足こそが至高!」


「い、いえ城からの伝令なのですが…」


唐突に振り向いて問いただした俺たちの言葉に驚いたのか、何やら顔をひきつらせている伝令クン。
そんな彼に俺は軽く謝罪の言葉をかける。


「ああ、すまなかった。…副官、てめぇは後で城門の裏に来い。この世の真理を分からせてやる」


「望む所です。それより、早く内容を伝えなさい」


副官は未だ戸惑っているのか、内容を伝えられない伝令くんに厳しい言葉を投げかける。
ともあれ、彼はその言葉に正気を取り戻したのか、はたまたヤケクソになったのか大きな声で頭を下げた。


「申し上げます! 諷陵(ふうりょう)の劉備の軍勢が動いたと言う知らせが入りました!
つきましては、軍議の為、高忠(こうちゅう)将軍も城までお戻りください!!」


「え、嘘。劉備ちゃん来るの?」


俺は、伝令の言葉に僅かに目を見張った。
劉備と言うのは、最近になって益州と荊州の国境にある城の一つ諷陵に流れ着いた人物だ。
霊帝が崩御してしまい漢王朝がほぼ滅亡と言って良い状態に追い詰められた現在、彼女のような人物は珍しくない。
諸侯は互いの領土を激しく奪い合い、漢王朝に次ぐ覇者となるべく動き出している。

劉備ちゃんもその一人と言える。
彼女は元々の身分は知らないが、義勇軍の将として下積みをし、黄巾賊の討伐や都で暴虐の限りを尽くした董卓を倒したことでその名を世に知らしめた諸侯の一人だ。
つい最近、彼女と同じように最近名前が有名になった曹操に負けて、各地を転々としつつ諷陵に流れ着いたらしい。

俺の主である劉璋様は、益州の牧であるため本来ならば彼女のように、突然領地ギリギリにやってきた人間を警戒しなければいけないのだが、何故か特に手を出す事はしていない。
もちろん、大勢の部下が劉璋様に劉備を追い払うべく諫言したのだが、馬耳東風。
結局は手を出す事はなかった。

そうこうしている内に、彼女はその溢れんばかりの魅力で諷陵をたちまちの内に支配下に置くと、すぐさま軍の拡張を行い始めたのだ。
それでも、劉璋様は動き出さない。
仕方がないので、俺たち劉璋様に仕える将はそれぞれの城ごとに軍を整える事で来るべき日の攻撃に備えることとなった。

しかし、ここで厄介なのが劉備ちゃん自身だ。
彼女は、どうやらかなり優秀らしく民からの支持が絶大だ。
それに比べて、うちの馬鹿殿は民には優しいのだが、優柔不断。
おまけに、残念具合に拍車がかかる政治の愚鈍さ。それらも相まって、最近領民たちから「劉備の方が良いんじゃね?」という意見が広まっている。
まあ、ダメな奴より優れている者に統治して自分たちを守ってもらった方が安心できると思うのは当然のことなので、仕方がないと言えば仕方がないのだが。
現に今俺が所属している城の中でも劉備ちゃんを望む意見が日に日に増してきている。

俺としては、彼女を主としても構わない。
むしろ、そっちの方が望ましいのだが如何せん俺の上司とも言えるこの城の城主は、何やらグダグダと悩んでいる。
どうも、劉備に本当に任せて良いのか決めかねているようだ。
俺としては、どちらでも良いので彼女が決めたことに従おうと思っていた。

とは言え、劉備ちゃんもこちらが態度を決めるまで待ってはくれない。

集めに集めた軍で、今日いよいよ攻めてくるつもりなのだろう。
これは大変なことになったと思い、俺は顔をしかめながら伝令に了解の旨を伝える。


「分かった、すぐに向かう。伝令御苦労」


「はっ!」


伝令クンはすぐに頭を下げると忙しそうに城へと戻っていった。
その後姿を見送りながら、俺は緩慢な動作で腰にくくりつけていた水筒を取りだし、中身をあおる。
そして、しばし無言で諷陵があるであろう方角を眺めていた。
いまだ、その姿を確認できないことからまだまだ距離はあるのだろうと目星をつけながら、しばし思索にふける。

そんな俺の姿に呆れつつも副官は一部の配下に戦準備の支度を命じながら、俺が動き出すのを待つ。

それからしばし。正確な時間は分からないが少しの時間の後、俺はため息をつきながら傍らの副官へと話しかけた。


「おい、やべーよ。劉備ちゃんが攻めてくるって」


「ええ、聞いてました。予想より行動がはや…」


「劉備ちゃんの大きなおっぱいが生で見られる!」


俺は副官が何やら言っていたのを無視して、両の手を頭上に掲げて万歳をする。
いや、これが落ちついていられるか!
劉備ちゃんは、出回っている絵姿でもかなりの巨乳として知られている。しかも美人。

そんな娘がやってくるとわかっては、興奮しないわけにはいかない。
そして、それは副官も同じようで彼もこっそりと鼻息を荒げつつ冷静を装って口を開く。


「はぁはぁ、自分としては下衣と靴の間にある僅かな肌色が…って違います!」


「だよな、やっぱりおっぱいが一番だよね。あの爆乳、たまらない」


「いえ、それよりあの僅かに見える太ももですね。って、そうでもなく、どうなさるおつもりですか?
正直、民の人気は劉備にあります。それとこのまま戦って良いものか…」


急に真面目になって聞いてくる副官。
どうやら、彼と俺の性癖は本当に噛みあわないようだ。
とは言え、早めに戻らなければいけない。

城主である彼女は、以外と怒りっぽい。と言うか、俺にだけ厳しい。
少しでも悪ふざけしようものなら容赦なく射抜かれるだろう。

昔は彼女と何やら甘い思いでがあったはずなのだが、悲しいものだ。
いや、彼女も年なのだから思い出が擦れてしまうことも仕方がないのかもしれない。
なんせ彼女も一時の母。現在は年増に年々近づいてきている二十……。

そこまで思考が至った瞬間、城に向けて歩き始めた俺の頬を擦過し大地に矢が突き刺さった。

その鈍い音を聞き、頬に痛みが走ると共に俺の全身から冷や汗が吹き出る。


たった今俺を殺しかけた矢は、彼女が放ったもののようだ。
その証拠に、矢の尾羽が彼女が良く使う鷹の物である。
城から城門まで遠すぎて視認できない距離であるにも関わらず、ここまで正確に射かけるとはもはや人間技ではない。


「おや、これは黄忠将軍もお怒りですね。急いで戻った方が良さそうです」


「デスヨネー」


俺は副官の言葉に人形のようにぎこちなく答えると、一刻も早く城へ向かうために全速力で駆けだした。








[28993] 二話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:d0675f60
Date: 2011/08/01 22:51
城へ息を乱しながら戻ると、すでに軍議を行う室内には現在城にいる殆どの武官が集まっていた。
殆どとは言え、人数は10人でしかもその全員が千人規模の指揮しか取ったことのない者たちだ。
ともあれ、どうやら俺と副官が最後のようである。
そのせいか、上座に座った彼女が呆れたような目で俺を見た。
彼女の名前は、黄忠。字は漢升(かんしょう)。
俺たちが現在いる城の城主に任じられた女性で、現在の俺の上司でもある。

彼女を言い表すのなら、『お淑やかな女性』と言う言葉がぴったりだ。
常に穏やかであり、礼儀正しく自分が立場が上でもキチンと相手を立てて対応する。
しかも、文武に秀でて領民の支持も篤いという完璧超人。
ダメ押しするなら、性格通りの優しげで美しい風貌をしており、体型もめりはりの利いた男なら生唾を飲み込んでしまうようなもの。
出来る事ならその大きな胸で全身を愛撫して欲しいと思ってしまう程の美女なのだ。

そんな彼女は、現在その優しげなご尊顔に呆れたような表情を貼りつけている。

そう、何を隠そう彼女は俺に対して厳しい。
それこそ、孟子の母ですら裸足で逃げ出すのではないかと言う徹底ぶりだ。

俺が酒を飲み過ぎれば、しばらく禁酒だと言って直々に御触れを出すわ。
娼館に行こうものなら、次の日には女官全体に俺が病気持ちだという噂を流すわ。
果ては、それならばと彼女に手を出そうとしたら全力で叩きのめされて痛罵された。

