●「ショージとタカオ」 アットホームなドキュメンタリー
テーマ:映画佐賀県にも「なでしこ」がいた。井手洋子監督は、佐賀県鹿島市の出身。実家は、祐徳稲荷の参道にあるお土産物屋さんだそうだ。
鹿島高校を卒業後、明治学院大学に入学。当時はアナウンサーを志望していたそうで、発音がきれいなのは、そのためなのだろう。卒業後、ドキュメンタリーの大先輩・羽田澄子監督と出会い、彼女の助監督を勤めた。「スクリプター(記録係)にならないか」と周囲から勧められたが、ひたすらVP(企業PR作品)を作り、映像ディレクターの道をめざした。
1994年、友人の紹介で、冤罪事件で収監中の2人を支援するコンサートの撮影を依頼される。その事件とは、67年に茨城県で起きた「布川(ふかわ)事件」。一人暮らしの大工が殺され、別件逮捕で桜井昌司さんと杉山卓男さんが逮捕され、自白した事件である。2人は裁判で無罪を主張したが、最高裁で無期懲役の判決が下った。
井手さんは、この2人の純真なキャラクターに興味をもち、彼らが96年に仮釈放された瞬間から、カメラを回し始める。以後、14年間の彼らを追い続けたドキュメンタリーが「ショージとタカオ」だ。昨年の「キネマ旬報」文化映画のベストワンに輝いた。
井手さんのことは、私が教えている東京の映画の生徒さんから聞いていた。「佐賀県出身の女性作家が作った優秀なドキュメンタリーがありますよ。一度彼女に会ってみてください」と連絡を受けていたのだ。今度の佐賀市での公開を期に、帰郷された井手さんに会った。コロコロした明るい方だった。この人なら、当事者の2人も、きっと心を開いたに違いないと思った。
映画は彼女自身のナレーターによって進み、劇中のアニメによる説明も、どことなくたどたどしい。しかしそこが手作り感のあるアットホームな雰囲気をかもし出す。冤罪事件といえば、「真昼の暗黒」(56年)や「帝銀事件・死刑囚」(64年)を思い出すが、ああした取調べや裁判制度を告発した〝社会派〟の映画にはなっていない。
彼女の狙いは、29年間閉じ込められた獄中から出所し、〝浦島太郎的〟になってしまった彼らが、いかに社会に適合して、幸せになっていくかの生活感に重きを置いている。
出所してテレホン・カードで電話をかけるやり方が分からないタカオ。街頭演説がだんだんうまくなっていくショージ。そんな彼らをユーモラスに明るくとらえた点が異色である。その意味では前半が面白い。2人が結婚して子供ができてからは、「以前のように、自由に家庭を取材させてもらえなかった」そうだ。
私は「再編集し、完全版を新たに作ってはどうか」と勧めてみた。なぜなら、事件は今年の5月に結審したからだ。結果は再審無罪となり、2人の冤罪は見事に晴らされたのである。
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1 ■私も観ました。
意外と面白いドキュメンタリーですよね。
二人のキャラの違いが、おもしろいコントラストを醸し出していました。
去年のキネ旬文化映画のベスト1でしたね。