俺と彼女は昔からの仲の良かったばかりか、下手をすれば恋人的な雰囲気であったにもかかわらず、いつの間にかここまで嫌われてしまっているのだから不思議である。
嘘です。本当はめっちゃ心当たりがあります。


「高忠将軍、いささか軍議に来るのが遅すぎるのではないでしょうか?」


「…申し訳ありません黄忠将軍」


ちなみに、俺の名前も高忠(こうちゅう)。字こそ違うもののまったく同じ名の読み方をするので紛らわしい。
こういう時は互いに相手を字で呼び合うのが普通であるが、彼女は俺を嫌って字すら呼ばない。

以前は、互いに認め合った者にしか教えない『真名』と呼ばれる神聖な名前で呼び合っていたことから、今の扱いの酷さが分かる。
俺は自業自得ながら悲しくなりつつ、静かに彼女に頭を下げて上座に一番近い席に座った。
副官はその後ろに立つとピクリとも動かず、軍議が始まるのを待つ。

黄忠は深くため息をつくと、表情を真剣なものに切り替えて口を開いた。


「それでは、軍議を始めます。まずは、ここに向かっている劉備軍の情報の整理から」


「はっ!」


彼女がそう言うと、上席の方に座っている将の一人が立ち上がり中央に配置された地図の上に置かれた駒を移動させる。
青い駒は城に配備された俺たちの軍勢約六万。赤色のものは、現在進行中の劉備軍だ。


「現在、劉備軍はその数およそ五万。諷陵を出てこの城まで真っ直ぐに進軍してきております。
行軍の速度は比較的遅く、未だ視認可能な距離までは来ておりませぬ。しかし、警戒が厳しく斥候が傍まで近づけませんので詳細は不明です。
しかし、明日中には2里程度の距離までは接近するものと思われます」


「そう、では劉璋殿に伝令は走らせた?」


「はっ、既に。しかし、返答が返ってくる頃には既に戦時中であることが予測されます」


「援軍は、すぐには望めないのね」


黄忠は苦々しげにそう言うと、地図に視線をやる。


「城内の備蓄は十分。兵の士気も充分だから、いつでも討って出る事はできるけど…」


「いや、籠城するべきだろう」


彼女の言葉尻を引き継いで、俺が喋り出す。
すると、周りの将たちも真剣な様子で俺の言葉に耳を傾け始める。


「劉備軍は約五万。兵の数ではこちらが上回っているが、将の質の差は如何ともしがたい。
こちらは、万を超える兵を指揮できるのは二人のみ。
対して、向こうには美髪公だの燕人なんていう武名に秀でた将が多い。しかも、軍師はあの有名なはわわとあわわ。下手に野戦を仕掛けると簡単に潰される」


「…そうね」


俺の言葉を聞いて頷いた彼女だったが、俺の言葉は生憎とそこで終わらない。
彼女が方針を纏める前にさっさと続きを言ってしまう。


「それに、あの劉備ちゃんや関羽ちゃんのおっぱいが生で拝めるんだぜ!?
野戦なんかで激しく戦うより、籠城でゆっくり見たいじゃないか!!」


「………………」


俺がそう言いきると、周りの将たちは我が意を得たりとばかりにニヤニヤと笑い始めるが、ただ一部の女性将校と黄忠が完全に無表情。
むしろ、汚物を見つかのような目で俺を見つめた。

巨乳な彼女やその他の女性たちにそんな目で見つめられるとゾクゾクとしてしまうが、俺は咳払いをして誤魔化すように続きを口にした。


「ごほん、まあそれと問題は住民がそれほど戦いに乗り気じゃないってことか。
正直に言って、劉備の人気がうちの劉璋様と比べて高すぎる。戦うかどうか迷わされるな」


俺はそう真面目に締めくくったものの、未だに黄忠は俺を家の壁に盛る野良犬を見るかのような目つきで見ている。
対して、将たちは俺の言葉に頷いている。
しばらく、誰も何も言わない時間が出来る。
その間に俺は思索の海い沈む。
恐らく、劉備ちゃんたちは有名な将を全員連れてきていると考えられる。

美髪公、関羽。
燕人、張飛。
上山の登り竜、超雲。
西涼の錦、馬超。
白馬将軍 公孫賛。

そして、伏竜鳳雛の諸葛亮と龐統。

他にも飛将軍、呂布などが彼女の元に身を寄せていると言うらしいから、連れてきているかもしれない。

これらの情報を鑑みると、うはっ、かわいい女の子がいっぱい来るよ! と言うことだ。
彼女たちは武や知に優れているだけではなく、かなりの美女や美少女であることも有名だである。
そんな子たちと敵同士とは言え、会う事ができるとは何と幸運なのだろうか!


「…戦う戦わないは、今更是非も有りません。私たちは領民を守る義務があり、劉備たちは侵攻しようとしている。
ならば、彼女たちと矛を交えるのも吝かではありません」


黄忠は、唐突にそう言うと立ち上がった。
周りの将たちも彼女に釣られるように立ち上がる。

唯一人、俺だけは変な方向に思考を飛ばしてしまっていたため反応が遅れる。
彼女はもはや俺を一顧だにせず、将たちに告げる。


「籠城で劉備軍を迎え撃ちます。総員、準備を」


御意と、彼女に従う声が室内で唱和される。
俺はそれを耳にしながら、これから見える彼女たちを妄想していた。

劉備ちゃんはその大きすぎる母性の塊のためとても有名であるし、その義姉妹である関羽や張飛も髪笛血(かみふぇち)と炉利魂(ろりこん)の間で抜群の支持を得ている。
その他もろもろ、ぼいんからぺたんまで全てのラインナップを備えているらしい劉備軍。
このまま戦うことになったのなら、『ドキッ、乙女だらけの一騎打ち巡り! ~ポロリもあるよ~』を開催しなければならない。
ルールは、取りあえず彼女たちに一騎打ちをしかけると一つ判子が貰え、それを劉備軍全員分集める事が出来たのなら先着順で賞品を手に入れることが出来るというものだ。
ちなみに、劉備ちゃんやはわわとあわわ軍師も含まれるため、戦いは厳しいものになるだろう。
てか、総大将と軍師が一騎打ちを受ける訳がないだろうが…。

そんなことを考えていると、不意に黄忠が俺に声をかけた。


「高忠将軍、少し良いかしら?」


「はぁ、なんでしょうか?」


何やら、俺に用があるらしい。だと言うのに、彼女はそう言ったきり無言で背中を向けると俺を振り返りもせずに歩き出してしまう。


「え、ちょ、待てよ」


とりあえず、黄忠の後についていくしかないだろう。俺は、本来ならばしなければいけない仕事があるのだが、上官命令ならば仕方がない。
取りあえず、副官に目配せをして仕事を全て終わらせておくように支持をする。
すると、彼は笑顔を浮かべて「死ねよ高忠。氏ねじゃなくて、死ね」と言っていたが、やってくれるらしく俺は彼を無視して黄忠の後に続く。

黄忠は、どうやら城の外に行くのではなく、城内へとどんどん進んでいく。

しかも、自身の政務室がある方向に進んでいる。
何か伝えることでもあるのだろうか?
疑問に思った俺は、彼女に一応お伺いを立ててみることにする。
ほんの少しだけ真面目な話をすると、部隊の配置を綿密に決めなければいけないので口頭で済ませられるのならば、さっさと終わらせてもらいたい。


「なあ、どこに行くんだ?」


「…………」


無視。

俺の言葉は相手にされることなく廊下に消えていく。
数年前に再会して以来、彼女は俺に対して一貫して厳しい態度を取るようになったが、それでも昔の好意のおかげか、このようにあからさまな無視をするような事はなかった。
と言う事は、ここでは話が出来ない事なのだろう。
ならば、時間は惜しいが彼女の後を大人しくついていくことにしよう。
そう決めた俺は無言になった。
しばらく、廊下に俺たちの足音だけが響く。

俺としては残念すぎる事なのだが、黄忠と特に会話をすることはない。
本当ならば、あの再会した後に語りたい事は山ほどあったのだが、彼女は常に怒っていて一緒に酒も飲んでくれない始末。
もう本当に涙が出てくる。

何を隠そう、俺は未だに黄忠に懸想している。

再会の時の言葉のせいで、ここまで関係が悪化してしまったことは分かっている。
ただ、それでもあの時浮かんだ気持ちは紛れもない俺の真実だ。
だから、俺は謝る事はせずそのままにしている。
まあ、その結果大好きな彼女の真名が呼べないのだから自業自得も良い所だ。
むしろ、死ねば良いのに、俺。
もっとも、それでも完全に俺を嫌わないでいてくれる彼女は、真実優しい女性だと思う。

軽く鬱になりながら、自閉していると不意に彼女の尻が目に入った。

女性らしく丸みを帯びており、思わずむしゃぶりつきたくなるような魅力に溢れている。

落ち込んでいたはずの俺は、その瞬間一気に脳内に極楽がきるほど癒された。
はぁはぁ、やっべ。
なんて素晴らしいお尻なんだ! 俺はおっぱい派だが、思わず顔面を押し当てて匂いを嗅ぎたくなってしまう。
俺は知らず知らずの内に前かがみになり、尻に注目してしまう。
ああ、俺ってば最低だ。でも、男ならお尻を見たらこうなってしまうのは仕方がないよね!


「……」


「うん?」


そうこうしている内に、黄忠は不意に足を止めた。
尻ばかりを追っていた俺は、僅かに反応が遅れてしまうものの慌てて止まり、辺りを見回す。
いつの間にかここまで歩いたのか、俺たちは黄忠の政務室の前までやってきていた。
どうやら、ここでの話らしいのでよほど周りに知らせたくない情報なのかもしれない。

そう、例えば劉備軍の間諜など。

彼らはいつの間にか街の中まで入り込み、劉備ちゃんの善政について事細かに触れまわっているらしい。
えげつない策だが、劉璋様のように民の人気が低い人には効果的と言える。
劉璋様も民に優しく悪い人ではないんだが、どうにも気が弱く優柔不断で無能な所があるためか民の人気が低いのだ。
そして、流言を見事に成功させた劉備軍の間諜は現在も城の中にいる公算が大きい。
もしかしたら、その情報を得たのかもしれない。

俺は彼女が政務質に入っていくのに続いて室内に入り、絶句した。


「あ、お母さん!」


「ただいま、璃々(リリ)」


そこには、俺がこの城内で一番合いたくない人物がいた。
いや、正確には人物と大げさに呼称するほどの年ではない。
まだ幼い子供。そう、黄忠の娘である璃々がそこにいた。



あとがき
さて、メインヒロインの登場です



[28993] 三話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:d0675f60
Date: 2011/08/01 22:50

ギシリと心が悲鳴を上げる。
黄忠と同じ色の髪に同じ色の瞳。
黄忠を幼くしたような容貌は、一目で璃々と彼女との血縁関係を悟らせる。
璃々は、俺を見た瞬間怯え、自分を抱き上げた黄忠にしがみ付く。
どうやら、俺が浮かべた表情に怯えてしまったようだ。

気がつけば、俺は殺気を漲らせていたのだからも無理もないと言える。
俺にとってみれば、その少女は俺から黄忠を奪い取った世の理不尽の象徴ともいえる存在だ。
韓玄の血が入っていると言うだけで、問答無用に殺したくなる存在だ。

ただ、同時に絶対に殺せない存在でもあるのだが。

そう、璃々はどうしても黄忠を連想させる。
その髪の色が、怯えが浮かんだ目の色が、その恐怖にひきつった表情が黄忠に辿りつくのだ。
彼女に大恩があり、惚れてもいる俺としてはそんな存在を殺せない、殺せるはずがない。
かと言って、可愛がるかと言えばそれも出来ない。

俺の脆弱な心は、璃々のあどけない姿にありもしない韓玄の影を重ねてしまう。
俺よりも先に黄忠を手にし、劉璋様と■■もろとも俺に殺されるはずだったのに、その前に勝手に死んだ男の影を。

いや、もしかしたら何かきっかけがあったなら彼女に手をさしのばせたのかもしれない。
だが、初対面の印象は最悪であった為かあれから璃々は俺に会うたびに怯えて、母の後ろに隠れるようになってしまった。
かれこれ数年間、同じ城に住んでいると言うのに、言葉を交わした事すらもない。
もはや璃々と俺との間にある溝は黄忠とのそれよりも決定的で、絶望的なものと言えるだろう。

俺がそんなことを考えつつ、璃々をぼうっと見続けていると睨まれたと勘違いしたのか、とうとう彼女は声を上げて泣きだしてしまった。


「びえええええええええええええええええええっ!!」


「璃々、泣かないで。大丈夫だから、ね?」


黄忠はどこか焦ったように璃々を抱きしめる手を上下させ、彼女をあやそうとする。
しかし、その効果はなく璃々の鳴き声は一層酷くなっていく。
こうなってしまえば、話をする所ではない。
そもそも、彼女が泣きだした原因である俺がどこかに行かなければ、泣きやむ事もないだろう。
俺は入ったばかりの執務室をまわれ右して黄忠に声をかける。


「…外に出ている」


「待って!」


しかし、それは黄忠の必死な声で遮られてしまう。
正直に言えば、子供に泣かれるのは色々きついので俺としてはさっさと外へ出てしまいたかったのだが。
黄忠は璃々を泣かせたまま俺を見据えて、口を開く。


「今回の戦は、私たちに勝ち目はないわ」


「…まあ、町民の人気のさや兵のやる気の差を鑑みればそうだろうな。
そもそも、お前が負けるつもりだから端から勝負はついている」


そう、黄忠は勝ち目はないと言うが実際はそうでもない。
城などを攻め落とす時は相手よりも多くの兵が必要だと言われているが、現状で劉備軍は俺たちよりも少ない。
そのため、堅実に戦う事が出来たなら他の城からの増援も考慮に入れれば、正直勝てる戦だ。
ただ、先ほどの発言からも分かる通り黄忠自身がこのまま劉備ちゃんと戦う事に迷いがあり、自分たちが負けるかもしれないと考えているため勝てるモノも勝てないのが現状だ。
正直、このまま戦うのならば兵を無駄に犠牲にしないためにも一騎打ちで蹴りをつけるのが望ましいかもしれない。
ただ、相手には圧倒的な武を誇る将たちばかりいるので、一騎打ちをすればこちらが殺される事になるかもしれないが。

ともあれ、勝てないという前提で黄忠は話を進める。


「……そうね。正直に言って、私の劉璋殿への忠誠は限りなく低いわ。むしろ、劉備殿に着こうと考えているわ」


「なら、戦わなければ良い。この城はあんたが城主だ。民や俺達からの信頼もある。
あんたが戦わないと決めれば皆喜んで従うさ」


黄忠はこの城全ての物から慕われている。
何故なら、この城は蜀の中でも政争に敗れて心を砕かれた者や不正に憤った為に左遷された者が集まる場所だからだ。
普通は、さっさと出奔するべきなのだろう。

だが、出奔すると言う事は意外と決心が着き辛い。
出奔した後の生活の心配や、再び将として文官としてどこかの勢力に再び雇って貰うのは、存外に難しいからだ。
乱世で群雄割拠の時代とは言え、その登用は厳しい。
下手をすれば現在より下の職につかされ、一生をそれで終えてしまうかもしれないのだ。
優秀な者ならば、そんなことを考えずに自信を持って外へ出れるのだろう。
しかし、皆が皆優秀なわけではないのだ。

そうした者たちは、この城で黄忠に雇って貰ったことに少なからず恩を感じているのだ。
だから、彼等は黄忠の考えに逆らわない。

だと言うのに、黄忠の顔からは悲痛の色は消えない。


「でも、それだと私たちは『軽く』見られるわ」


そして、呟かれた彼女の言葉に俺はぐうの音も出なくなる。
璃々の声が、互いに黙ってしまった為無音となった室内に響いた。

そう、無条件で降伏してしまえば俺たちは舐められる。
劉備の性格上、友好的に接してはくれるだろうが彼女の配下としては重用されはしないだろう。
そうなればそれまでと言ってしまえば簡単だが、俺たちの中での不満は大きくなってしまうだろう。
特に、俺たちに従って劉備ちゃんに下るであろう配下たちに申し訳が立たない。

だから、力を示す必要があるのだ。
俺は目を閉じて、自分についてきてくれた配下を思い浮かべる。


『だから、胸より足だと言っているでしょう? いい加減死んでくれませんか?』


いつも俺に反抗的な冷静で、戦場ではそれなりに頼りになる副官。


『うーん、相手してあげても良いけど隊長ってば素人童貞でしょ? 商売の娘さんたちは演技上手いからねー。
ぶっちゃけ、隊長って下手そうですよねー』


部隊に安らぎを与えてくれる少数の女性兵士(淫売)たち。


『隊長、すんません! 借りてた春本みんなで回し読みしてたらカピカピにしちゃいました!!
あ、これ代わりに買ったやつです…え? 殆どが幼女だって? ははは、隊長。幼女も良いものですよ?』


そして、俺に付いてきてくれるイカ臭い野郎ども。


『はははは! いや、高忠殿は良い尻をしていらっしゃる! …どうですかな? たまには私達と共に飲みに行きませんか?
怖がる事はありません、胡麻油を塗れば存外に痛くなく、むしろ気持ち良いものですぞ!』


何故か俺の尻に興味津々な仲間の将軍たち。

……何故だろう、思い出せば思い出すほど、あいつらの為に何かしてやる気になれない。

俺がやる気を著しく失っていく中、黄忠は言葉を続ける。


「力を示す…。その為には二通りの戦い方が必要となってくるわ。
即ち、兵を用いた戦いと将個人の力量を示すために」


そう語る彼女の腕には、いつの間にか泣きやんだ璃々が眠っている。


「兵を用いた戦いは、私が受け持つわ。なるべく被害を最小限に抑えて降伏できる形まで持っていく。
そして、将としての力量は……」


「俺が一騎打ちで見せる、か」


どうやら、奇しくも俺が考えた戦法を取るようだ。
俺と黄忠を比べた場合、恐らくは僅かに黄忠の方が強い。
そして、美髪公と呼ばれる関羽など劉備ちゃん配下の将達は恐らく、ほぼ全員が黄忠程度の強さだと思われる。
そう考えると、俺が劉備軍の将と戦うということは、正直ゾッとしない。
むしろ、まだ生き残るだろう黄忠が一騎打ちをした方が可能性はあるだろう。
だが、黄忠はこの城の総大将だ。
絶対がない戦場では、気軽に一騎打ちを出来ない立場の人間だ。

それに、俺は黄忠ほど上手く部隊を動かす事が出来ない。
確実に黄忠よりも多くの犠牲者を出してしまうだろう。
そうなると、降伏する事も難しくなってしまう。

この事から、必然的に次点の俺が頑張るしかないのだが……厳しいとしか言えない。
はっきり言って、この試みは虎の前に兎を差し出す様な物だ。
勿論、俺が兎で劉備軍が虎だ。

死ねと言われるのと変わりない。

まあ、劉備軍のおっぱいたちをすぐそばで見れるから、ぶっちゃけ嬉しいと言えば嬉しいからかまわないのだが。


「そう。そして力を見せ終わった後、上手く信用を勝ち取る事が出来れば、私は彼女たちに同行を求められるでしょうね」


「だろうな」


それはそうだろう。
残されたこの城に対する人質的な意味としても即戦力としても、この城からは彼女以上の人材は存在しない。
必ず連れて行かれる事となる。
仮に、劉備ちゃんが必要ないと言っても、再びの反抗を恐れて諸葛亮辺りが必ず連れていくことを提案するはずだ。


「そうなると、璃々はこの城に一人で残る事になってしまうわ。
出来る事なら、連れて行きたいけど劉璋様たちとの戦争をあの子には見せたくない」


「……」


なんだか、話の方向性が嫌な感じになってきた。

これまで、黄忠は璃々を戦場に連れて行った事はない。
それは彼女の母としての甘さだろう。それが良い事なのか、愚かな事なのかは分からないが。

勿論、俺はその事も知っている。

ただ、そんな中俺の直感が囁きかける。
このままだと、何かとんでもない事を頼まれそうだ、と。

そして、俺の直感は奇しくも当たる事となってしまう。
黄忠は璃々を寝台に横にしながら、改めて俺を振り返るとその唇を震わせた。


「…だから、あの子を貴方に預けようと思うの」


「無理だ」


俺は即答した。

いや、確かに彼女がこの城を出た後は繰り上げ的に考えて、確実に俺がこの城に居残る事になり、城主に近い立場となることだろう。
そして、彼女が劉璋と戦っている間はこの町での戦後処理に追われる事になる。
しばらくは、戦と無縁な平穏な時間が流れる事から、璃々にとって母親がいない事から寂しいだろうが、過ごしやすい時間となるのは想像に難くない。
だが、その事が俺に彼女の面倒を見させる理由にはならない。


「女官に面倒を見させるべきだろう。事実、今までだってお前が忙しい時にはそうしていたんだろう?」


この城にも女官と言う身の回りの世話をしてくれる存在がいる。
例外なく黄中や璃々もその世話になっているはずであり、俺なんかに面倒を頼むよりは璃々が懐いている女官辺りに世話を任せるのが最適だ。

いや、まあ、俺がアレと関わりたくないだけなんだけどね?

黄忠は俺がそう言うと、待ってましたと言わんばかりに口を開く。


「…この城には、劉璋様の側近たちの息がかかった者が何名かいるわ。おそらく、女官の中に」


「なっ!?」


劉璋側近の配下。
それが意味するところは、将が離反しないかを見張る監視役がいると言うことだ。

劉璋自身は、将が反抗することなど考えてもいないお花畑頭だが、彼女の周りにいる佞臣どもは違う。
自分の利権を維持する事に全力注いでいる奴らは、その辺りが非常に慎重だ。

だから、黄忠は劉備ちゃんの人気を認めているにもかかわらず、彼女と戦うことを決めたのだ。
そして、その監視役が女官の中に居ると言う事は、黄忠が劉備に従軍しついて言った後、璃々が人質に取られ黄忠が再び劉備ちゃんに離反することを強要させられる可能性があると言うことだ。
あの佞臣どもならその程度の策は幾らでも弄するだろう。

自分が生き残る為なら、どんなものでも犠牲にする。
ある意味清々しい生き方は、俺には少しだけ羨ましくもあるが。

俺に預けるのは、どこに居るともしれない監視役に対する牽制と同時に、俺に対して璃々を守れと言っているのだ。


「…守れって言うのか? 俺に、そのガキを」


それにしても、黄忠は、この女はズルイ。
俺が自分に未だ惚れていると言う事を知り、断れない事を良い事に無理難題を俺に押し付ける。

しかも、厄介な事に黄忠は、俺が璃々を殺すかもしれないと言う可能性を『絶対にない』と考えている。

恐らくは、それはこいつが誰よりも俺と言う人間を理解しているからだろう。

俺は突飛な言動から何を考えているのか良く分からないと言われる事があるが、その実大それたことが出来ない小心者の男だ。
それこそ、殺したくてたまらない劉璋や■■らもこの乱世に乗じて殺せない、主君を裏切る事は間違ったことだという固定観念に縛られた男だ。
だから、璃々という幼子を殺すことも人の道に外れると言う事から出来はしない。
何より、璃々は殺したかった男の子供であると同時に誰よりも惚れている女の子供なのだ。

殺せるはずがない。

俺が唇を噛み、拳を握りしめて震えていると後ろからそっと黄忠が近づいてくる。
そして、そのまま俺の背中に額を押し当てる。
久方ぶりに彼女の体温が背中から沁み渡る。そんなあり得ない感覚を得た気がした。

黄忠はそのままの体勢で、何か激情を吐き出すかのように言葉を漏らした。


「…貴方しか、――しか頼れる人がいないの」


――。それは、俺の真名だ。
久しく呼ばれる事のなかったその名前で、彼女が俺を呼んでくれている。
それだけで、彼女は俺をこれほどまでに救われた気持ちにしてしまうのだから、ズルイ。
黄忠は、紫苑は、卑怯だ。


「…この悪女が」


俺に出来たのは、苦し紛れにそんな言葉を漏らすだけだった。
彼女は俺の背中に寄りかかる力を強くしながら、言葉を漏らす。


「…そう罵倒されても構わないわ。それで貴方の協力が得られるのなら、いくらでも罵ってくれて良い」


本当にこの女は卑怯だ。
どれだけ年月が経とうと、成長したはずの俺を幼い頃彼女たちの後ろに付いて回った時と同じにしてしまう。
しかし、そんな所がまた魅力的に感じてしまうのは、惚れた弱みと言うやつだ。

俺はどうしようもないぐらいにコイツにイカレテしまっている。

だから、どんな願いでも叶えたいと思ってしまうのだ。


「分かった。分かったよ、紫苑。俺が璃々の面倒を見よう」


気がつけば俺はそう口にしていた。
俺と言う男はどこまでいっても馬鹿のようだ。
これから、命をかけて爆乳少女たちと戦いに行くにも関わらず、そんな約束をしてしまった。
しかも、関わりたくないと望んでいたはずの少女の面倒を見る約束だなんて、正直気がふれているとしか思えない。

でも、彼女の役に立てるのなら俺はそれでも良いと思ってしまった。


「ただ、これから劉備軍と戦うんだ。しかも、一騎打ち。
俺も生き残る事が出来るかは分からないぜ?」


「大丈夫、貴方は何時も死なないで帰ってきた。きっと、今回もそうだわ。
……と言うのは、無責任かしら? でも、安心して。危なくなったら私が狙撃して逃がしてあげるから」


紫苑の狙撃は城から城壁を狙えるほど。
それこそ、どんな乱戦の状態でも確実に俺を助けてくれる事だろう。

振り向かないので分からないが、紫苑は今は満面の笑みを浮かべている筈だ。
そして、俺は少しだけ困ったように微笑んでいる。

懐かしい。

まるで、時が昔に戻ったようだ。
紫苑が笑い、俺が苦笑しアイツが嘆息する。
そんな、黄金色に輝いていたあの時に。


「眠っちまった璃々にはきっちりと説明しておけよ? 怖いおじさんに預けられる事になるんだってな。
正直、子供の泣き声は好きじゃない」


「ええ、もちろん。でも、とっても優しい人だって教えておくわ」


「……じゃあ、優しいおじさんは戦場で人を殺す準備をしてくるわ」


そう言ったのは、俺が照れていたから。
そして、それこそが俺にとどめを刺した。


「いいえ、殺しに行くんじゃないわ。守りに行くのよ、この城の民を」



『戦いは、殺すためじゃないわ。民を守るために行うのよ』



幼い頃、俺が将になったばかりの時、彼女は一番最初に俺にそう諭した。

参った。
彼女はあの時のまま、良い女であり続けているらしい。
俺が惚れたときのままの彼女で。


ああ、惚れ直してしまった。
もう、俺は彼女の元から二度と戻れない。
俺は、彼女に殺されてしまったのだから。


俺は彼女に背中を向けたまま執務室を出た。
顔は、彼女には見せられない。
恐らく、俺はあの時のように情けない顔を晒しているだろうから。
温かいものが俺心を満たし、両の眼から溢れだして頬を濡らす。


…それにしても、背中に当たったおっぱいは柔らかかったなぁ。






あとがき
次回、劉備軍来襲



[28993] 四話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:d0675f60
Date: 2011/08/06 23:51

眼下の城の周りに展開された凄まじいまでの兵隊たち。
劉備ちゃんの軍勢だ。こちらを包囲する事は諦めたのか、少し離れた場所で方陣を敷いている。
どうやら、こちらが門を開いて兵を突撃させても受け止められるようにしているようだ。
門から一度に出せる兵は数が限られている。
それらを受け止める事を選んだのだろう。
兵数で勝っているものの、こちらとしてはそのような事情があるため城に立て篭もるしかない。

まあ、元々腰を据えてじっくり戦うつもりであったので、全然構わないのだが。
ただ、一つ問題があるとすれば…


「てか、ヤベーよ。劉備ちゃんマジ天女」


「ええ、たまりませんね」


相手の大将である劉備ちゃんがマジで可愛いと言うことだ。
先ほどもこちらの兵を傷つけたくないためか、降伏を求めてきた時など、逆にこちらに壊滅的打撃を与えてきた。
「無駄な争いをしたくないんです! お願いします!」と悲しげにゆがめられた表情で、兵の大多数はやる気をなくし、町民の大多数はさっさと降伏しようと持ちかけてきた。
俺も危うく町民の代表が言ってきた「あれ程のおっぱいを前に、貴方は武器を持つのですか!?」と問いかけられた時は、降伏しようかなと心が揺れた。

その場は黄忠がなんとか説得した治まったが、繰り返されると離反者が多数出ても可笑しくはない状況だ。
正直、戦う前から勝負がついていると言っても過言ではない。
気に恐ろしきは、劉備ちゃんの仁徳か。


「あー、ヤベーな。どうしようか?」


「天女のお告げに従って、降伏します?」


「いや、まだ早いね。取りあえず、一騎打ちでもしに行きますか」


副長の返しにカッコよくそう言うと、俺は愛用している手持ちの投石機と槍を手に取る。
現在、劉備軍に掲げられている旗は『劉』『関』『張』などの他に『十』に『呂』など、名だたる将の旗ばかり。

ぶっちゃけ、俺程度の実力で挑んだならば呂布なんかが来た場合には瞬殺される自信がある。

だから、『呂』が常に傍らにあって守っている『十』の旗。つまり、天の御遣いと呼ばれている男には喧嘩は売ってはいけない。
他の将にしても俺なんかでは守勢に回ってもしのぎ切れるか分からない相手ばかり。
正直、自分が死ぬ未来しか見えない。
取りあえず、副官に遺言を残しておこう。


「…俺が死んだら、部屋の春本は全て黄忠にばれない内にお前が回収してくれ」


「いえ、おっぱいモノなんで私は結構です。むしろ、貴方の棺の中に入れて差し上げます。
良かったですね、死後もおっぱいと一緒に居られますよ?」


「いらない気遣いすんじゃねぇよ。葬式で性癖暴露って、どんだけ変態なんだよ俺」


「百合百合しいと噂に曹操陣営程でしょうか? ぶっちゃけ、どん引きなんで近づかないでくださいね」


「はっはー! ふざけんなこの野郎。むしろ、今からお前が一騎打ちして来いや」


「無茶言わないでください。私はあんな人間を辞めた者たちの相手などごめんです」


至極あっさりとそう言ってのけた副長はさっさと部隊の出撃の準備に移ってしまう。
俺はため息を吐きながら、槍を担ぎ投石機を腕に装着すると城壁から下へと降りる階段に足を掛ける。
これから人間を辞めた者たちの相手をする俺は、さながら打ち首にされる直前の罪人と言った所か。
もう、戦う前から死んでいる様な物だ。

ここで良くある三流小説ならば、意中の人が励ましに来てくれるはずだが…。

その黄忠は、今は部隊全体の指揮を取っているためこの場にはいない。
最後になるかもしれないので、彼女の顔を拝みたいと思いつつも彼女に璃々を頼まれている事から、気軽に死ぬことすら許されない事を思い出す。
あんな約束はするべきではなかったかもしれない。

とてもではないが、勝てる相手ではないと言うのに生き残れと言うのは、死罪になった人間が、肉厚の青竜刀を手にした処刑人の前で命乞いをする事に等しい。
いっそ端から降伏しておけば楽なのだが、劉璋様の手の物がどこに居るかも分からないため、それも出来ない。


「ああ、くそっ、損な役回りだ!」


呻くようにして呟いてみたものの、今更結果は変わらない。
調子に乗った結果がこれな訳だが、なんとも滑稽だと言わざるを得ない。
本当に黄忠には上手く乗せられてしまった。
脳内のアイツに狐の耳と尻尾が生えている気がする。

…………かなり良いと思ってしまうから、俺は何時まで経っても駄目なんだろうな。

そうこうしている内に、いつの間にか階段を下り終えた俺は兵士が慌てて引いてきた自分の馬にまたがる。
ふと後ろを振り向けば、副長と共に少数の兵が門から出る準備を終えて控えていた。

取りあえず、俺は笑顔になりきれていないひきつった表情を浮かべ、口を開く。


「お前たち、おっぱいに会いに逝く準備は整ったかよ?」


その言葉に『応』という大音声が重なる。
いや、一人だけ副長が「だから、私は足派です」と言っていたが気にしない。
俺は前に向き直り、門を開けさせるために片手を上げる。

重い音と共に重々しい扉がゆっくりと開かれる。

その最中、俺は声を張り上げた。


「銅鑼を鳴らせ! 高忠隊、出るぞ! 開門!!」


直後、獣のような唸り声がいくつも上がり、激しく銅鑼が打ち鳴らされる。
俺はその頼もしい声に顔を歪めながら、馬の腹に蹴りを入れて城門前で待ち構える劉備軍へと進軍を開始した。
すると、たちまちのうちに劉備軍の動きが慌ただしくなり、俺に対抗するかのように『関』と『超』の旗が前面に出てくる。
俺はある程度の所まで馬を進めると、途中で手を挙げて後ろから続いてくる隊の者たちの進軍を止める。
同時に再びの重苦しい音が響き、城門が閉ざされる。
これで後戻りはできない。

背水の陣ならぬ、背門の陣。
眼前には、高忠隊の何倍もの劉備軍兵。

見れば、俺達が特攻をしに来たと思っているのか、僅かに浮足立っている。
俺はそれを心の中だけで嘲笑いながら、そのまま前へ進み出て槍を大きく振り上げた。


「我が名は高忠! 劉備軍よ、我こそはと言う者は前に出て来い!」


声を張り上げると、劉備軍がにわかにざわめき始め、その中から一人の美少女が現れる。

長い黒髪。桃のように豊満な乳房に、もはや下履きを見せるつもりしかないと思えるほど短い下衣とそこから覗く白がまぶしい太もも。
手にした武器は肉厚の刃がついた青竜円月刀。
『美髪公』と噂される関羽その人に違いない。


「我が名は関羽! 高忠とやら、貴様こそ私との一騎打ちを受ける覚悟があるか!?」


上げる声も勇ましく、現れた麗しい美少女関羽ちゃん。
正直、噂よりも遥かに可愛らしいと言える。
俺の背後で高忠隊の面々の意気が唐突に上がるのを感じる。

どうやら、彼らの調子も上がってきたようだ。

むろん、俺も。
関羽は俺よりも圧倒的に強く勝てる気はしないが、これほどの美少女でありどうしようもない程の巨乳だ。
間近で戦い、その乳が揺れる様を見届けなければ死んでも死にきれない!


「貴殿が関羽か(凄く大きなおっぱいだな)! かの美髪公ならば、相手にとって不足はない(是非とも、そのたわわに実った果実をもみしだきたい)!!
もしくは、吸わせてください(いざ、参られよ)!!」


瞬間、関羽の顔が怪訝そうに歪む。


「吸う…?」


どうやら、心の声と出していた声が途中から間違っていたみたいだ。
俺は取りあえず誤魔化すために馬から降り、後ろの高忠隊に手を挙げて合図を出す。

すると、彼らはそれぞれ手にした盾と槍を激しく打ち鳴らし始めた。

ドン、ドン、ドン、ドンドンドンドン、ドドドド!!

始めはゆっくりと、そして徐々に早くしていく。
その音で我に返ったのか、関羽は俺の傍まで進み出てくると共に油断なく自らの得物を構えた。
俺も手にした槍を構え、一触即発の空気が作られていく。
いつしか打ち鳴らされる音は間断なく行われ、辺りに轟音が響きわたらせていた。


「はっ!!」


まず、動いたのは関羽だった。
青竜円月刀を振り上げ、それなりに開いていたはずの俺との距離を詰めると、その細腕からは想像もつかないような剛力で振り下ろしたのだ。

その一撃は、速過ぎて穂先がかすんで見えないほどであった。

もし、得物が長物ではなく剣などの素早く攻撃が出来るモノであったら、俺はとてもではないが反応できなかっただろう。
ただし、幸いなことに円月刀の柄が視認出来た事から、俺は関羽の力が入りにくい握りに近い部分に槍を叩きつけた。

木と木がぶつかり合う激しい音の後に、俺と関羽は互いに得物をぶつけ合ったままの姿勢で拮抗する。
そして、それに遅れる事数秒。
関羽の胸部が我がままに自己主張をした。
関羽の動きに合わせて揺れること、揺れること。
見事の一言に尽きる。


「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」


途端に上がる歓声。
それは、打ち鳴らされた武具の音を凌駕し、辺りに響き渡る。
それはすぐ後方で見ている高忠隊の面々からだけではなく、城の城壁からこちらを見ている兵隊からも上がっていた。
どうやら、うちの城の変態共はかなりの距離がある場所での乳揺れも見逃さないようだ。
正直、その努力を弓術に活かして欲しいものだ。
まあ、超至近距離でその瞬間を瞳に焼き付けた俺は、得物からの凄まじい圧力がなければ拝んでいても可笑しくはない光景だったから仕方がないが。

そんな俺たちのどうしようもない実態を知らない関羽は、何を勘違いしたのか俺に対して苛立たしげに吐き捨てる。


「ふん、一撃を防いだだけでここまで騒ぎ立てるとは、蜀の技量はよほど低いと見える」


いや、別にそういう訳ではなく、単純に乳揺れが見れて興奮しているんですとは言えない俺は、取りあえず彼女の攻撃をいなして距離を取る。
途端、彼女の胸が再び大きく揺れた。


「「「「ふああああああああああああああああああああああ!!!!」」」」


再び上がる喝采。

胸の跳ね方を見るに、驚くべき事だが胸の下着を付けていながら関羽ちゃんの胸はあそこまで弾んでいるようだ。
何と言う巨乳だろうか? アレで、劉備ちゃんはさらにその上だと言うのだから、劉備軍はなんと恐ろしい場所なのだろうか。

そんな俺達の真意を知らない関羽は、苛立たしげに俺の後ろで歓声を上げる者達に視線をやった後、青竜円月刀を振りかぶりながら肉薄してくる。
どうやら、さっさと俺を仕留めてうるさい声を黙らせるつもりのようだ。

だが、短気は損気。
加えて俺としては、惚れた女に気持ちを打ち明けていない事から死ぬわけにはいかない上、間近で彼女の乳揺れを見れるまたとない機会でもある。
その為、攻撃を真正面から防ぐのではなく、なるべくいなして受け流す事に集中する。


「はぁぁぁぁああああああああああ!!」


「ほっ、ほい、よっと」


剛速三撃。
上からの振り下ろしに横からの薙ぎ払い、止めの袈裟切り。
まともに受けてしまえば、紙きれのように吹き飛ばされる事は必至の攻撃に俺は背中に冷たい汗が流れるのを感じたが、見事に受け流して見せる。
正直、もう一度やれと言われても出来る気はしない。


「くっ、このっ!!」


関羽は受け流されたことで体勢が崩れたものの、僅かな隙しか見せずに立て直し、追撃の大ぶりの薙ぎ払いをする。
通常ならば大振りになると攻撃後に隙が出来るはずである。
だが、そこは流石の美髪公。
防がずに躱わす事を選んだが、恐ろしいまでの勢いで薙ぎ払われた青竜円月刀の風圧が顔にかかる。
そればかりか、大振りは誘いであったのか瞬く間に切り返しがあり、今度は比べ物にならないほど鋭い一撃が襲いかかってきた。


「おっとぉ!?」


俺は予期していなかった攻撃に驚き声を上げながら、それを手にしていた槍で防ぐ。
その瞬間、あり得ない事に鈍い音がしたと思ったら、槍が真ん中から綺麗に折れ砕けてしまった。


「んなっ!?」


俺の槍は白蝋木という折れにくい材質で柄が作られており、刃の部分を受けてしまったならまだしも同じ柄の部分で砕かれるとは思ってもみなかった。

気に恐ろしきは、彼女の腕か、それとも彼女の武器か、はたまたその両方か。

俺は、取りあえず手元に残った槍の残骸の内で刃がついていない方を関羽ちゃん目がけて投げつける。
小さい振りであった為、止めの斬撃を繰り出そうとしていた彼女はそれを防ぐために咄嗟に武器を引き戻した。

そして、俺は今度は残った刃がついた方を逆手に持ち、彼女に肉薄すると体を回転させて叩きつける。
正直、威力を上げるためとは言え、隙だらけな動作では有るが、事前に投げておいた柄によって関羽ちゃんがすぐさま武器を振れる体勢でなかった事が幸いし、反撃は受けない。
そのまま高い金属音と共に穂先が関羽ちゃんの青竜円月刀の金属の装飾部分を削っていく。


「くっ!?」


「ほいっと!」


苦悶の声を上げてそれを防ぐ彼女だが、俺はそこで休ませるつもりはない。
こちらの得物の長さが半減した今、懐に入って戦った方が早い。
俺は順手に持ち替えた短くなった槍の穂先を短刀のように振るった。


「この程度の攻撃っ…!!」


彼女は苛立たしげにそう吐き捨てると、無理やり距離を取るかのように青竜円月刀を振り切る。
恐らくは得物の長さ半分になった俺に対し、間合いを離して再び攻めに回ろうと言う考えなのだろう。

俺は、あえてその一撃を受けることなく素直に地面に手をついて距離を取った。

仕切り直し。
関羽はそう思ったのか、再び青竜円月刀を構えた。
俺は短くなった槍では間合いを詰める事は出来ず、様子をうかがった。
すると、関羽は構えを解かないまでも幾分殺気を衰えさせながら口を開いた。


「勝負あったな。その槍では、この間合いだと戦えまい」


「…そうかもしれないな」


「降れ。劉備様は、無用な血が流れる事を好まれない」


「…生憎だが」


俺はこの『好機』を逃すつもりはなかった。
俺は関羽ちゃんが何かを言おうと口を開いた瞬間、行動を開始した。
まずは手にしていた短くなった槍を彼女目がけて投げつけたのだ。


「なっ!?」


この状況で自分の武器を捨てた事が信じられないのか、彼女は目を剥く。
俺はそんな彼女をしり目に右手をつき出すように構える。
先ほど地面に手を付いたときに集めた無数の小石を、その突き出した右手に装着してあった投石機の紐に挟み込み、思いっきり引き絞る。

この投石機は俺の腕に備え付けられるようになっており、弩のように下着に使われる伸縮性に富んだ護謨(ゴム)という紐を用い、石を飛ばす事が出来る優れモノだ。
流石に弓のように遠く離れたものを狙う事は出来ないが、槍の間合いの外程度ならば致死性の一撃を加える事も出来る。
しかも、連射性に優れ、槍を持っていても持ち変える必要もないので、とても重宝している。


「なっ!?」


「もらった!」


突然の投石機の使用に驚いたのか、関羽は目を見開き驚いていた。
俺はその隙を逃すことなく、引き絞っていた礫を離す。
すると、元に戻ろうとする紐の力を用いて、凄まじい勢いで石が飛ばされる。
自ら撃った俺でさえ殆ど視認出来ない速度で飛来するそれに、関羽はギリギリで反応する。
そのため、本来は胸の中心を狙って放たれたそれは僅かに外れ、彼女の服の胸元をちぎるに留まった。

しかし、その効果は絶対的だったと言える。


「きゃあ!?」


そう、俺の放った礫は彼女の胸を僅かながら露出させた。
より具体的部位を上げるのなら、白い果実の頭頂部たる桃色の頂き。


「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」


すぐさま隠されてしまったが、俺は確かにその淡い桃色が目にした。
それは背後の兵達も同様のようで、途中から黙っていた事が嘘のように凄まじい怒号が辺りに響き渡る。
事ここに至って、ようやく関羽は先ほどからの俺たちの反応がどういうものか気がついたようで、顔を真っ赤にして怒りの声を上げる。


「き、きききき、貴様! いったい何のつもりだ!」


「…結構なものをお持ちのようで」


「なっ!? わ、私は武人だぞ!? そ、それをそんな破廉恥な目で見て辱めるとは…」


「いや、こっちも男だからな。正直、その格好は辛抱たまらん」


俺は怒りのあまり狼狽し始めた彼女にそう言った。
それにしても、この女はそう言う目で見るなと言うならば取りあえずそのエロい恰好を何とかしてもらいたい。
まるで胸を強調するような服である上、下衣に至っては下着を見せる気しかないほど短く、副長が狂喜乱舞しそうなほどまぶしい太ももが覗いている。
俺の欲望を抑えたいのなら、取りあえず全身甲冑になってから出直して来い。


「このっ! 舐めるな!!」


「いいや、限界だ舐めるね!!」


俺は片手で胸を隠しながらも攻撃をしてこようとする関羽に向かって、今度はこちらから攻撃を仕掛けた。
彼女の剛力も片手がつけないならば常識の範囲内。
なら、今度はこちらが攻撃を仕掛けて行く番だろう。


「よっと、ほっと、ほいっと!!」


「くぁっ!?」


手に装備した投石機で連続して石を飛ばす。
関羽は、片手で何とか視認可能限界のそれを防ごうとするものの、片手ではそれが難しいらしく面白いように礫に当たり、少しずつ服が破れて行く。
俺は、自慢じゃないが投石機を引き絞って放つまでの初動が極端に短い。
相手が自分のどの部位を狙っているか判断する前に放っているので、殆ど視認されにくくしているのだ。
さらに、小さな礫を使う事によって、それはさらに増す。
俺は、この武器を用いる事で初めて黄忠と対等に渡り合う事が出来る。

いくら、関羽とは言え初見でこれを防げてたまるか!

いよいよ調子に乗った俺は、関羽へと滅多打ちにかかる。

流石に片手で胸を隠した女性に対し、卑怯が過ぎる気がするが、こうでもしないと俺が死ぬしかないのだから、そんなことも言ってはいられない。
と言うか、その胸元を隠す仕草がなんとも色っぽく、俺の俺達の劣情を呷る。

ぐへへ、姉ちゃん色っぽいねー!

だが、劉備軍の将軍たちはそうは思わなかったようで、高忠隊の歓声の中でも聞こえる明確な怒りの声が上がる。


「こらーっ! お前、愛紗を虐めるななのだーっ!! 鈴々が相手になってやる!!」


それは、一人の少女だった。
赤い髪に、小柄な体格に似合わぬ長大な波打つ不思議な刃を持った矛のような得物を怒りのためか振り回している。
蛇矛を持った赤髪の少女。
どうやら、アレが長坂橋で曹操軍相手に殿を務めた燕人張飛であるようだ。
確か、劉備ちゃんや関羽と義姉妹の契りを交わしているはずだ。

恐らく、愛紗と言うのは関羽の真名で義姉を辱められて怒っているのだろう。

横に居る青髪の少女に止められているものの、いつ飛び出してきても可笑しくはない状況だ。
どうやら、少しふざけ過ぎたようだ。

関羽も彼女のそんな様子を見て冷静になってしまったのか、先ほどまでの狼狽ぶりが嘘のように落ちつき、胸を隠していた手を下して得物を握りしめている。
どうやら、胸を晒す女としての恥よりも不様な戦いをする武人としての恥を良しとしなかったようだ。
関羽は殺気を漲らせた目で俺を睨みつけると、静かに口を開いた。


「…高忠と言ったか? 失礼した」


唐突な謝罪。
それに俺は僅かに眉根を寄せる。俺としては、さんざん女性の弱点を突いた卑怯な手を使ったと罵られると思っていたので、この謝罪に咄嗟に対応できなかった。
もしかしたら、溢れる殺気も自分に対する怒りからかもしれない。
そうだとしたら、この関羽と言う女は武将の中の武将。
先ほどまでの対応が本当に申し訳なくなる。


「武人と武人が争う戦場において、女としての自分を守ろうとするなど言語道断。貴様には大変失礼なことをした。
詫びと言っては何だが、次の一撃は私の全力だ。遠慮なく受けて、冥府への土産として欲しい」


「いや、気にしないで良い。むしろ、全力で見逃してもらう方が俺としては嬉しい」


「ははは、遠慮するな。貴様にかぶせられた汚名は、貴様を殺すことで雪ぐ事にしよう。
そのためなら、女としての矜持を今は捨てよう」


「え、いや、ちょっ」


「…まだ、ご主人様にも見せた事がない私の肌を晒した罪は、重いぞ」


訂正。
こいつは純粋に女として怒っていやがる。
いつの間にか、彼女から圧力がさらに増している。
さながら、起こっているときの黄忠のように。
俺の感動を返せと思いながら、殺される雰囲気を察知した俺は、関羽が動き出そうとした時に咄嗟に地面の砂を蹴りあげる事で彼女の視界を塞ぐ。


「わっ、このっ、小賢しい真似を!」


「これにて、ご免!」


そして、そのまま彼女に背を向けると全速力で駆けだし、馬の背にまたがると高忠隊を率いて城へと逃げ出す。


「あ、待て、貴様!! 逃がすかぁっ!!」


関羽は俺を追いかけように青竜円月刀を投擲。
それは、真っ直ぐ俺を貫く軌道で俺へと迫った。

俺の手には、投石機以外碌な武器はない。

ああ、これは死んだかと俺は他人事のように思った瞬間。


一陣の矢が、俺のすぐ傍らを通り抜けた。

その矢は、投擲された青竜円月刀にぶつかるとその機動を僅かに逸らす。
そして、矢は一つだけではなかった。

神速三連。
僅かに拍子をずらして放たれた三本の矢が次々と青竜円月刀に辺り、一つ一つは僅かでも三つ当たる事で大きくその機動を逸らした。
結果、青竜円月刀は俺から離れた大地に突き刺さった。

俺は、馬と人間との足の差は明確で追いつくことなくあっという間に小さくなっていった関羽を見送ると、視線を飛来した矢の方に向ける。
すると、そこには大弓を構えた紫苑の姿があった。


『でも、安心して。危なくなったら私が狙撃して逃がしてあげるから』


彼女は、どうやら約束を守ってくれたらしい。
その事が嬉しくて、俺は涙が出そうになる。

俺と彼女の絆は失われていない。
そう確信できたから。

城内へと素早く退去した俺は、兵士による万雷の拍手と俺を讃える声に迎えられる。
どうやら、俺の先ほどまでの卑怯な戦いに感動したようだ。

何と言う下種どもだろうか。

中には、関羽ちゃんのおっぱいを拝めて涙を流している者までいる。
俺が言えた義理ではないが、一度人生を赤ん坊からやり直す事をお勧めする。
ともあれ、一応は俺の勝利だ(生き残った者勝ち的な意味で)。

俺は声援に手を上げる事で応え、


「さて、覚悟は出来ているかしら、女の敵?」


悪鬼羅刹の表情となった黄忠に迎えられた。
彼女の目は怒りに燃え、手には彼女の武器である颶鵬(ほうぐう)という大弓が握られている。
先ほどまでの、俺達の心の絆はどこへ行ったのやら。
どうやら、俺の戦い方に怒りを覚えているらしい。
そして、そんな彼女の怒りを感じたのか、先ほどまで声援を送っていたはずの兵士達が一斉に黙り込んで、それぞれの持ち場に戻っていく。
どうやら、巻き添えを食らう前に逃げるつもりのようだ。
俺は、それを恨めしく思いつつも、取りあえず今を生き残る為に、必死に言葉を紡ぐ。


「し、仕方がなかったんだ! 生き残るには卑怯な手も…」


「問答無用」


口から洩れた情けない言い訳。
しかし、彼女はそんな俺の言い訳を聞かずに颶鵬を振り上げて俺を打ち据えた。
俺はあまりの痛みにもんどりを打ち、地面に転がる。
彼女はそんな俺の頭を踏みしめつつ、大声を上げた。


「あのような女性を辱める戦いは言語道断! しかも、彼女は女性でありながら将でもあるのです!」


そして、彼女は俺の頭から足をどけると、幾分怒りの色が薄れた声で小さく呟いた。


「…これから、一当てしたら降伏するのよ? その時に関羽の怒りで貴方が処刑されることになったらどうするの?」


どうやら、多少ではあるが彼女は俺の事を心配してくれていたようだ。
しかも、俺などよりも先を見据えている。

元々、無理難題を吹っ掛けたのが彼女であっても、これは明らかに俺が悪い。
おっぱい欲に負けて、やりすぎてしまったから。
そう判断した俺は、周りに聞こえないように同じように小さな声で呟いた。


「ごめん」


「…少し、反省しなさい」


そう言った彼女の怒った顔は、いつか俺が戦で先走った時の顔と同じものだった。
まあ、反省はしても後悔はしていないんだけどな!
あ、どうせなら揉んでおけば良かったな。

その後、俺と黄忠は劉備ちゃんと何度か軍を率いて戦った。

やたらと劉備軍の将が俺を狙って行動していたが、俺はそれらを何とかしのぎ切る事に成功した。

まず俺に挑んできたのは、馬超ちゃんだった。
しかし、言葉の端々に俺の発言に対する羞恥が見て取れたので、眉毛とおっぱいの関係について力説しながら褒め殺した。
すると、彼女は顔を真っ赤にし手動きが鈍ったので俺はその隙を狙って逃走。
背後で怒る彼女を無視して逃げ切る事に成功した。

超雲ちゃんは、正直一番やりにくい相手であった。
関羽のように固くも無く、馬超ちゃんのように初心でもない。
唯冷静に俺の姑息な攻撃や口撃を全て槍ではたき落とすという神業を見せられた時は死を覚悟した。
しかし、秘蔵の唐辛子入りの弾丸までも槍で撃墜してしまい、咳が止まらなくなった所を逃げ出した。正直、幸運であった。…超雲なだけに。

張飛ちゃんとはまともに戦うことはせず、黄忠の援護をうけつつ犠牲を最小限に撤退した。
ぶっちゃけ、突進してくるのは怖かったが弓隊の援護があったので、一定の距離を保てたのが良かった。
まともに戦っていたら、野生の勘で全て避けられていたと思うので、これも幸運だった。
ただ、逃走中に諸葛亮ちゃんや龐統ちゃんの容赦のない弓矢での挟撃で少なくない負傷者を出してしまったのは、誤算であった。

公孫賛ちゃんは……まあ、普通に黄忠が相手をしていた。
騎射が得意なようで馬の扱いも巧みであり白馬隊は凄まじい脅威であったが、そこは黄忠もさる者。
容赦のなく公孫賛ちゃんだけを狙撃して、まともな指揮を出来ないようにしていた。半泣きの彼女はとても魅力的だった。

そして、一番苦戦すると思われていた飛将軍呂布は、天の御遣いや劉備ちゃん、諸葛亮ちゃん、龐統ちゃんの傍らで護衛に着いているのか積極的に挑んでくる事はなかった。
もう、ここまで来ると天が俺たちに生きろと言っている様な物である。

このような事の後、自分たちの実力をある程度把握しただろうと判断した時、黄忠は劉備へと降伏の使者を差し出した。
そして、それはすぐさま受け入れられた。
戦い始めて2週間目のことだった。





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